残念ですが、高年収でも学生は集まりません。優秀な若手に選ばれない「日本企業」の致命的なズレ

大学生の92%以上が生成AIを利用している, 学生に「選ばれる企業」と「見切られる企業」が決まる?, AIが生成した文章を提出することに抵抗感がない世代, 企業側に必要なのはアンラーニング, 新入社員はAIですぐにアウトプットを出せるが、中身が育っているとは限らない, 世代を超えて、AIと共存する職場をつくるために, 「選ばれる企業」になるための4つの条件, 高年収やきれいなオフィスだけではいい人材は来ない, 2040年、事務職が440万人余る

写真はイメージです Photo:PIXTA

今年も入社式の季節がやってきた。生成AIを使いこなす若手が当たり前になる時代、企業は「選ぶ側」ではなく「選ばれる側」へと立場を変えつつある。AI禁止、デジタルに弱い上司、旧来の評価軸――そんな環境は、優秀な人材ほど静かに見切られる。2029年、“新世代”の社員たちが本格的に押し寄せる。それまでに、新しい世代を迎える企業側は、何をどう変えればいいのだろうか。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

大学生の92%以上が生成AIを利用している

 今年の新社会人は、学生時代に生成AIの爆発的普及を経験した世代だ。直近の全国大学生協連の調査では、大学生の92.2%が生成AIを利用したことがあると回答している。その用途は、授業や研究、論文・レポート、メール作成など、学生生活の中心的な活動にまで広く浸透していることが分かる。

大学生の92%以上が生成AIを利用している, 学生に「選ばれる企業」と「見切られる企業」が決まる?, AIが生成した文章を提出することに抵抗感がない世代, 企業側に必要なのはアンラーニング, 新入社員はAIですぐにアウトプットを出せるが、中身が育っているとは限らない, 世代を超えて、AIと共存する職場をつくるために, 「選ばれる企業」になるための4つの条件, 高年収やきれいなオフィスだけではいい人材は来ない, 2040年、事務職が440万人余る

第61回 学生の消費生活に関する実態調査報告書「CAMPUS LIFE DATA 2025」より

 2029年、その流れはさらに加速する。

 2022年、高校で「情報I」が必修化され、AIやプログラミング、データサイエンス、情報セキュリティの基礎を教科として学ぶ時代が始まった。2025年には大学入学共通テストにも登場。スーパーマーケットのシステム設計やデータ分析などが出題され、情報を活用する力が問われた。この世代が大学を卒業して社会に出始めるのが2029年だ。活躍が期待できる新入社員が増えることは間違いないだろう。

学生に「選ばれる企業」と「見切られる企業」が決まる?

 問題は、受け入れる企業側が変わっていないことだ。「AIは社内規定で禁止」ともなれば、そもそも企業選びの選択肢に入らない。仮に入社しても、上司がデジタルに疎ければ正当に評価できない。結果、辞めてほしくない人材ほど、早々に見切りをつけて去っていくだろう。

 そうならないために、新しい世代を迎える企業側は、何をどう変えればいいのか。中高生のプログラミング教育から企業のDX人材育成まで手がける、ライフイズテックの最高AI教育責任者(CEAIO)讃井康智さんに取材した。

AIが生成した文章を提出することに抵抗感がない世代

――これからの新入社員は、これまでの世代とどう違うのでしょうか?

 この世代には、ITリテラシー以外にも注目すべき傾向があります。探究力とプレゼンテーション力の高さです。中高生の頃から探究学習で発表を繰り返してきただけに、新入社員の発表のクオリティがここ数年かなり上がっていることは、多くの人事担当者が実感していることだと思います。

大学生の92%以上が生成AIを利用している, 学生に「選ばれる企業」と「見切られる企業」が決まる?, AIが生成した文章を提出することに抵抗感がない世代, 企業側に必要なのはアンラーニング, 新入社員はAIですぐにアウトプットを出せるが、中身が育っているとは限らない, 世代を超えて、AIと共存する職場をつくるために, 「選ばれる企業」になるための4つの条件, 高年収やきれいなオフィスだけではいい人材は来ない, 2040年、事務職が440万人余る

ライフイズテック 最高AI教育責任者(CEAIO) 讃井康智さん:中高生向けプログラミング教育を全国に広げる中で、「子どもたちの人生を変えるには、採用する企業側の意識を変えなければならない」という思いから、企業向けDX人材育成を本格化。現在は中高生教育から企業・組織変革まで手がけている。 Photo by Mayumi Sakai

 ただ、私が一番伝えたいのはマインドセットの違いです。分かりやすいのがAIへの抵抗感。上の世代は、AIが出した文章をそのまま提出することに、どこか後ろめたさを感じる人が少なくありません。でもこの世代は、抵抗を感じない人が多い。「質が良ければそのまま出せばいいじゃないか」という発想です。

企業側に必要なのはアンラーニング

――それは、手を抜いているということですか?

