EV失速で巨額損失を計上したデトロイト3の次なる一手は、シボレー ボルトやラム1500 REVなどの登場とともに見えてくる

昨年9月で7500ドルのEV購入補助金が撤廃された米国の2025年10〜12月のEV市場は前年同期比−36%と大きく失速し(2025年1〜12月では128万台。前年比−2%、シェア 7.8%)、GM、フォード、ステランティスの3社は2025年の決算において、EV投資の償却や取引先への補償などで500億ドルに上る巨額の特別損失を発表しました。政策面でも、トランプ政権はCAFE(企業別平均燃費基準)未達成の罰金を廃止し、EPA(米国環境保護庁)はCO2排出量規制の根拠を撤回するなど、米国のEV市場の停滞は不可避となる見込みです。こうした中、デトロイト3(GM、フォード、ステランティス)は、廉価なEVやEREV(※)に期待を繋ごうとしています。(タイトル写真:ラム1500 REVは2026年後半に登場。EREVは変速機やプロペラシャフトを持つPHEVよりコストやスペース効率で有利)※:Extended Range EV

フォードはリーマンショック以来の巨額赤字, GMも79億ドルのEV損失, トランプ政権でのEV政策の逆回転, EVは雌伏から捲土重来を期す, GMは「シボレー ボルト」を復活, EREVの動向にも注視

フォードはリーマンショック以来の巨額赤字

「EVの未来」に大胆に舵を切り、テネシー州とケンタッキー州に「ブルーオーバルシティ」と呼ぶ、バッテリーセルからEVまで生産できる巨大な一貫工場を建設していたフォードは、2025年12月に戦略の大転換を発表しました。

韓国SKオンと合弁のバッテリー生産工場については、テネシー工場はSKオンに譲渡、ケンタッキー工場は自社で所有してデータセンター向けなどの蓄電池工場に転換し、2027年から年間20GWh(ギガワットアワー)のLFPバッテリーを生産します。また、テネシーのEV生産工場(未稼働)は、2029年から次世代トラック(ガソリン車)を生産します。195億ドルに上る巨額のEV関連損失は2027年まで3年間にわたり計上される計画で、2025年度は82億ドルの純損失となりました。

フォードはリーマンショック以来の巨額赤字, GMも79億ドルのEV損失, トランプ政権でのEV政策の逆回転, EVは雌伏から捲土重来を期す, GMは「シボレー ボルト」を復活, EREVの動向にも注視

2025年末で生産が打ち切られたフォード F150ライトニング。

米国モデル別販売で不動のナンバーワンであるフルサイズピックアップトラックF-150のEV「ライトニング」を2022年に導入したフォードですが、2025年の販売台数はもうひとつの看板EVである「マスタング マッハE」の半分程度の2万7000台にとどまりました。アルミ部品サプライヤーでの火災の影響もあって、創業地ディアボーンのルージュ工場で行われていた「ライトニング」の生産は昨年末に打ち切られ、2027年からはEVでなくEREVのF150を生産します。

一時は年15万台の生産体制を整えたフルサイズピックアップEV(価格5万〜9万ドル)は期待どおりに翔ばず、フォードは「今後大型EVの開発はやめ、アフォーダブルなモデルに注力する」と声明しました。(ライバルのシボレー シルバラードEVの販売台数も1万台強で、ステランティスは同社のラムピックアップトラックEVの導入を中止しました)

フォードはリーマンショック以来の巨額赤字, GMも79億ドルのEV損失, トランプ政権でのEV政策の逆回転, EVは雌伏から捲土重来を期す, GMは「シボレー ボルト」を復活, EREVの動向にも注視

56億ドルを投資し6000人を雇用して2025年に生産開始予定だったテネシーのEV生産工場は次世代トラック(エンジン車)を生産する。

GMも79億ドルのEV損失

汎用性のあるアルティウムバッテリーを開発し、デトロイトのEV専用工場「ファクトリーゼロ」を2021年秋にオープンしたGMは、GMCやハマーなどの高級SUVやキャデラック、シボレーで幅広くEVラインアップを展開してきました。

