突然の「リベンジ退職」リアルにどう対応すべきか?

「リベンジ退職」はなぜ起きる?, 突然のリベンジ退職にどう対応するべきか, リベンジ退職の「予防策」, 「経営陣自身」が積極的なコミュニケーションを, 自社の現状に合わせて段階的に「予防」に取り組む

実際に「リベンジ退職」が発生したらどう対応すべきかを解説します(写真:aka/PIXTA)

職場への不満から、退職を「仕返し」の手段とする「リベンジ退職」が問題となっています。中小企業にとって深刻な経営リスクとなるこの現象にはどんな背景があるのでしょうか? また、企業側が取れる対応策にはどんなものがあるのでしょうか?
『企業実務』の記事を再構成し、上本町社会保険労務士事務所代表で社会保険労務士の髙塲寿勇さんが解説します。

「リベンジ退職」はなぜ起きる?

リベンジ退職とは、従業員が職場への不満を背景に、退職を会社への仕返しの手段として用いる行為をいいます。その特徴は、突然かつ計画的で、会社に損害を与える点にあります。具体的な行動パターンとして挙げられるのは、

【図で見る】リベンジ退職発生時の4つのステップ

・事前相談なしの退職申出

・即日退職の要求

・業務引継ぎの意図的な放棄

・社内情報の悪用

・SNS等を通じた風説の流布

等です。

悪質な場合は、円満な引継ぎを装いながら誤情報を後任者に渡す「隠れた妨害行為」や、重要データの削除などもあります。

実際に、退職時のデータ削除で損害賠償が命じられた事例もあり、法的責任を問われるケースも増加しています。特に中小企業では、1人の退職が業務全体に与える影響が大きく、被害が深刻化しやすくなっています。

リベンジ退職が起きる背景には、従業員の心理的な問題、会社側の制度や対応の課題、そして働き方に対する社会全体の考え方の変化等が挙げられます。

(1)従業員の心理的な問題

人事評価基準が不明確で、上司からのフィードバックも少ない状況下では、「自分の頑張りが認められない」という不満が蓄積してしまいます。また、

・長時間労働や過重な業務負荷により心身が限界に達した状況

・コミュニケーション不足からくる意識のズレ

・SNSの普及による職場への不満を外部に発信することに対する心理的障壁の低下

等も重要な要因でしょう。

(2)会社側の制度や対応の課題

評価制度や人事制度が、現在の働き方に合っていないことが挙げられます。特に中小企業では、人事部門が小規模で、個人面談や従業員満足度調査などの仕組みがつくられず、従業員の心理的な変化を察知することが困難です。

近年の若手従業員には、効率性と柔軟な働き方やキャリアアップの機会を重視し、自己実現やワークライフバランスを重要視する傾向が見られます。それらを阻害されることも、リベンジ退職につながる要因といえるでしょう。

(3)社会全体の考え方の変化

転職市場の活性化により、退職がキャリア戦略の一環として捉えられるようになりました。またテレワーク等の普及により、組織とのつながり方にも変化が生じています。昔ながらの、「会社は家族同然」「上司と部下は親子のようなもの」といった考え方は通用しません。

リベンジ退職が起きても、バックオフィス担当者のみならず、全社的かつ迅速に対応することで混乱を最小限に抑え、業務への影響を軽減することが重要です。

初動対応、原因の整理と記録、業務継続のための実務対応、情報管理と事後対応を一連の流れとして整理し、ステップごとに優先順位を明確にして対応しましょう。顧客離反や情報漏えいのリスクを抑制し、業務継続性と社内外の信頼維持につなげることができます(図表1)。

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(出所:『企業実務11月号』より)

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

突然のリベンジ退職にどう対応するべきか

(1)STEP1 初動対応

突然の退職申出であったとしても、感情的に反応せず、事実確認を最優先に行います。相手の立場を理解しようとする姿勢を示しつつ、会社としての立場も適切に伝えることで、円滑な引継ぎを促し、業務への影響を最小限に抑えるよう心がけましょう。

退職の申出から退職日まで全日有休を取得する、といったケースもみられます。この場合、有休取得を拒むことはできず、時季変更権を行使するのも難しいため、業務の引継ぎや得意先への挨拶回りができなくなることもあります。真摯にお願いする以外に方法はないともいえますので、後述する予防策を日頃から心がけることが肝要です。

(2)STEP2 原因の整理と記録

すべての面談内容、対応経緯を時系列で詳細に記録し、客観的な事実として保存します。録音・録画を行う場合は、事前に本人の同意を得ることが重要です。これらの記録は、今後の制度改善の貴重な資料となります。万一法的トラブルに発展した際には、重要な証拠にもなります。

また面談に際しては、リベンジ退職に至った要因を極力聞き出すことが肝要です。上司や人事担当者だけでなく、場合によっては仲がよかった同僚も交え、退職がこじれた真の要素を見つけ出すことが今後に活かされます。

(3)STEP3 業務継続のための実務対応

1人の担当者に対処させることなく、人事・総務・法務・該当部署等が連携して組織的に対応します。会社全体で同じ方針を共有し、部署によって対応が変わらないようにすることが重要です。