 むしろ逆です。目的志向が強いのだと思います。ドラマを1.5倍速で観るのと同じように、「同じ成果が得られるなら、より短時間で達成できたほうがいい」という感覚です。「そりゃあ違うだろ」とつい言いたくなるんですが、AIと対話しながら磨き上げて、質が十分であればそれを出せばいい。書く苦労そのものより、価値あるアウトプットを速く出して次に繋げることを重視する。決して思考を放棄しているわけではなく、徹底した目的志向の結果なんです。

 もちろん、AIが間違ったり、著作権を侵害したりするリスクはある。でもそれは人間だって同じで、今まで通りダブルチェックすればいい。

 企業側に必要なのは、アンラーニング。つまり、これまで正しいとしてきたやり方を意識的に手放す勇気です。AIを使って出してきた成果物が十分期待に応えているのに、「それは自分たちのやり方じゃない」と否定する人になってしまったら、終わりだと思います。下手したら、30代で「老害」と呼ばれてしまうかもしれません。

新入社員はAIですぐにアウトプットを出せるが、中身が育っているとは限らない

――AIを使いこなす世代が部下になったら、どんなことに気をつけて育成すればいいのでしょうか。

 AIをフル活用できる世代だからこそ、2つ落とし穴があります。

 1つ目は、ビジネスパーソンとしての基礎体力が育ちにくいことです。昭和から平成の職場環境は、必ずしも褒められたものではありません。でも、すぐに結果が出ない仕事、理屈では割り切れない人間関係――そういった理不尽に粘り強く向き合う中で、やり抜く力が鍛えられてきた部分はある。ホワイト化・効率化が進む今、そこで失われるものをいかに補っていくかが問われています。

 2つ目は、アウトプットは出せるものの、中身が育っていない状態になりかねないことです。人材育成理論として知られるコルブの経験学習モデルでは、「経験→振り返り→概念化→実践」の繰り返しが人を育てるとされています。ところが、AIを使えば一足飛びに熟達者のようなアウトプットが出せてしまい、経験学習のサイクルが回らない恐れがあります。今後は熟達プロセスそのものが、AIを前提としたものに変わっていくでしょうが、AIが出したアウトプットをベースに「なぜこれはイマイチなのか」を先輩と一緒に考えたり、周囲からフィードバックをもらったりすることで、中身がともなった熟達を意識的に実現することが大事になるでしょう。

大学生の92%以上が生成AIを利用している, 学生に「選ばれる企業」と「見切られる企業」が決まる?, AIが生成した文章を提出することに抵抗感がない世代, 企業側に必要なのはアンラーニング, 新入社員はAIですぐにアウトプットを出せるが、中身が育っているとは限らない, 世代を超えて、AIと共存する職場をつくるために, 「選ばれる企業」になるための4つの条件, 高年収やきれいなオフィスだけではいい人材は来ない, 2040年、事務職が440万人余る

「AIを使って自ら学ぶ若手の方が、正直、私よりよっぽど専門家になれる時代ですよ」と本音を語る讃井さん Photo by M.S.

 人間の上司にしか教えられないこともあります。必要な根回しやキーパーソン、その上司自身の経験など、独自の文脈とAIのアドバイスを掛け合わせて次の一手を考えられるのは人間だけです。それに案外ビジネスの現場では、そっちの方が重要だったりしますよね。

世代を超えて、AIと共存する職場をつくるために

――AIを使いこなす世代と上の世代が同じチームで働くとき、どんな摩擦が予想されますか。

 派手な衝突というより、じわじわしたすれ違いだと思います。「AIで作ったものをそのまま出すのはどうなんだ」という上の世代の感覚と、「成果が出ればいいじゃないですか」という若い世代の感覚。どちらも悪意はない。でもそれが積み重なって、やがて「ここでは自分の力が生かせない」という判断につながっていく。

――どうすれば、分かり合えるのでしょうか。

 まずは、全社員がAIを活用してみることです。「面白いな」とか「自分でもできた」とか実感して初めて、「彼らが言っているのはこういうことか」と理解できると思います。

 そして、リバースメンタリング。若手がメンターとなって、上司や経営層にテクノロジーや若い世代の感覚を教える、上下関係を逆転させた育成方法です。最近、入社3年以内の若手が役員にAIの使い方を教えるリバースメンタリングを取り入れる企業が増えています。若手にとっては経営層と話せるチャンスですし、役員も普段はプライドが邪魔して聞けないことも、ここまで年齢が離れていると案外素直に質問できたりするんですよね。

大学生の92%以上が生成AIを利用している, 学生に「選ばれる企業」と「見切られる企業」が決まる?, AIが生成した文章を提出することに抵抗感がない世代, 企業側に必要なのはアンラーニング, 新入社員はAIですぐにアウトプットを出せるが、中身が育っているとは限らない, 世代を超えて、AIと共存する職場をつくるために, 「選ばれる企業」になるための4つの条件, 高年収やきれいなオフィスだけではいい人材は来ない, 2040年、事務職が440万人余る

NECでは、新入社員がAIやDXの研修を受けた後、その内容を経営層にメンタリングする取り組み(リバースメンタリングプログラム)を実施している。役員が新入社員から直接学ぶことで、「こんな使い方があるのか」「すごいな君たち、こんなことができるんだ」という気づきが生まれ、世代間の相互理解につながっているという 写真提供:ライフイズテック

