「地方初の地下鉄」として親しまれた100年超の老舗――27年春「Suica導入」で、本当に利便性は変わるのか?
地域連携ICカードの導入
長野電鉄とJR東日本は2026年2月12日、JR東日本が提供する「地域連携ICカード」のシステムを利用したIC乗車サービスの提供で合意したと発表した。
【画像】「えぇぇぇぇぇ!」 これが36年前の「長野駅」です!(8枚)
現在、長野電鉄では長野駅、須坂駅、小布施駅、信州中野駅、湯田中駅の券売機で乗車券を購入する場合に限り、Suicaなどの交通系ICカードを利用できる。今回の合意により、JR東日本のSuicaと、Suicaと相互利用可能な他の交通系ICカードを使って、長野電鉄の乗車が直接可能となる。サービスは2027年春に開始予定で、導入区間は長野電鉄全線全駅(長野~湯田中)とする。
地域連携ICカードは、各地域の交通事業者が運行する鉄道・バスの定期券や各種割引に加え、SuicaエリアおよびSuicaと相互利用するエリアで利用できる乗車券や電子マネーの機能を1枚で提供するカードだ。これにより、全国で相互利用可能な交通系ICカードと地方独自のICカードの「2枚持ち」が不要となり、両方の利便性を1枚で享受できる。
長野地域では、2025年3月に路線バス向けの地域連携ICカード「KURURU」の提供が始まった。さらに同月、信越本線や篠ノ井線のSuica利用駅が拡大され、2026年3月14日にはしなの鉄道でのSuica導入が予定されている。
KURURUは長野市と周辺の路線バスで使える非接触型ICカードで、2012(平成24)年10月27日から独自規格で運用されていた。2025年3月以降は地域連携ICカードの方式に移行している。
長野エリアでは、路線バス、しなの鉄道に続き長野電鉄もSuicaと連動することで、JR東日本の「Suica経済圏」が一気に広がる状況だ。
長野電鉄の沿革と路線網

長野電鉄・長野駅の改札(画像:写真AC)
長野電鉄は現在、長野~湯田中間33.1kmを運行する地方私鉄である。
1922(大正11)年に前身の河東(かとう)鉄道が屋代~須坂間を開業し、その後1923年に須坂~信州中野間、1925年に信州中野~木島間、1927(昭和2)年に信州中野~湯田中間を順次開業した。1926年には旧長野電気鉄道が権堂~須坂間を開業し、同年に河東鉄道が旧長野電気鉄道を合併して現在の長野電鉄となった。1928年には権堂~長野間を開業し、その後長らく、長野~須坂間を長野線、屋代~須坂~信州中野~木島間を河東線、信州中野~湯田中間を山ノ内線と称し、総延長70km超という地方私鉄としては比較的規模の大きな路線網を有していた。
長野線は長野市内に複線区間を持ち、地方私鉄としては比較的高頻度で運行されている。長野~善光寺下間は連続立体交差事業により1981年に地下化され、当時、大都市圏以外の地方私鉄での地下化は珍しく、
「地方初の地下鉄」
として話題になった(厳密には地下鉄ではない)。
長野電鉄は沿線の湯田中温泉や志賀高原で観光開発も行ってきた。1957年には長野~湯田中間で特急列車の運転を開始し、1962年には上野~湯田中間で国鉄直通急行列車の運転も始めるなど、観光輸送にも力を入れてきた。
地方私鉄として長らく安定した運営を維持してきた長野電鉄だが、近年は一部区間で乗客の減少が目立ち、2002(平成14)年に河東線の一部(通称木島線)信州中野~木島間、2012年に屋代線(旧河東線)が廃止され、総延長はかつての約半分になっている。
現存する長野~湯田中間は、長野市近郊の通勤路線としての役割と湯田中方面への観光路線としての役割を兼ね備えている。旧長野線・旧河東線・旧山ノ内線にまたがっていたが、通称木島線・屋代線の廃止以前からひとつの運行系統として最も重要な路線として機能していた。
JR東日本との連携関係

長野電鉄路線図(画像:長野電鉄、日本スキー場開発)
今回、長野電鉄はJR東日本と交通系ICカードで連携することになった。既に廃止された通称木島線など、一部に競合区間はあったものの、両社の関係は概ね良好だったといえる。
前身の河東鉄道は旧国鉄に接続し、産業輸送を目的として発足した経緯がある。1962(昭和37)年に運転を開始した国鉄直通急行列車は1982年まで運行を続けた。1998(平成10)年の長野オリンピック開催時には、前年1997年に開業した長野行新幹線(北陸新幹線の一部)が首都圏からの乗客を運び、長野駅から湯田中までは長野電鉄が会場近くまで乗客を運ぶという連携も見られた。
長野電鉄の車両は、かつてはオリジナル車両が中心だったが、近年は他社からの中古車両に置き換わっている。普通列車では東急や東京メトロの通勤車両、特急列車では小田急ロマンスカーやJR東日本の成田エクスプレスの車両を短編成に改造し、ほぼ元の外観・内装のまま運転している。北陸新幹線の長野駅を下車し、長野電鉄の地下ホームに降りると、引退したはずの成田エクスプレスの車両が待っているという珍しい光景も見られる。
一方、北陸新幹線の開業にともない、旧信越本線を第三セクター化したしなの鉄道は、2012年の屋代線廃止により屋代駅での接続が途絶えている。ただ、信越地域の鉄道事業者5社(長野電鉄、上田電鉄、アルピコ交通、北越急行、しなの鉄道)では、各社の鉄道むすめやオリジナルキャラクターをデザインした「謹賀新年ヘッドマーク」を車両に掲出するなど、一定の協力関係は維持されている。
タッチ決済との競合

長野電鉄を走るかつての成田駅クスプレスの車両(画像:長野電鉄、日本スキー場開発)
長野エリアでは既に路線バスやしなの鉄道でSuicaとの連動が始まっており、その流れがJR東日本と補完関係にある長野電鉄に及ぶのは自然な流れだった。
ただ、Suicaには逆風が吹き始めているとの指摘もある。
JR東日本によると、Suicaの発行枚数は1億枚を超え、交通系ICカードの「王者」とされてきた。しかし近年、クレジットカードのタッチ決済が伸び始める兆しを見せている。大手私鉄など関東の鉄道事業者11社局は、2026年3月25日からクレジットカードなどのタッチ決済による後払い乗車サービスの相互利用を開始すると発表した。
Suicaなど交通系ICカードで改札を通過する時間は0.2秒と非常に短いのに対し、クレジットカードのタッチ決済はセキュリティ上の制約で交通系ICカードの倍以上の時間がかかるとされる。大都市圏のラッシュアワーでは、0.2秒が0.5秒になるだけでも改札の混雑に影響する可能性がある。
一方、地方私鉄ではラッシュアワーの混雑度が低く、クレジットカードのタッチ決済に対するハードルは相対的に低くなる可能性もある。
JR東日本のSuica経済圏が今後、各地に拡大するのか、注目される。