ウォルト「日本撤退」配達員が感じていた“予兆”

物価高により注文数が激減。金で殴り合うマネーゲームが展開中?, 止まらない配達員のデリバリー離れ。賃上げ機運が向かい風?,  時給換算3680円…苦肉の策の高額インセンティブ ,  今後どうしていくべきか…岐路に立たされる業界

Woltは2026年3月4日(水)をもって、日本での約6年間の活動に幕を閉じる(筆者撮影)

水色のバッグでお馴染み、フードデリバリー「Wolt(ウォルト)」は2月25日、日本でのサービスを3月4日をもって終了すると発表した。Woltは北欧・フィンランドで創業されたデリバリー企業で、コロナの影響で世界中が慌ただしかった2020年より、日本でのサービスを開始。来週の水曜で、約6年間の活動に幕を閉じることになる。

【衝撃画像】フードデリバリー配達員の時給がヤバい…

Wolt公式サイトには「あらゆる選択肢を慎重に検討した結果、Woltは2026年3月4日(水)をもって日本での事業を終了するという苦渋の決断をいたしましたことをお知らせいたします」と記されており、撤退に対する無念な気持ちが伝わってくる。公式文によると、日本での状況を総合的に見直した結果、事業を終了することが最も適切だと判断したようだ。

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日本撤退が発表されたWolt。「日本での事業を終了するという苦渋の決断をいたしましたことをお知らせいたします」と記されている(画像:公式サイトより)

ウーバーイーツ配達員+出前館配達員+ロケットナウ配達員として働いている私は、この文章を読んだとき「総合的に考えるとたしかにそうかもなぁ……」「もしかしたら今後、他のデリバリー企業からも撤退発表があるかもしれない」と感じた。

いったい今フードデリバリーの現場で何が起きているのか。Woltが上陸した2020年から配達員として働き、これまでに自転車(アシストなしのママチャリ)で8000回以上を配達してきた筆者が、多くの人が知ってるようで知らない「フードデリバリー業界の最新情報」について解説したい。

物価高により注文数が激減。金で殴り合うマネーゲームが展開中?

物価高が止まらない今、私たち一般市民は日々の生活で精一杯……。この状況下で店舗価格よりも1.5~2倍前後の料金を支払い、外食するよりどうしても味が落ちてしまうデリバリーの料理を食べたい人は、それほど多くないことは想像に難くないだろう。

その一方で、利用者の立場からすると、特定のデリバリー企業を“推す”理由はない。なぜなら各デリバリー企業で取り扱っている飲食店、料理の価格帯、配達員の質はほぼ同じだから。

その結果、差別化に失敗したデリバリー各社は、競うように「新規利用者向けのお得なキャンペーン」を打ち出している。初回注文から1000円ほど割り引いたり、注文金額の50%OFFクーポンを配布したり……。これはつまり価格競争という名のデスマッチ、デリバリー各社で“お金の殴り合い”が行われていることに他ならない。

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筆者の自宅に届いたmenuのクーポン。2026年2月だけで2枚もポストに入っていた(筆者撮影)

2025年1月からは韓国系のフードデリバリー企業「ロケットナウ」が日本に上陸。サービス料と配達手数料が0円、一部店舗で「お店と同価格」で料理を配送するなど、「フードデリバリー=料金が高い」というイメージを根底からひっくり返す、超低価格路線で日本市場に切り込んできている。

デリバリー業界は長年ウーバーと出前館、大手2社の「2強状態」が続いており、ここにmenuやWolt、フードパンダ(2022年に日本から撤退)が追随していた。昨年から新進気鋭のロケットナウが新たに参入。勢いや存在感など、あくまで私の体感値としては、ロケットナウは現在3番手の地位まで上がってきたような印象がある。

とはいえ業界トップ3に入れば安心なのかと聞かれたら、おそらく答えはNOだろう。例えば業界最大手の1つである「出前館」に対する株式市場の反応は、5年ほど前からずっと冷ややかだ。同社では赤字が続いていることもあり、現在の株価は最高値の1/30ほどにまで落ち込んでいる。

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2025年2月25日。出前館の株価の終値(画像:楽天証券スクショ)

止まらない配達員のデリバリー離れ。賃上げ機運が向かい風?

