ヤマハがゴルフ用品事業完全撤退の限界と誤算

ゴルフショップから姿を消すYAMAHAブランド(写真:筆者撮影/ビックカメラ新宿店頭)
ヤマハがゴルフクラブなどのゴルフ用品事業から撤退する――。ゴルフ界にとってインパクトのあるニュースが飛び込んできた。
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ゴルフ用品から“完全撤退”
2月4日、ヤマハは2026年6月末をもってゴルフ用品の国内販売店への出荷を終了することを発表した。
終了する事業は、ゴルフ用品の企画・開発・製造・販売で、まさに“完全撤退”である。同社広報によると、ヤマハのゴルフ用品の顔である藤田寛之プロ(56)、今平周吾プロ(33)などの契約プロについては、今シーズンはサポートを続けるという。
ヤマハ全体の2025年3月期売上収益は4621億円で、事業利益は367億円。グローバル楽器シェアNO.1であり、その内訳は楽器全体で26%、ピアノ39%、デジタルピアノ48%、ポータブルキーボード48%(2025年3月期金額ベース、ヤマハ調べ)。楽器・オーディオ関連分野では圧倒的な強さを持っている。
ゴルフ事業には1982年に参入。楽器製造で培った金属加工技術や、FRP(繊維強化プラスチック)事業などでの素材開発力を生かし、「世界で初めてカーボンヘッドのクラブを開発、商品化を決定」という強力な武器を引っ提げてローンチ。ゴルフ界にインパクトを与えた。

ヤマハのカーボンウッドC-300(写真:ヤマハ提供)
ヤマハに追随するかたちで、他のゴルフメーカーが一気にカーボンヘッドモデルを採用。それだけゴルフ界にとっては、ヤマハのゴルフ事業参入は大きな出来事であったといえよう。
その後も新しい技術や発想を採り入れたINPRES(インプレス)、RMX(リミックス)シリーズなどを展開し、また、2012年賞金王の藤田プロや、2024年の日本オープンゴルフ選手権優勝者の今平プロなどの活躍で、中堅ゴルフメーカーとして確固たる地位を築いた。

2023年のシニアオープンで優勝した藤田プロ(写真:筆者撮影)
参入から44年目の撤退のワケ
参入から44年目の撤退の理由として、ヤマハは「海外ブランドを中心とした競争の激化、為替変動や原材料費の上昇による収益構造の悪化、ゴルフ人口の減少や需要の変動などによる事業環境の厳しさ」を挙げている。
そのうえで、「構造改革や収益改善策を検討実施したが、当面の業績回復および中長期的な成長を見通すことは困難な状況で、経営資源を競争優位性の高い事業分野および成長分野へ重点配分する」とした。
先日の発表によると、2025年3月期のゴルフ事業の売上は33億3300万円で、事業利益は10億600万円の赤字。売上もヤマハ全体の0.7%にとどまっている。
では、ヤマハのゴルフ事業が苦戦続きだったかというと、決してそうではない。
同社のコーポレート・コミュニケーション部に取材すると、2022年3月期の売上は70億円、事業利益11億円、2023年3月期は同101億円、22億円と、過去最高だった。ところが、2024年に入ると売上は49億円にとどまり、事業利益はマイナス11億円と一気に急落、2025年も前述したようにマイナスとなる。
今期の第3四半期(2025年4月~12月)は、売上が14億円・事業利益はマイナス9億円となり、3期連続で赤字になることが確定した。このことが、今回のゴルフ事業撤退の経営判断に至ったことは想像に難くない。
この2023年から2024年の大きな落ち込みについて、ヤマハは「コロナ禍明け、70~75%を占める韓国での売上が非常に高く、この特需が終わったことが一番大きかった。さらにリリースにある通り、海外ブランドとの競争激化、円安による部材のコストアップ、利益率の低下など、複合的な要因がある」と語る。
ゴルフ市場を調査・分析する矢野経済研究所のフェロー・三石茂樹氏はこの話をこう裏付ける。
「確かに、2022年が1163億円、対前145.9%だった韓国ゴルフクラブ市場が、2023年には797億円、対前68.5%と大きく落ち込んだ。ヤマハのゴルフ事業撤退は、韓国ゴルフ市場のコロナ禍による急成長と、その後の急激な減退が一因になっているのではないか。余剰在庫が一気に損益を壊す (悪化させた)というかたちだ」

