中国、ハイテク進化の裏で広がるデフレの病魔 巨大経済の「二面性」、世界揺るがす難題に

ボクシングのパフォーマンスをする中国製の人型ロボット=2025年12月、東京都江東区(共同)

 中国経済はその巨大さゆえに全体像がつかみにくい。かつて日本も経験したような不動産バブル崩壊による苦境が伝えられる一方、華麗なカンフーを披露する人型ロボットといった先端技術の進化ぶりにも注目が集まる。

 3月5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)では、習近平指導部が2026年の経済成長目標を引き下げると同時に、対米長期闘争を見据えて「ハイテク強国」へ邁進する姿勢をアピールした。

 光と影が入り交じったような隣国の現状をどのように理解すべきなのか。現代中国研究家の津上俊哉氏に読み解いてもらうと、高市早苗首相にとっては「上を目指すチャンス」という。どういうことか。(共同通信=西川廉平)

現代中国研究家の津上俊哉さん=2月17日(共同)

 ▽日本の経験に学んだはずが

 ―2025年の中国経済は、政府発表によれば目標通り5%成長を達成した。統計の信ぴょう性を疑う声も絶えないが、景気の現状をどのように見るか。

 「今の中国経済は二面性を持っている。一つは電気自動車(EV)や人型ロボットといったハイテク分野の発展がめざましく、製造業には世界を席巻するくらいの勢いと強さがある。一方でマクロ的に見ると、30年前の日本とますますそっくりになってきた感がある。端的に言えば、完全にデフレ経済に突入してしまった。経済がはっきり暗転したのは2023年春ごろで、新型コロナウイルス禍のロックダウン(都市封鎖)が解除され、『さあ、ここからリベンジ回復だ』と期待していたら、一向に回復しなかった。

 それ以来、消費者物価指数の上昇率はゼロ近辺で徘徊し、生産者物価指数はマイナスが続いている。家計は資産価値が下がった住宅のローン返済に苦しみ、若者は『中国版氷河期世代』になっている。これまで中国は『日本の経験に学ぶ』と繰り返してきたが、全然学べていなかったじゃないか、という印象だ」

 ―巨大バブルがはじけた不動産不況は底が全く見えない。

 「問題は不動産だけでなく、地方財政がもう力尽きようとしている。中央政府もそれなりに支援をしているが、各地の地方政府が過去に積み上げた借金の返済や赤字の埋め草に使われ、新しい投資に資金が向かっていない。投資は不動産開発のマイナスが続く上、景気を支えるべきインフラ投資も落ち込んでしまっている。

 中国の友人に最近聞いた話だが、インフラ建設を担う巨大国有企業でもリストラが始まっているという。あれだけ隆盛を誇ってきた国有企業が人員削減に踏み切るというのは尋常なことではない。苦しい人員整理を余儀なくされた1990年代以来のことかもしれない」

北京市内で建設中のマンション=2024年9月(共同)

 ▽「欲しがらせません、勝つまでは」

 ―政府は投資依存の経済から脱却し、消費主導モデルに転換するとかけ声では言うが、成果が見えてこない。

 「今やっている車や家電の買い替え促進策は一過性の効果しかなく、本当に消費を伸ばすには家計の財布を大きくする必要がある。教育や年金といった社会保障の拡充や、今も戸籍上差別されている農村出身者の待遇改善を通じて消費を底上げすべきだという専門家の意見は多いが、習近平政権はそういった声にまともに耳を貸そうとしない。

 これだけ内需不足やデフレが深刻なのに、供給サイドばかり強化する姿勢を変えようとしないのはなぜか。おそらく『米国との長期闘争に負けない強国にならなければならない』という強迫観念から来ているのだろう。習政権のこうした風潮を私は『欲しがらせません、勝つまでは』と呼んでいる。下手したら米国に倒されかねないという危機感が強いために工業力の強化を優先し、日本のような家計支援のばらまきはやろうとしない。国民には勝つまで我慢をさせる、という発想だ」 

 「話は変わるが、中国軍制服組トップの張又☆(人ベンに峡の旧字体のツクリ)・中央軍事委員会副主席が最近粛正されたが、あれを見て感じたのは、習氏はもう軍事委員会や政治局常務委員会のような合議体の組織がなくても自分はやっていけると思っているのではないか。経済で言えばデフレの怖さを分かっている人も内部にいるのだろうが、そういう空気の中では『今の路線ではだめです』と上にあえて進言する人もいないのだろう」

中国全人代の開幕式で国歌斉唱する習近平国家主席(手前左)=5日、北京の人民大会堂(共同)

 ▽誰も幸せにしない「豊作貧乏」

 ―本来やるべき処方箋は。

 「デフレの病魔はどんどん広がっている。不動産デベロッパーの経営悪化も止まらないが、まずやるべきはバブル期に積み上げた大量の資産や債務を整理して、バランスシート上のゴミを掃除すること。その過程では巨額損失が発生して破綻する企業もたくさん出るし、銀行への資本注入も必要になる。

