原油高騰でもサーチャージを値上げしないANAとJALに「さすが!」とぬか喜びする人が知らない事実

航空チケットが爆上がりラッシュの衝撃, なぜANAとJALは燃油サーチャージ据え置いた?, 6月~7月発券分、過去最大級の上げ幅の可能性も, 航空業界が最も恐れるパニックポイントとは?

Photo:Carl Court/gettyimages

中東情勢の悪化と原油価格の高騰に伴い、各国の航空会社が相次いで値上げしている。しかし、ANAとJALは直近の発表において、燃油サーチャージを据え置いた。喜んだ人もいるかもしれないが、早合点は良くない。コロナ禍から浮上したエアラインを再び低空飛行させる深刻な事態とは。(航空ジャーナリスト 北島幸司)

航空チケットが爆上がりラッシュの衝撃

 イラン戦争の影響で航空業界が混乱に陥っている。中東の空域が遮断された影響で、大幅な欠航や運休を余儀なくされた航空会社も多い。そして原油価格が急騰する今、「第二波」が襲い掛かっている。大幅な値上げラッシュだ。

 供給量が大幅に減った結果、あるいは欧州~アジア・オセアニアで中東上空を迂回するルートを取り始めた結果、遠回りな南アジアルートに需要が集中し、運賃が異常な水準に達しているのだ。例えば、ロンドン発シンガポール行きのエコノミークラスが通常の数倍となるケースや、シドニー発ロンドン行きのビジネスクラスが異常に高い価格で販売されている。

 何より影響が甚大なのが、燃料コストの急騰だ。原油の国際指標である米NY原油先物市場は1バレル=100ドルの大台を超えた。これを受けて航空各社は続々と値上げに動いている。下記の表にまとめた。

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 日本人利用も多い香港のキャセイパシフィック航空は、燃油サーチャージを約2倍に引き上げる。豪州カンタス航空は、燃料費がこの2週間で150%も上がったことを明らかにし、国際線で平均5%値上げする。米ユナイテッド航空のCEOも、運賃は「すぐにでも上昇するだろう」との見解を示したという。

 また、ニュージーランド航空は燃料高を受けて値上げもするが、約1100便の国内線を中心に欠航も決定。約4万4000人の乗客に影響が出る見込みだ。

なぜANAとJALは燃油サーチャージ据え置いた?

 こうした世界的な荒波の中で、ANAとJALは直近の発表において、4月~5月発券分の燃油サーチャージを前期間(2月~3月)から据え置く決定を下した。「さすがANAとJALはユーザーフレンドリーだ!」などと喜んだ人もいるかもしれない。しかし、それはぬか喜びかもしれない。

 どういうことか、まず燃油サーチャージについて簡単に解説しよう。2000年代初頭、湾岸戦争による原油価格の高騰を受けて本格的に導入され、日本では2005年にスタートした。

 ジェット機の燃料である「ケロシン」の価格は、世界情勢や市場の需給によって変動する。本来、燃料費は運賃に含まれるべき性質のものだが、急激な価格変動を運賃本体に即座に反映させることは難しい。

 そこで、運賃とは別の「付加運賃」として設定し、燃料価格に連動させて数カ月単位で改定する仕組みが定着した。航空会社は、ケロシン価格のテーブルを作成し、その範囲の中でサーチャージを上下させる。

 日本の航空会社の場合、シンガポール市場のケロシン価格の平均値を基準に算出する。通常、改定の2カ月前に、2カ月分を国土交通省航空局に申請する。そのため、燃料市場価格の変動が実際のサーチャージに影響するまでには一定のタイムラグが生じる。

 つまりANAとJALの今回の据え置きは、算出基準となる直近数カ月のケロシン価格が、サーチャージ変更の適用条件を満たさなかったことによる「機械的な判断」である。あくまで現行ルールのタイムラグによる一時的な猶予に過ぎない。

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6月~7月発券分、過去最大級の上げ幅の可能性も

 現状は「嵐の前の静けさ」であって、この先決して楽観視することはできない。NY原油先物市場は3月15日、再び1バレル=100ドルの大台を超えた。こうした急騰を受けて、次回の改定サイクルである6月~7月発券分に反映される可能性が極めて高い。

 さらに言えば、現在のパニック的な市場環境が続けば、過去最大級の上げ幅を記録する恐れがある。そうなると、夏休みシーズンの航空券をこれから取る人にとっては大幅な費用増につながるだろうし、海外旅行を検討していた人にとっては飛行機に乗ること自体を控える展開も予測される。

 なお、中東便の運航自体は、ANAはイスタンブール便も含めて平常運航を継続している。JALはカタール航空とのコードシェア路線であるドーハ便を3月31日の羽田発まで運休※と発表している。※3月16日時点

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豪州カンタス航空は燃料費上昇を速やかに運賃に反映させた Photo by Koji Kitajima

航空業界が最も恐れるパニックポイントとは?

 航空業界が最も恐れているのは、燃料価格が運賃を上回るような制御不能な領域、パニックポイントに達することだ。運航費用において燃料費は通常2割~4割を占めるが、足元の燃料価格上昇はこの比率を劇的に押し上げている。

 燃料価格がこのまま高止まりすれば、経営体力の弱い航空会社から順に運航停止に追い込まれることは容易に予測できる。すでにアジアのLCCの一部は、燃料価格の吸収が不可能であるとして、新たなサーチャージの導入や路線の休止を検討し始めている。燃油サーチャージという調整弁ではもうまかないきれないほど、コストが増えるスピードが加速している。

 航空業界は危機を幾度も乗り越えてきたが、今回のイラン戦争が長期化すれば、過去の事例とはまた性質が異なる事態となるだろう。すなわちコロナ禍からの回復期にあり、ようやく需要が戻ってきた矢先の出来事であるため、航空各社のキャッシュフローは依然として脆弱である点だ。

 加えて、中東のハブ機能が滞ったこと、そしてウクライナ戦争によりロシア上空を迂回せざるを得ないエアラインも多数あることから、世界の航空ネットワークそのものがルートを含め再編を迫られている点だ。

 各社が実施している値上げや運休は、単なる一時的な措置ではなく、戦争が長期化するリスクに備えた生存戦略とも言い換えられる。

 利用者も、これまでの常識が通用しない可能性を覚悟しておいたほうがいいだろう。夏休みや年末年始に海外旅行すると決めている人は、早めに航空券を買うのが賢明だ。

 もし今後、ジェット燃料価格がパニックポイントを超え、さらなる供給制限が始まれば、国際線は一部の層に限られた特権的なものへと向かう懸念すらある。世界の空は、かつてない試練の時を迎えている。

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ニュージーランド航空は原油高を受けて国内線の一部欠航を決めた Photo by Koji Kitajima

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