資産1億円でも服はユニクロ、酒は居酒屋!「シン富裕層」が絶対に生活レベルを上げない合理的な理由

普通の会社員が「億り人」に?, 億り人を生んだ空前の株高, 積立と個別株の「二刀流」, 億超えでも私生活は質素, 服はユニクロ、酒は居酒屋, 銀行の富裕層営業は無視, 生活レベルを上げない理由, 嫉妬や孤立を避ける防御策, 1億円は「心の安全保障」

今まで通り会社や役所で働き、日常に溶け込みながら静かに資産を保有し続けている「シン富裕続」……

歴史的な株高を背景に、ごく普通の会社員や公務員が「いつのまにか億り人」になるケースが急増しているという。

しかし、彼ら彼女らの生活は驚くほど地味だ。高級車もタワマンも興味なし。服は今まで通りユニクロを着こなし、夜はいつもの居酒屋で格安焼酎をあおる――。給与の範囲内で堅実に暮らし、ひっそりと資産を膨らませる彼らは「シン富裕層」と呼ばれている。

はたして、彼ら彼女らはどうやって億の壁を越え、なぜ生活レベルを上げようとしないのか? 富裕層の生態に詳しい株式会社マリブジャパン代表取締役・高橋克英氏に、その知られざる実態を聞いた。

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普通の会社員が「億り人」に?

野村総合研究所(NRI)が’25年2月に発表した推計によると、日本の富裕層・超富裕層は合計約165.3万世帯に達し、その純金融資産総額は約469兆円と過去最高を更新した。

世界的な「カネ余り」時代の到来により、株式市場や不動産市場が高騰するなか、保有資産の増加や更なる投資で得られた含み益や売却益などによる「資産効果」により、世界の富裕層数は増加している。

我が国の富裕層は主に3つに分類できる。①地主や医者、企業経営者といったいわゆる伝統的な富裕層、②IT企業創業者やスタートアップ起業家、外資系企業エグゼクティブなどの新興富裕層、そして③相続などによる富裕層などがある。

こうしたなか、企業経営者や起業家でもなく、いわゆる普通の会社員や公務員が、気づけば金融資産で1億円を超えるような富裕層となるケースが増えているという。

都内の小田急線沿線に住むAさん(45歳)は公務員として都庁で働き年収は750万円ほどだ。同級生の妻は、都内の上場企業で事務職として働いており年収は450万円ほど。二人合わせて1200万円となるものの、分譲マンションのローンもまだ少し残っており、物価高もあり慎ましい生活が続く。

そんななか先日、通勤電車内でネット証券の口座アプリを覗いてみると、保有する個別株とインデックス投信の残高合計が1億円の大台を超えていたという。「コツコツ積み立てた投信や個別株投資が、いつの間にか大金になっていた」とにこやかに語りながら、スクリーンショットで保存された1億円の「証拠画面」をチラッとみせてくれた。

億り人を生んだ空前の株高

Aさんのような普通の会社員や公務員が、なぜ金融資産1億円という大台に乗ることができたのか。それはずばり株高によるものだ。

’24年末は3万9894円とバブル期の1989年(3万8915円)を上回り、35年ぶりに年末値としての過去最高値を更新した。翌’25年末には日経平均株価は、5万339円となり、年間の上昇幅は1万円を超え、史上初めて5万円の大台を突破した。’20年末の2万7444円から1.8倍と2倍近くに増加しているのだ。足元ではさらに上昇しており、’26年2月26日の終値は5万8753円と最高値を更新している。

長らく続いた①日米欧の中央銀行による金融緩和策の継続と、②これら先進国政府の信用力の存在が、世界的な「カネ余り」につながり、株高や不動産価格高騰による資産効果により富裕層を増やしてきたのだ。

結局のところ、古今東西を問わず、富裕層の富の源泉は、株式(起業や経営を含め)と不動産の力による場合がほとんどだ。それは伝統的な富裕層であろうと、「いつのまにか億り人」であろうと変わらない。

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「肩ひじ張った高級レストランよりも、今まで通り気の置けない仲間とワイワイ楽しむ馴染みの居酒屋のほうが安心する」(公務員Aさん)

積立と個別株の「二刀流」

「いつのまにか億り人」たちは、新入社員の頃から積立貯金や積立投資をはじめており、長らく続いたデフレ経済や不況の影響で、預金金利はほとんどゼロ、日経平均も長期低迷するあいだもコツコツと継続してきた。’24年にスタートした新NISAを経て、それがここ数年来の株価上昇で大きな含み益を生み出してきているのだ。

もちろん、積立投資の代表であるインデックスファンドだけで、億り人になれた人はごく少数だろう。

テスラやエヌビディアなど米国GAFAの個別株が2倍3倍、場合によっては10倍になったおかげとか、東京エレクトロンやアドバンテストなどの個別株が、同じように何倍にも上昇したおかげなど、プラスアルファの要因が加わった結果である。

横浜市に住む卸売会社勤務のBさん(50代)も、まさに「5年前に投資した三菱重工やフジクラ、アドバンテストなどの株価が急騰しその売却益」により億り人となった一人だ。

