そして50代会社員は日雇い労働者になった 副業解禁で試される市場価値、時間と身体を切り売りせざるを得ない現実

副業解禁で自身の市場価値が試される(写真:graphica/イメージマート)
最近、おじさんが意外な場所で働く姿を見かける。給料が上がらない。本当に年金もらえるの? AIに仕事を奪われる…! 将来の不安から副業を始める中高年男性が増えているのだ。おじさんたちはどんな副業をしているのか、どれくらい稼いでいるのか、あるいはまったく稼げていないのか。組織をはみ出し、副業を始める全力おじさんの姿をより深くレポートする。(若月 澪子:フリーライター)
公務員の副業解禁、副業がもたらすもの
副業禁止だった国家公務員が事実上の副業解禁となる。
人事院が2026年4月から兼業規制を緩和すると発表した。すでに地方公務員は昨年夏に副業推奨がアナウンスされており、2026年は公務員の副業元年になりそうだ。
民間ではすでに2018年に、厚生労働省によって副業・兼業の促進に関するガイドラインが公表されている。このガイドラインでは、副業によって「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第二の人生の準備として有効」などと謳われていた。
しかし、現実の副業のあいだには、大きな乖離がある。
筆者はこれまでに、「副業をしている」という40~60代前半の中年・中高年男性およそ150人にインタビューやアンケート取材を実施してきた。ところが、副業が生計を支えるほどの独立や新たなビジネスに成長した例はほとんどない。
なぜなら副業をはじめる人の多くは、副業に投資するだけの資本を持っていないからだ。資本とは不動産や株や貯金のみならず、市場に乗り込んで戦えるだけのスキルや人脈も含んでいる。資本を持たずに副業市場に乗り込んでも、最終的には体と時間を差し出す肉体労働や単純労働へと流れていくことになる。
男性の副業を7つに分類
今回はこれまでに取材した人の情報を年代別にまとめ、日本人男性の副業の現在地について考えてみたい。取材対象者は「本業以外に、収入を得る仕事をしたことがある人」である。
筆者が集めた取材対象者はかなり偏りがある。彼らの本業は営業マンやエンジニアなどのホワイトカラーが6割以上だが、建設作業員や工場工員などのブルーカラーもいる。フリーランスや自営業者も少数だがいる(取材期間は2022年~2025年まで)。
副業の回数は気にしていない。副業は長続きしない人も多く、1回だけやって辞めてしまう人もいる。そのような途中でギブアップした人も含まれている。
また、これまでに取材対象としてこなかった30代の副業についても、今回は情報を集めた。サンプル数が非常に少ないため、「分析」というのはおこがましいが、ある程度の傾向はつかめるかと思う。
まず副業の実態を整理するために、取材で集まった副業を次のようなカテゴリーに分類した。これらは自由裁量があるか、参入障壁が高いか、賃金の支払いが即金かといった項目で分類している。
A:軽作業、配達、サービス業 B:コンテンツ・ネット系 C:物販、転売 D:教育、対人支援 E:コンサル・専門職 F:その他 複合型:A~Gのいずれかを並行または連続して取り組む
なお、今回の副業には、株取引、不動産投資、FXなどの投資・金融は含めていない。
まずは、どのような副業があるのか見てみよう。
最も多い副業は「軽作業・配達・サービス業」
A:軽作業、配達、サービス業
取材した中で最も多い副業が「軽作業・配達・サービス業」などの肉体労働や単純労働だ。特別なスキルや準備を必要とせず、体と時間を差し出す働き方である。
具体的には「清掃(銭湯・ホテル・パチンコ店)」「配送(フードデリバリー・Amazon配達)」「倉庫作業」のほかに、「スーパーの品出し」「イベント設営」「試験監督」「飲食店の補助業務」「工場における単純作業」「農業の手伝い」などである。
また「タイミー」のような、単発で働くスポットワークもここに含めた。
基本的には雇用者やプラットフォームの指示に従う必要があり、自由裁量の余地はほとんどない。スキルが積み上がる要素も少ないが、賃金支払いのスピードは早い。現金がすぐに必要な切羽詰まった人ほど取り組む傾向がある。
