衆院選「与党圧勝」も、1ドル=180円まで円安は止まらない? 日本の通貨当局がなかなか〈為替介入〉に踏み切れないワケ【今週の米ドル/円「155~161円」の根拠】

(※画像はイメージです/PIXTA)
2月8日に投開票が行われた衆院選では、自民党が戦後最多となる316議席を獲得するなど、「与党圧勝」の結果に終わりました。「日米レートチェック」による円高進行から一転、先週は1ドル=157円まで円安に戻す展開となりましたが、今週の米ドル/円はどのように展開するのでしょうか。マネックス証券チーフFXコンサルタント・吉田恒氏が予想します。
2月10日~16日の「FX投資戦略」ポイント
<ポイント>
・先週は一本調子で1ドル=157円まで米ドル高・円安に戻す展開。
・今週は衆院選終了後の円安阻止姿勢を試す展開か。一方、不安定な値動きが目立ってきた米国株の動向にも注目。
・今週の米ドル/円は「155~161円」で不安定な展開を予想。
一本調子で1ドル=157円まで円安に戻す展開となった先週
先週の米ドル/円は154円台で始まり、その後はほぼ一本調子で上昇し、157円台まで円安が進みました(図表1参照)。高市総理の発言が円安容認と受け止められたことが円売りの材料となったほか、衆院選で与党優勢との報道も円売りを試す要因になったとみられます。

[図表1]米ドル/円の日足チャート(2025年11月~) 出所:マネックストレーダーFX
米ドル/円は1月23日に日米協調で実施された「レートチェック」をきっかけに、一時152円割れ目前まで急速に円高が進みました。しかし、米ドル安・円高の戻りが一段落すると、その後は再び米ドル高・円安方向へとほぼ一本調子で推移しました。
注目された衆院選では与党が勝利しましたが、今後の米ドル/円はどのように展開すると考えるべきでしょうか。
財政懸念による長期金利上昇は当面続く見通し
2025年10月の高市政権発足以降、11月までの米ドル高・円安は、日本の長期金利である10年債利回りの上昇とほぼ連動していました(図表2参照)。長期金利は2025年11月以降も上昇基調が続き、2026年1月には2.3%まで上昇。その後も高水準での推移が続いています。この背景には、日本の財政リスクへの警戒感があるとみられます。

[図表2]米ドル/円と日本の10年債利回り(2025年1月~) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
一方で米ドル/円は、2025年12月頃から上値の重さが目立つようになりました。これは、日本の通貨当局による円安けん制を受けた米ドル売り・円買い介入への警戒感が強まったためと考えられます。
こうしたなか、1月23日に日本だけでなく米国も「レートチェック」を実施したことは、市場の予想を超える動きでした。これにより為替介入への警戒感が一段と高まり、米ドル安・円高へ大きく戻すところとなりました。
高市政権は「責任ある積極財政」を掲げていますが、その姿勢が財政リスクとして意識され、長期金利の上昇を招いてきた面があります。選挙結果を受けて政権が継続する以上、長期金利上昇の流れは当面変わりにくいとみられます。
したがって、財政懸念を背景とした円売り圧力を、為替介入でどこまで抑え込めるのかが、今後の焦点となりそうです。
日本が「為替介入」になかなか踏み切れない理由
“円以外”の通貨で米ドル離れ進む…米国の介入は限定的か
先述のように、日米当局は1月23日、1ドル=160円手前で為替介入の前段階とされる「レートチェック」を実施しました。では、この先160円を超える円安が進んだ場合、実際に米ドル売り・円買い介入へ踏み切るのでしょうか。
米国が「レートチェック」を行った局面では、ユーロ/米ドルがこれまで上値抵抗線となっていた1.18米ドルを突破し、一時1.20米ドルまで上昇しました(図表3参照)。米ドルの視点では、ユーロに対して一段安となった形です。
こうした動きを受け、ベッセント財務長官は「米国は米ドル売り介入を断じて行っていない。強い米ドル政策の立場も変わらない」と強調しました。

[図表3]ユーロ/米ドルの日足チャート(2025年11月~) 出所:マネックストレーダーFX
この一連の動きは、米ドルが円以外の通貨に対して下落リスクを抱えていることを改めて示したといえます。
日本からみると米ドル高・円安が続いているものの、トランプ政権下では「米ドル離れ」が指摘されており、円以外の通貨に対しては米ドルの地合いがかなり脆弱である可能性があります。
そう考えると、「円安阻止に向け米国が協力する」というシナリオは、よほどの局面に限られるとみるべきでしょう。実際の米ドル売り介入の可能性は低く、再度の「レートチェック」も特別な状況に限られると考えられます。
2024年まで、日本の通貨当局は単独で為替介入を行い、これが円安阻止の“最後の砦”として機能してきました。ところが、1月23日には「レートチェック」とはいえ日米協調の形をとっており、これは日本単独では円安阻止が困難という判断があった可能性があります。
“最後の砦”の為替介入がもし「失敗」に終われば、いよいよ円安に歯止めがかからなくなるリスクも高まるでしょう。
こうした点を踏まえると、この先円安が1ドル=160円を超えたとしても、日本の為替介入実施の判断は慎重になる可能性があります。
今週は衆院選後の「円安阻止姿勢」に注目
円安終了は「限界」か「米ドル自滅」の2パターン
米ドル/円の循環的な高値、つまり「円安トレンド」が終了するパターンは基本的に2つです。1つは、米ドル/円が過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を3割以上上回った水準に達したとき。経験的にこの水準は循環的円安の“限界圏”とされ、1998年、2015年、2024年などがその典型例です(図表4、5参照)。

[図表4]米ドル/円の循環的高値(1990年~) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成 [図表5]米ドル/円の5年MAかい離率と循環的高値の関係(1990年~) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
もう1つは、限界に達する前に米ドル自体が急落するケース、いわゆる「自滅」パターンです。いわゆる「バブル崩壊」などで米ドルが大きく下落し、その結果として円安が反転する展開で、2002年や2007年がこれに該当します。
足下の米ドル/円は、5年MAをおよそ15%上回る水準にとどまっています。もし5年MAを3割上回る“限界圏”まで円安が続くなら、計算上は180円近辺まで円安が止まらない可能性もあります。
そうなる前に、AIバブルの崩壊などをきっかけに米ドルの「自滅」が起こるのか。ここまでみてきたように、円以外の通貨に対して米ドルの下落リスクが広がっている点を踏まえると、その可能性もゼロではなさそうです。
今週の米ドル/円は「155~161円」と予想
今週は、衆院選後の日本の円安阻止姿勢が市場で試される展開が予想されます。
一方、米国では株価の不安定さが目立ち始めており、その動向も注目材料となります。米経済指標では、小売売上高や雇用統計、CPI(消費者物価指数)など重要指標の発表が予定されています。
以上を踏まえ、今週の米ドル/円は「155~161円」のレンジで、不安定な推移となる展開を予想します。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
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