「責任ある積極財政」の大勝で明らかになった有権者の意思、政府・日銀は国民の選択を踏まえたアクションを

「責任ある政策」の前提はEBPM, 国債発行を継続できる環境をどうやって維持するか, 財政規律はいま生きている国民の資産を守るもの, 「責任ある積極財政」支持なら、もっと国民が国債を持ってもいい, 国債とETFを一緒に切り離し、投資信託を組成

「責任ある積極財政」を成功させるには政府・日銀の連携が欠かせない。写真は会談に臨む高市早苗首相(右)と日銀の植田和男総裁、2月16日、首相官邸(写真:共同通信社)

自民党の大勝で信認を得た「責任ある積極財政」。財政の健全性維持への配慮は欠かせないが、この有権者の選択は何を意味するのか。新たなステージに入る財政政策を前に、異次元緩和に伴う国債保有を積み上げてきた日本銀行はどんなアクションを採るべきか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

「責任ある政策」の前提はEBPM

 このたびの総選挙では自由民主党が大勝した。同党が掲げる「責任ある積極財政」が、多くの国民に支持されたと言ってよいだろう。

 同党の公約には、「『財政の持続可能性』を確保しながら、『大胆な投資』により力強い経済成長につなげ、税収の増加を通じて、さらなる投資を可能とする『投資と成長の好循環』を生み出していきます」とある。

 この一文からも分かるように、高市政権の「積極財政」は、政府による投資によって経済が成長し、その結果として税収も増えるため、将来世代に禍根を残すことにはならない、という考え方に立っている。政府支出の焦点は、かつての需要刺激ではなく、投資を通じた成長に置かれている。

 現状の日本経済では、かつてのような需給ギャップの拡大が問題になっているわけではない。そうした意味で、この考え方は現在の状況により適合していると言える。

 デフレに苦しんだ日本では「インフレになればすべてうまくいく」と考える風潮があったが、そのようなメカニズムについては、今なおはっきりしない点が多い。結局のところ、「デフレからの脱却」という言葉は、「日本経済を良くしよう」という掛け声に過ぎず、その本質は、強い日本経済をつくることにある。その点が、今回あらためて確認されたのだろう。

 であるならば、今後、政府による投資が、本当に日本経済の成長につながるのかどうか、その成果が丁寧に検証されなければならない。結果を尊重する政策運営、すなわちEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング=証拠に基づく政策立案)が行われなければ、「責任ある政策」を実行したことにはならない。

国債発行を継続できる環境をどうやって維持するか

 そして、「責任」を強調する以上、そこには節度が含意されており、無節操とは距離があるはずである。

「国債はいくら発行しても、国内の投資家がそれを保有してくれるなら問題ない」という考え方には立たない、という点も、はっきりさせておく必要がある。

 政府が国債発行というかたちで金融市場から資金を調達する以上、金融市場が「債務の返済が困難になる」と判断すれば、資金調達コストである国債金利は上昇する。過去を振り返れば、その変化が極めて急激に起こることもある。

 日本の課題として指摘される「財政再建」が何を意味するのかは、実は必ずしも明確ではない。しかし、「再建」とまで言わずとも、少なくとも長期的に国債発行を継続できる環境を維持しなければならないことは明らかである。それが、「責任」が意味する最低限のところだろう。

 財政の持続可能性をめぐっては、政府の債務残高の対名目GDP比率をどう捉えるかという論点がある。諸外国と比べても高い水準にあるため問題視されることが多いが、一方で財政規律の指標としてこの比率だけを見るのは誤りだ、という指摘もある。財政規律が本質的に保たれていなくても、インフレによって名目GDPの伸びが債務残高の伸びを上回り、この比率が低下することがあるからである。

 ただし、だからといって軽視できるわけではない。国債に投資する側にとって、この指標は常に気になるものである。投資家にとって最大の関心事は、投資した資金が戻ってくるかどうかだからである。将来の税収がどの程度になるのか、その現在価値はいくらなのか、その現在価値と現在の債務残高を比較して、返済能力は十分と言えるのか。これらが投資判断の基礎となる問いである。

財政規律はいま生きている国民の資産を守るもの

 したがって、政府の債務残高の対名目GDP比率が、長期的に際限なく拡大していくという予想のもとでは、積極的に国債を購入するのは難しい。その結果として生じるのが、国債金利の上昇である。