B:コンテンツ・ネット系
オンライン上で、クラウドソーシングなどを通じて発注される、パソコンを使用した内職や、SNS投稿やYouTube配信などオンライン配信系をここに分類した。
たとえば、「webライティング」「webデザイナー」「webページ作成」「動画制作」「メール対応事務」「AI画像生成」「SNS投稿代行」「文字起こし」「資料作成」「画像加工」「動画広告の写真撮影」「動画広告のモデル」「YouTube投稿」「ブログ投稿」など種類は多い。
スマホかパソコンがあれば取り組めるため、参入障壁は低い。YouTubeのような「配信型」の副業は自由裁量で取り組めるが、「即金」の要素は極めて低い。また「ライター」「画像生成」などクラウドソーシングから発注される仕事も最低賃金を大きく下回る。よって「稼げない」ために離脱率も高い。
C:物販・転売
「物販・転売」は本やCD、フィギュア、衣類などを安く仕入れ、利益を乗せてメルカリ、ヤフオク、Amazonなどのオンラインサイトで販売する物販ビジネスで、「副業」の代名詞とも言える存在である。「物販」「転売」「せどり」「ECサイト運営」などの回答をここに分類した。
物販の参入障壁はそれほど高くないが、継続には気合と根性が必要なようだ。この副業に取り組む人の割合は高くないが、どの世代にも必ずいる。時間と体を差し出す労働だが、やり方は自由裁量であり、他者に縛られることのない副業である。
専門スキルで副収入を得るケースは少数派
D:教育、対人支援
自らのスキル・知識・資格を元にした教育系の仕事。もしくは臨機応変な判断を要求される対人支援に取り組む仕事に分類した。専門的スキルに加え、対人スキルも要求される。
「野球のパーソナルコーチ」「運動レッスンのコーチ」「塾講師」「人材あっせん」「地下アイドルマネージャー」「オンライン語学講師」などの回答をここに分類した。
自らのスキルや経験を差し出す労働だが、やり方など自由裁量の部分は大きい。ただし、顧客がいなければ成立せず、やや参入障壁が高い。
E:コンサル・専門職
「(IT系・経理・経営など)コンサル」「(特定企業の)顧問」「通訳」「翻訳」などをここに分類した。専門的なスキルによって副収入を得ている人は少数派である。
自由裁量の部分が大きいが、お金をとれるほどのハイレベルなスキルや経験が要求される。顧客がいなければ成立せず、参入障壁は極めて高い。
F:その他
A~Eに分類しにくいもの、「ポイント活動」「アンケートモニター」「体験モニター」「ハンドメイド作家」などの回答をここに分類した。
複合型
最後にA~Fまでの複数の副業をかけ持ち、もしくは複数の副業を渡り歩いているケースをここに分類した。この「複合型」は、副業の大きな特徴の一つである。とくに、「A:軽作業・配達・サービス業」と「B:コンテンツ・ネット系」の複合型は多く見られた。
それでは50代、40代、30代の年代別の特徴を、このカテゴリー分類をもとに見ていこう。
副業で日雇い労働者になる50代男性
50代男性が取り組んできた副業をカテゴリーに分けると、それぞれの割合は以下のようになる。

最も割合が高い副業は、倉庫内作業や試験監督などの「軽作業・配達・サービス業」である。ここから見えるのは日本の中高年男性が、副業において起業家ではなく、日雇いになっている現実だ。
ここで言う日雇いとは、雇用形態の問題ではない。市場価値を試された結果、自分のキャリアを生かしたコンサル・専門職などではなく、時間と体を切り売りする立場に置かれることを指している。
次に多いのは動画制作やクラウドソーシングなどを通じた「コンテンツ・ネット系」。これらは「自宅でできる」「スキルを磨きたい」という欲求のあらわれだが、多くの中高年男性は「思ったより稼げない」「成果が出にくい」と回答していた。
自身のキャリアや知識を生かして「コンサル・専門職」に取り組む人も一部いるが、こうした副業ができるのは、仕事を依頼してくれる人脈を持つケースである。
