「廃業も視野に入れています」令和のオイルショック直撃――食料インフレの震源はどこまで拡大するのか?

燃料費高騰の直撃

 産直通販サイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデン(東京都港区)が、登録生産者267人を対象に実施したアンケート(2026年3月16日~18日)の結果によると、一次産業の現場は厳しい状況にある。回答した生産者の3分の2がすでに生産活動への影響を感じており、その要因の9割近くが軽油やガソリンなど燃料費の上昇に集中している。この高さは、これまでの流通がエネルギーの安い調達を前提としてきた実態を示している。

 状況が長引いた場合、8割以上が事業の継続に不安を抱えており、そのうち4割は影響が非常に大きいと答えている。コストの上昇が限界に近づき、事業の継続そのものが難しくなる懸念が広がっている。廃業の可能性が現実の選択肢として意識され始めている。

 一方で、上昇したコストを販売価格に反映できていない、あるいは判断を先送りにしている生産者は4割以上に上る。さらに7割以上が、値上げによって

「注文数が減る」

ことを最も大きな不安として挙げている。生産者が価格と需要のはざまでリスクを一手に抱え込む構図が浮かび上がっている。

燃料高騰が突きつける供給の限界

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「食べチョク」登録生産者を対象とした原油高の一次産業への影響に関する緊急アンケート(画像:ビビッドガーデン)

 現在進行している状況は、一時的なコスト上昇にとどまるものではない。中東情勢の緊迫にともなう「令和のオイルショック」は、日本の一次産業が戦後を通じて築いてきた、安価な化石燃料と長距離トラック輸送を前提とした構造を揺るがしている。これまでの流通は、

・高速道路網の整備

・安価な軽油

に支えられ、距離の負担を費用から切り離すことで成り立ってきた。しかし原油価格の上昇により、移動距離がそのまま利益を削る要因として再び前面に出ている。

 施設園芸の暖房や漁船の重油、農機の軽油に加え、プラスチックの梱包材や化学肥料まで、生産の広い範囲が石油の供給状況に左右されている。1970年代以降、日本の輸送はトラック中心に偏ってきたが、燃料高騰はそのまま運賃の上昇につながる。今の輸送には、この急なコスト増を受け止める余地が乏しい。市場の委託販売や、生産者が輸送費を負担する慣行も障害となり、外部環境の変化を販売価格へ速やかに反映させる流れが弱まっている。

 本質的な問題は、生産から消費までの流れのなかで、コスト上昇の負担が

「最も弱い立場の生産者に集中している」

点にある。これまでの報道は消費者の家計を守る議論に偏りがちで、供給側が事業を続けられるのかという視点が薄い。生産者は長年、輸送費や資材費の上昇分を経営の工夫として自ら抱え込んできたが、その負担はすでに限界に近いのだ。

 資材費や人件費が上がっても、農産物の価格は主に店頭での需給関係で決まるため、生産側のコスト上昇が反映されにくい状態が続いている。消費者は店頭価格しか見る機会がなく、その裏にある輸送費や資材費の構造を知る機会が限られている。そのため値上げへの理解も得にくい。

 流通や小売は販売量の維持を優先し、生産側は経営を守るための値上げを求めるが、現在の市場では両者の調整が十分に働いていない。本来は社会全体で負担すべき石油由来の梱包材や肥料のコスト増が、生産者の収益を直接圧迫する形で処理されているのだ。

価格形成の見直しと制度整備

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「食べチョク」登録生産者を対象とした原油高の一次産業への影響に関する緊急アンケート(画像:ビビッドガーデン)

 補助金による一時的な補てんは、根本的な解決にはならない。エネルギー価格が今後も高止まりする前提に立ち、生産者が事業を続けられるだけの価格水準をどう作るかが問われている。

 これまでのように広い範囲へ効率よく運ぶ形を続けるのか、それとも地域のなかで完結する形へ移るのか――という判断も避けられない。移動に使うエネルギーを抑え、その負担を供給に関わる人々がどう分け合うか。流通のつながり方そのものを見直すことが、解決すべき中心的な課題である。

 一次産業を守るには、食の流通を化石燃料への依存から減らすと同時に、費用の変化を価格に反映できる取引や輸送の形に変えていく必要がある。まず制度面では、商品価格に含まれている輸送費を分けて見える形にすることが求められる。燃料費の変動に応じて価格を調整する枠組みを整え、その上昇分を関係者で分け合う制度を法的に整えるべきだ。

 経済面では、価格の安さだけを重視する競争から離れ、生産の過程が見えること自体を価値として扱う方向へ移る必要がある。消費者の半数以上が節約志向による販売減を不安視しているが、安さの裏にある廃業の危険も共有し、供給の安定そのものを支える支払いの考え方へ切り替えることが急がれる。

