「将補、1佐、3尉…」自衛隊の階級名がややこしい根本理由、政府主導の「欧米化」に現役隊員も賛成?

訓練に臨む陸上自衛隊員(出典: 陸上自衛隊公式ホームページ )

日本では諸外国の軍隊の階級を「大佐・中佐・少佐」と呼ぶ。一方、自衛隊では「1佐・2佐・3佐」などと別の名称を使っている。この「日本流の階級名」を国際標準に変えようと政府が動き出した。「たかが呼び名」と思う人がいるかもしれないが、今回の変更には深い理由がある。裏にある現役自衛官の思いを、防衛省出身者が徹底解説する。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティーコンサルタント 吉永ケンジ)

自衛隊の1佐と3尉

どっちが偉い?

「自衛隊の1佐と3尉、どっちが偉い?」。こう聞かれて、あなたは即答できるだろうか。答えは「1佐」。海外の「大佐」に相当する階級だ。

 正式には、所属する組織(陸海空自衛隊)に応じて「1等陸佐」「1等海佐」「1等空佐」と呼ぶ。大型護衛艦の艦長や1千人近い部隊の指揮官に当たる立場で、民間企業に例えると大企業の役員や部長職といったところだ(詳細は下表を参照)。

 一方の「3尉」は海外の「少尉」で、係長や主任に相当する。こうした自衛隊の階級は世間で認知されておらず、スマホやPCで「1佐」や「3尉」と打ち込んでも一発変換することは難しい。即座に変換できるのは「曹長」くらいである。

 たかが呼び名。そう思う人もいるかもしれないが、災害現場ではこれが切実な問題になる。被災地では自衛隊と警察・消防・自治体職員が協力して支援に当たるが、自衛官の階級が他のメンバーに伝わらず、指示命令系統に支障をきたすことがあるのだ。

「どなたですか?」と聞かれて「○○2佐です」と答えても、他の機関の職員には、どれくらいの権限がある人なのか見当がつかない。混乱を招いた挙句、自衛官が現場で「○○さん」「○○隊長」としか呼ばれなくなる場合もある。

 これが「中佐」であれば、どうだろう。大概の日本人が「かなり偉い人だな」とその地位を想像できるはずだ。

 実は今、高市早苗政権はこうした課題を解消しようと、「大佐・中佐・少佐」といった、諸外国の軍隊と同じ呼称への変更に向けて動き出している。すでに正式な検討に入っており、2026年度中の自衛隊法改正を目指しているという。

 この流れを、現役自衛官はどう受け止めているのか――。複数の現役自衛官に直接取材したところ、意外な本音が垣間見えた。

明治維新後も「外来語」を避け

独自の階級名を編み出した日本

 軍隊における階級は、「誰が何を指揮できるか」を示す「ラベル」だ。戦場で上下関係を瞬時に把握するために不可欠な、軍隊の根幹をなす制度である。

 階級の起源は中世ヨーロッパに遡る。中世の欧州には常備軍(平時・戦時を問わず常設されている軍隊)がなく、国王が戦争のたびに封建領主を動員していた。

 領主が率いる兵士集団の指揮官は、ラテン語の「頭」に由来する「Captain」と称されるようになった。これが現代における空・陸軍の「大尉(Captain)」という呼称の源流となった。

訓練に臨む陸上自衛隊員 (出典: 陸上自衛隊公式ホームページ )

 16世紀になると、スペインで複数の中隊をまとめた「縦隊(Columna)」が置かれる。そこから発展した「Colonel」が、複数の部隊をまとめる指揮官の呼称として広く定着し、空・陸軍の「大佐」の由来となった。

 一方で、海軍の大佐は「Captain」、大尉は「Lieutenant(ルーテナント)」と呼ばれており、空・陸軍における呼称とは異なっている。

 その要因は、帆船時代の海軍軍艦に、戦闘を指揮する「Captain」と船を操る「Master」という二つの指揮系統が併存していたためだ。15世紀以降に両者が統合される中で、前者が公式な階級へと変化した。

