再雇用よりヤバい50代「働かないおじさん」の存在

企業は50~60代社員を活用できていると考えているのでしょうか?(写真:EKAKI/PIXTA)
働くことを期待されていない
企業は50~60代社員のモチベーションや生産性に課題を感じています。
【図で見る】50代後半正社員および60代以上正社員・継続雇用者の活用成功度
「担当者としてのパフォーマンスの発揮」が期待されていると考えている人が半数程度しかいない状況では無理もありません。結局のところ、企業は50~60代社員を活用できていると考えているのでしょうか。

(画像:『定年前後のキャリア戦略』より)
「うまくいっている・非常にうまくいっている」という企業は、50代後半、60代前半、60代後半のいずれも約3割で、「まったくうまくいっていない・うまくいっていない」という企業が各年代とも約2割、「どちらともいえない・わからない」が約5割で最多です(図表38)。
「うまくいっている」企業が「うまくいっていない」企業より1割多いわけですが、「うまくいっている」と言えない企業が7割という見方もできます。
「どちらともいえない」という理由は、「エンジニアは活用できているが、本社間接部門は問題が多い」「活躍している人もいれば、まったくそうでない人もいる」など、部門や職種、個人によってまだら模様であったり、「人件費は抑制できているが、全体的にモチベーションが低い」など、施策の副作用が大きかったりということでしょう。
あるいは、そもそもそれらの年代の社員に対する活用施策を打ち出せていないのかもしれません。
筆者は、50~60代社員の活用がうまくいかない原因は、基本的に社員本人というよりも企業側にあると考えています。「うまくいっている」と言えない企業の多くは、60代人材に対するステレオタイプな人材観に縛られています(図表39)。

(画像:『定年前後のキャリア戦略』より)
現役の社員とは異なる位置づけ
その人材観とは、60代社員は「社員といっても定年(あるいは旧定年)を過ぎた『半・現役』の人たちであり、現役バリバリの社員とは位置づけが異なる」というものです。
その背景から紐解いていきましょう。
そもそも60代の雇用は、年金受給年齢の引き上げに伴って65歳までの雇用が義務化されたこと、70歳までの就業機会確保が要請されていることが契機です。
企業からすると政府からの外圧で、「企業が望んだものではない」という感覚があります。一方で、人材不足の深刻化や60代社員が1.5割を占める現状からすると、いつまでも外圧だとは言っていられない状況でもあります。
程度の差こそあれ、正社員の給与は少なくとも平均的には20代よりも30代、30代よりも40代、40代よりも50代のほうが高いという意味で、年功的な性格を持っています。
そして、もう一つ見逃せないのが、年功的昇進です。
「年功」とは年齢を基準にするわけではなく、勤続年数を重ねて積み上げてきた功績が基準です。歳を取っていれば誰でも課長になれるというわけではありませんが、「係長として長年貢献してきた人は課長にしてやりたい」という論功行賞的な発想です。
しかし、係長として優秀であっても、課長が務まるかどうかは別の話。その結果、「無能な管理職」が少なからず発生することになります。「ピーターの法則」として知られている通りです。
給与が年功的でも、中高齢者が少なく若手が多いピラミッド形の労務構成であれば、企業全体としての人件費負担はさほど過大にならずに済みます。しかし、1960年代前後から出生率が低下し始め、釣鐘形を経て、今では壺形に移行しています。
これは単に全体の人件費が膨らむというだけではなく、若手の採用競争の激化に繋がっていきます。リテンション(囲い込み)の観点からも、若手優先の人事施策の必要性が高まります。
60代社員に対するステレオタイプな人材観は、それらを背景に醸成されてきたのです。
「半・現役」的な60代社員
企業は、60代社員を「企業が望んで雇用しているわけではない。昔ならもう引退している年齢だ」「年功で役職についている人も多い。給料も高い」「給与もポストも若手に譲ってやってほしい」という目で見ています。
60代社員は、正社員や契約・嘱託社員としてフルタイム勤務していても「半・現役」的な存在として位置づけられているのです。
その人材観は、そのまま人事制度に反映されています。
6割を超す企業が60歳で処遇を見直し、給与を引き下げます。59歳時の7掛けなど年齢による全員一律基準を用いる企業が全体の3分の1を占めます。また、60代のライン管理職はほとんどいません。
それらは、60代社員のモチベーション低下を引き起こしています。役割認識にも少なからず問題があります。モチベーションや役割認識は生産性に直結します。
企業が感じている過剰感の正体は、単に人数の問題というよりは、人事部には不採算人員に見える「働かないおじさん」の存在です。
筆者は、このような現況のすべてを社員本人の責めに帰すことはできないと考えています。むしろ、構造的には「働くことを期待されていないおじさん」問題であり、大半は企業が作り出してきたものです。
しかし、企業は「働かないおじさん」こと「働くことを期待されていないおじさん」を見て、60代社員は使えない「半・現役」だというステレオタイプの人材観をさらに強めていくという悪循環に陥っています。
このループは、企業にとっても60代社員にとっても、決して好ましいものではありません。このループを断ち切る必要があります。
概念的には「ステレオタイプな人材観」を捨て去ること、具体的には、年齢による全員一律の処遇見直し基準を改めることです。筆者は、年齢一律基準を採用している企業は猛省すべきだと考えています。
人事は60代より50代を問題視
前項では60代社員にフォーカスして、「働くことを期待されていないおじさん」問題を解説しました。60代社員は企業から「半・現役」視され、人材不足状況にもかかわらず過剰感を持たれています。
しかし、企業は60代だけではなく、50代社員にも過剰感を持っています。
むしろ、人事部は60代社員よりも50代社員を問題視しています。社員の4分の1は50代社員です。給与の高さ、人数のボリューム、そして退職までの残り期間の長さという意味で、50代社員の人件費への影響度は60代社員の比ではないからです。
もちろん、給与の高さに見合う働きぶりであれば問題はないわけですが、少なくとも50代後半社員のモチベーションや役割認識は60代前半社員と変わらず、極めて怪しげです。多くの調査項目において、継続勤務の50代後半社員と60代前半社員の回答は、ほとんど同じ傾向を示しています。
・今の仕事に満足している 50代後半48.3%、60代前半49.0%
・今の仕事で満足していること 50代後半、60代前半ともに1位「働くことができていること」、2位「生計を維持できていること」
・職場における自分の役割は重要だと感じている 50代後半44.4%、60代前半46.7%
・職場から担当者としてのパフォーマンスの発揮を期待されていると考えている 50代後半52.4%、60代前半49.3%
・職場から高い専門性の発揮を期待されていると考えている 50代後半48.0%、60代前半47.0%
本稿のテーマは「ずっと会社員だった60代」の働き方なのですが、この状況を見ると、50代後半社員への危機感が募ります。
役割認識を深掘りしてみましょう。「職場における自分の役割は重要だと感じている」50代後半は44.4%です。これを職位別に見ると、経営層では70.0%ですが、一般従業員では37.6%に過ぎません(図表40)。50代後半社員の意識としては、すでに「半・現役」の人が少なくないということです。

