日本の総労働時間が激減しているのに「疲れが取れない」「職場が幸せになってない」深刻なワケ

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どの職場も働き方改革を掲げているが現実は思ったように進んでいない。経済協力開発機構(OECD)加盟国における「世界の労働時間 国別ランキング」調査によると、日本の総労働時間はかなり減っている。時間外労働の上限規制ができたから、当然の結果だ。しかし、それによって疲れは取れるようになったか?あなたや職場のメンバーは、幸せになっただろうか?答えはきっと、「NO」だろう。※本稿は、カウンセラーの船見敏子『戦略的休暇:休むほど成果が出る新しい働き方』(ぱる出版)の一部を抜粋・編集したものです。

「働き方改革」の美名の下で

残業とストレスは増すばかり

 私は、メンタルヘルスの専門家として、これまでに約1000社の支援をしてきました。

 どの職場も働き方改革を掲げています。しかし現実は思ったように進んでいません。

 業務量が変わらないまま残業制限をし、仕事が終わらず社員がこっそり残業をしている。部下に残業させられないからと、リーダーがメンバーの仕事を巻き取って長時間働く。年次有給休暇を5日取ることが義務になったものの、メンバーの疲労度は増すばかり……。

「改革」どころか「改悪」になってしまっているケースをよく見ます。

 日本の生産性(労働者数や労働時間に対して、どれだけの成果が出せたかを表す「付加価値労働生産性」のこと)は今も、先進7カ国で最下位。働く人の8割が仕事で強いストレスを感じ、メンタルヘルス不調者も増える一方です。これが現実です。

「仕事が終わらないから休めない」→「休まないから疲れる」→「疲れるから業務効率や生産性が落ちる」。

 そんな悪循環に、あなたも陥っていないでしょうか。そして、「ここから抜け出すなんて無理だ」と、どこかであきらめていませんか?

 でも、安心してください。実は、休んだほうが生産性は上がるのです。

 これは、机上の空論ではありません。日本国内でも、すでに積極的に休むことで成果を出している企業があります。

 あるアパレル企業は、今から20年ほど前に「残業ゼロ」を掲げ、18時に全員退社するルールを作りました。当時はまだ、残業をして長く働く人が偉いという感覚もあたりまえでしたから、かなり先進的な取り組みでした。

 結果は、19期連続増収増益。

 私は雑誌記者時代にこの企業の取材をしました。社員は相当戸惑っただろうと思い、数人に話を聞いたところ、「はじめはもちろん仕事が終わらず困りました。でも、18時が締め切りだと思うと、優先順位をどうするか、やらなくていいことは何か、どこで折り合いをつけるのかということを自然に考えるようになるんです。結果的に、毎日残業せずとも仕事が終わるようになりました」と、皆、笑いながら話してくれました。

労働時間が短くなる分

業務の効率化を考えざるを得ない

 また、ある老舗菓子メーカーは、年次有給休暇取得率100%を25年以上にわたり継続しています。当初は年次有給休暇を取得する代わりに残業が増えてしまったといいますが、設備投資をしたほか、各職場で効率化を真剣に考え取り組んだ結果、残業ゼロかつ年次有給休暇100%取得が実現しました。売上高は年々上昇傾向にあり、社員の健康度も高まったとのことです。

 さらに、いまだ長時間労働が課題の建設業の某企業も、年次有給休暇100%取得があたりまえという風土を生み出しています。業務が属人化しないようサブ担当をつけ、休みやすくする工夫をし、支援を求めやすい仕組みを作りました。結果、年次有給休暇取得率向上だけでなく、平均25時間だった残業時間が17時間に減少。従業員のモチベーションも上がっているといいます。

 これらはすべて、日本国内の事例です。

 デンマークやドイツなど、長期休暇も残業ゼロもあたりまえで、なおかつ国際競争力やGDPが高い国の話を聞くと、「それは海外のことでしょう。日本では無理」と冷めた目で言う人もいますが、そんなことはありません。

 年次有給休暇を100%取っても残業ゼロでも、生産性を上げることはできます。むしろ休むからこそ、生産性が高まると言えます。

仕事のための休暇と思えば

休むことの後ろめたさも薄まる

 働き方改革が進められ、日本人の総労働時間は減少しました。

 経済協力開発機構(OECD)加盟国における「世界の労働時間 国別ランキング」調査によると、日本の総労働時間は2024年の時点で1617時間。「24時間戦えますか?」が流行した平成元年の2076時間と比較するとかなり減っています。「働き方改革関連法」で、時間外労働の上限規制ができたのですから、当然の結果です。

『 戦略的休暇:休むほど成果が出る新しい働き方 』(船見敏子、ぱる出版)

 けれど、それによって疲れは取れるようになりましたか?あなたや職場のメンバーは、幸せになりましたか?答えはきっと、「NO」でしょう。

 コロナ禍を経て、働き方に対する価値観も変化しました。あなたも、「残業などしたくないし、休みももっと取りたい。もっと効率的に働きたい」と思いますよね?

 それでも、休みにくい雰囲気が職場に漂っていませんか?「休んだら仕事が滞るから、休むのが怖い」と思っていませんか?

 だからこそ、必要なのは、発想の転換です。「休暇は損失につながるもの」ではなく、「休暇は未来への投資である」と、発想を180度転換してほしいのです。

 漫然と休むのではなく、仕事の質を上げるために、休暇を戦略として位置付ける。疲労を回復させ、エネルギーをチャージし、生産性を高めるために、計画的に休む。

 それこそが、「戦略的休暇」の考え方です。

適度なストレス(よい緊張感)があるとき

私たちは最も生産性を高められる

 なぜ、休暇が戦略になるのか。ここで、ストレスと生産性の関係を見てみましょう。

 ストレスと生産性の関係を表す「ヤーキーズ・ドットソンの法則」によると、ストレス度が高いときだけでなく低いときも生産性が下がります。

同書より転載

 ストレスが蓄積し疲弊すれば、生産性が下がるのは当然です。ところが逆にストレスがまったくないときも、生産性は低いのです。ストレスは、外部からの刺激のことで、目標やプレッシャーなどもストレス要因になります。とはいえ、何の目標もプレッシャーもなければ、人は頑張れません。

 この図が示しているのは、適度なストレス(よい緊張感)があるとき、私たちは最も生産性を高められるということです。疲労の蓄積を防ぎ、適度なストレスを保つために、休暇は必要不可欠であり、戦略的に休むことで常に高いパフォーマンスを維持できるのです。