「ウイスキーはどうも苦手で…」とハイボールを飲む人が知らない、ウイスキーの基礎知識

品揃えが豊富なバーほど、オーダーに戸惑う人は多いだろう Photo by Satoshi Tomokiyo

「山崎」や「白州」、「余市」など、ジャパニーズウイスキーが世界的に評価されるようになって久しい。しかし、ウイスキーについてどこまで正確に認識しているかというと、意外と心許ない人が多いのではないだろうか。そこで本稿では、もっとウイスキーを身近なものにするために、いまさら人に聞けない基礎知識を解説する。(フリーライター 友清 哲)

ジャパニーズウイスキーは

「世界5大ウイスキー」のひとつ

 飲み会などの場で、「ウイスキーはどうも苦手で……」と言いながら、ハイボールを嗜んでいる御仁を見かけることがある。ところが、そのハイボールはソーダで割られた「角」などのウイスキーであったりするから不思議だ。

 決して重箱の隅をつつきたいわけではない。要はハイアルコールな飲料に苦手意識があり、水やソーダで薄めてしまえば無問題ということなのは察している。

 しかしここで気になるのは、日本はいまや立派なウイスキー大国のひとつなのに、まだまだ人々のウイスキーに対する認識が曖昧に見えることである。

 何しろジャパニーズウイスキーは、スコッチウイスキー、アメリカンウイスキー、カナディアンウイスキー、アイリッシュウイスキーと並んで「世界5大ウイスキー」に数えられる名門なのだから、もっと楽しまなければもったいない。

世界的に人気が高いジャパニーズウィスキー。 Photo by Satoshi Tomokiyo

 そこであらためてのおさらいを試みると、そもそもウイスキーの定義とは、大麦などの穀物をモルト(麦芽)の酵素で糖化し、アルコール発酵させた蒸留酒であることだ。

 モルトを主原料とする点ではビールに近いが、蒸留の過程を経るのが大きな違い。また、原料の穀物は大麦だけに限らず、ライ麦やトウモロコシを用いることも多い。

 ユニークなところでは、蕎麦の実(バックウィート)を使ったウイスキーがフランスのブルターニュ地方に見られる。ブルターニュ地方といえば蕎麦粉を原料とするガレット発祥の地であるから、これもお国柄の表れだろう。

「3年以上の熟成期間が必要」が

価格高騰と品薄の要因に

 ところで、たびたび価格の高騰が話題にあがるジャパニーズウイスキーだが、その理由のひとつは、世界的な人気により品薄状態が慢性化していることにある。

 日本洋酒酒造組合が定めたジャパニーズウイスキーの定義として、3年以上の熟成期間が必要であるため、急な量産に対応しにくいのも、品薄に陥る要因だろう。人気の集中する商品は、10年、12年の熟成期間を要するものであるから尚更だ。

 ちなみに日本における市場の推移を見ると、戦後の経済成長と共にウイスキーの生産量、消費量は右肩上がりを続け、1983年にピークを迎える。この年、国内での消費量は実に約38万キロリットルに達している(※ただし、当時の分類によりおよそ1割はブランデーが占める)。

 その後、バブル経済の崩壊がダウントレンドに拍車をかけ、さらには日本酒人気、ワイン人気の煽りを受けてウイスキーの消費量は急速に低下。2008年の消費量は約7万5000キロリットルと、ピーク時の5分の1にまで市場は縮小してしまう。

 しかしその背景で、今日のブームに繋がる下地がしっかりと醸成されていたことは見逃せない。

 一例を挙げれば、2003年の世界的なコンペティション「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ」において、「山崎12年」が金賞を受賞。翌年の同コンペティションでも「響21年」が金賞を、「響30年」がISCトロフィー(最高賞)を受賞するなど、ジャパニーズウイスキーの品質が認められ始めたのだ。

熟成期間を置くことで、ウイスキーは風味を増す。 Photo by Satoshi Tomokiyo

 こうなると世界がジャパニーズウイスキーに目を向けるのも当然のこと。その一方で、国内ではサントリーが仕掛けたハイボールブームが起こり、ニッカウヰスキー創業者を題材としたNHKドラマ『マッサン』が人気に火を付けるなど、ますます市場は活性化していく。

