「狂ってる」投資家に言わしめたビジネスモデル。「品種改良」の壁超え、日本のイチゴで世界へ挑む異色の農業スタートアップ

CULTAの野秋収平代表と、同社が開発したイチゴ。

農業分野でのスタートアップと聞いて、どんな企業を思い浮かべるだろう。

農場を自在に駆け回り、作物を採集するロボットベンチャー。巨大な「植物工場」に取り組む企業もよく話題にのぼる。バイオテクノロジーを駆使して品種改良や土壌改良を目指す企業も思い浮かぶ。

さまざまなスタートアップがあるなかで、異色の農業スタートアップがある。2017年に当時東京大学大学院農学生命科学研究科に在学していた野秋収平代表が創業した、CULTA(カルタ)だ。

CULTA代表を務める野秋収平さん。

農業を変えるため。考えたらこの方法が一番最適でした

野秋さんはさっぱりとこう語る。

CULTAは一般的な交配による品種改良に独自技術を組み合わせることで作物の品種改良を高速化。開発した新しい品種の販売も一手に手掛けるスタートアップだ

すでにマレーシア、シンガポール、タイなど東南アジアの国々で、自社開発した新しい品種の「イチゴ」を販売している。2026年内には日本でも本格販売。2032年までには、売上高300億円を目指す。

季節や天候にも左右されることの多い一次産業の現場で、スタートアップとしてどう急成長を遂げようとしているのか。

「このままでは日常の食が贅沢品になってしまう」

CULTAが新たに開発したイチゴの新品種「SAKURA DROPS」。CULTAによると、日本に出回る一般的な品種よりも、糖度が約4割高いという。国内でもCULTAの自社ECサイトから購入できる。

「農業は絶対に『供給ゲーム』になる、安定供給できるものが勝つという確信がありました」(野秋さん)

世界各地で頻発する異常気象は、作物の収穫量を減少させて価格を押し上げ、私たちの生活に目に見える影響を及ぼしている。国内では、2025年までに5年で4分の1の農業経営体が減少するなど農家数の減少も深刻だ。

「日常の食の豊かさや喜びが、『贅沢』になってしまう世界が近づいている」と、野秋さんはCULTAの事業が求められる背景を語る。

コメ価格の高騰をはじめ、日本でも気候変動が食卓に影響を及ぼす現場に直面することが増えてきた。世界を見渡せば、主要産地での干ばつや歴史的不作により、コーヒー豆やカカオ豆、果物の価格なども高騰している。

CULTAでは気候変動に強く育てやすい、消費者ニーズにも合う新しい品種の短期間での開発を進めている。現在、東南アジアに展開しているのは、自社開発した新しい品種のイチゴだ。

作物の品種改良には、一般的に十年以上の時間がかかるとされている。ゲノム編集や遺伝子組換えといったバイオテクノロジーの活用に注目が集まるのは、技術によってその時間短縮が可能とされているからだ。ただ、CULTAはそういったテクノロジーに頼らず、あくまでも古くから行われてきた「交配」による品種改良の高速化を目指してきた

手法を変えずに「高速育種」を実現

CULTAでは、「フェノタイピング」と呼ばれる技術を用いて、「作物の姿形」の画像情報から、果実の形状・色味・収量など、品種の持つ性質(表現型)の情報を数値化することで、育種を高速化している。

CULTAの「高速育種技術」では、「病気になりにくい」「乾燥に強い」といった特徴に寄与する遺伝子を押さえつつ、「作物の姿形」の画像情報から予測できる果実の形状・色味・収量も独自のAIを用いて検討する。この手法を用いることで、従来の手法と比較して交配する品種の選抜にかかる期間を、イチゴなら通常10年かかるところを2年に短縮できた。

また、かけ合わせた品種を育てる際には品種開発専用の「植物工場」も活用する。イチゴの生育に適した環境を再現することで、通常年に1度の生育サイクルを4カ月(年に3回)に短縮した。

環境を調整した植物工場で交配した品種を高速で育てることで、品種改良のサイクルを加速化している。

あえて交配による品種改良にこだわる理由は、端的に「海外展開における確実性」だと野秋さんは話す。

例えば、遺伝子組換え作物は世界的に規制が厳しい。最近耳にすることが増えてきた「ゲノム編集」などのバイオテクノロジーについても、規制をどうするか議論されている。作物の遺伝子を操作する技術は、社会的に忌避されるケースも多く、仮にいまは規制がない国でも将来的には分からない。

「将来、ブランド力を強みにしていこうと考えると、消費者の懸念という点でも交配育種が技術的に優位だと思います」(野秋さん)

取材で訪れたラボの中には、シャーレに入ったまだ小さい苗がいくつも並んでいた。