「テスラ1強」の崩壊?米Z世代の7割が「中国製EV」を支持する根本理由

関税の壁が生んだ市場のゆがみ

 米国で電気自動車(EV)といえばテスラが代名詞だが、生産台数では中国が世界を圧倒している。今後、米国内でテスラの地位が揺らぐ可能性はあるのか。

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 2024年、バイデン政権は中国の不公正な貿易に対抗し、自国の産業と雇用を守るため、中国製EVへの制裁関税を25%から100%へと引き上げた。この強力な壁により、米国への輸入は大幅に減少した。トランプ政権も同様の高額関税を維持し、通信機器に関わる規制も追加した結果、中国製EVの流入はほぼ途絶えている。

 しかし、この強硬な介入は市場の自然な動きを抑えたに過ぎない。供給を遮断しても、消費者が求める安価で高性能な製品への潜在的な需要は消えない。政治が作った防波堤と、市場が求める実利の間で生まれた歪みが、既存の支配構造を揺るがす力になろうとしている。

世論と現場の意識の隔たり

 米国の中国製EVに対する姿勢は、今や外交や安全保障の議論と切り離せない。しかし、一般の国民が抱く本心は、政府の強硬方針とは必ずしも一致しない。

 Cox Automotiveの調査「中国の自動車ブランド:米国の消費者とディーラーの反応(Chinese Auto Brands: What U.S. Consumers and Dealers Think)」(2026年2月25日発表)によると、米国市場は大きく分断されており、

・中国ブランドへの関心

・販売現場の意識

には埋めがたい溝があるという。低価格だけでは消費者を動かせない一方で、Z世代(1990年代後半から2010年前後に生まれた世代)が

「中国製EVを強く支持している」

事実は、従来の市場常識を揺るがす要素となる。

 調査は、今後2年以内に車を購入する予定で、自ら決定権を持つ米国の消費者802人を対象に、2025年12月29日から2026年1月2日にかけて実施された。回答者は、中国車の知名度や魅力、購入意欲を評価している。加えて、2025年10月から11月にかけてフランチャイズディーラーの管理職や営業職132人にも調査を行い、販売現場の声を拾った。この結果からは、国家間の対立を超え、米国市場内部で進む

「構造変化の兆し」

が浮かび上がる。

市場の二極化とセグメント化

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Z世代イメージ(画像:Pexels)

 中国の自動車ブランドに対する米国の消費者心理は、大きくふたつにわかれている。EV志向の強い若い層、特にZ世代は中国製EVの購入に前向きだ。一方で、高齢層や国内メーカーへのこだわりが強い層には、いまも抵抗感が残る。

 米国で中国ブランドの購入を検討する可能性が高いと答えた人は38%に達した。対して「あまり検討しない」「全く検討しない」とした層も39%に上る。意見はほぼ拮抗している形だ。もっとも、Z世代に限ると

「69%」

が検討すると答えており、これから市場の中心になる層の受け止め方は際立って前向きである。

 この差の背景には、車に向ける価値観の変化がある。上の世代にとって車は地位を示す象徴だった。しかしZ世代は、車を便利な移動手段、あるいは日常を支えるデジタル機器のひとつとして見ている。重視するのはメーカーの国籍よりも、使い勝手や価格に見合う価値があるかどうかだ。ブランドの歴史より実利を見る層が市場の中心に近づけば、これまでのイメージ戦略による囲い込みは効きにくくなるだろう。

高い認知度と浅いブランド理解

 回答者のほぼ半数は、中国の自動車ブランドをいくつか知っていると答えている。ただ、その理解は深いとは言えない。比亜迪(BYD)の認知度は35%と最も高いものの、傘下のデンツァやヤンワンといった個別ブランドまで把握している人は17%にとどまる。ディーラー側の認識も大きくは変わらない。サブブランドを含めてBYDを知っている割合は25%だった。

