「3時間もタダで待てません」4月の荷主義務化とタイパ時代、ドライバー34%不足予測が突きつける物流改革の限界と現場負担
物流政策転換の局面
2026年は、日本の物流産業にとって大きな転換点となるはずだ――。
【画像】「えぇぇぇ!」 これがトラックドライバーの「最新年収」です!(計8枚)
これまでの物流政策は、運送会社や倉庫会社などの物流事業者に対し、責任の所在を置き、罰則も含めて対応を求めてきた。しかし「物流の2024年問題」をきっかけに、物流の改善を進めるうえで中心となるのは物流事業者ではなく、メーカー、小売、卸などの荷主であるという認識が広がり、荷主にも改善の責任を求める方向へと政策が変わった。
そのうえで物流効率化法などが改正され、荷主に対して物流改善の取り組みが義務づけられた。これを行わない場合の罰則も整えられ、2026年4月に施行される予定である。
ただし、政府が定めた法令にはいくつかの課題が残る。そのひとつが、荷待ちや荷役の時間など、トラック輸送における無駄な時間を減らすために設けられた
「1運行2時間ルール」
をめぐる扱いである。
タイパ志向の広がり

物流トラック(画像:写真AC)
最近、若い世代を中心に「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉がよく使われている。仕事だけでなく、ドラマやアニメ、映画などを見るときにも、早送り再生を使い、時間を節約する動きが広がっている。
こうしたタイパを重視する人からすれば、1日の労働時間のうち4分の1が無駄になっているといった状況は受け入れがたいものに映るだろう。
トラックドライバーの平均拘束時間は1日11時間46分で、そのうち3時間2分は荷物の積み込みを待つ時間(荷待ち時間)や積み込み作業(荷役時間)、荷札の貼り付けなどの付帯作業に使われている(2024年度実績)。
客観的に見れば、「その分、早く帰れるようにすべきだ」と考えるのが自然だろう。
しかし実際には、この3時間を超える時間はほとんど賃金に反映されてこなかった。本来、ドライバーの役割は運転であるにもかかわらず、立場の弱い運送会社やドライバーは、荷主側の都合によって1日約3時間、全体の4分の1にあたる
「無償の作業」
を強いられてきた。
輸送力不足の深刻化

物流トラック(画像:写真AC)
現在の日本社会は、ドライバーの高齢化に加え、少子高齢化や働き手の減少も重なり、「荷物が運べない」物流の危機に直面している。シンクタンクの予測では、2030年度には輸送能力が
「34.1%不足する」
見通しだ。このような状況のなかで、ドライバーに無駄な時間を使わせている余裕はほとんどないはずである。
こうした背景を受け、政府は物流効率化法を施行し、すべての荷主に対して輸送の効率を高める努力義務を課した。さらに一定量以上の貨物を扱う荷主は特定荷主として指定し、努力義務ではなく罰則付きの義務を課す仕組みとした。なお、特定荷主が扱う貨物の合計は国内輸送量のおよそ半分にあたるように設定されており、物流の混乱を防ぐ狙いがある。
こうした政府の取り組みは物流改革の政策と呼ばれている。そのなかのひとつが前述の「1運行2時間ルール」である。
・1運行あたりの荷待ちや荷役などの時間を2時間以内にすること
・1回の積み降ろしにかかる荷待ちや荷役などの時間を1時間以内にすること
・結果として、ドライバーひとりあたり年間125時間の拘束時間削減を目指すこと
ただし、ここには矛盾も見える。1回の積み降ろし時間を1時間以内に収めたとしても、積み降ろしが3回、4回と重なる運行では、全体を2時間以内に収めることは難しくなる。
さらに問題となるのが、運用の前提として示された条件である。「1運行2時間ルール」は荷主に課されるものだが、荷待ちや荷役などの時間として扱われるのは、
「あくまで荷主側の都合で発生した時間」
に限られている。
バース予約管理の仕組み