 ここで日本に目を向けると、明治時代に軍隊を発足させるに当たり、これまで述べてきた海外発の階級名を「外来語」として採用しなかった。

 その代わりに、基本的な階級構成は踏襲しつつ、律令制の四等官や古代中国の官職名から「将」「佐」「尉」といった漢字を選び、「大・中・少」などで序列を示す体系を作った。

 この階級名は約70年間、第2次世界大戦の終結まで使われた。他国にも影響を与え、中国や韓国、北朝鮮といった漢字文化圏の国では今もこのシステムが使われている。

 しかし日本は敗戦後、こうした呼称から距離を置いた。

自衛隊独自の階級呼称の

意外なデメリットとは?

 1950年に警察予備隊が創設された際、「この組織は軍隊ではない」という建前のもと、階級には警察風の呼称を採用。1954年に自衛隊が発足すると、「1佐・2佐・3佐」などと数字で序列を示す、現行の体系を確立させた。

 自衛隊は旧軍との「断絶」を図るため、意図的に従来型の階級呼称を避けたのだ。なお、呼称の英語訳(General、Colonel、Captainなど)は諸外国の軍隊と同じである。

 ところが、この改革からさらに70年が経過する中で、自衛隊独自の体系にはデメリットが浮上してきた。その代表例が、冒頭で触れた「国民が理解しづらい」というものだ。

出典: 陸上自衛隊公式ホームページ

 それ以外のデメリットとしては、諸外国との「ズレ」が挙げられる。

 例えば、北大西洋条約機構(NATO)は、加盟国の軍隊における階級を共通の符号(コード)で整理している。

 具体的には、「大将」に相当する階級には「OF-9」、「大佐」には「OF-5」といったコードを割り当てることで立場を明確化し、複数国家の軍人が関与する場面で「序列の誤解」が生じるのを防いでいる。

 国家をまたいだ階級制度の整理は、軍隊内に「大将・中将・少将・准将」といった役職が存在するなど、共通点が多いからこそ成立する。

 一方、自衛隊の将官は「幕僚長・将・将補」の3段階であり、「准将」が存在しないなど、構成に細かなズレがある。こうした事情もあり、国際的な取り組みで「相手国と同格の役職者(カウンターパート)」を起用するに当たって、細かな調整が必要になるケースが出てきている。

 また、日本国内の公的機関における序列が分かりづらいことも課題として挙げられる。

 米国では、軍人の階級と連邦政府の文官ポストをひとまとめにして、序列を明確化する「Equivalent Grades」という仕組みがある。これによって、横断的な体制を組む際も「誰が偉いのか」が一目で分かる。

 だが、日本では自衛隊・警察・海上保安庁といった“制服組織”ごとに階級制度が大きく異なる。米国のように組織をまたいだ序列が明確になっているわけではなく、立場の上下があいまいなままである。この点は近い将来議論されるべきだ。

