「中国の部品が9割?」トヨタ“EV変革”が迫る供給網の転換、系列維持に突きつけられた現実とは
中国へ移る主導権
世界最大の電気自動車(EV)市場である中国において、トヨタや日産、マツダなどの日本メーカーは、中国企業への開発権限の移動を進めている。
【画像】「えぇぇぇ!」 これがトヨタ自動車の「平均年収」です!(7枚)
開発期間の短縮や現地の需要に沿った商品展開、コスト競争力の強化を掲げているが、実際には日本メーカーが長年保ってきた開発の主導を中国側の体制に任せる動きにほかならない。内燃機関車で優位を築いてきた物理的な資産や特許は、ソフトウエアや開発の速さを重視する中国の体制の前で、その価値が相対的に下がっている。
日経クロステックは2026年3月16日、トヨタが現地主導で開発したEVモデル「鉑智3X(bZ3X)」について、部品の大半を中国企業から採用した“bZショック”を報じた。トヨタはこの報道を否定しているが、複数のアナリストの分析では、部品の最大9割近くが中国企業から供給されているとされる。
bZ3Xはトヨタと広州汽車集団の合弁会社である広汽トヨタが開発を主導しており、従来トヨタを支えてきた系列の日系部品メーカーの多くが受注を得られなかった。
これまで日本メーカーの車両開発は本社が全体の責任を負う体制で進められてきた。しかし、中国向けEVの開発は現地企業に任される形へと変わりつつある。この変化は現地生産の枠を超え、供給網を動かす権限が中国側へ移っていることを示している。
日本メーカーは自社の技術的な基盤を、中国の資源に合わせて活用する道を選んだといえる。本稿では、日本メーカーが中国企業へ開発権限を任せる背景を整理し、供給網が中国中心に移りつつある現状を踏まえ、日系サプライヤーが生き残る道を探る。
低価格戦略の成果

トヨタ・鉑智3X(bZ3X)(画像:広汽トヨタ)
トヨタのEV「bZ3X」は、2025年3月6日に中国で発売された。予約開始から1時間で1万件を受注し、予約サイトへのアクセスが集中して接続できなくなる事態も発生した。7月末までのおよそ4か月で約2.6万台を販売し、12月末には累計で8万台を超えた。
人気が集中した要因は、日本メーカーのEVとしては例のない水準の低価格にある。車両価格は10.98万~15.98万元(約253万~368万円)で、比亜迪(BYD)の主力モデルである「元PLUS」と競合する。この価格帯での競争力が購入を後押ししており、日本車のブランド価値が価格との関係のなかで相対化されている状況がうかがえる。
広汽トヨタによる開発は、低価格の実現を重視する一方で、トヨタが長年強みとしてきた信頼性や使いやすさも維持している。しかし経済的に見ると、日本メーカーが利益率を抑え、中国の市場条件に合わせる方向へ踏み込んだ結果でもある。
実際の利益の多くは、基盤を提供した中国側の企業へと流れる構造になっており、日本メーカーにとっては収益と引き換えに市場での存在を確保する状況が続いている。トヨタはbZ3Xの実績を踏まえ、現地への開発の任せ方をさらに進め、EV市場での地位を維持するための体制づくりを進めている。
部品構成の変化

bZ3Xに採用されたモメンタ5.0(画像:広汽トヨタ)
広汽トヨタが生産するbZ3Xは、広州汽車のEV専用基盤「AEP 3.0」を土台とするスポーツタイプ多目的車(SUV)型の小型EVである。若い層を意識した外観と新しさを前面に出しており、その費用対効果は広州汽車の供給網を広く使った部品調達に支えられている。
運転支援には北京初速度科技(モメンタ)の「モメンタ5.0」や徳賽西威の制御装置を用い、RoboSense製のLiDARも標準で備える。エヌビディア製の半導体やiFLYTEKの音声支援機能を持つ車内装置は、現地の使い方に合っている。駆動用の電動機はニデックと広州汽車の合弁会社が供給している。
日経の報道によれば、トヨタはbZ3Xに続くbZ5でも中国系の部品を多く使っている。2026年3月5日に受注を始めたbZ7では日系部品の割合を3割ほどまで高めたが、中国側の部品を重視する流れに変化は見られない。
車体の骨格やソフトの中核を中国企業が担う現在の状況では、一度組み込まれた体制を他社のものへ切り替えることは容易ではない。このような環境では、独自の強みを持たない日系部品メーカーは、収益の低い周辺部品の供給にとどまる傾向が強まっている。
日本メーカーが日系部品メーカーを使いたくても使えない状況は、市場の前提が変わったことを示している。品質や信頼を優先する日本のやり方では、半年から1年という中国の短い開発期間に対応しにくい。bZ7で見られる日系部品の比率の引き上げも、競争力による選別というより、国内の供給網を維持するための判断に近い面がある。
現在の開発の進め方や作業の速さの差は、日系部品メーカーが中国側の進め方に合わせることを難しくしている。
東南アジアへの波及

