スズキのSUV「e-ビターラ」、実質272.3万円の実力は? 乗ってわかったインド生産クオリティ【試乗記】

試乗したのは上級グレードの「Z」 Photo by Yoichi Morohoshi

スズキのSUV型EV「e-ビターラ」を試乗リポートします。スズキ初となる量産バッテリーEV、インド工場で生産した輸入車で、補助金を使えば272万3000円~と手ごろな価格設定など、話題が多いモデルの実力を探ります。(モータージャーナリスト/安全運転インストラクター 諸星陽一)

スズキ「e-VITARA(ビターラ)」

乗る前から意外な3つのポイントは?

 スズキがまたひとつ、個性的なクルマを世に出しました。1月16日に発売の「e-VITARA(ビターラ)」です。

 まずこのビターラという車名は、スズキのSUV「エスクード」の輸出モデルに使われてきました。初代ビターラは、初代エスクードと同時期の1988年に登場。当時はまだSUVというカテゴリーはなく、クロスカントリー4WDやRVという呼び名が一般的でしたが、エスクードのようなコンパクトなモデルは少なく、「コンパクトクロカン」などと呼ばれていました。

 スズキが軽ジムニーで得たノウハウを詰め込んだ、コンパクトかつ走破性を誇るビターラは、国内外で人気となり、警察車両にも使われるほど信頼されています。

 そんなビターラの電気自動車(EV)という位置づけのe-ビターラですが、プラットフォームでの関連性はありません。実はe-ビターラのプラットフォームは、トヨタとダイハツとの共同開発。新設計の「HEARTECT-e」というネーミングです。

 さらに「実は」なポイントが、搭載バッテリーが中国BYD製のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)系、ブレードバッテリーであること。LFP系は現在主流の三元系に比べると、エネルギー密度(重量あたりの容量)が低いものの、安全性や信頼性は高いと評価されています。また、LFP系はバッテリー残量が多い状態で急速充電しても(三元系に比べて)劣化しにくいという特性があります。

 最後にダメ押しの「実は」は、スズキのインド工場で生産され、日本へ輸出・販売される、インドからの輸入車(日本車ブランド)となる点です。このように乗る前から3つの驚きがあるのですが、何しろ戦略的な価格設定で、コスパ良く仕上がっているクルマでした。特にドライブフィールが良かったのはどのグレードで、4WDとFWDのどちらだと思いますか?

グレードは上級「Z」とベーシック「X」

Zは4WDとFWDで展開

 e-ビターラのグレード展開は上級の「Z」とベーシックな「X」の2種。Zには4WDとFWDが用意されますが、XはFWDのみ。バッテリー容量はZが61kWh、Xが49kWhと、駆動方式ではなくグレードによって差が付けられています。採用モーターはZのフロントが128kW、Xのフロントが106kW。Zの4WDのリヤが48kWです。

 筆者が今回、試乗したのはZで、4WDとFWDの2タイプに乗りました。ドライブフィールが良かったのは、ずばり4WDです。

 4WDは定常走行時の前後駆動力配分が54対46に設定されていて、加速時には50対50、滑りやすい路面などでは70対30になります。つまり、どんな状況でもリヤの駆動力がゼロになることはなく、4WDの状態を保ちます。リヤから押されている感覚はもちろん、フロントタイヤが担う「曲がる」仕事がしっかりできていたのも好ポイントでした。

 タイヤは自身がもつ性能を駆動力に使っていると曲がる力が低下し、曲がる力に使っていると駆動力が落ちます。このためFWDよりも4WDのほうが、フロントタイヤの曲がる力が大きく発生するので、しっかりしたドライブフィールとなる傾向です。

 コーナリングでは駆動方式の違いによるフィールの差が大きく出ました。4WDのほうが若干ハンドルを切る量が少なくて済み、ハンドルを切った状態でアクセルを踏み込んでいった際の軌跡も安定していました。

 一方のFWDは、4WDに比べて約100kgも軽いので動きに軽快感がありました。どっしりと落ち着いて走るのが4WD、素直で軽快に走るのがFWDといった印象です。

撮影用車両のXグレードのフロントまわり外観。タイヤサイズやホイールなどもZと同一 Photo by Y.M.

撮影用車両のXグレードのリヤまわり外観。Xグレードは2トーンルーフが設定されない Photo by Y.M.

電費が優秀だったのは?