 なお、筆者はこのたび各種資料を基に、NATO・米軍と自衛隊・警察・海上保安庁の序列を横断的にまとめた表を独自作成したので、参考までにご参照いただきたい。

「歩兵→普通科」「駆逐艦→護衛艦」

軍事用語をかたくなに避けるネーミング

 さて、こうしたデメリットを考慮して、自衛隊のOB組織である「隊友会」は、階級呼称の変更を繰り返し提言してきた。

 その効果もあったのか、呼称変更に向けて政府が動き出しているわけだが、この施策を「旧軍への回帰」「自衛隊の国軍化」を招くと危惧する声も根強い。

 というのも、自衛隊は「旧軍との断絶」の象徴として、階級名の他にも、あえて軍隊色を弱めた独自用語を駆使してきた。

 例えば、一般的な軍隊では「歩兵」「砲兵」「工兵」といった任務ごとの職務の分類を「兵科」と呼ぶ。

 一方、自衛隊では兵科を「職種」と言い換え、歩兵を「普通科」、砲兵を「特科」、工兵を「施設科」と呼んでいる(現政権はこれも見直すとしている)。

 また、海自では駆逐艦を「護衛艦」と言い換えている。今では当たり前に使われている「戦車」も、1962年までは「特車」と呼ばれていた。

出典: 陸上自衛隊公式ホームページ

 全ての軍事用語を言い換えているわけではないが、自衛隊はこうした「慎重すぎる対応」を推し進め、「旧軍とは別物である」という姿勢を強く打ち出してきた。

 にもかかわらず、高市政権は安保政策に慎重だった公明党と連立解消したことを機に、名称変更に向けて一挙に動き出そうとしている。この流れを、現職の自衛官はどう見ているのだろうか。

 筆者が取材した自衛官の反応は、賛否が分かれた。ただし賛成派の方が多く、十数人に話を聞いた中で、賛成派と反対派の比率は4対1程度だった印象だ。

  まずは反対派の意見を紹介しよう。

「80年近い歴史を持つ自衛隊には、自衛隊の文化があってよい。呼称を変えても防衛力は強化されない。今は台湾有事に備えて、新体制への移行と国民の理解を得ることが重要。階級の議論は今ではない」

 とある海上自衛隊の将補は持論をこう述べた。昨今の情勢を踏まえ、防衛力の強化に直結する施策を優先するべきだという見解だ。

「1佐と呼ばれるのは惨め」

現役自衛官が吐露するワケ

 一方、賛成派である1等陸佐は、次のような心情を吐露した。

「国際法上、自衛隊は『軍隊』であり、自衛官も軍人として扱われる。階級呼称は名誉に関わるので、変えられるならば変えてほしい。海外の軍人には『大佐』と呼びかけ、自分は『1佐』と名乗らなければならないのは惨めだ」

 こうした「心の問題」は、経験した者でなければ分からないだろう。

 実質的には同格なのに、外国の軍人には世界で通用する「大佐」という称号が与えられる。一方の自分は、日本国内でも認知度が低い「1佐」。「事実上の軍人」なのだから、立場にふさわしい階級呼称にしてほしい――。

 命をかけて国民を守る自衛官に、こうした不満を抱かせたままにすると、「士気低下」という軍事組織における大問題に発展するリスクもある。

 他にも、筆者が話を聞いた陸自の曹長は「幹部の階級呼称変更には賛成。一方で、『1士・2士』が『1等兵・2等兵』になる可能性もあるようだが、これは時代錯誤だ。若い人に受け入れられないと思う」と俯瞰的に語ってくれた。

 胸の内にはさまざまな思いを抱えているが、現役の自衛官に共通するのは「表立って声を上げられない」ということだ。

 自衛隊員の「服務の宣誓」には「政治的活動に関与せず」と明記されている。たとえ自身に関係する問題であっても、呼称変更が「政治的イシュー」に発展すれば意思表示ができなくなるのだ。

出典: 防衛省

 自衛隊の階級呼称変更のニュースを見聞きした際に、「単なる名前の話なのに、なぜ大ごとになっているのか」と疑問に思った人がいるかもしれないが、丁寧な議論が必要である理由についてお分かりいただけただろうか。

 最後に筆者の意見を述べておくと、「防衛庁」が「防衛省」になる際も「専守防衛の原則から逸脱する」「軍事国家への回帰につながる」といった反対論があった。

 それが今では、防衛省という呼称に違和感を覚える人はほとんどいないだろう。むしろ「省」に昇格することによって、日本の防衛体制が強化された側面がある。

 だからこそ自衛隊の階級名も、国内外を問わず、立場と権限が一目で分かる形にするべきではないか。世界で通用する「ラベル」を与えることが、国を守る自衛官への正当な評価につながるはずだ。