「もう商売になりません」 路線バス事業者の99.6%が赤字経営――それでもあきらめない、地域住民が守る最後の足の挑戦とは

路線バスの窮状と新潮流

 日本のバス事業は現在、新型コロナウイルスの影響によるテレワークの普及で定期券収入が減少し、「2024年問題」によるドライバー不足やモータリゼーションにともなう利用者減少が重なり、極めて厳しい状況にある。実際、バス事業者の99.6%が赤字経営というデータも報告されている。

【画像】「うちのドライバーは馬鹿ばかり」 運送業界の構造的病理とは?

 特に路線バスは、貸切バスや高速バスに比べ運行の柔軟性が低い。ダイヤ通りに運行する必要があり、乗客がいなくても運行を続けなければならない場合もある。人件費や燃料費の削減には限界があり、行政の補助も十分ではない。この状況では、既存の公営・民営路線バスが今後も窮地に立たされることは避けられない。

 こうしたなか、地域によっては住民が主体となってバスを運営する新たな取り組みも出てきている。本稿では、住民主体のバス運営の可能性と課題を整理する。

深刻な担い手不足と事業限界

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路線バスのイメージ(画像:写真AC)

 既報の通り、いわゆる2024年問題で路線バスドライバーの労働時間上限が強化された。必要なドライバーが確保できなければ、路線の減便や廃止につながる。ドライバーの高齢化も進み、筆者(西山敏樹、都市工学者)の調査では営業所内の平均年齢が53歳~55歳の事業者も珍しくない。

 事業者は人件費を捻出してドライバー確保に努めるが、全国的な平均年収は

「450万円~470万円」

にとどまる。長時間労働や心身への負担の割に報酬が低いことが、ドライバー不足に拍車をかけている。日本バス協会は2030年までに路線・貸切を合わせ約3万6000人のドライバーが不足すると試算する。

 政府もバス業界の要望を受け、「道路交通法の一部を改正する法律案」を2020年6月に成立させ、2022年5月に施行した。大型二種免許取得要件を緩和し、年齢を19歳以上に引き下げ、普通免許取得後の経験年数も1年以上で取得可能とした。しかし、若年層のドライバーは依然として少なく、不足が続けば、10年後には今の路線バスの3割以上が地域から姿を消す可能性もある。

 路線バスの利用者は長期的に減少傾向にある。全国的にモータリゼーションが進み、1985(昭和60)年以降の40年間で利用者は各地で減少してきた。特に2020年のコロナ禍で落ち込み、回復は十分ではない。福島県では、1996(平成8)年の利用者4614万人が2020年には1343万人まで減少した。四半世紀で利用者が3割程度にまで落ち込む事例は珍しくない。

・燃料費の不安定

・公共交通の運賃改定

・テレワークシフト

が進めば、各地で路線バス利用はさらに減る可能性がある。国の試算では、2065年に総人口が8800万人まで減少する可能性も指摘される。この環境下では、赤字経営が続き、ドライバー確保はより困難になる。自動運転への期待もあるが、

・管制システム導入

・電動車への投資

・DX人材の確保

など新たなコスト負担も避けられない。路線バスのビジネスモデルが揺らぐ懸念は、現実的な課題として目の前にある。

規制緩和の副作用と支援の壁

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路線バスのイメージ(画像:写真AC)

 路線バスの参入や撤退に関する規制は、2002(平成14)年の道路運送法改正で緩和された。改正前は免許制で需給に応じた参入・撤退が制限されていたが、改正後は許可制となり、事業者の動きは自由化された。政策としては競争促進が狙いで、複数の事業者が競合するケースも生まれている。

 しかし、規制緩和には副作用もある。地方では赤字路線の撤退が増え、補助の対象外となる路線を中心に地域住民への影響が大きい。都市部では新規参入による過当競争が起き、安全で安定したサービスやドライバーの労働条件に影響を及ぼす懸念がある。実際、岡山県では2018年、競争激化を背景に大手事業者が路線の

「約4割」

31路線の廃止届を提出した例もある。参入と撤退が容易になったことは、利用者にとってメリットだけではないのだ。

 路線バス事業者は、人件費や燃料代を削減するにも限界がある。その上で行政からの補助にも限界がある。例えば、青森県弘前市は2026年3月12日、路線バス運行費補助金制度を見直した。市内のみを運行する路線で欠損が生じた場合、従来は年間1億7200万円を上限に補助していたが、新制度では

「運行に係る経常費用の20分の9」

とし、運行欠損額と比べて低い方を補助対象とする形に変更した。制度改正の理由はバス事業者の自助努力を促すためだが、同様の波及が全国に広がれば、行政支援への期待は薄れ、路線バスの運行環境はさらに厳しくなる可能性がある。

送迎車両の共同利用促進

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路線バスのイメージ(画像:写真AC)

 国土交通省のデータによれば、2025年4月時点で路線バスやタクシーが利用しにくい交通空白地域は全国で約2000か所に上る。国は2027年度までを交通空白集中対策期間と位置づけ、解消に向けた取り組みを進めている。

 こうした流れのなかで、3月10日に政府は地域交通法改正案を閣議決定した。改正案では、地方自治体が中心となり、

・スクールバス

・デイサービス送迎車

・病院送迎車

など、空き時間を使った車両とドライバーの共同運行による旅客サービスを支援する。財政面の補助や手続きの簡略化を通じ、地域の実態に応じた柔軟な運行を後押しする狙いがある。

