日本自動車工業会が示す「業界変革」構想、実現可能性は? 自工会「新7つの課題」を読み解く

日本自動車工業会が1月22日に都内で行った「新7つの課題」説明会の様子(写真:自工会)
自動車メーカーの業界団体である日本自動車工業会(以下、自工会)は1月22日、「新7つの課題」に関する報道陣向け説明会を開いた。そこで感じたのは「事態は急を要する」という自工会の強い危機感だ。「自動車産業界は今、100年に一度の変革期にある」と言われて久しいが、そんな抽象的な表現が通用しない状況に、日本は直面している。時代変化のまっただなかにある日本の自動車産業の未来を考察した。
(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)
自工会は2025年12月18日に、「新7つの課題」の項目を明らかにしていた。今回の会見では、それぞれの課題について「当面のゴール(案)と取り組み例」を示した。
説明会は定例会見とは大きく違い、自工会側の意向で記者との距離を縮めたラウンドミーティング形式で行われた。

定例会見では会長と副会長は机がある壇上で話すが、今回は記者との距離を縮めた意見交換となった(写真:自工会)
2026年1月1日付けでトヨタ自動車の佐藤恒治社長が自工会会長に就任し、これまで自工会が進めてきた変革をさらに加速させるという思いを、報道陣との接し方の変化を通じても伝えようと考えたのだという。
オフレコではない取材および意見交換なのだが、質疑応答は聞く側も答える側も本音ベースとなり、時折、笑いが起こるなど場の雰囲気は和んでいた。
まずは、新7つの課題を箇条書きで紹介しよう。
①重要資源・部品の安全保障 ②マルチパスウェイの社会実装 ③サーキュラエコノミーの仕組みづくり ④人材基盤の強化 ⑤自動運転を前提とした交通システム確立 ⑥自動車関連税制抜本改革 ⑦サプライチェーン全体での競争力向上
これら7つについて、より詳細に見ていこう。