今現場では「配達員のデリバリー離れ」も深刻だ。フードデリバリー配達員は時給制ではない。こなした仕事の量によって報酬が決まる。配達員は雇用されていないため、収入保証も最低時給の保証もない。私が活動している神戸エリアなど、一部の地域では飲食店の前で待機しても1件も注文が来ない、“時給0円”の状態になることも多々ある。

これはあくまで私の体感値だが、配達員の報酬は「現状維持あるいは右肩下がり」といった状況で、社会全体でインフレが止まらない今、これは“実質的な賃下げ”と捉えることもできる。私自身、最低時給を下回ってしまう日は、「バカバカしくてやってられない」「仕事が割に合ってない」といった感情をどうしても抱いてしまう。

今はタイミーなど、フードデリバリー以外のスキマバイトが充実している。全国的に最低時給も上がっているため、デリバリー配達員として働く経済的なメリットは、昔と比べて正直かなり弱まってきている。顔見知りの配達員の姿はほとんど見なくなった。おそらく他の仕事を始めたのだろう。

注文数という名の「需要」と、配達員という名の「供給」。どちらも縮小傾向にある今、デリバリー各社にシワ寄せがいくことは想像に難くない。今回はWoltの撤退という形で「業界全体が縮小」したわけだが、はたしてここで下げ止まるのか……。

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2025年5月にジョージアで撮影。同国でウォルトは存在感を放っていた(筆者撮影)

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ウォルトは6年間、日本で頑張ってくれた。ありがとう(筆者撮影)

ちなみに先日私は東京出張に出かけたのだが、東京ドーム近くの飲食店で「最低時給1400円」と書かれた張り紙を見つけ、目を疑った。10年ほど前に私が東京ドームでバイトしていた頃は、時給900~1000円くらいが相場だった記憶がある。

人手不足が深刻な日本社会において、いかにして「人」を確保するかは各業界・各企業で共通の悩みだ。フードデリバリー業界は「お金」という点に関して、かなり分が悪い戦いを今後も強いられるのではないか。

時給換算3680円…苦肉の策の高額インセンティブ

この手の話題になると「配達員の報酬単価を上げればいい」といった声が続出するが、問題はそう一筋縄ではいかないだろう。なぜなら仮に報酬単価を引き上げた場合、その分を配送料金の値上げなど、どこかで回収する仕組み作りが必要不可欠になるから。というよりフードデリバリー各社は現状、業界での圧倒的シェアを築くべく、赤字覚悟で耐え忍んでいるのが実情ではないか。

例えば先日の雨の日、ウーバーでは昼の時間帯の初回配送(1回の乗車)に、プラス600円のインセンティブが設けられた。ここに通常の配達報酬(短距離なら320円~)が加わる。私はこの日、実働約15分で920円の報酬を獲得。時給換算にすると3680円。珍しく超割のいい仕事に浮かれていたわけだが……。

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ウーバーのインセンティブ。久しぶりに「珍しく超割のいい仕事」だったが…(筆者撮影)

冷静になって考えてみると、悪天候時に高額なインセンティブを用意するのは、そうしなければ配達員が集まらない(つまり配達遅延が発生してしまう)など、「お金で配達員を釣らなければならない」理由があるということだろう。

これまた冷静になって考えてみると、私が得た報酬すべてを利用者(お客様)の支払いで負担できているとは到底考えづらい。このとき私が運んだのは1人前のマックのセットメニューだったのだが、この商品代金に私の報酬、ウーバー側のシステム料や人件費などを加えると、仮にお客様の支払いが2000円でもおそらく足りないはずだ。

ではもし配達手数料など価格設定を引き上げた場合、いったい何人の方がウーバーを使ってくれるのだろうか。とはいえ配達員のインセンティブをゼロにすれば、まず間違いなく私はモチベーション不足で稼働しなかった。平常時の注文数が減少しているため売り上げが立ちにくく、低価格戦略で殴り合う業界の構造もあるわけで……。

私が何を言いたいか。フードデリバリー業界のビジネスモデルそのものが、右に行くも地獄。左に行くも地獄。各社が解決策を見つけられないまま、日に日に企業体力を削られて「限界」に近付いている気がしてならない。

今後どうしていくべきか…岐路に立たされる業界

平常時は注文数の減少に苦しみ、稼ぎ時では配達員の減少に苦しむ……。料金を値上げすれば顧客離れが進んでしまう恐れがあり、さりとて配達報酬を引き上げなれば配達員が稼働してくれない……。

Woltのスピード感のある撤退判断(それでも地味に6年も日本で展開されていたが)には驚いたが、本件はフードデリバリー業界の「現場の悲鳴」を象徴していると私は感じたし、「Woltだけで終わらないんじゃないかなぁ……」「今のままじゃフードデリバリー業界そのものがマズそうだよなぁ……」というのが私の素直な感想だ。

ギグワークという流動性の激しい人材を扱う、各社で差別化が難しい業界だからこその深刻な課題が、今浮き彫りになりつつある。持続可能なビジネスモデルをどうやって構築していくか、フードデリバリー各社の今後の動きに目が離せない。

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ウーバー配達員ライターとして、これからも現場の情報をデリバリーできるよう頑張ります(筆者撮影)