「技術による先進」変えぬアウディの製品戦略

アウディでセールス&マーケティングを担当するマルコ・シューベルト氏と「A6 Sportback e-tron」(写真:アウディ ジャパン)
自動車メーカーが市場で生き残るためになにが必要か……といえば、最も重要なのは魅力あるプロダクトの提供だろう。
【写真を見る】1980年代から今に至るアウディの技術とデザインの変革
いい例がアウディだ。1970年代からこのかた、すぐれた技術でもって、市場での存在感を獲得してきた。
そのアウディが、いままた変わろうとしている。

2025年にミラノで発表された「コンセプトC」(写真:Audi)
2025年秋に、従来とまったく異なるデザインの「コンセプトC」を発表。26年からは、フォーミュラ1(F1)に参戦する。
アウディ本社で、セールス&マーケティングを担当する取締役会メンバー、マルコ・シューベルト氏と26年1月に話す機会があった。そこでアウディのビジョンを聞くことができた。
労働者のクルマからプレミアムブランドへ
かつて、ガストアルバイター(外国人労働者を意味するドイツ語)が本国に帰郷するときに買って帰る(程度の)クルマ、と言われていたのがアウディ。
もちろん、その人たちのお眼鏡にかなう品質感をはじめ、当時のアウディにもそれなりの魅力はあったのだが、そこからメルセデス・ベンツやBMWに競合するブランドに引き上げる戦略が練られた。
奏功したのは、「クワトロ」。フェルディナント・ポルシェ(ポルシェの創業者)の娘を母にもつ技術者、フェルディナント・ピエヒ(1937―2019年)の功績だ。

全輪駆動をラリーシーンに持ち込んだ1980年代の「クワトロ」(写真:Audi)
エンジンを後車軸の後ろに搭載し、その重さで車輪を下に押しつけて駆動力をかけるのが、ポルシェ「911」の考え方。
1972年にアウディの開発担当重役に就任したドクター・ピエヒは、全輪駆動車がアウディのブレークスルーになると考えた。このとき「技術による先進」というアウディのスローガンの基本になる考えが確立する。
ドクター・ピエヒが考えた“新生”アウディの技術的コンセプトは、911のシステムを180度ひっくり返して搭載することだった。
エンジンを前車軸より前に縦置きして前輪にしっかり駆動力を駆けるのが、アウディ車の基本レイアウト。

トレッドを拡張しボディ全長を圧縮した「スポーツクワトロ」は80年代ラリーシーンでほぼ無敵の強さをみせた(写真:Audi)
そこに後輪駆動システムを組み合わせて、高速での走行安定性を確保したのがアウディ・クワトロだ。1980年に衝撃的なデビューをし、81年には世界ラリー選手権(WRC)で圧倒的な性能ぶりを見せつけた。
同時にアウディは「100」にはじまるセダンやアバント(ステーションワゴン)に、フラッシュサーフェス化による空力ボディを採用。

パネルの段差などを極力なくしてフラッシュサーフェス化したアウディ「100アバント」(写真:Audi)
技術的、科学的なアプローチでもって、80年代から一気にプレミアムブランドにのし上がっていく。
2026年からF1に参戦する理由
「わが社が、26年シーズンからF1に参戦するのは、当時と同じ考えが根底にあります」
東京・中央区の銀座7丁目にある「Audi City 銀座」において、シューベルト氏は、マーケティングにおけるF1活動の重要性を語る。

「Audi City 銀座」の前でシューベルト氏(写真:アウディ ジャパン)
アウディは、23年にスイスに本拠地を置いていたF1チームの「ザウバー」を買収。デジタル金融サービスを展開するイギリスの「レボリュート」をパートナーに迎え「Audi Revolut F1® Team(アウディ・レボリュート)F1チーム」を設立した。
「F1を通して得られる技術革新は今後、重要になるでしょう。ほかにも、F1参戦から得られるものは多々あります」
「たとえば――」とシューベルト氏は、26年シーズンからの新レギュレーションを挙げる。
「F1では、バッテリー駆動の比重が大きくなります」

Audi Revolut F1® TeamとしてF1 2026シーズンに参戦(写真:Audi)
26年シーズンからF1マシンは、エンジンパワーをこれまでの550~560kWから400kWに引き下げられるとともに、MGU-K(運動エネルギー回生システム)の出力が120kWから350kWに引き上げられる。
「そこでマシンの戦闘力を見せつければ、私たちが手がけているプラグインハイブリッド車やBEVのe-tronのイメージアップにつながります」
もうひとつは、新しいマーケットの開拓に役立つとする。
「現在、F1は世界的に人気が高いので、そこでの活動は若い層や女性層など、いま私たちが必要としている購買層へのアピールにつながると考えています」
日本でもF1ファンは少なくないし、私だって「R26」(Rはアウディがレースマシンに伝統的に使用する記号)の走りっぷりをテレビで観戦したい。

アウディの「いまとこれから」を話すシューベルト氏(写真:アウディ ジャパン)
シューベルト氏とともにインタビューに参加していた、アウディ ジャパンでブランドディレクターを務めるマティアス・シェーパーズ氏は、「アウディシティなどでパブリックビューイングを実施できたらいいですね」と言っていた。
アウディは、80年代から00年代まで、いまより強いブランドイメージをもっていた。個人的な印象を言葉にすると、知的で先進的、それと同時にいい意味でアグレッシブ。

「コンセプトC」のデザインは初代「TT」(左)のデザイン要素を引用する(写真:Audi)
「それはよくわかります」とシューベルト氏はうなずいてくれた。
「私がアウディで仕事をはじめて20年以上になりますが、当初はまさにそこに惹かれたのですから。また同様のイメージを獲得することをめざしています」
近未来のアウディのヒントがここに
F1とともに、近い将来におけるアウディの変革を期待させるのが、「コンセプトC」だ。25年秋にミラノと、それに続くミュンヘンでの自動車ショーで公開された。
本質を浮かび上がらせるため、「必然的に一切の無駄を削ぎ落とした」とアウディは、この格納式ハードトップをそなえたロードスターを表現。

「コンセプトC」は戦前のアウディのレーシングマシンを彷彿させるコクピット背後の”バルジ”をもつ(写真:Audi)
プレスリリースには「純粋な形態、精緻さ、堅固さを兼ね備えたアスレチック・ミニマリズムを体現しています」と記されている。
コンセプトと銘打たれているが、単なるコンセプトカーでは終わらない。
「完全電動スポーツカーとして将来登場する市販モデルを予見させます」と公表されているように、量産化が計画されているという。
そこで気になるのが、「アスレチック・ミニマリズム」と表現されているデザインコンセプトは、1モデルに限定されるのか、それとも……?
「具体的な車名は未定ですが、コンセプトCは新しいアウディデザインの先駆けになります」とシューベルト氏は言う。
現在は量産化に向けての開発段階だというから、楽しみだ。

これからのアウディに期待を持たせてくれた(写真:アウディ ジャパン)
「技術による先進」は変わらない
「リダクショニズム」なるテーマで、「レンジローバー」に新しいデザインを確立したマッシモ・フラチェッラ氏をヘッドオブデザインに迎えたアウディ。
従来とはまったく方向性が違うデザインを採用することの是非を問うため、顧客を対象にしたデザインクリニックを各地で実施したという。
結果はというと、「社内とともに社外でも好評でした」とシューベルト氏は笑顔を見せる。
アウディは、この先も「技術による先進」というスローガンを下ろすことはないとする。そのうえで「A1」や「Q2」といった、比較的コンパクトな車種の後継車の開発も進めているそうだ。