窮地に立つロシア石油産業、直面する3つの障壁

フランス軍は先月、地中海で石油タンカーを拿捕した。地中海はロシア産原油をアジアに運ぶ船舶の航行ルートとなっている
ロシア産原油を積んだ数十隻のタンカーが、行き場を失い洋上を漂っている。欧米諸国はロシアが依存する老朽化した船舶を差し押さえている。一方でロシア産原油に対するディスカウント(値引き)要求は一段と激化。買い手が求める国際的な原油価格に対する値引き幅は、ウクライナ侵攻開始直後の数カ月以来で最大となっている。
こうした状況全てが、ロシア経済の最大の主軸が正念場を迎えていることを浮き彫りにしている。
ウラジーミル・プーチン大統領が2022年にウクライナに侵攻して以降、西側諸国はロシアの石油産業を締め付けようとしてきた。ロシアは巧みに制裁を回避し、独自の「影の船団」を組織して、原油の新たな買い手を見つけた。
しかし、特定の船舶に対する欧州の制裁、公海上での劇的な船舶拿捕(だほ)、ロシアとインドの間にくさびを打ち込もうとするドナルド・トランプ米大統領の取り組みが組み合わさり、新たな圧力の波がロシアの最重要産業を不安定な状態に陥れている。
商品(コモディティー)関連データを分析するアーガス・メディアによると、ロシアの主力油種「ウラル」は1バレル=45ドル前後で取引されており、国際的な標準油種である北海ブレント原油の取引価格を約27ドル下回る記録的な低水準となっている。

ブレント原油に対するロシア産原油の ディスカウント
この水準は既に、ロシアの26年の財政収支を均衡させるために必要な1バレル=59ドルを大きく下回っており、ロシアの石油会社が採算割れとなる生産損益分岐点に近づきつつある。アナリストらはこれを1バレル=20~25ドルと推定している。今年1月に同国の石油・ガス収入は、20年7月以来で最も低い水準となった。
キーウ経済大学(KSE)研究所の地経学・レジリエンス・センターでディレクターを務めるベンジャミン・ヒルゲンストック氏は、「財政面での脆弱(ぜいじゃく)性はかなり深刻で、しかも経済の減速や停滞のさなかにこの事態に直面している」と述べた。
国際通貨基金(IMF)は1月、25年と26年のロシア成長率見通しをわずか0.6%と0.8%にそれぞれ下方修正した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の年を除けば、14年のロシアによるクリミア併合以降で最も低い成長率となる。

洋上に滞留する原油
ロシアが原油の販売に苦戦している兆候として、原油市場分析会社ボルテクサによると、2月10日時点で約1億4300万バレルが洋上に浮かんだまま、買い手がつくのを待っている。ロシアの25年の生産水準に基づくと、これは約半月分の生産量に相当する。
この大半は、ロシア、インド、中国の港湾付近、またはマレーシア沖の公海など主要貿易ルート沿いの洋上積み替え地域の周辺にあると、ボルテクサの中国石油市場担当主席アナリスト、エマ・リー氏は述べた。

洋上のロシア産原油
特に世界の石油市場で供給過剰感があるため、トレーダーらはこうした余剰在庫に買い手を見つけることができずにいる。
インドや中国の国営製油所といった従来の買い手は慎重姿勢を保っている。中国の民間の買い手を引き付けるため、ロシア産原油の洋上在庫はイラン産に対抗して価格を引き下げる必要に迫られている。イラン産は通常、さらに大幅なディスカウントで販売されている。
リー氏は「これらの原油が消化されるタイミングは、大部分は買い手候補に提示される値引き幅の水準に左右される」と述べた。
洋上の在庫が減少しなければ、最終的には貯蔵するスペースが不足するため、ロシアは生産ペースの減速を余儀なくされるとアナリストらは指摘した。
JPモルガンでグローバル商品戦略担当の責任者を務めるナターシャ・カネバ氏によると、中国の「茶つぼ(ティーポット)」と呼ばれる、欧米の金融・保険とのつながりなしに操業することが多い独立系製油所が、過剰供給の一部を処理している兆候が見られる。
世界第2位の経済大国である中国が1月に輸入したロシア産原油は、日量173万バレルと記録的な水準に達した。これは25年の平均である同116万バレルを50%近く上回る。KSE研究所が船舶追跡サービスのケプラーのデータに基づいて行った分析で明らかになった。アナリストらは、2月初めにも追加の購入があったと指摘している。
しかし、黄河の下流域にある山東省に集中するティーポット製油所は、厳しい交渉をしてくる可能性が高い。テキサス州を拠点とするエマージング・マーケッツ・オイル・アンド・ガス・コンサルティング・パートナーズの創業パートナー、ロナルド・スミス氏は「原油が沖合でタンカーに積まれたまま買い手を待っている時、売り手側は交渉で有利な立場にはない」と述べた。
中国が受け入れようとする量には限界があるかもしれない。同国政府は従来、単一の国からの原油輸入が20%を超えないように抑えるという非公式な上限を守ってきた。中国税関当局のデータによると、ロシアからの輸入が占める割合は25年に17.5%に達した。

購入控えるインド
最近までロシア産原油の主要な買い手の一つだったインドは、米国がロシアの石油大手2社に制裁を科し、欧州連合(EU)がロシア産原油から作られた製品に制裁を科したことを受けて、購入を控えるようになった。
またトランプ氏は昨年にインドに対し50%の関税を課した。この措置はロシア産原油の購入削減に一部関連していた。同氏は先週、インドが関税率引き下げと引き換えにロシア産原油の購入を停止することに合意したと明らかにした。
アナリストらは、世界で最も人口の多いインドがロシア産原油の購入をゼロにすることは困難だが、小幅な削減であってもロシアに明確な影響を与える可能性があると指摘している。
KSE研究所によると、1月のインドによるロシア産原油の購入量は日量114万バレルと、月間ベースで22年12月以降の最低水準となった。ロシアの石油製品の輸入も大幅に減少した。
影の船団に圧力
ロシアの石油産業への影響でさらに懸念されるのは、米国と欧州が最近、船舶を相次いで差し押さえていることで、ロシアの影の船団を展開するリスクが高まっていることだ。所有権が不透明で、欧米の保険や金融サービスを介さずに運用されているこれらの船舶は、25年にロシア産原油の約80%を輸送した。
フランス軍は先月、ロシア産原油をアジアに運ぶタンカーの通過ルートである地中海で、「グリンチ号」という名前のタンカーを拿捕した。今週には、米軍が「アクイラ2号(Aquila II)」を拿捕した。同タンカーはベネズエラ産原油を積載していたが、過去にはロシア産原油を輸送していた。
「影の船団の差し押さえが頻発するようになれば、売り手はリスクが大き過ぎるとして(供給を)思いとどまるかもしれない」と、ケプラーの原油担当上級アナリストであるナビーン・ダス氏は述べた。ただ現時点では、得られる収益の方がタンカーが拿捕されるリスクを依然として上回っているとの見解を示した。