物流トラック(画像:写真AC)
バース予約受付システムとは、工場や物流拠点、小売店など、トラックが荷物の積み降ろしを行う場所で、作業の時間を事前に予約したり、実際にかかった時間を記録したりして、荷待ちや荷役の時間を管理するための仕組みである。
このシステムには、予約機能を使わず受付機能だけを使う場合と、時刻指定や時間帯指定とあわせて受付機能を使う場合がある。
とくに問題となるのは、時間帯指定ではなく時刻指定のみを認める運用である。例えば予約時刻が午前9時の場合、「1運行2時間ルール」では、9時を過ぎて荷主側の都合で待機が発生した場合だけが荷待ち時間として扱われる。しかし運送会社側は、9時の予約であっても余裕を見て現地に到着せざるを得ない。
・渋滞などを考え、30分早い8時30分に到着しても、この30分は運送会社側の判断として扱われ、荷待ち時間には含まれない
・仮に9時に間に合わず、荷主の指示で13時から積み込みが始まった場合でも、その間の4時間は予約に遅れた運送会社側の事情とされ、荷待ち時間には含まれない
このように、時間帯指定ではなく時刻指定のみの運用では、現場で避けがたい待機時間が運送会社側の負担として扱われやすい。そもそも、渋滞などの影響を考えれば、指定時刻にぴったり到着することは現実的に難しい。
荷主の立場から見れば、時間帯ではなく時刻だけを指定する運用にすれば、荷役時間は別として、荷待ち時間を理論上ゼロに近づけることもできる。さらに、バース予約受付システムのなかには、「1運行2時間ルール」の解釈の隙間を利用する方法を荷主に助言し、営業につなげようとする事業者も存在している。
ルールの位置づけ

物流トラック(画像:写真AC)
「1運行2時間ルール」は、輸送のむだを減らし、物流の危機を避けるために導入された仕組みのひとつにすぎない。本来であれば輸送の効率を上げるには、「荷待ちは荷主の責任か、それとも運送会社の責任か」といった切り分けに終始するのではなく、荷主と運送会社がともに一日の運び方を見直す必要がある。
先に触れた2024年度の実績では、荷待ち・荷役時間の平均は3時間2分であった。同じ調査は2020年度にも行われており、ドライバーの1日あたりの平均拘束時間は12時間26分から11時間46分へと40分短くなっている。一方で、荷待ち・荷役時間は3時間3分から3時間2分へと、ほとんど変わっていない。
この背景には主に三つの事情がある。
・拘束時間の短縮は運送会社の工夫だけでもある程度進められるが、荷待ち・荷役時間の削減には荷主の協力が欠かせないこと
・荷待ち・荷役時間の削減に対し、荷主側の取り組みが十分とはいえないこと
・削減の必要性は理解されていても、具体的な進め方が分からず手が止まっている荷主がいること
こうした状況のなかで、対応に悩む荷主に対し、バース予約受付システムの事業者が「荷待ち・荷役時間をすぐにゼロにできる方法がある」といった説明を持ちかければ、その言葉に頼りたくなる場面も出てくるだろう。
制度のすき間発生要因

物流トラック(画像:写真AC)
では、「1運行2時間ルール」のすき間はなぜ生じたのか。
・荷待ちや荷役時間の削減は主に経済産業省が中心となって進めてきたが、荷主側に目が向きすぎ、運送会社の現場感覚が十分に反映されていなかった可能性
・一部のバース予約受付システム事業者が、経済産業省の検討過程に強く影響を与えた可能性
後者について補足する。経済産業省に限らず、行政が制度を作る際には、公式・非公式を問わず、専門家や企業、業界団体などから意見を聞くことがある。いい換えれば、どの相手の意見を重く見たかが結果を左右した面があるということだ。「1運行2時間ルール」の作成過程では、
「偏った意見に寄っていたのではないか」
という指摘が、非公式ながら経済産業省を含む複数の関係者から出ていることを筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト))は確認している。
本来であれば、より広い立場の専門家や企業、業界団体の声を聞くべきだったという見方もある。結果として、本来の目的とは異なる形で使われたり、一部の事業者の利益につながる形で運用されてしまったりしている点は否めない。
ルール順守と目的達成のずれ

2026年物流改革の真実。
「1運行2時間ルール」のような法令を守ること自体が目的ではない。本来の目的は、生産性を上げることと、物流の危機を避けることである。
誤解してはならないのは、バース予約受付システムそのものが問題なのではないという点だ。実際に、こうしたシステムをうまく使い、トラック運行のむだな時間を見える形にし、輸送の効率を上げている荷主は多く存在する。
システムは良し悪しを持たない道具にすぎない。その道具をどう使うかは、人の判断に委ねられているのだ。