 技術面では、電気やバイオ燃料への転換を進めると同時に、共同配送を徹底して輸送の無駄を減らすことが重要だ。1割以上の生産者は機械や設備の稼働を抑えるなど個別対応に追い込まれているが、トラックの空きを減らす仕組みを共有し、全体の効率を高めることが対策につながるだろう。

コスト連鎖の現実

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「食べチョク」登録生産者を対象とした原油高の一次産業への影響に関する緊急アンケート(画像:ビビッドガーデン)

 今回の調査で得られた生産者の声は、理屈だけでは説明しきれない現実の重さを示している。燃料費が9割近くの影響要因となっているのは、生産のほぼすべての工程で石油が動力や資材、輸送の基盤になっているためである。農業や漁業は、実質的に化石燃料を食料に変えている産業ともいえる。燃料費に加え、梱包資材や肥料といった費用の上昇が重なり、収益が次々と削られていく構図が生まれているのだ。

 さらに、運送業界の働き方の見直しにともなう運賃の上昇と燃料価格の上昇が重なり、出荷回数を減らしたり、生産規模を縮めたりする動きも出ている。こうした変化は生産活動そのものを弱める方向に働いている。現場が置かれている厳しい状況は、次のコメントにも表れている。

●原油価格高騰に関するコメント

「原油価格の高騰は燃油だけでなく、農業機械、ビニール、紙などあらゆる生産資材の価格に影響します。農業は資材の多くが石油製品に依存しているため、生産コスト全体が上昇します。農協への出荷では生産物の運賃も農家が負担しており、燃料価格の上昇はここにも直接影響します。ECサイトを含むネット通販では一般的に購入者が送料を負担しますよね。また農家は資材を購入する際に10%の消費税を負担しています。もし食品のみ消費税が減税される仕組みになれば、原油高騰による資材価格上昇に加えて、資材購入時の消費税負担がさらに重く感じられることになります。原油価格の高騰は農業経営全体に影響していることを理解してほしいと思います」(群馬県・野菜・露路栽培)

●価格転嫁に関するコメント

「野菜は原油高によって燃料費・資材費・輸送費が上がっても、簡単に価格へ転嫁できません。そのしわ寄せは生産者が直接負うことになり、経営継続が厳しくなります」(青森県・にんにく・露路栽培)

供給維持と将来負担

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「食べチョク」登録生産者を対象とした原油高の一次産業への影響に関する緊急アンケート(画像:ビビッドガーデン)

 値上げを避けたいという消費者の一般的な感情は、短い目で見れば家計を守ることになるが、長い目ではかえて負担を増やす結果につながる。生産者が費用を価格に反映できずに廃業すれば、食料の国内生産力はさらに弱まり、将来には供給が不安定になって急な値上がりを招くおそれがあるためだ。

 7割以上が注文減を不安に挙げている背景には、消費者が食料をいつでも代わりがあるものと見ている認識がある。しかし、生産が続かなければ供給は止まり、価格は上限なく上がる可能性がある。現在半数近くが想定している1~10%程度の値上げを受け入れないことは、将来のより大きな負担を先に延ばしているのと同じである。

 費用の上昇を天候の影響として片づける姿勢は、輸送やエネルギーといった生活を支える構造の費用から目をそらしている。農産物だけは価格を据え置くべきだという考えは、一次産業の力を弱めることにつながるのだ。

制度転換と価格反映

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一次産業のオイルショック対策。

「令和のオイルショック」は、これまでの産業の在り方を見直す契機としなければならない。行政が取り組むべきは、運送業で導入されている燃料サーチャージを、生産や出荷の現場にも広げることである。燃料や資材の価格変動を取引価格に反映させるための公的な基準を整え、弱い立場の生産者が過度な負担を負わないよう、法の枠組みを強める必要がある。

 事業者は、個別配送の非効率さを認め、複数の生産者が拠点を共有する共同集荷や共同配送を標準的な形にするべきだ。加えて、データに基づく需要の見通しを行い、無駄の少ない計画的な生産と出荷へと移る必要がある。さらに、産直サイトなどを通じて費用の内訳を明らかにし、コストの変化を価格に反映できる予約販売の仕組みを広げることが求められるのだ。

 消費者にできることは、調査で多く挙がった1~10%程度の値上げを、供給を保つための費用として受け止めることだろう。選ぶ基準を価格の安さから、将来も供給が続くかどうかへと移す必要がある。

 化石燃料への依存を減らせないまま、費用の上昇を価格に反映させない構造は、10年以内に成り立たなくなる可能性が高い。8割以上の生産者が抱える経営不安を放置すれば、将来の供給不足は避けられない。今、適切な対価を支払うことは、5年後、10年後の食卓を守るための負担でもあるのだ。