キャデラックのミッドサイズSUV「リリック」は、欧州や日本でも販売されていますが、販売台数はわずかで米国でも年間2万台にとどまります。一方、3万5000ドルからのシボレー イクイノックスEV(5万台)や同ブレイザーEVは比較的好調であり、GMの2025年のEV販売台数は17万台(前年比+48%)とフォード(8万4000台、同−14%)の倍で、テスラ(59万台)に次ぐEV販売2位となっています。

GMもパートナーのLGエナジーソリューション(以下LGES)と全米3カ所に建設したバッテリー工場のうち、ミシガン州の工場を昨年春にLGESに売却しました。また、デトロイト近郊のオリオン工場で計画していたシルバラードEVの生産をエンジン車に切り替えるなど、2年前からEV投資の修正を行なってきた結果、EV関連の損失(2025年)はフォードに比べれば軽度な79億ドルで、2025年は大幅減益ながら27億ドルの税引き前利益を確保しました。

フォードはリーマンショック以来の巨額赤字, GMも79億ドルのEV損失, トランプ政権でのEV政策の逆回転, EVは雌伏から捲土重来を期す, GMは「シボレー ボルト」を復活, EREVの動向にも注視

キャデラックは中型SUVのオプティックから40万ドル超の超高級セダンのセレスティックまで5車種のEVを販売する(写真はリリック)

近年米国販売の落ち込みの顕著だったステランティスは2月初旬、主にEV事業清算などで222億ユーロの巨額の特別損失を計上すると発表。カルロス・タバレス前CEOの時代に計画されたラム1500EVなどのEVは撤回、もしくは大幅縮小し、PHEVセグメントでトップを誇ったジープのラングラーやグランドチェロキーも2025年モデルで販売終了となりました。

トランプ政権でのEV政策の逆回転

バイデン政権下で2023年1月から始まった最大7500ドルのEV/PHEV補助金の効果もあって、2024年にシェア8.1%(130万台)までEV市場は成長したものの、「遠くへ行けないEVの強制はNO!」「(石油を)掘って、掘って、掘りまくれ」と喚呼したトランプ大統領は、着任早々にEV支援策の撤回に着手。2025年4月には「大きな美しい法案(One Big Beautiful Bill Act)」が議会で可決され、同年9月末でEV購入補助金の終了や、充電インフラ建設の補助金の終了が決定。また、CAFEの大幅緩和や未達成の自動車メーカーへの罰金の廃止も決まりました。

6月には、1970年代から独自の厳しい排出ガス規制を設定しているカリフォルニア州の権限を剥奪とする法律も可決され、ゼロエミッション車の義務付け(ZEV法)や同州独自の排出ガス規制(ACC II)も無効とされたのです(加州はすぐに連邦政府の決定を提訴)。それに追い討ちをかけたのが、今年2月にEPA(米国環境保護庁)がCO2排出規制の根拠としていた2009年の温暖化ガスの危険性認定(endangerment finding)の撤回で、米国のCO2関連の規制はほぼ根こそぎ棄却(or 換骨奪胎)されたことになります。

このような温室効果ガス抑制やEVシフトに向けた政策の巻き戻しにより、2030年のEV市場はバイデン政権が目指したシェア50%から大きく後退して、19〜27%の範囲にとどまると予測されています。

EVは雌伏から捲土重来を期す

2026年のEV販売は前年からさらに減少すると見られ、2年程度は低空飛行が続きそうですが、EV損失の痛手を被った自動車メーカーはEVシフトを諦めたわけではなく、市場環境を注視しながら次の一手を進める意向です。

フォードが次に導入するEVは、開発中の「ユニバーサル EVプラットフォーム」による中型ピックアップでケンタッキー州ルイビル工場で2027年に生産が始まります。それまでは、マスタング マッハEと商用バンのEトランジットのみとなりますが、EVに代えてF150や小型ピックアップトラックの「マーベリック」で好評を得ているHEVやEREVを新たに導入していく方針です。

ジム・ファーリーCEOは決算会見で、好調な商用車部門(フォードプロ)とエンジン車部門(フォードブルー)の業績がEV部門(フォードe)の赤字を埋めて、2026年度は80〜100億ドルの営業利益を上げると述べました。同社は2029年頃にフォードeの黒字化を見込んでいます。