 背景には、公営・民営の従来型路線バス運行が限界に近づき、既存モデルの維持が困難になっている事情がある。法改正によって、一般のドライバーがマイカーで有償運送を行うライドシェア的な取り組みも進むと期待される。国の政策は、もはや従来型バス事業者の限界点を直視し、住民主体の交通サービス創出に舵を切ったといえる。

事例:高山市高根地域の住民主体バス

 岐阜県の北部、飛騨地方の中央に位置する高山市では、交通空白地の移動手段を確保するため、「たかね号」と呼ばれる有償運送サービスを実施している。これは、従来のバス事業者が高根地域から撤退を申し入れたことを受け、地域住民の手で運行を始めたものだ。

 運行を担うのは「高根まちづくりの会」というまちづくり協議会である。協議会は、

「自分たちの地域は自分たちでつくる」

という方針のもと、多様な住民の参画と各種団体の協働で、地区の課題や特色に応じた活動を進めている。交通問題もその一環として位置付けられ、運転者も地域住民が担い、有償で依頼されている。プロのバスドライバーに比べ人件費が抑えられるため、住民の力を活用することは大きな効果を生んでいる。利用者は1乗車あたり100円を負担する。

 筆者が現地で関係者に聞き取り調査を行ったところ、従来、路線バス事業者に運行委託していた2016(平成28)年度までの年間経費は約2500万円だった。これに対し、2017年度から始まったたかね号の市助成は年間約1200万円にとどまり、

「約1300万円の予算削減」

に成功している。地域住民が主体となることで、行政の補助金負担も大幅に軽減できることが確認された。

事例:世田谷区玉川地域のコミュニティーバス

 東京でも路線バスの衰退は顕著で、高齢者を中心に

「病院に行けない」

「買い物に行けない」

「友人に会えない」

といった声が増えている。免許返納によって自由に外出できない人や、障がいで移動が困難な人も少なくない。

 こうした状況を受け、市民グループ「おでかけサポーターズ」が誰でも利用できる小型コミュニティーバスを運行している。世田谷まちづくりファンドの助成を受け、毎週水曜日の午前中に玉川支所(等々力駅)から二子玉川駅まで、3往復の運行を行う。利用は無料である。

 筆者が現地で試乗したところ、路線バス停や鉄道駅へのラストワンマイルの移動が難しい地域を効率よく回るルートになっており、高齢者や小さな子どもを持つ親の移動を支えていた。

 運行を通じて関係者と利用者がお互いを知る機会が生まれ、地域での災害時支援や日常生活の情報交換にも役立っている。移動手段としての役割に加え、地域住民をつなぐコミュニティーの形成にも寄与しつつある。

事例:兵庫県宍粟地域の「思いやり号」

 兵庫県の中西部に位置する宍粟(しそう)市では、路線バスの休止を受け、2008(平成20)年4月1日から「思いやり号」を代替交通手段として運行した(現在はバス再編により運行は終了)。運営は地域住民が主体となる委員会が担った。少子高齢化が進むなか、

「お互いに思いやりを持って、日常生活や社会生活を助け合う」

ことを理念として、市の公用車10人乗りワゴンを活用した。

 思いやり号の運営委員会は、染河内地区の住民が中心となり、自治会や老人クラブ、婦人会、高校PTA役員で構成された。原則として1日3往復、毎日運行し、地元で募った有償ボランティアが交替で運転した。運賃は休止された路線バスに準じて設定され、運営経費や車両維持費は市が助成した。2008年の予算配分では、総額179万7000円のうち、県予算が12万円、運賃収入が40万3000円、市の一般財源が127万4000円となっていた。

 現在は路線バスの再編にともない運行はされていないが、宍粟市内では、住民主体の運営という方法論が認知され、一定の成果があったことが確認できる。

地域再生と生活の質向上

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路線バスのイメージ(画像:写真AC)

 住民が主体となるバス運行は、さまざまな都市や地域で例が見られる。筆者が各地で関係者に取材した結果、利用者の外出回数が増えることで生活の質が向上するだけでなく、運行に関わる住民自身も地域貢献や体を動かす機会を通じて健康面での効果を得ていることが確認された。

 また、小型バスの運行は、地域内の住民同士のつながりを生み、コミュニティー形成の支援にもつながる。運営支援の面でも、予約制の採用や地域住民ドライバーの活用により、行政の補助額を通常のコミュニティーバス運行より抑えられることがわかっている。

 総合すると、地域住民主体のバス運行は、足の確保という実用面で高い有効性を持つことが明らかである。

自助による持続可能な交通

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住民主体による地域交通。

 民営や公営の既存路線バスの運行が難しくなるなか、地域や住民自身が自助の観点で足を確保する方向性は、今後さらに一般化する可能性が高い。丸の内や日本橋のシャトルバスの例に見られるように、バス運行によって経済や集客面で効果を認められる機関の関与も、各地で起こり得るだろう。

 地方都市では、医療機関への送迎やデイケアなど福祉施設の共同送迎車の活用も現実的な選択肢となる。その際には、地域住民主体の協議会が運転者を確保しつつ路線網を拡大することも考えられる。

 行政は、車両購入や維持、燃費面での支援を重点的に行うことが重要だ。交通と福祉の融合を前提とし、コミュニティーバス運行よりも低コストで実現できた事例を踏まえ、持続可能な支援策の検討が求められる。

 自助・共助・公助のうち、自助の視点で地域の足を守る時代が訪れており、地域支援政策への理解もますます重要になるだろう。