 それに伴い、すでに発行されている低クーポンの国債の価格は低下する。場合によっては、短期間で既存の国債の価値が大きく毀損することもあり得る。

国債を購入した投資家が受け取る利息のこと

 こうした事態を防ぐための財政規律は、単に将来世代のための倫理ではない。自分では国債を持っていない国民も、金融機関などを通じて間接的に保有している。財政規律は、いま生きている国民の金融資産の価値を守るためのものでもある。

 現在の長期金利の上昇には、インフレ率の上昇が大きく影響していると考えられる。しかし、それだけでなく、将来、国が借金を返せなくなるかもしれないという不安が、長期金利を押し上げている部分があるとすれば、それは注意すべき兆候である。

 財政の健全性を考える際、日本には災害、とりわけ地震のリスクが高いことも忘れてはいけない。今後、超長期国債が対象とする20年、30年、40年という長い時間の間に、大規模な災害が発生する可能性が高いことは、政府自身が公表している。南海トラフ地震や首都圏直下地震が発生した場合、その経済被害は、阪神・淡路大震災や東日本大震災をはるかに上回ると予想されている。

 そのような緊急事態においても、十分な復興予算を編成できるだけの国債発行余地を確保しておく必要があることは言うまでもない。これは、建物の耐震構造を強化しておくことと同じである。

「責任ある積極財政」支持なら、もっと国民が国債を持ってもいい

 現在の日本国債の格付けは、投資不適格の水準からはまだ距離がある。しかし、他の先進国と比べれば、その距離は決して大きくない。

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 もし日本国債が投資不適格となれば、政府だけでなく、日本企業全体の資金調達にも大きな影響が及ぶ。企業の格付けはその国の格付けを基準に考えられており、日本国債が投資不適格にされると、日本企業の格付けも投資不適格に落とされてしまう可能性があるからだ。

 そうなると、日本の政府や企業に資金を貸そうとする海外の投資家は大きく減るだろう。さらに、一度格下げの流れに入ると、そのスピードが速いことは、過去の金融市場が示している。

 したがって、「責任ある積極財政」においては、将来世代に禍根を残さないという観点からだけでなく、日本国債の格付け引き上げも意識して運営すべきであろう。格付けの「維持」ではなく「引き上げ」としているのは、万が一、大きな災害が起きて国債を大量発行する必要に迫られたときでも、投資適格の水準に踏みとどまるためだ。

 将来の国家的リスクという観点からは、災害だけでなく、安全保障も考慮しなければならない。それに関連する費用も視野に入れた財政運営こそが、「責任ある財政」であるはずだ。

 今回の総選挙の結果を見る限り、多くの国民が「責任ある積極財政」を支持したと言えると冒頭で述べた。そうした政策スタンスがうまく機能すると国民が信じたのであれば、その資金調達手段である国債を、より広く国民自身が保有してもよい、という考え方も成り立つ。

 10年続いた異次元金融緩和の結果、現状では、短期国庫証券を除く国債の発行残高の約半分を日本銀行が保有している。日本銀行の資産は、広い意味では国民の資産とも言えるが、これまで述べてきた文脈に照らせば、国民自身がより直接的に国債を保有できる資金の流れを設計してもよいのではないだろうか。

国債とETFを一緒に切り離し、投資信託を組成

 家計が有価証券を保有する際に便利な金融商品としては、投資信託がある。例えば、日本銀行が保有する資産の一部を切り離し、それを個人向けの小口の投資信託に転換し、広く国民が保有できるようにすることも考えられるのではないか。

 異次元緩和の過程で日本銀行は大量のETF(上場投資信託)を買い入れた。国債と併せ、日本銀行が保有しているETFを一緒に切り離したうえで投資信託を組成するのも一案だろう。

 もちろん、そのためには全く新しい仕組みが必要になる。とはいえ、現状のままでは、経済規模に比して極めて大きくなってしまった日本銀行の資産規模は、当分の間、高水準のままである。昨年9月にETF・REIT(不動産投資信託)の売却開始を決めたが、単純計算で100年以上かかる。

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 日本銀行の資産を個人向けの小口の投資信託に転換すると言っても、タダで放出するわけではない。日本銀行が見返りとしての収入を得られるよう適切に設計すれば、資産を切り離した途端に日本銀行が赤字に陥るという事態も避けられるはずである。

 総選挙での自民党の大勝は、「責任ある積極財政」の先にある日本の将来に対し、国民が信認したということである。それが本物であるなら、今後の家計の資産形成で、国の債務である国債の比重が高まることが、その証しとなるのではないだろうか。

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