【銘柄】キリンか、アサヒか...酒税一本化で変革迫られるビール業界で、3月の勝ち組は?

<3月の日本株市場は「ビール株」が静かに動き始める季節。大きな税制改正を控え、サイバー攻撃からの回復途上にあるアサヒと、ビール以外にも事業を広げるキリン。どちらが強いのか。両社の戦略・業績を分析する>, 「酒税一本化」で価格競争の時代は終焉, サイバー攻撃からの回復を図る王者「アサヒ」, ビールだけではない「キリン」の優位性, キリンと3月相場は好相性。高勝率の要因は?, 3月相場の「勝ち組」はバランス重視で

【銘柄】キリンか、アサヒか...酒税一本化で変革迫られるビール業界で、3月の勝ち組は?

アサヒとは異なる路線をゆくキリンの優位性とは Atsushi Tada - stock.adobe.com

<3月の日本株市場は「ビール株」が静かに動き始める季節。大きな税制改正を控え、サイバー攻撃からの回復途上にあるアサヒと、ビール以外にも事業を広げるキリン。どちらが強いのか。両社の戦略・業績を分析する>

花見に歓送迎会と、ちょっと浮かれたい気分にもなる春の夜。「この一杯のために働いている」と感じる瞬間も増えることでしょう。人が集まり、乾杯が増えれば、株式市場では当然のごとく「ビール銘柄」に花が咲きます。

ただ、今年はちょっと様相が違います。「酒税一本化」という大きな変革が待ち受けているからです。価格差に支えられた競争は終わり、真の実力が試される時代へ。株式市場では、すでに「勝ち組」を選別する動きが始まっています。

「酒税一本化」で価格競争の時代は終焉

2026年10月、「ビール」「発泡酒」、そして、いわゆる「第3のビール」(新ジャンル)の酒税が一本化されます。

とりわけ影響を受けるのは「第3のビール」です。これまで、税率の低さによる低価格が販売拡大を支えてきましたが、その優位性が薄まって価格が同程度になってしまえば、消費者としては「じゃあ、ビールでいいじゃん」となることは想像に難くありません。

ビール業界は、この税制改正を機に「価格」での勝負から、「ブランド力」そして「収益体質」による競争へと軸足を移す局面に入ることになります。

現在のところ、今後の競争を生き抜く「勝ち組」として市場で意識されているのは、やはり大手の2社、アサヒグループホールディングス<2502>とキリンホールディングス<2503>でしょう。ただし、その戦略は大いに異なっています。

サイバー攻撃からの回復を図る王者「アサヒ」

「スーパードライ」という絶対的ブランドを持ち、ビール回帰への恩恵を直接的に享受しやすい立場にあるアサヒグループホールディングスにとって、そもそも酒税一本化は追い風です。

そんなアサヒですが、2025年にはサイバー攻撃による大規模なシステム障害を経験しました。会社は2月18日に原因究明と再発防止策を公表して業務の正常化を進め、延期となっていた第3四半期の決算発表は3月10日に決定しました。

たしかに一本化の恩恵は大きいものの、投資家心理としては、物流正常化の進捗や販売動向の確認が焦点となりそうです。特に3月いっぱいは、回復度合いを見極めたい、という心理が働くのが自然な流れではないでしょうか。

ビールだけではない「キリン」の優位性

サイバー攻撃の後遺症を引きずる王者アサヒに対し、キリンホールディングスは一段踏み込んだ布石を打っています。

まずは「本麒麟」(第3のビール)をビールに格上げし、価格を抑えたビールとして再配置すると同時に、主力の「一番搾り」との棲み分けを図ります。ビールの中に価格帯による差をあえて設け、税制改正後の消費者の需要転換を囲い込む設計です。

さらに、キリンの強みはビールの戦略にとどまりません。

ヘルスサイエンス事業を第三の柱に育て、「ビール会社から健康志向の会社へ」という変革を進めています。酒類事業、ヘルスサイエンス&飲料事業、医薬事業という3つのコア事業で構成されるポートフォリオは、成熟市場における安定性を高めます。

業績面でも回復は鮮明です。2024年12月期はファンケル買収に伴う一時的な費用計上で最終利益が落ち込みましたが、2025年12月期の最終利益は前期比2.5倍の1475億円に急拡大。今期(2026年12月期)も1560億円と増益が見込まれています。

これは、単なる反動増ではなく構造改革後の収益力が数字として表れ始めた、と見ることができます。この業績好調を受け、株価も上昇トレンドに入っています。

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キリンと3月相場は好相性。高勝率の要因は?

そんなキリンホールディングスは、実は3月相場との相性が良いことで知られています。過去10年の3月は9勝1敗。ちなみに、アサヒも8勝と健闘しています。

<3月の日本株市場は「ビール株」が静かに動き始める季節。大きな税制改正を控え、サイバー攻撃からの回復途上にあるアサヒと、ビール以外にも事業を広げるキリン。どちらが強いのか。両社の戦略・業績を分析する>, 「酒税一本化」で価格競争の時代は終焉, サイバー攻撃からの回復を図る王者「アサヒ」, ビールだけではない「キリン」の優位性, キリンと3月相場は好相性。高勝率の要因は?, 3月相場の「勝ち組」はバランス重視で

3月は、12月決算銘柄の決算発表を終えて、業績見通しや配当方針が出揃うタイミング。と同時に、日本の機関投資家にとっては年度末に当たるため、ポジション調整が進み、安定的な収益や配当を重視した銘柄に資金が向かいやすくなるのです。

キリンはDOE(株主資本配当率)5%以上を目安に「原則として累進配当を行う」という方針を掲げています。今期は1株76円への増配を予定しており、株主還元への姿勢は明確です。特に守りが評価される局面では、こうした方針が存在感を発揮し、株価の下支え要因となります。

■「3月のキリン」に潜むリスク要因

リスク要因としては、とりわけ原材料価格やエネルギーコストの動向、為替変動、国内ビール需要の縮小が依然として挙げられます。酒税一本化が需要の大幅回復に直ちにつながる保証はありません。消費者が価格差よりも節約志向を優先する可能性もあります。

ライバルのアサヒも、ブランド力の強さを背景に業績と信頼の回復が進めば、再評価される余地は十分にあります。一本化の恩恵を最も直接的に受けるのは、やっぱりアサヒ......となる可能性は否定できません。

ただ、価格競争から収益力競争へと移行する場面では、複数の成長軸を備えた企業が安定感を持ちやすく、現時点ではキリンのバランスの良さが光ります。

3月相場の「勝ち組」はバランス重視で

「ビールが売れない時代」と言われます。それでも、制度が変わるとき、株式市場ではそれを「チャンス到来!」と捉えます。

王道のビールで攻め通す姿勢のアサヒ。立ち向かうは、ビールの枠に留まらず、価格設計と3つのコア事業による安定性で勝負に挑むキリン。

季節性に加え、ディフェンシブ回帰、さらには酒税改正。3つのテーマが重なる2026年の3月で最もバランスの取れた選択肢はキリンではないか──「一番搾り」を片手に、筆者はそう考えています。

[筆者]

岡田禎子(おかだ・さちこ)/個人投資家、ファイナンシャル・プランナー

証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの人に伝えられるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師も務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャル・プランナー(CFP)。note:https://note.com/okapirecipe_555