「お子さんを火葬するための専用スイッチです」…一体9万円の火葬代が物議!「多死社会のリアル現場」

子供を火葬するためのスイッチ(右端)。おもに小学生までが対象だという
人間の肉体の終着駅、火葬場——。いま、その存在がかつてないほど注目されている。東京23区内で火葬場を運営する民間の会社が燃料費や人件費の高騰を理由に料金を引き上げたことで、価格の妥当性について議論になっているのだ。
火葬場の実態については、部外者の立ち入りや撮影などが厳格に禁止されていることもあって、あまり知られていない。今回、本誌取材班は特別に許可を得て内部に入り、過酷な業務の実態や最新の設備を目の当たりにした。
子供を火葬する専用のスイッチ
桐ヶ谷斎場では、火葬から遺族の対応、遺骨を骨壺に移す「骨上げ」など全て1人の担当者が行う。業務を細分化せず最初から最後までを担当することで、責任を持って対応にあたることができるのだという。勤務はシフト制で早い人は早朝から出勤し、夕方までほぼ休みなく動き回る。火葬は、多い日だと一日に70件に上ることもあるという。
炉の操作パネルに火力の調整ボタンと並んで「子」と書かれたスイッチがあった(1枚目写真)。ベテラン従業員に聞くと、数秒の沈黙のあと、その意味を教えてくれた。
「お子さんを火葬するための専用スイッチです。大人より、火を弱める必要がありますから……。お子さんを担当するのが一番辛い。昔、自分の子供と同じ年くらいの小学生のお子さんが事故で亡くなって、その火葬を行ったことがあります。
親御さんの気持ちを考えると涙が出そうになるのですが、ご遺族の前で私が泣くわけにいかず……。このボタンを押すたび、あの子のことを思い出します。
一日に何体ものご遺体と接しますが、やはりそれぞれに対して色々なことを考えてしまいます。ご遺族とのやり取りも非常に気を遣います」
心身とも厳しい労働環境ゆえに、新しく社員が入ってもすぐに辞めてしまうことが少なくない。この火葬場では業務の性質上、従業員は全員、日本人にしているが、人材の確保や育成が大変だという。火葬場で働いているというだけで、最近まで差別的な言葉を投げかけられることがあったといい、「周りの人に、自分の仕事内容を公言できなかった」と話す従業員もいた。
誰かがやらなくては
東京23区内には、民営7と公営2の計9つの火葬場があるが、全国の97%の火葬場が自治体などによる運営だ。民間の火葬場は、税金などによる補助がないため、23区内だと火葬代は一体8万〜9万円となっている。土地取得の問題などから新規参入はなかなか見込めず、多死社会を迎えて既存の施設は公共的なインフラとしての重要性も高まっていると言えよう。都内で6つの火葬場を運営する東京博善の野口龍馬社長が語る。
「価格の妥当性については様々な意見をいただいていますが、行政など第三者の判断に委ねたい。人件費や燃料費を踏まえるとコストは右肩上がりで、経営は楽ではありません。我々としては、誰かがやらなくてはいけない、社会にとって重要な仕事だという使命感でやっています」
世の中が年越しムード一色になる大晦日の12月31日。取材班が再び火葬場を訪れると、従業員がいつも通り業務にあたっていた。故人を偲ぶために大勢の人が炉の周りに集まっているところがあれば、様々な事情があって遺族が立ち会わず、従業員だけで最期を見届けるところもある。年内に葬儀を済ませたいという要望が多いため、この日は通常よりも火葬の受付時間を3時間延長し、18時過ぎまで対応していた。実は大晦日は一年で最も忙しい日で、毎年ほぼ全ての従業員が出勤するのだという。前出のベテラン従業員がこう呟いた。
「急いで着替えて帰ってもテレビで紅白歌合戦が始まっている時間になっちゃいます。でも、これが我々の仕事ですから」
かつて火葬場といえば、高い煙突とそこから一日中立ち上る黒い煙が象徴的だった。近隣住民から「縁起が悪い」などと苦情が出ることがあり、環境に配慮するという点からも、現在は最新式の排煙装置が導入され煙突は姿を消した。しかし、形は変わっても火葬場が人生の最期を見届け、そして受け止める場所であることに変わりはない。火葬場は今日も、休むことなく火を点し続けている。

炉内部はレンガで作られており、中央には棺を載せるパイプが見える。超高温となるため消耗が激しく、定期的なメンテナンスが必須

ご遺体を火葬する際、炉の中で骨を受けとめるために使用される台座。ここに積もったお骨が集められ、遺族へと渡されることになる
『FRIDAY』2026年1月30日・2月6日合併号より
取材・文:日本橋グループ*