GMは「シボレー ボルト」を復活

EVシフト減速を早くから察知して軌道修正してきたGMは、アルティウムバッテリーを幅広いブランドに展開(ホンダ「プロローグ」へも提供)したことで、フォードよりEVの損失を抑えています。キャデラックやGMCの高級EVの販売台数は多くはありませんが、2024年後半から販売しているコンパクトSUVのイクイノックスEVは販売台数を伸ばしており、その延長線上に今年再導入されるのがシボレー ボルトです。2010年の導入当初はEREVとして、2016年からはBEVとして一定の人気を維持したボルトの販売は2023年モデルで一旦終了しましたが、GMはこれを時限的措置で復活させます。

新型ボルトは、エクステリアパネルを2023年モデルのままに、モーターをはじめとする駆動系パーツはイクイノックスEVのものを採用し、インテリアは大型ディスプレイで刷新、「ハンズフリー」のADAS「スーパークルーズ」も選べます。バッテリー(LFP)容量は65kWhで航続距離255マイル(408km)を確保、テスラスーパーチャージャー用のNACSポートを備えて急速充電も150kWに対応し、価格は2万8995ドルからと米国で最も安価なEVとなります。クルマの平均購入価格が5万ドルを超え、「アフォーダビリティ(買い易さ)」が課題になっている米国市場で人気を呼ぶかもしれません。

フォードはリーマンショック以来の巨額赤字, GMも79億ドルのEV損失, トランプ政権でのEV政策の逆回転, EVは雌伏から捲土重来を期す, GMは「シボレー ボルト」を復活, EREVの動向にも注視

2027年モデルとして再導入のシボレー ボルトの生産は現在の予定では2年間のみ。

GMが小型車からフルサイズピックアップ、SUVにいたる広範なEVラインナップを今後も維持するのか、一部はPHEVに置き換えるのかなどは明らかではありませんが、2028年に投入予定のLMR(マンガンリッチリチウムイオン)電池で大幅コストダウンできるとする同社は財務的手腕にも長けており、今後も市場に柔軟かつ機敏に対応していきそうです(2年前に20ドル台まで低迷した株価は現在80ドルを超え、14ドル前後のフォードと対照的)。

EREVの動向にも注視

EVやPHEVのプログラムを大幅に整理したステランティスで注目されるのは、今年導入される「ラム1500 REV」です。92kWhのバッテリーと3.6L V6エンジン、130kWのジェネレーターを搭載するEREVで、最高出力647馬力で航続距離は690マイル(1104km)に達します。米国ピックアップ市場初のEREVがユーザーからどう評価されるかが注目されます。

EV大国の中国では理想汽車やBYDがEVレンジ200km超のEREVやPHEVをすでに導入していますし、欧州でもEVレンジ100〜150km、総航続距離が1000km以上の新世代PHEVが販売を伸ばしています。ドライバーの年間平均走行距離が2万kmを超え、片道100kmの通勤も珍しくない米国では、航続距離の心配の少ないEREVが有力な選択肢になるでしょうか。フォードも「2030年にはHEV、EREV、BEVを合わせて同社販売ミックスの50%に達する(2025年は17%)」と想定しています。

フォードはリーマンショック以来の巨額赤字, GMも79億ドルのEV損失, トランプ政権でのEV政策の逆回転, EVは雌伏から捲土重来を期す, GMは「シボレー ボルト」を復活, EREVの動向にも注視

海外勢でも、2027年に発売のフォルクスワーゲン傘下のスカウト(Scout)がEVとEREVの両方を導入する

ラグジュアリー市場ではロールスロイスやフェラーリ、今後はジャガーやベントレーなどがEVを導入しますが、メルセデス・ベンツやポルシェなどのドイツ製高級EV(車両価格7万〜10万ドル台前半)は低迷しており、EVポートフォリオが見直されています。全個体電池をはじめとした革新的なバッテリーが主流になるまで、EVの量販は経済性が重視されるコンパクト以下のセグメントで進み、PHEVやEREVはミッドサイズ以上のモデルで主力になっていくかもしれません(了)

●著者プロフィール

丸田靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在を経て、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意-混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。