「20億円で終わらせます」JR久留里線9.6km廃止は“手切れ金”なのか?――営業係数6694円が示した現実的終点

代替バスの費用を18年分負担

 久留里線の末端区間である久留里~上総亀山間9.6kmの廃止を表明していたJR東日本千葉支社は、2026年2月17日、君津市と「JR久留里線の廃止予定区間における代替交通の費用負担等に関する基本合意書」を締結したと発表した。

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 これに先立ち、同支社は2月9日、鉄道事業法第28条の2(事業の廃止)に基づき、2025年度内に鉄道事業の廃止を届け出る方針を公表している。

 今後は基本合意書に基づき、君津市が廃止区間で運営する代替バスについて、18年分の費用として20億円を拠出する。あわせて、

・久留里駅の交通結節機能の整備

・松丘・亀山地区の交通拠点整備

・バス停の環境整備

・乗換案内用デジタルサイネージの整備

・地域イベントに合わせた代替輸送の支援

などを行う。また、久留里線沿線の観光振興を含め、地域活性化につながる取り組みを計画的に進めるとしている。

 廃止の届け出が予定通り行われれば、久留里~上総亀山間は2027年4月1日付で廃止となり、代替バスへ移行する見込みである。JR東日本発足後、路線廃止は初めてとなる。

 一方、存続区間については、2027年春からSuicaを導入する方針も示された。

 20億円を拠出して廃止区間を切り離す一方で、存続区間には必要な投資を行うという対応になる。

路線バスでも存続が厳しい区間

代替バスの費用を18年分負担, 路線バスでも存続が厳しい区間, “手切れ金”の方が安上がり, 「条件整えば廃止」という見通し

JR久留里線の車内(画像:JR東日本千葉支社)

 久留里線は、東京湾に面した木更津と房総半島内陸部の上総亀山を結ぶ32.2kmの路線である。千葉県内のJR線で唯一の非電化路線だ。2009(平成21)年3月には全線が旅客営業規則上の「東京近郊区間」に指定され、ローカル線でありながら一部は大都市近郊路線として扱われている。

 JR東日本が2025年10月27日に公表した「ご利用の少ない線区の経営情報(2024年度)」によると、久留里線のうち存続区間となる木更津~久留里間の運輸収入は6600万円、営業費用は8億3300万円で、営業係数(100円の収入を得るのにかかった費用を示す指標)は1253円となっている。廃止対象の久留里~上総亀山間は、運輸収入が300万円、営業費用が2億200万円で、営業係数は

「6694円」

に達する。木更津~久留里間も大幅な赤字だが、久留里~上総亀山間は経費が収入の60倍を超え、同社が公表した線区のなかでも下位に位置する水準である。

 久留里~上総亀山間の1日あたりの平均通過人員は、1987(昭和62)年度の823人から2024年度は76人へと減少した。37年間で

「91%」

の減少である。JR東日本は東北地方を中心に赤字路線を多く抱えているため、国鉄分割民営化後に初めて廃止となる路線が首都圏にあることは意外に映るかもしれない。しかし、1日76人という利用状況は、大量輸送を前提とする鉄道としては厳しい水準であり、路線バスであっても維持は容易ではない規模である。

“手切れ金”の方が安上がり

代替バスの費用を18年分負担, 路線バスでも存続が厳しい区間, “手切れ金”の方が安上がり, 「条件整えば廃止」という見通し

代替バス案(画像:君津市)

 JR東日本と君津市は、2025年6月23日に開かれた君津市地域公共交通会議で、代替バスの運行計画案を公表している。計画案では、現在の廃止対象区間の運行本数が1日8.5往復であるのに対し、代替バスは13往復を運行する。

 運行主体は君津市で、定時定路線の「久留里・松丘・亀山線」(仮称)として運行し、一般乗合旅客自動車運送事業の許可を受けた事業者に委託する。委託費用はJR東日本が負担金として拠出する。ルートはおおむね並行する国道を通るが、上総亀山側の起点は亀山湖畔の観光施設「やすらぎ館」とし、久留里側では君津青葉高校にも乗り入れる。高校や観光施設の利用者を見込んだ運行内容である。

 運賃は既存のコミュニティーバスと同様の均一運賃とし、大人200円、小人と高齢者は100円を想定している。運行距離を踏まえると、一般的な路線バスより低い水準となる。

 2月17日の基本合意は、おおむねこの計画案に沿った内容とみられる。

 廃止対象区間の赤字は年間約2億円である。基本合意では、JR東日本が代替バスの費用として18年分の20億円を拠出する。一方、現状のまま鉄道を18年間維持すれば、単純計算で赤字は36億円に達する。費用面だけで見れば、今回の“手切れ金”の方が小さくなる計算だ。

「条件整えば廃止」という見通し

代替バスの費用を18年分負担, 路線バスでも存続が厳しい区間, “手切れ金”の方が安上がり, 「条件整えば廃止」という見通し

鉄道廃止とバス転換の概要。

 千葉県や君津市も、JR東日本から示された廃止の申し入れをすぐに受け入れてきたわけではない。ただし、久留里~上総亀山間の1日あたりの利用者が100人に満たない現状を踏まえると、自治体が大きな負担を担ってまで鉄道として維持する方向は示されなかった。バスへの転換は、一定程度想定されていた対応だったといえる。

 この区間では並行する国道がおおむね整備されており、所要時間も鉄道とバスで大きな差はない。千葉市や東京方面へは高速バス「カピーナ号」「アクシー号」も運行されている。通学する高校生や通院する高齢者への配慮は必要だが、この区間に限れば、バスへ移行するための環境は整っていたとみられる。

 前述の「ご利用の少ない線区の経営情報(2024年度)」を見ると、久留里~上総亀山間より厳しい数値の路線や区間もある。

 久留里~上総亀山間は10kmに満たない短い区間で、営業係数は厳しいものの、距離が短い分、赤字の総額は比較的小さい。一方、距離の長い路線では営業係数がやや良くても、赤字の総額が大きくなることがある。

 距離が長ければ並行道路の整備状況にも左右され、バスへ移行する場合の負担額も増える可能性が高い。沿線自治体の数も多くなり、合意形成は難しくなる。こうした場合は廃止の判断は容易ではなく、上下分離や第三セクター化といった選択肢が検討されることになる。

 これに対し、久留里~上総亀山間のように距離が短く、バス転換の条件がそろっている区間は、今後も負担金を支払う形で廃止に向かう可能性がある。