静岡県浜松市にあるヤマハのゴルフR&Dセンター(写真:筆者撮影)
国内の市場は悪くないが…
だが、注目したいのは、国内ゴルフ用品市場全体を見ると、必ずしも落ち込みが大きいというわけではないという点だ。三石氏はヤマハの撤退に疑問を呈する。
「コロナ前、2019年の国内のゴルフ用品市場は3036億円。それに対し、2024年は3434億円と、コロナ前を上回る水準にある。しかも、我々が把握しているヤマハの国内のマーケットシェアは3.2%で、少なくとも撤退フェーズに入る数字ではない」
ヤマハがゴルフで生き残る道はなかったのか。
ゴルフ用品市場に詳しいゴルフ用品界社社長の片山哲郎氏は、「国内中堅規模のメーカーは、独自路線を作らなきゃいけない。ヤマハはプロマーケティングをずっとやってきたが、ここはキャロウェイ、ピン、テーラーメイドといった海外ブランドの独壇場。あのサイズ感で勝負を挑んだのが厳しかったのでは」と分析する。
筆者もかつてゴルフメーカーに在籍していたことからよくわかるが、ゴルフツアーへの露出は用具の性能証明にもなり、販促に役立つ一方、同時に契約費、帯同、販促、店頭施策など“固定費の塊”でもある。片山氏も「グローバルで見ると(ブランド力が)弱く、コストを回収できない。ヤマハ自身もどこかのタイミングで抜け出したかったはず」と見ている。
規模でみると、海外ブランドは世界をマーケットとし、売上は二桁違う。情報公開しているキャロウェイの2024年12月期のゴルフ用品の売上収益は、13億8200万ドル(約2086億8200万円)である。
まねできなかった“勝ち筋”
その一方で、片山氏は同じ“中堅でも勝ち筋を作った例“を挙げる。
「見本は、女性用ゴルフ用具を扱うグローブライドのオノフレディ、マルマンを買収したマジェスティゴルフの超ハイエンド路線など。二番煎じではなく、ヤマハならではの路線を早い段階で築くべきだった」
中堅が生き残る条件は「規模」ではなく、「独自の世界観」であるという指摘だ。
撤退の背景には、売り方の地殻変動もある。あるゴルフショップオーナーに聞くと、「今のクラブ販売は“事前予約”を軸に回っている。事前予約を成立させるには、試打クラブの大量投入、販促、露出、物流、説明力がいる。資本力や展開力が整ったメーカーでないと、売り手側の訴求が難しい」と話す。
資本力のある海外ブランドは、この点でも強みを発揮している。つまり、良い商品を作るだけではだめで、いかに「発売前に、売り切る仕組み」を持つかが勝敗を分けている。
現場が口を揃えるのは「ヤマハのモノはいい」という評価である。だからこそ撤退が残念である。
良いクラブが売れないのではなく、売るための投資と仕組みが必要だ。そういう意味では、ヤマハは“楽器メーカーらしい品質”を積み上げてきたが、用品の勝負が「開発」から「販売のやり方」へ比重を移すなかで、採算を合わせるのが最も難しい地点に立たされた。
ゴルフ用品は技術だけで勝てる市場ではなく、新製品を毎年きちんと投入し、売り場で目立たせ、試打の機会を作り、フィッティング体制や情報発信も整え、ツアーでの露出を積み上げなければならない。
これらはすべて“投資体力”が必要で、世界的な大手ブランドは、投下できる金額の桁が違う。市場が横ばいでも、強いブランドは売上を伸ばし、中堅以下は「勝ち筋」を作りにくい。今回の撤退は、まさにその構造を映しているといえる。
ヤマハによると、女子ゴルフツアーの「ヤマハレディースオープン葛城」は引き続き継続する。この継続方針は、かつて筆者が書いた「ヤマハが『楽器と無関係』のゴルフに参入した理由」と一本の線でつながる。
ヤマハレディースオープン葛城は、4月の桜の季節に開催される象徴的な大会で、ヤマハが“体験としてのブランド”を届ける舞台になってきた。ゴルフ用品は撤退しても、トーナメントとゴルフリゾート(葛城ゴルフ倶楽部運営)を軸に、ブランド価値を維持強化の舞台は残す戦略である。

ヤマハレディースオープン葛城(写真:筆者撮影)

ヤマハレディースオープン葛城(写真:筆者撮影)
気になる今後の見通し
都内のゴルフショップに取材したが、「ヤマハのゴルフ事業撤退に関する問い合わせはまだない」とのことだった。一般のアマチュアゴルファーにとっては、当面は「6月末までの供給」「アフター対応」「在庫と価格」の動きが焦点になる。
今後の問題は、国内中堅ゴルフメーカーは、今後どんな“独自路線”を打ち出すか、だろう。ヤマハのゴルフ用品撤退は1社だけのニュースではない。ゴルフ用品の勝ち方が変わったことを告げる、時代の節目である。