「日本初」かつ、ある意味「日本唯一」だった⁉ 超・意欲作だった2階建て電車「215系」

1992年にデビューした215系

2階建て車両は、通常の車両よりも眺めが良いことから、行楽客に人気の車両です。また、2階建てということは、通常の車両よりも座席を多く設置できるため、定員増も望めるものとなっています。

日本の2階建て車両は、当初は眺望目的で導入されたものがほとんどでした。しかし、国鉄分割民営化後、東京近郊のグリーン車需要の高まりを受けたJR東日本は、東海道線用の211系と113系、横須賀・総武快速線用の113系に2階建てのグリーン車を導入。JRグループでは初めて、かつ普通・快速列車用では日本初の、定員確保を目的とした2階建て車が登場しました。

その後、1991年には常磐線用415系に2階建て車1両(クハ415-1901)が登場。そして、これら先行車両のノウハウを基に開発されたのが、1992年にデビューした215系です。

「DDL」(Double Decker Liner)を意匠化した215系のロゴ

215系は、通勤ライナー列車「湘南ライナー」(現在の特急「湘南」の前身)用に開発された車両。利用客が増加していた東海道線において、着席サービスの提供数を増やすことを目的に導入されました。

車体は、211系2階建てグリーン車などを基とした、オール2階建て構造。1編成あたりの定員は1010人で、当時ともに「湘南ライナー」で使われていた185系15両編成(916人)や、現在「湘南」で使われているE257系2000番台+2500番台の14両編成(844人)よりも多くの旅客を、10両編成で運ぶことができる車両でした。

普通席の座席はすべてボックスシート。座席のフレームは一部の箇所を除き、TGVの座席も手掛けたフランスのコンパン社によるものが使用されました。

オール2階建て(といえる)車両は、215系の後にも、JR東日本のE1系・E4系「Max」、JR東海・JR西日本の285系「サンライズエクスプレス」、JR東日本のE26系「カシオペア」が登場しています。しかし、これら形式は(Maxは通勤需要対策の導入だったとはいえ)すべて優等列車用の車両。一般列車用(普通・快速列車用)として製造されたオール2階建て車両は、2026年現在も215系のみとなっています。

なお、215系はオール2階建て構造ではありますが、両先頭車の1階部分は機器スペースとなっており、客席はありませんでした。2階建て車両は、通常の車両であれば機器を搭載できる台車間の部分に客席を設置するため、機器スペースに限りがあります。そのため、215系では両先頭車のみ、このような構造が採用されたのです。

215系と同様に、285系「サンライズエクスプレス」でも、7両編成中2両(3・10号車、5・12号車)は、客席(「ノビノビ座席」および「ソロ」)自体は上下段構造となっているものの、車体構造は2階建てではありません。また、E26系「カシオペア」でも、12号車「ラウンジカー」は、床下に発電機を搭載しているため、1階部分に旅客は立ち入りできませんでした。

ちなみに、日本初のオール2階建て電車は、215系より30年も早く誕生していました。近畿日本鉄道の20100系「あおぞら」号です。修学旅行などでの需要を想定した団体臨時列車用車両で、先に登場していた「ビスタカー」のような2階建て車を子どもたちにも体験してもらいたいという意図があったそうですが、2階建て構造による定員確保も狙った設計でした。

日本初どころか世界初のオール2階建て電車だった「あおぞら」号ですが、その運用は団体臨時列車や臨時特急列車が基本で、当然ながら通勤列車に使われたことはありません。通勤ラッシュに対応した日本のオール2階建て電車は、やはり215系が唯一ということになります。

新宿駅行きのライナー列車「おはようライナー新宿」で運用中の215系

「湘南ライナー」などでの運用を想定して開発された215系は、1992年に運用を開始。同列車のほか、快速「アクティー」の一部列車でも運用されました。「アクティー」での運用終了後は、湘南新宿ラインの新宿駅発着列車でも2004年まで運用。また、1993年に運転を開始した「ホリデー快速ビューやまなし」も、2020年の廃止まで215系がもっぱら使用されていました。

5両付属編成の製造も想定されていた215系ですが、最終的には10両編成4本のみの製造に終わりました。211系などの他形式と比べると、片側2ドアかつドア付近で2階席、1階席の乗客が合流する構造の215系は、乗降に時間が掛かる車両でした。そのため、一般列車での運用には向かず、「ビューやまなし」を除けば、2004年以降は通勤ライナーでの運用のみとなってしまいました。

215系は、「湘南ライナー」などが特急「湘南」に格上げされた2021年3月のダイヤ改正で運用を離脱。そのまま全車両が廃車解体されました。着席通勤サービスを拡大するために生まれた、超・意欲作といえる215系でしたが、その直接的な後継車は現れずに終わっています。