退職されることによる影響の波及度合い、今後同じようなリベンジ退職を起こさないための情報共有などが重要です。

(4)STEP4 情報管理と事後対応

問題が収束した後は、個人を責めるのではなく、「なぜこの問題が起きたのか」「会社として何を改善すべきか」を検証します。事実関係と対応経緯を標準フォーマットを作成して振り返り、就業規則・評価制度・面談運用などの改善点を特定し、対策を期限を定めて明確にします。

今回のリベンジ退職問題を学習の機会として捉え、明らかになった問題と改善策を反映することで、同様の問題の再発防止と組織の成長につなげます。

また、退職後にSNSでの情報拡散や顧客・取引先への働きかけ等、「リベンジ行動」が行われる可能性があります。

全社による定期的な確認体制を整え、問題のある投稿については事実関係を慎重に判断し、虚偽の場合は削除要請、事実の場合でも法的対応の可否を専門家と検討します。長期的には、誠実な対応と職場環境の改善等により、信頼回復を図ることが重要です。

リベンジ退職の「予防策」

ここまで、リベンジ退職が起きてしまった際の対応策を解説してきましたが、そうならないようにすることが一番の対策です。そのためには、制度面の整備と日常的な予防策の両面からのアプローチが重要となります。

(1)制度面の整備

まず、評価制度をわかりやすくすることが重要です。「何を評価するのか」を具体的に示し数字で表わすことで、従業員の納得感を高められます。年度初めの目標設定、定期的な進捗確認、年度末の評価という流れをつくり、月1回程度の上司との面談でサポートすることで、不満がたまる前に確認できます。

就業規則や労働契約書をきちんと整えておくことも大切です。退職の手続きについては、「いつまでに」「どのような方法で」退職届を出すかを明確にし、引継ぎについても標準的な期間や引き継ぐべき内容を決めておきます。

情報漏えいや顧客引抜き等のリスクに備え、競業禁止については、管理職や営業職等に限定し、期間・地域を合理的な範囲で設定する必要があります。一般従業員への一律適用は無効となるリスクがあるため、労務専門家にご相談ください(図表2)。

「リベンジ退職」はなぜ起きる?, 突然のリベンジ退職にどう対応するべきか, リベンジ退職の「予防策」, 「経営陣自身」が積極的なコミュニケーションを, 自社の現状に合わせて段階的に「予防」に取り組む

(出所:『企業実務11月号』より)

会社の重要データについては、何が機密情報に当たるのかを明確にし、持出し禁止を明記しておくと効果的です。

また、ストレスチェック制度も、従業員のセルフケア促進と職場環境改善の有効な対策です。実施後は個人を特定しない集団分析結果を産業医と共有し、職場環境の改善策を検討しましょう。なお、従業員の受検は任意で、強制ではありません。

バックオフィス部門が中心となって、従業員が直属の上司以外にも相談できる窓口を設けることで、従業員が安心して働ける環境をつくるのもよいでしょう。

「経営陣自身」が積極的なコミュニケーションを

(2)日常的な予防策

日常的な予防策として最も効果的なのは、可能な範囲での定期的な個人面談(1on1)です。「最近、特に充実感を感じる業務は何ですか?」「今後挑戦してみたいことはありますか?」「困っていることや改善してほしいことはありますか?」といった質問で率直な対話を促し、従業員の不満や悩みを早期発見できます。

面談内容は許可を得て適切に記録しておくことで、万一のトラブル時の客観的な判断材料としても活用できます。

また、コミュニケーションの改善も重要です。1on1だけでなく、月1回の全体会議での経営状況共有や定期的な懇親会の開催により、部門を超えた交流を促進できます。現場内だけでなく、経営陣自身が積極的にコミュニケーションをとることで、従業員の定着率向上とリベンジ退職のリスク軽減を実現できます。

(3)予兆の早期発見

リベンジ退職の兆候を早期に察知するためには、従業員の行動変化に注意を払うことが重要です。注意すべきサインとしては、

・会議での発言が減る、否定的な発言が増える

・同僚との交流が少なくなる

・業務への積極性が低下する

・遅刻や欠勤が増える

・ため息が多く表情が暗くなる

・突然感情を露わにする

等が挙げられます。

直属の上司だけでなく、複数の管理職で情報を共有し、気になる変化があった場合は速やかに個別面談を実施します。また、従業員へのヒアリング調査を定期的に行い、不満や課題を早めに見つけて対応することで、深刻な問題に発展する前に解決できます。

自社の現状に合わせて段階的に「予防」に取り組む

(4)継続的な改善

これらの取組みを効果的に実装するには、段階的な導入が重要です。すべてを一度に実施するのではなく、自社の現状に合わせて優先順位を付けて導入します。

改善の進捗状況を定期的に全社で共有し、計画→実行→確認→改善を繰り返すことで、持続的な職場環境の向上を図ります。

リベンジ退職は突発的にみえても、多くの場合は事前に兆候があります。最も重要なのは「予防」という視点です。

制度づくりと日頃からのコミュニケーションで良好な職場環境をつくり、問題が大きくなる前に対処することで、会社の成長と従業員の満足度向上の両方を実現できます。まずは定期的な面談などできることから始めることが重要です。

髙塲 寿勇(たかば としお)*公式サイトはこちら

上本町社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種(ラインケアコース)。労務管理とメンタルヘルス支援を柱に、予防労務の視点から働きやすい環境づくりと、現場に即した定着支援に取り組む。