自工会が主催したジャパンモビリティショー2025(一般公開10月31日〜11月9日)の様子(写真:筆者撮影)
共同でレアアースや半導体を調達
①重要資源・部品の安全保障については、激動の国際情勢を鑑みれば、新7つの課題の中で最も重要度が高いと言えるだろう。自動車生産を安定的に継続することが、自動車メーカーの事業の根幹であるからだ。
その上で、レアアースや半導体などの調達について、メーカーが協同で購買する体制も考慮する必要がある。すでに、トヨタとホンダなどは一部で共同購買を実施しているが、自工会全体へ、活動を広げる可能性も示唆した。
こうした活動は、⑦サプライチェーン全体での競争力向上についても、直接関係してくる。
今回提示された案では「戦略的水平分業として、OEM間の仕様標準化・協調領域拡大」という表現にまで及んだ。
中国メーカーなどが垂直統合型の事業体系によって戦略的な価格設定をしているが、日本ではメーカー個社による垂直統合ではなく、業界全体での戦略的な水平分業を検討する。具体的には「エンジンの部品標準化」にまで踏み込む可能性を示唆した。
材料の採掘から自動車製造まで環境に優しく
②マルチパスウェイの社会実装は、材料の採掘から自動車製造までを指す「ウェル・トゥ・ホイール」を前提に、電気自動車、カーボンニュートラル燃料車、燃料電池車など、それぞれのCO2削減施策を具体化するとした。
その上で、自動車産業およびそのほかの産業がマルチパスウェイによるCO2削減事業へ投資する予見性を高める。
欧州やアメリカでもマルチパスウェイに向けた動きが広がり始めており、自工会としてはこれまで以上に各国や各地域との国際連携を強化し、日本全体の経済競争力の強化を狙う構えだ。
自動車のリサイクルにどう向き合う?
一方、③サーキュラエコノミーの仕組みづくりについては、電池・樹脂・非鉄などの商流で、①重要資源・部品の安全保障にあるような、安全保障の課題がある。
また、欧州連合による電池のライフサイクルのデータの義務化「バッテリーパスポート」なども含めて、国内でのサーキュラエコノミー全体の議論が加速させる必要がある。
ただし、自動車メーカーは車両の解体や部品回収などのリサイクル分野に直接関与するケースは多くない。今後は、こうした事業領域で、自工会としてのデータ基盤の構築が求められる。
生産現場を「働く人中心」の環境に
④人材基盤の強化では、大きく2つの点について自工会側から発言があった。
一つは、生産現場での働き方改革を進めると同時に、より多くの人に生産現場を含めた自動車産業に興味を持ってもらえるような、「働く人中心」の仕組みづくり。
もう一つが、ソフトウェア人材についてだ。米国ではAI活用の加速などにより、ソフトウェア人材市場で余剰が生まれており、AI開発とソフトウェア人材開発のバランスを熟慮する必要があるとの考え方もある。
自動運転で交通ルールはどう変わる?
⑤自動運転を前提とした交通システム確立については、国土交通省が1月20日、「第1回 自動運転社会実現本部」を開催している。
自動運転は技術面で大きな変革期にあり、新技術では米国や中国が先行している。日本では、2010年代半ばから全国各地で国や地方自治体が支援する形で多様な形式の自動運転実証が行われてきた。
そうした状況を整理しながら、自工会を含めて官民が連携して自動運転の社会実装に向けて統一すべき交通システム基盤の明確化を進める。
選挙に揺れる自動車税の行方
そして、⑥自動車関連税制抜本改革。令和8年度税制改正大綱の中で、所得時の環境性能割は、2026年3月末の段階で、恒久的に廃止するということが明記された。1月23日の衆議院解散によって、環境性能割の年度内廃止が難しいという見方もあるが、たとえ年度を超えたとしても、恒久的な廃止はそのうち実施されるはずだ。
また保有時の自動車税(軽自動車税)と自動車重量税を融合して簡素化することを目指す「新税」については、今年末までに国との協議をまとめるという。
その中で、自動車重量税の暫定税率については、税体系全体の中での扱いの具体化や、電気自動車・燃料電池車・軽自動車という異なる領域を公平に扱う仕組みの具体化を議論する。
産業全体で物流の合理化はできるのか
最後の⑦サプライチェーン全体での競争力向上については、前述のように①重要資源・部品の安全保障と連携するテーマだ。
エンジンや半導体など、仕様や情報基盤の標準化を検討することに加えて、物流については、協同物流の仕組みについてもさらなる議論が必要との見解を示している。
以上の「新7つの課題」を踏まえた上で、筆者は次のように質問した。

記者の質問に答える佐藤恒治 自工会会長(写真:自工会)
「バリューチェーンの変革ついて、自工会としてどう考えているのか。バリューチェーンの定義はなく、また販売分野との連携が必要となるが、現時点での議論はどうなっているのか」
これに対して、佐藤会長は「自工会としての議論はまだない」という。その理由として、モビリティ関連サービス事業がまだ確立されていないことなどを挙げた。同時に「(バリューチェーンは)まさに競争領域」という見解で、自動車メーカーがバリューチェーンと協調することの難しさを指摘した。
バリューチェーンの変革に課題も
確かに、自動車メーカーは製造者であり、同時にカーディーラーに対しては卸売業者でもある。そのためカーディーラーは、自動車メーカーにとっては競争領域と言える。
一般的に、自動車産業におけるバリューチェーンとは、カーディーラーの販売・整備点検などの業務や、中古車として二次流通を指す。そう考えると、自工会がこれらサービス事業全般で、カーディーラーと協調するのは難しいのかもしれない。
だが、新しい課題の③サーキュラエコノミーの仕組みづくりの「サーキュラエコノミー」には実質的に、バリューチェーンが含まれるはずだ。であれば今後、自工会は「バリューチェーンの変革」に対する議論も進めていかなくてはならないだろう。
日本の自動車産業界は、業界全体の仕組みを早期に見直す必要がある。そうなればおのずと、部品メーカーやディーラー、整備工場、ガソリンスタンド、充電インフラ事業者など、関連事業者の自動車産業界での立ち位置も変化する可能性がある。
日本の自動車産業がグローバルで生き残るためには、自工会が進める「業界大変革」が具体化するここ数年間が、勝負の時期になりそうだ。
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