オギハラのウェブサイト(画像:オギハラ)
日本メーカーが中国企業へ権限を移したことで、現地の需要に沿った部品選びが進んでいる。日系サプライヤーは、ソフトを中心とした車両づくりや知能化への対応に加え、開発の進め方を大きく速める必要がある。中国企業だけで完結する開発体制が今後も広がる見通しのなかで、日系サプライヤーが日本メーカーの事業に関わる余地は狭まりつつある。
トヨタは中国での成果を東南アジアにも広げる考えだ。2028年ごろに東南アジアで投入する新型車では、中国系部品を使い、従来より3割のコスト削減を目指す。この3割という大きな削減目標は、既存の日系取引先の工夫だけでは届きにくく、調達先のあり方そのものを見直す動きを示している。
実際に、タイの有力な提携先であるサミット・グループに、中国の内装材メーカーである「蕪湖躍飛新型吸音材料」を紹介し、2025年1月に共同出資会社を設けた。日系メーカーが自ら中国部品企業の海外進出を後押しする動きは、これまでに見られなかった。
タイのサミット・グループは2009(平成21)年に日本の金型大手オギハラ(群馬県太田市)を買収した経緯を持つが、現在は中国企業の力を取り込む方向へと動いている。日系メーカーが東南アジアという自らの基盤に中国企業を受け入れる動きは、既存の供給網に変化をもたらしている。
市場の要望を速やかに製品へ反映させる体制を整えるためには、コストと速度に優れる中国企業との連携が欠かせない状況にある。
日系サプライヤーの道

トヨタ・鉑智3X(bZ3X)に搭載されているADAS機能例(画像:広汽トヨタ)
日系サプライヤーは、日本メーカーとの関係を保つだけでは事業の継続が難しくなっている。中国メーカーや現地に進出した欧米メーカーへの参入も容易ではなく、道は限られている。
中国企業と対等に競うには、これまでの付加価値に頼るだけでは足りない。費用の見直しを徹底し、開発の進め方を速めることが重要になる。現地の開発体制を整え、日本からの支援をすぐに反映できる体制を早く作ることが、生き残りにつながる。
これまでのやり方を続けても状況は開けない。日系サプライヤーは高い品質と信頼性で強みを築いてきたが、EVが広がるなかで、その価値が価格に見合わなければ、他社に置き換えられる可能性は高い。市場での競争の軸が、仕上がりの良さから投じた費用の回収の速さへと移っているためである。
求められるのは、費用の構造を見直し、開発の速度を大きく高めることである。従来の開発の進め方を見直し、部品のまとめによって点数を減らすことや、現地での調達割合を高めることが必要になる。
また、意思決定の段階を減らして現場に判断を任せ、ソフトに関わる人材を強化することで、時間を重視した運営へ移る必要がある。中国の基盤を活用しつつ、日本が培ってきた安全性を組み合わせる役割を担うことが、新たな価値につながるだろう。
主導権の所在

日本のEV戦略と中国主導への転換。
“bZショック”が示した事実は、特定の事例にとどまらない。供給網を動かす主導の側は中国へ移っており、品質の高さだけで選ばれる時代は終わった。現在の市場が求めるのは、中国の基準に合う速さと低価格を両立する対応力である。
日系サプライヤーが存続するには、日本本社による中央での統治を見直し、判断の権限を中国や東南アジアの現場へ移す必要がある。現地の変化にすぐに合わせられる組織へ変わらなければならない。
これまで国内で積み重ねてきた成功に依存せず、国の違いにとらわれない技術集団として行動する覚悟が求められる。日系サプライヤーが今後も生き残れるかどうかは、これから数年の動きのなかで明らかになる。