「選ばれる企業」になるための4つの条件

――AIを使いこなす世代に「選ばれる企業」になるために、何をすればいいでしょうか。

 技術力のある学生の「JTC離れ」はすでに起きています。JTCとは「Japanese Traditional Company」の略で、終身雇用や年功序列など伝統的な慣行が残る大手日本企業を指す言葉です。当社でプログラミングを学んだ学生も、テックベンチャーや外資系企業、起業やフリーランスを選ぶケースが多く、JTCは減少傾向にあります。

 では、選ばれる企業になるためにはどうすればいいのか。4つあります。

 1つ目は、新卒採用のページで、使えるAIツールなどを明示することです。大学時代に使ってきたGeminiやClaude Codeといったツールが使えるかどうか、この世代は早い段階で確認します。「社内規定でAIは禁止」となれば、それだけで候補から外れる可能性がある。「AIが使えなければ仕事にならない」と本気で思っているからです。

 2つ目は、若手のロールモデルを育て、イベント登壇やメディア露出など積極的に発信することです。「あの会社では2年目でこんな仕事ができる」という実例が見えると、活躍できるイメージがわきますよね。たまたま現れた逸材頼みではなく、ロールモデルを意識的に育てて発信していくことを、人事戦略として位置づける必要があります。

 3つ目は、採用ルートそのものを変えることです。偏差値は高くないけれど技術力がある学生は、一つの窓口で判断する企業には応募しない傾向があります。エントリーシートで弾かれると分かっていますから。例えば、技術実績で評価する別の窓口を作り、CIOやCTOなど技術に詳しい社員が面接に関わる。「この会社は話が通じそうだ」となると、興味を持ってくれる層が変わってくると思います。

 そして4つ目、一番大事なのは、「人事が今どきの採用ページを作ればいいんでしょ」「若手やDX部門が頑張って発信すればいいんでしょ」という考えを捨てることです。これからの企業の標準は、全職種・全世代がAIを当たり前に使えること。特に急ぎたいのは、マネージャー層の底上げです。若手のスキルを正当に見極め、生かせるマネージャーがいるかどうか。それが、骨太な改革と表面的なアピールの分かれ目になるでしょう。

高年収やきれいなオフィスだけではいい人材は来ない

――年収は関係ないのでしょうか。

 もちろんあります。ただ、技術力のある学生にとって大事なのは、「自分の能力が生かせるか」「もっと伸ばせる組織かどうか」です。年収が多少低くても、挑戦できる環境やロールモデルがあれば興味を持ってくれる。逆に年収を上げても、満足にAIも使わせてもらえないようでは、優先順位は下がるでしょう。

 JTCが戦うべき相手は、今や国内の同業他社ではなく、グローバルの人材市場です。いいオフィスを作っただけでは、いい人は来ません。何に投資すべきか、そろそろ本気で考える時期だと思います。

――国レベルでは、何が足りていないと思いますか。

 日本の問題は、リスキリングが個人任せになっていることです。コーポレートガバナンス・コードのような形で、企業内でのリスキリングを原則にしていかなければ、この問題はいつまでも「やる企業とやらない企業」「やる人とやらない人」の話に留まったまま。国全体のアップデートにはなりません。

2040年、事務職が440万人余る

 経済産業省が2026年3月に発表した「2040年の就業構造推計」によると、2040年にはAIやロボットを活用できる人材が約340万人不足する一方、事務職は約440万人余るといいます。

大学生の92%以上が生成AIを利用している, 学生に「選ばれる企業」と「見切られる企業」が決まる?, AIが生成した文章を提出することに抵抗感がない世代, 企業側に必要なのはアンラーニング, 新入社員はAIですぐにアウトプットを出せるが、中身が育っているとは限らない, 世代を超えて、AIと共存する職場をつくるために, 「選ばれる企業」になるための4つの条件, 高年収やきれいなオフィスだけではいい人材は来ない, 2040年、事務職が440万人余る

2026年3月に経済産業省が発表した「2040年の就業構造推計(改訂版)について」より

 このギャップを受け、文科省は今、文系から理系・情報系への構造転換を強力に促しています。文系が好きでもいい。でも、そこにAIやデータを活用する力を掛け合わせられなければ、仕事を失うリスクがあるということです。これはもはや個人の努力だけで解決できる話ではありません。企業と国が本気で向き合うべき問題です。今が動き出せるかどうかが分岐点だと思っています。

大学生の92%以上が生成AIを利用している, 学生に「選ばれる企業」と「見切られる企業」が決まる?, AIが生成した文章を提出することに抵抗感がない世代, 企業側に必要なのはアンラーニング, 新入社員はAIですぐにアウトプットを出せるが、中身が育っているとは限らない, 世代を超えて、AIと共存する職場をつくるために, 「選ばれる企業」になるための4つの条件, 高年収やきれいなオフィスだけではいい人材は来ない, 2040年、事務職が440万人余る

著者プロフィール