対中関係の再構築、ドイツが示す難しさ

ドイツのメルツ首相と中国の習主席(北京で25日)
【ベルリン】自国の安全保障を米国に、成長を中国に長らく依存してきたドイツが、独自の道を示そうとしている。しかし、ドイツの新たな指導者による訪中と近く予定されている訪米はリスクが高く、その過程が容易でもなく、短期間で成し遂げられるものでもないことを示している。
今回の訪問は、多くのミドルパワー(中堅国)が直面するジレンマを浮き彫りにしている。それらの国は、互いに競い合っている大国への依存度を下げつつも、短期的には防衛体制の弱みを露呈したり、経済に打撃を与えたりしないことを目指している。
ドイツが米国の保護に頼れるかは、ドナルド・トランプ米大統領による同盟国批判を受けて疑問視されている。そして、中国による重商主義政策の追求は、ドイツ経済に対する深刻な脅威として浮上している。ドイツ経済は長年、中国の爆発的成長に便乗してきた。
25日に初めて北京を訪問したフリードリヒ・メルツ独首相は長年の中国懐疑論者であり、自国にとって最大の貿易相手国である中国との関係で新たな方向性を示そうとしている。ドイツ当局者によれば、メルツ氏は1週間足らずのうちにワシントンも訪問し、トランプ氏の厳しい通商政策を受けた米欧間の今後の通商関係を明確にすることを目指すという。

中国の名目GDPとドイツからの輸入の推移
複数のドイツ当局者は、メルツ氏が今週、新たな2本立てアプローチの概略を示すだろうと述べた。
メルツ氏は重要な関係を維持するため、公の場で何かを求めたり、批判したりして、中国の習近平国家主席やトランプ氏と対立することは避けるだろう。ドイツ国内では軍事部門への投資をさらに増やすほか、重要なサプライチェーン(供給網)が一つの国に依存し過ぎないようにするため、それに代わる貿易相手国を世界中から集める計画だ。
メルツ氏は北京で習氏に対し、「われわれは2国間の包括的戦略パートナーシップの深化と発展を望んでいる」とし、貿易に関しては「話す必要がある問題と、話す必要がある課題がある」と述べた。
最近、英国のキア・スターマー首相、カナダのマーク・カーニー首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、スペインのペドロ・サンチェス首相が相次いで北京を訪問した。こうした動きを受け、これらの国々が敵対的な姿勢を強める米国とのバランスを取るため、中国との関係をリセットしようとしているとの見方が強まっている。
しかし、ドイツの状況は、中国との関係再構築がいかに難しいかを示している。ドイツの自動車メーカー、工作機械メーカーや化学メーカーなど、過去30年にわたって中国に巨額の投資を行ってきた重要産業は、中国市場で厳しい競争に直面している。中国市場では、過剰生産能力によりデフレと利益縮小が生じている。

ドイツの対中国・乗用車貿易黒字額
独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)はかつて、売り上げの最大40%、利益はそれ以上を中国で得ていたが、その後同国でのシェア急減に見舞われた。このためVWは、その90年近い歴史において最大規模の人員削減とドイツ国内では初めてとなる工場閉鎖に追い込まれた。
調査会社ロジウム・グループのアナリスト、ノア・バーキン氏は「中国の視点から見れば、欧州の方が弱い立場にあるため、欧州側が譲歩し、より緊密な経済関係の下で中国からの支援を求めるべきだということになる」と指摘。「中国は、米欧の関係にくさびを打ち込む必要性を感じていない。トランプ政権が既にくさびを打ち込んでいるからだ」と語った。
ドイツではかなり前から、歴代首相が中国との友好関係を重視するという伝統が続いていた。アンゲラ・メルケル氏はその代表であり、彼女は独産業界の中国との結び付きを強める上で大きな役割を果たした。だが、メルツ氏は首相就任から1年足らずでこの伝統を覆した。

中国にあるフォルクスワーゲン工場の電気自動車生産ライン
メルツ氏は、米誌フォーリン・アフェアーズに今月掲載された寄稿の中で、中国は既存の世界秩序を変えようとする修正主義の超大国だと述べている。ドイツは中国との関係を断つべきではないが、中国への依存を大幅に減らすべきだとの考えを示した。
同氏は、クリーンテクノロジーと自動車の分野で、中国からの輸入を関税と現地調達比率規制によって制限するという欧州連合(EU)の提案を受け入れ始めている。
ドイツ当局者の中には、欧州での合弁事業に乗り出す中国企業に、現地の合弁パートナーとの知的財産の共有を義務付ける案を支持する可能性を口にする者もいる。これは、外国メーカーに中国が何十年も前から課してきたルールと同じだ。ドイツはまた、自国企業が輸入する原材料などについて、中国への依存を回避させる取り組みも進めている。
あるドイツ政府高官によると、中国はEUに対し、2020年に大筋合意された中欧投資協定を批准するよう求めており、将来的な貿易協定締結への地ならしをしようとしている。だが、ドイツ政府は懐疑的だという。
ドイツにとって、今回の「チャイナショック」は全く新たな現実だ。21世紀に入ってからのほとんどの期間、中国とドイツは共生的な関係にあった。ドイツは、アジアの巨人である中国が世界に安価な消費財を供給するために必要とした自動車や工場、インフラを中国に販売することで、中国の急激な成長にあやかることができた。
この共生関係はもはや終わっている。ドイツの2025年の中国製品輸入額が8.8%増加した一方で、ドイツの対中輸出額は9.7%減少し、対中貿易赤字は33%拡大した。
長年、自由貿易の熱心な支持者だったドイツの経済ロビー団体や労働組合の一部は政府に対し、中国からの輸入に障壁を設けるよう迫っている。
ただ、ドイツ政府には、中国との関係を断ち切れるだけの余裕は「まだ」ない。市場シェアが縮小しているとはいえ、独製造業大手の一部は中国市場への依存度が依然高い。自動車メーカーや武器メーカーなどは、今後何年も中国製の材料に依存し続けるだろう。一部の企業にとって、中国は主要な研究開発拠点になりつつある。
国営ドイツ復興金融公庫(KfW)のチーフエコノミスト、ディルク・シューマッハ氏は「欧州は中国にとって最大の市場であるため、基本的に、欧州は交渉において有利な立場にあるはずだ」と指摘。その上で、「ただ、依存度を考えると、サプライチェーンに投入される重要な原料はなお中国が支配しており、それが欧州を弱い立場にしている」と話した。