急速充電の使い勝手も重要

 燃費ならぬ電費では、FWDのほうが優秀で、WLTCモードで7.6km/kWh。4WDは6.9km/kWh。満充電時の航続距離はWLTCモードで4WDが472km、FWDが520kmと、FWDに軍配が上がります。

 ところが試乗時にメーター内に表示された電費は、どちらも4~5km/kWhでした。5km/kWhだと航続距離は300km程度になる計算です。実は、試乗日は気温がとても低くエアコンを付けていたのと、筆者がいろいろと試そうと加速と減速を繰り返したので、この電費になったのだと推測します。

 実際にEVユーザーは冬場にエアコンはあまり多用せず、シートヒーターやステアリングヒーターを用いて暖を取る傾向にあります。e-ビターラもグレードを問わず運転席&助手席シートヒーターとステアリングヒーターが標準で装備されます。

 EVは充電に時間がかかって不便と思う人も多いと思います。しかし、最近のEVはかなり急速充電速度がアップしています。

普通充電口は右リヤフェンダーに装備 Photo by Y.M.

急速充電口は左リヤフェンダーに装備 Photo by Y.M.

 EVの充電速度は、EV側と充電器側の2つの要素で決まります。e-ビターラの急速充電受入性能は61kWhモデルで68kW、49kWhモデルで55kW程度。70kW以上の出力を持つ充電器に接続すれば、最大68kWで充電します。残量10%程度で接続すると、最大入力の68kWでの充電が期待できます。

 一般的な30分(0.5時間)充電で34kW充電すれば、FWDで260km程度、4WDで235km程度の走行分エネルギー(ともにWLTCモードで計算)は補給できるのです。この受入性能は最も条件がいい状態での数値なので、バッテリー残量が多いときなどは低くなります。特にバッテリー残量が80%以上の時は、充電量を大きく抑えて充電することが一般的な動作です。

エンジン車からの乗り換えでも

大きな違和感のないポイントは?

 EVには回生ブレーキという機能があります。アクセルペダルをゆるめたときに、運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに戻す(回生)プロセスです。操作時の感覚はエンジンブレーキのような印象ですが、エンジンブレーキでは単純に運動エネルギーを捨てているのに対して、回生ブレーキではエネルギーの回収をしているのが大きな違いです。

 回生ブレーキのセッティングによっては、アクセルペダルを戻した際、いかにもEVらしい減速感を得られるものもあれば、エンジン車に似て減速感が穏やかなものもあります。e-ビターラのセッティングは後者に近く、エンジン車からの乗り換えでも大きな違和感はないでしょう。

撮影用車両のXグレードのボンネット下 Photo by Y.M.

撮影用車両のXグレードのラゲッジルーム下。AC200V、16A 7mの充電ケーブルは標準装備 Photo by Y.M.

インド工場の生産クオリティは?

室内空間で気になったのは…

 続いて、室内空間について。e-ビターラは床下にバッテリーを積むため、床面が少し高めです。運転席ではさほど気になりませんが、助手席に乗ると膝が立て気味になり少し落ち着きません。また、身長171cmの筆者が後部座席に乗ると、側頭部がトリムに触れるようなこともありました。

 リヤシートは6対4分割で160mm(10段)のスライドが可能。ラゲッジルームの容量は5名乗車時の最大で306リットル、最小で238リットル。リヤシートバックは4対2対4の可倒式で、さまざまなシートアレンジが可能です。

 運転席を始めとした室内のフィニッシュをチェックしても、しっかりとしていて日本生産のクルマと比べて何の遜色もなく、インド工場の生産クオリティの高さを感じます。

撮影用車両のXグレードのインパネ。Zの場合オーディオシステムがプレミアムサウンドシステムとなる Photo by Y.M.

撮影用車両のXグレードの運転席。Zは運転席10WAYパワーシートとなる Photo by Y.M.

撮影用車両のXグレードのリヤシート。リヤシートは6対4分割でスライドする Photo by Y.M.

撮影用車両のXグレードのフルラゲッジ状態。Zはサイドポケットが左右にあるが、Xは左のみ Photo by Y.M.

撮影用車両のXグレードの分割可倒状態。リヤシートは4対2対4で可倒する Photo by Y.M.

撮影用車両のXグレードの定員乗車状態でのラゲッジルーム Photo by Y.M.

撮影用車両のXグレードの定員状態でのラゲッジルーム。トノボードが付いた状態 Photo by Y.M.

 e-ビターラの価格は次のとおりです。国の補助金が127万円出るので、Xなら実質272万3000円~となり、リーズナブルだと思いました。

X(2WD・49kWh): 399万3000円~

Z(2WD・61kWh): 448万8000円~

Z(4WD・61kWh): 492万8000円~

 スズキの鈴木俊宏社長はEVの価格について「補助金に頼らない価格設定としていきたい」と力強く発言していました。スズキは26年度中に軽自動車EVも発売する計画なので、そちらへの期待も大きく膨らみます。