トランプ氏の「風力たたき」、石油業界が姿勢軟化を要請

コネティカット州ニューロンドンのプロジェクト組み立て現場にある風力タービンのタワー部分とブレード

石油大手各社がトランプ大統領に対し、洋上風力発電への対決姿勢を改めるよう、異例の要請を行っている。

石油業界のロビー団体はここ数週間、米沿岸の洋上風力発電所を標的とするドナルド・トランプ大統領の攻撃が、エネルギー事業の認可の迅速化を目指す議会の取り組みを頓挫させる恐れがあると政権幹部に訴えている。事情に詳しい関係者が明らかにした。石油・天然ガス業界は、新たなパイプラインを通じて市場への供給量を拡大できる、巨大な商機を逃すことに懸念を深めている。

トランプ氏は就任以来、風力発電所は見苦しく高コストで、野生生物に有害だと繰り返し批判してきた。内務省はマサチューセッツ州からバージニア州にかけて進行中の全ての洋上風力発電プロジェクトを停止させ、エネルギー企業が政府を提訴する事態を招いた。だが、判事らが開発業者側の主張を支持して政権に反する判断を下し、プロジェクトの継続を認めたにもかかわらず、トランプ氏は対抗姿勢を崩していない。

トランプ氏は1月、ホワイトハウスで開いた石油大手幹部との会合で、「私の目標は、一つたりとも風車を建設させないことだ」と明言。「風力は最悪の発電方式で最もコストがかかる」と話していた。

トランプ氏の行動は風力産業を混乱に陥れた。今や、そうした言動は同氏と近い石油業界に対して裏目に出ており、石油業界自らの事業を不安定な立場に追い込むリスクとなっている。

石油・ガス業界は数カ月前から政権に対し、化石燃料事業を迅速化させるための措置を法律に明記し、将来的に民主党の大統領が覆すことがないようにすべきだと訴えてきた。だが、トランプ氏が風力発電への攻撃を続けていることが、まさにそれを実現するための重要な立法の動きに足かせとなっている。

上院民主党は、トランプ氏が風力発電所の建設を遅らせ続ける限り、エネルギー事業の認可制度改革を巡る超党派法案の交渉を拒否すると表明している。石油ロビー団体は、中間選挙で民主党が下院の支配権を奪還すると見込んでおり、選挙前に行き詰まりを打破できる余地は狭まっていると考えている。

全米最大の業界団体である米石油協会(API)のマイク・ソマーズ会長は先週、テキサス州ヒューストンで開催されたエネルギー会議で、「現政権は行政レベルでできる限りのことを実行してきた」と指摘。「恒久的な改革を実現するのが今でさえ難しいと思うなら、民主党が米下院を支配するまで待ってみるがいい」と話した。

トランプ氏が風力発電への対抗姿勢を強めていることで、化石燃料業界は複雑な立場に追い込まれている。同業界はかつて、物議を醸した原油パイプライン「キーストーンXL」の中止や天然ガスの新規輸出の一時停止といった、ジョー・バイデン前大統領の決定に強く反発していた。だが今や、独自の逆風に直面している風力開発業者とトランプ政権の間で、不本意ながらも仲介役を担っている。

トランプ大統領は先月、石油・ガス業界の幹部らと会談した

事情に詳しい関係者の1人によると、ロビイストらは、トランプ氏がエネルギー事業促進のため設立した「国家エネルギー支配評議会(NEDC)」のスタッフに対し、政権の「反風力発電」の姿勢が議会での超党派合意をはるかに困難にしていると伝えた。

事情に詳しい関係者によると、APIは許認可が最優先の立法課題であることを政権に明確に伝えている。風力発電プロジェクトを含め、連邦政府の承認を受けた全てのプロジェクトが完了できるよう保証することを支持しているという。

APIの政策・経済・規制担当シニアバイスプレジデント、ダスティン・メイヤー氏は、プロジェクトによる環境への影響の連邦審査を義務付けている法律の改正を含め、優先事項について議員や政権に極めて明確に伝えてきたと述べた。

ホワイトハウスの報道官は、「風力発電所は米国民の安全を脅かすマイナス要因だ」とするトランプ氏の立場を改めて表明した。その上で、トランプ政権が許認可プロセスの改革を推進するため、議会のパートナーと緊密に連携していると説明した。

議会における行き詰まりは、重要産業の国内回帰と人工知能(AI)競争での勝利というトランプ氏の目標を損なう可能性がある。米国はデータセンター、工場、電気自動車(EV)による新たな電力需要を満たすという困難な課題に直面しており、大規模なエネルギーインフラの拡充なくして満たすことができない。リチウムや銅など重要鉱物への輸入依存から脱却するには新たな鉱山が必要だ。こうした全ての理由から、エネルギー事業を規制する複雑な法律や規制の網を合理化することが、議会において超党派の最優先事項となっている。

石油・ガス業界は、新たなパイプライン建設に大きな商機を見いだしている。一方、環境保護団体は、裁判でプロジェクトを遅延させて新規のパイプライン建設を阻止する手法にたけている。規制対応や法廷闘争で生じた遅延により、ここ数年、多くの企業が数十億ドル規模の事業から撤退するケースが相次いでいる。

バージニア州のマウンテンバレー天然ガスパイプライン

天然ガス生産大手EQTのトビー・ライス最高経営責任者(CEO)は、「パイプラインがボトルネックになっている。インフラもボトルネックになっている」と語る。「ガスを市場に供給することが一層困難になっている」

これまでトランプ氏は、風力発電所の建設を阻止する権限を、自身の支持基盤である石油・ガス業界に利益をもたらす交渉材料として巧みに利用してきた。同氏が昨年5月、ニューヨーク州沖の大規模な風力プロジェクトに対する建設停止命令を撤回した後、同州はエネルギー企業ウィリアムズが以前断念していた天然ガスパイプライン事業を承認した。

だが化石燃料業界は、将来の政権によって認可が撤回されることがないよう、パイプライン建設の継続性を保証する法整備が不可欠だと主張している。昨年12月、同業界はエネルギー事業の環境審査期間と訴訟期間を短縮する超党派の法案を下院が可決した際、これを高く評価した。

その4日後、政権は「戦争省が最近まとめ機密報告書で国家安全保障上のリスクが特定された」として、建設中の五つの洋上風力発電プロジェクトについて、連邦政府のリース契約を一時停止した。民主党はこれに抗議し、トランプ氏が風力発電への攻撃を撤回しない限り、下院法案の上院版可決に向けた交渉を凍結すると表明した。

一部の石油業界ロビイストは、トランプ氏の風力発電所に対する強い嫌悪感は理解しがたいと非公式に漏らしている。業界の多くは、この状況に不満を抱いていると語る。

業界団体エネルギー・ワークフォース・アンド・テクノロジー・カウンシル(EWTC)のサム・スレッジ理事長は、「われわれは、いわば『ボトルの栓』となっている許認可制度の改革に注力してきた」とし、「それがトランプ政権の他の優先事項との板挟みになっているようだ」との見解を示した。