億超えでも私生活は質素

ごく普通の会社員や公務員が、日々の生活を律し、淡々と投資を続けた結果として、気づけば金融資産が1億円を超えていた。そんな「いつのまにか億り人(シン富裕層)」になった彼ら彼女らは、SNSなどでこれ見よがしにブランド品や高級レストランでの食事、海外旅行などで金持ちアピールすることは無論、周囲の人たちにも金持ちを誇示することなく、今まで通り会社や役所で働き、日常に溶け込みながら静かに資産を保有し続けているのだ。

「富裕層」といえば、高級外車を乗り回し、タワーマンションに住み、ブランド品で身を固めた経営者や医者、起業家といったイメージだったが、それとは大きく違うのだ。

服はユニクロ、酒は居酒屋

「いつのまにか億り人」になったからといって、今まで通り、彼ら彼女らの普段着はユニクロや無印良品。住む場所も食生活も同様に今まで通りだ。

銀座の高級寿司店やミシュラン店を予約することよりも、普段使いができるいつもの居酒屋で、友人や同僚などとレモンサワーや焼酎を片手に、仕事の愚痴や趣味の話に興じる。「肩ひじ張った高級レストランよりも、今まで通り気の置けない仲間とワイワイ楽しむ馴染みの居酒屋のほうが安心する」(前出の公務員Aさん)というわけだ。

銀行の富裕層営業は無視

通常、金融資産が1億円にもなると、銀行や証券会社の富裕層担当者からの勧誘が始まったりする。場合によっては、豪華なラウンジに招かれ、資産運用や節税対策などの提案を受けることになる。

しかし、「いつのまにか億り人」の彼ら彼女らは、資産運用においても今まで通りだ。

コツコツと積立投資は継続しているし、個別株の売買は、SBI証券や楽天証券といったネット証券で行っている。銀行や証券会社の富裕層担当者による対面サービスよりも、早くて安くて種類も豊富で、しかもポイントも加算されるネット銀行やネット証券での取引を優先しているのだ。

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なぜタワマンを買わない? 急増する「いつのまにか億り人」の超・堅実生活のワケとは……

生活レベルを上げない理由

「いつのまにか億り人」が金融資産1億円を持ってもなお生活レベルを上げない理由は、単なる節約志向ではない。そこには合理的な理由がある。

第一に、「一度上げた生活水準は下げられない(ラチェット効果)」という、「生活レベルを上げることのリスク」を知っているからだ。

物価高が続き先行き不安な今の世の中、1億円は大金ではあるが、今や都内の中古マンション平均価格が1億円を超えるなか、決して一生安泰に暮らせる額でもない。単純ながら、年間1000万円ずつ旅行や高級品購入で消費すれば10年で底をつく。

1億円という資産は、今の「普通の生活」を続ければ一生安泰な額だが、一度贅沢を覚えれば瞬く間に溶けていくことを彼らは知っているのだ。

嫉妬や孤立を避ける防御策

第二に、「嫉妬と孤立の回避」である。

日本において、格差の拡大は深刻なテーマだ。金融経済教育推進機構の「家計の金融行動に関する世論調査(’24年)」によると、総世帯別の金融資産保有額は、1000万円以上が全体の28.4%を占める一方、100万円未満は全体の37.7%を、そのうち資産ゼロは全体の26.9%も占めており、まさに二極化が進み格差社会となっている。

こうした状況下、会社や身近な人に「金持ち」だと知られることは、人間関係に亀裂を入れ、不必要なトラブルを招く種になりかねない。「お金を持っている」という情報がもたらすメリットよりも、嫉妬によるデメリットのほうが大きいのだ。今まで通りユニクロを着て居酒屋に通う普通の会社員や公務員として過ごすことは、彼らにとって、嫉妬と孤立を避け、ライフスタイルを守る防御策でもあるのだ。

実際のところ、伝統的な富裕層においても、「富裕層であることを示さない」のは鉄則だ。富裕層であること、おカネがあることをベラべラ話したり、ひけらかすことで、得るものは何もない、むしろ不利益になる、ということを身をもって体験し知っているからだ。

1億円は「心の安全保障」

「いつのまにか億り人」は、目立つことを好まず、今まで通りの生活を重視する極めて合理的で、謙虚な存在だ。

彼ら彼女らにとって金融資産1億円とは、贅沢をするための「軍資金」ではなく、精神的な自由を確保するための「安全保障」なのかもしれない。「いつでも仕事を辞められる」「老後の心配がない」と思えることが大切なのだ。

「いつのまにか億り人」たちは、給与収入の範囲内で生活し、余剰資金を投資に回し続けることで、金融資産をさらに増やすことも可能だ。

前出の小田急線沿線に住むAさん。今朝も、満員電車に揺られながらネット証券のアプリを静かに開き、前日の株高で1億円からさらに評価益が増えた残高を確認して、公務員としていつもの職場へと向かっていく。

取材・文:高橋克英

株式会社マリブジャパン代表取締役、事業構想大学院大学特任教授 1969年、岐阜県生まれ。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンクなどを経て、’13年に同社を設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画『スター・ウォーズ』の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒、’00年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社+α新書)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。