 この結果から見えるのは、消費者が個々のメーカーを細かく見分けているわけではないという点だ。むしろ、

「中国メーカー全体が進めている電動化の流れをまとめて受け止めている」

特定のブランド名を覚えていなくても、安価で新しい技術を備えた車が一群となって現れている、という印象である。今後、供給側が個々のブランド名を広く知られるようにし、不透明な印象を薄めて信頼を積み重ねていけば、市場の勢力図が変わる可能性はあるだろう。

市場参入を左右する提携関係

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米国(画像:Pexels)

 消費者の40%は、中国ブランドの米国参入を支持している。だが、販売現場の受け止め方は大きく異なる。これを支持するディーラーは15%にとどまった。ただし、中国メーカーが既存の米国ブランドと提携する場合、状況は一変する。

 消費者の購入検討率は76%まで跳ね上がる。価格や製品の性能と同じくらい、どの企業と組むかが重要になるという結果だ。実際に提携が起きた場合、ディーラーの70%は競争に勝つため、これまでの販売戦略を変えると答えている。

 ここから浮かぶのは、米国メーカーが長年かけて築いた信頼が、中国メーカーにとって市場に入る足場になり得るという構図である。消費者は中国の技術力に関心を示しつつも、購入後の保証やブランドへの安心感は米国企業に求めている。

 もし米国企業が生き残りを優先し提携へと動けば、車の中核部分が中国製に置き換わる流れが強まる可能性がある。そうなれば、米国ブランドは開発の主導権を徐々に手放し、外部技術を組み込む役割へと変わっていく兆しも見えてくるだろう。

価格評価と信頼不足の同居

 中国車に対する消費者の評価は、コストパフォーマンスの面ではおおむね前向きだ。49%が価格に見合う価値があると答えている。走行性能も35%が高く評価しており、好印象を持つ層は少なくない。だが、耐久性や品質、安全性は33%にとどまり、信頼性は32%とさらに低い。販売現場でも同じ不安が強い。ディーラーの92%が、中国ブランドを扱うことに強い懸念を示している。

 販売店がここまで慎重なのは、品質への疑念だけではない。これまでの収益の成り立ちが揺らぐことへの警戒もある。多くの販売店は、車を売った後の修理や部品交換で利益を得てきた。ところが、保守の手間が少ないEV、しかも安価な中国車が広がれば、この仕組みが崩れかねない。

 もっとも、消費者の意識は少しずつ変わっている。信頼性の低さを認めながらも、価格が大きく下がるなら受け入れるという層が増えている。安さによる利点が不安を上回るところまで来れば、市場の動きは急に速まる可能性があるのだ。

保護政策に支えられた優位

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米国EV市場:政治と消費者。

 消費者が車を比べるとき、判断の軸になるのは信頼性や知名度、ブランドの価値だ。現状では米国ブランドが優位に立つ。EVでもガソリン車でも、テスラとシボレーは魅力や購入検討の面で中国の競合を大きく上回っている。

 ただ、この優位が揺るがないわけではない。価格が視野に入ると、消費者の選び方は少し変わり始める。中国車が大幅な値下げで売られた場合、相当数の消費者が米国ブランドから乗り換える意思を持つことが調査からわかっている。とりわけ

・所得が低い層

・価格に敏感な層

では、中国車が急速にシェアを広げる可能性が高い。

 カナダが関税を引き下げ、輸入車の受け入れを認めたことで、中国車への関心が再び高まっている動きも見逃せない。若いZ世代の間で中国車に目を向ける人が増えていることを踏まえると、米国市場に変化が起きる可能性は高い。

 米国で中国製EVの普及が進めば、その流れは将来、日本市場にも及ぶだろう。米国メーカーが中国の技術を取り込み競争力を保とうとすれば、日本車は進化した中国車と、その技術を積んだ米国車の間に挟まれる。結果として、独自の立ち位置を失う恐れもある。

 いま米国ブランドが保っている優位は、関税や補助金といった保護に支えられている面が大きい。消費者が実利を重んじて選び始めれば、その壁は内側から崩れていくだろう。