 ジャパニーズウイスキーの品薄と高騰が話題にあがり始めたのもこの頃で、つまりは低迷期からの急激な人気の高揚に、供給が対応しきれなかったと言える。

 さらには日本におけるクラフトウイスキーの始祖、ベンチャーウイスキーが『イチローズモルト』で世界を席巻したのを皮切りに、各地に蒸留所が次々に誕生。昨今、「山崎」や「白州」といったメジャー銘柄の他にも、多くの国産ブランドを目にするのはそのためだ。

 逆にいえば、選択肢が増えた分、手が届くジャパニーズウイスキーは増えている。いまこそ、バーに繰り出してお好みの逸品を見つけてほしい。

ウイスキーは大まかに

「グレーン」と「モルト」の2種類

 オーセンティックなバーを訪ねると、バックバー(棚)には国内外の様々な銘柄が林立している。何をオーダーしていいのかわからず、まごまごしてしまう人も多いだろうが、目の前にはバーテンダーという最高のコンシェルジュがいるわけだから、最低限の希望を伝えられればそれでいいはずだ。

 たとえば、前述の五大ウイスキーから好きな国を選び、「カナディアンを飲んでみたいのですが」とやるのもよし。「あまりお酒に強くないので、ソーダ割りで楽しめるものを」とやるのもよし。酒は嗜好品だから、無理なく思い思いの楽しみ方をするのが一番だ。

 そのうえで、ウイスキーは大まかにモルトウイスキーとグレーンウイスキーの2種類に大別できることを押さえておくと、オーダーする際にひとつの判断基準になるだろう。

 モルトウイスキーとは発芽させた大麦(つまりモルト)を主原料とするもので、グレーンウイスキーとはそれ以外の穀物(小麦やライ麦、トウモロコシなど)を主原料とするものだ。

 また、よく耳にするシングルモルトとは、単一の蒸留所で作ったモルトウイスキーだけで構成されたものを指している。だから国内外を問わず、シングルモルトは土地の風土を感じやすく、蒸留所の風景を思い浮かべながら味わう楽しみもあるだろう。ジャパニーズウイスキーでいえば、「山崎」や「白州」、「余市」などがこれに相当する。

 それに対し、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混ぜて仕上げたものを、ブレンデッドウイスキーと呼ぶ。個性の異なる複数のモルトウイスキーを掛け合わせ、その風味をグレーンウイスキーが引き立てる特性があり、「響」を筆頭に、「トリス」や「陸」、「角瓶」などがこれに相当する。

 こうしたカテゴライズを意識しておくと、オーダーする際にも「スコッチのシングルモルトを飲んでみたいのですが」と、より具体的に要望を伝えられるようになるはずだ。

スモーキーな香りを出す

「ピート」ってなんのこと?

 ところで、ウイスキーの中には煙っぽいフレーバーを利かせたものもある。スコットランドのアイラ島で生産される「ボウモア」や「ラフロイグ」あたりが有名だが、これは原料の麦芽を乾燥させる際に使われる、ピートの作用によるものだ。

 ピートとは、植物が長い年月をかけて堆積した泥炭のこと。スコットランドの北部などで採掘され、15センチ堆積するのに1000年かかるとも言われる天然の貴重品だ。

 ちなみに日本では北海道の道東、厚岸町付近で採掘できることが知られている。当地のウイスキー「厚岸」は、本場さながらにスモーキーなウイスキーで、いかにもツウ好み。機会があればぜひトライしてみてほしい。

ピートの利いたジャパニーズウイスキー「厚岸」。 Photo by Satoshi Tomokiyo

 ウイスキーにハイソなイメージを持つ人もいるかもしれないが、こうした最低限の基礎だけ押さえておくだけで、格段に解像度は上がるはず。シングルモルトでもブレンデッドでも、あるいはジャパニーズでもアメリカンでも、視野を広げて楽しめば、きっと自分好みの1杯にたどり着けるだろう。

 もともとは「命の水」を意味するラテン語が語源とされるウイスキー。発祥は12世紀のアイルランドと言われ(※諸説あり)、長い年月をかけてブラッシュアップされてきたこの酒は、まさしく自然の恵みと人の技術の結晶というに相応しい。

 ぜひ日々の疲れやストレスを癒やしながら、じっくりと味わっていただきたい。