(画像:『定年前後のキャリア戦略』より)
50代後半の役割認識について
60代前半社員の場合は、60歳時の給与ダウンを契機に「自分の価値が低下したように感じた(49.0%)」「仕事のモチベーションが下がった(56.7%)」という人が多いわけですが、まだ60歳時の処遇見直し前であるにもかかわらず、なぜ50代後半社員の役割認識は60代前半社員と変わらず「半・現役」的なのでしょうか。
50代後半社員にとって、60歳時の処遇見直しや60代前半の先輩社員の様子は他人ごとではなく、近い将来に予定されている自分ごと。明日はわが身なのです。
そして、ビジネスキャリアを昇進昇格という意味でとらえるなら、役員や役員候補として昇進レースに勝ち残っている少数の人を除けば、現状以上の可能性はありません。
すでに役職定年になった人も少なくないでしょう。そして昇給についても、給与テーブルの上限に到達していて、もう昇給の余地がないかもしれません。処遇面では、まだ給与が引き下げられていないというだけで、50代後半も60代前半も大して変わらないという見方ができます。
50代後半・60代は連動している
50代後半社員と60代前半社員の共通項は役割認識や処遇面だけではありません。
・自分の意見は職場で尊重されている 50代後半43.6%、60代前半43.5%
・職場で重要な情報が自分に共有されている 50代後半45.3%、60代前半47.2%
職場での位置づけも、ほとんど変わりません。
そのような状況なので、企業から見た50代後半社員と60代社員の活用状況は、「ほぼ例外なし」と言っていいほど連動しています。
50代後半社員の活用がうまくいっていない企業は、60代前半社員の活用もうまくいっていません。逆に、50代後半社員の活用がうまくいっている企業は、60代前半社員の活用もうまくいっています。
また、雇用義務がない60代後半社員の活用成功度も50代後半社員、60代前半社員と連動しています。60代社員の活用だけうまくいっている企業、逆に、60代社員の活用だけがうまくいっていない企業などはないのです。
しかし、社員活用がうまくいっていない理由については、必ずしも50代後半と60代前半を同一視することはできません。
4割以上の企業が60歳になると役割・責任を軽くします。65歳定年企業であっても、60代社員には59歳以下とは異なる人事制度を適用する企業もあります。いわば、会社として公式に「半・現役」扱いするのです。
一方、50代後半社員については、人事制度的には20代、30代の社員とも同じ枠組みの中にあります。例外は、役職定年くらいです。会社から「半・現役」扱いされているというよりは、本人が自ら「半・現役」モードに入っている側面が大きいと言えるかもしれません。