また50代以上の中高年男性に取材していると、しきりに「下の世代はどんな副業をしているのか?」と聞かれる。中高年からすると「若い人はSNSやYouTubeで、もっと楽に稼いでいるのではないか」と考えているようだ。
では40代男性の副業はどのようになっているのか。
「副業に迷走する」40代男性
40代の副業は、50代より複雑になる。40代男性も「軽作業・配達・サービス業」が最も割合が高いが、「コンテンツ・ネット系」の割合も高くなる。さらに40代は「複合型」も増える。

ある40代男性は子どもの進学費用のために、本業かたわら副業で閉店後の銭湯の清掃に取り組んでいた。現金化には、体と時間を差し出すしかないようだ。
とあるメーカー勤務の40代男性は、収入の補てんという目的で配送業とインスタの動画広告制作という2つの副業をかけ持ちしていた。現金を稼ぐ「軽作業・配達・サービス業」と並行して、「コンテンツ・ネット系」にも取り組んでいる。
ここからは現金収入を確保しながら、時間をかけて新たな収入源を模索する実態が浮かび上がる。
40代は住宅ローンや子どもの教育費など、生活コストが重くのしかかる時期であり、将来不安もチラついてくる。さまざまな責任が40代男性を襲う中、副業が迷走する時期だと言えるだろう。逃げ場がなく、選択肢だけが増えていく40代男性のしんどさがグラフに現れている。
30代男性の副業は「リスクの分散」
続いて30代の副業を見てみよう。30代は同時並行で複数の副業に取り組む複合型が、40~50代と比べて突出する。彼らは副業を1本に絞らず、複数の副業に並行して取り組みながら、副業の転職も繰り返している。50代の副業が単純化しているのと比べると対照的だ。

ある30代男性は、生活費を稼ぐ目的でパチンコ屋の店員と動画編集の二つの副業をかけ持ちしていた。この男性の本業はメーカーの倉庫で品質管理の仕事をしているというが、給料が上がらないことを不満に感じて副業に取り組み始めた。動画編集についても、「特技を一つでも増やしたいからやっている」と話していた。
ほかにも「フードデリバリー、動画編集」「タイミー、せどり、AIライティング」など、肉体労働とネット系副業をかけ持ちするケースが30代では目立った。
副業解禁によって試される自身の市場価値
30代男性で複合型が主流なのは「若いから体力がある」「IT系が得意だから」ということだけでは片付けにくい。終身雇用の時代が終わり、転職や副業が当たり前になった世代であり、「今の仕事だけでは不安」という声も多かった。複数の副業に取り組むのはリスクの分散だと言えるかもしれない。
ただし中高年層が想像するような、副業でおいしい思いをしている30代男性は、やはりごく一部ではないだろうか。
副業解禁によって男性たちは、自身の「市場価値」を試されるという残酷な現実に向き合っている。
これまでのサラリーマンは「自力でお金を稼ぐ」という経験を持つ人が、ごく一部を除いてほとんどいなかった。市場で戦える職業人ではなく、必要とされてきたのは会社に適応する人間だ。つまり、今になって本業以外で稼ごうとしても、結局「タイミーに行く」という選択しか残されていない。
特に副業という言葉すらなかった世代は、長年勤める会社に最適化され、外で戦える武器を持たないまま年を重ねた。それに比べると、複数の副業に果敢にチャレンジする30代男性の姿は頼もしいと言えるかもしれない。
一方で、即金にはならなくとも、副業参入によって時間をかけてスキルを磨き、自分へ投資するという人もいる。しかし、ある程度の経済的ゆとりがなければ、時間的な投資はできないだろう。こうした現実を理解するためにも、副業にチャレンジすることは意味がある。そして男性たちは今日も“副業の森”を彷徨うのだ。(後編に続く:2月8日公開)
若月澪子(わかつき・れいこ) NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』『ルポ過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新聞出版)がある。
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