 その間は経済のゼロ成長が何年も続くことを覚悟すべきだが、習氏はそれもまた受け入れられない。2035年までに国内総生産(GDP)を2020年比で倍増させることを公約にしているためだ。日本も経験したように、問題は先送りするほど成長力も落ちる。このままではデフレが好転する見込みもなく、じり貧になっていくだろう」

 ―他方で、過剰供給のはけ口として海外市場に安値で売りさばく「デフレ輸出」が深刻化し、昨年の中国の貿易黒字は約1兆2千億ドル(約190兆円)という空前の規模に拡大した。米国だけでなく、世界各国と摩擦が強まっている。

 「経済は投資も消費もさえず、気を吐いているのは輸出だけという状況だ。中国のものづくりは世界ナンバーワンであると言えるレベルまで発展したが、ではその輸出産業がもうかっているかというと『豊作貧乏』に陥っている。過剰供給の問題が影を落とし、国内でも海外でも安値競争をしているため、生産や輸出は伸びても利益が出ていない。本人たちも含めて誰も幸せになっていないという、ばかげた状況だ」

上海国際モーターショーに出展したBYDのブース=4月、中国上海市(共同)

 ▽地方政府と企業の結合体

 ―中国の過当競争は「内巻」とも呼ばれ、過剰生産やデフレ圧力の根底にあるとも指摘される。なぜそのような現象が起きるのか。

 「中国の産業政策は、中央政府でなく地方政府が主力だと言うことをまず頭に入れる必要がある。例えば、広東省深セン市にあるEV大手の比亜迪(BYD)や福建省寧徳市の電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)といった企業は、われわれがイメージするような民営企業とは全く違う。いわば地方政府と企業の結合体だ。

 一般的な企業が利潤のために動くのに対して、彼らは売り上げの最大化を動機としている。なぜなら日本の消費税に相当する『増値税』は半分が企業のある地元政府に落ちる仕組みになっているためだ。地方財政が苦しいときに、世話になってきた企業は課せられた納税ノルマを達成しないわけにはいかず、値下げして赤字になっても生産を維持し、売り上げを達成しようとする」

 「作りすぎた商品が海外へ向かう『デフレ輸出』によって世界中が迷惑を被っている。中国のこうした(自国利益のために他国を犠牲にする)『近隣窮乏化策』は今やグローバルな大問題だ。これほどの規模の貿易不均衡は過去100年の世界経済史上でもごくわずかな例しかなく、国際的に話し合って解決策を見いだすべきだが、現状ではそのような協議の場を設ける見通しも立っていない」

当確者のバラの前で、メディアのインタビューに答える自民党総裁の高市首相=8日、東京・永田町の党本部

 ▽「保守のアイドル」脱皮を

 ―高市政権の誕生以来、日中関係は急速に悪化した。衆院選での自民党大勝によって政権基盤はより強固になったが、日本はこれから中国とどう向き合うべきか。

 「高市政権が圧勝したのは中国にとっては大誤算だっただろう。水産物の輸入規制や旅行自粛の要請をやって日本を困らせても(政権支持率を落とす)成果が全然上がっていないなら、もうやめた方がいいとの声も内部から出そうなものだが、それをトップに言える人もいないのだろう」

 「高市首相には『保守のアイドル』を脱皮して、もっと上を目指すチャンスだと言いたい。世界を見渡すと、欧州各国の首脳が北京を相次いで訪問しているように、トランプ米大統領のあのような保護主義的な姿勢を見て、各国は米中のはざまでバランスを調整しようとしている。

 高市首相もこれだけ広範な支持を得たのだから、中国を敵視しすぎる強硬派の意見に引きずられず、もう少し左右のバランスを取ってウィングを拡げる努力をしてもいいのではないか。高市氏が師と仰ぐ安倍晋三元首相には、中国の巨大経済圏構想『一帯一路』に是々非々で協力するようなバランス感覚があった。それを面白く思わない保守派も従わざるを得ない力があったからできたことだ」

 「日中関係もこれだけ悪化すると、両国間の話し合いで修復するのは難しく、第三者の取りなしが必要かもしれない。ただトランプ氏に頼むとまた巨額の請求書が来る恐れがある。そうであれば欧州やカナダに加勢してもらうのも手ではないか。今年の先進7カ国(G7)議長国であるフランスのマクロン大統領は中国の貿易不均衡をテーマにしようとしており、G7首脳会合に習氏を招こうとしていると聞く。

 日本の外務省は反対しているが、私はこのアイデアに日本が乗ってもいいと思う。かつての貿易摩擦の経験を生かし、中国も受け入れられるような解決策をこの場を通じて日本が提案したらどうか」

 「いずれにしても中国の今の貿易不均衡は世界を揺らす大きな問題だ。このまま放置すると自由貿易がますます衰退しかねない。日中関係の打開策を探るときに、このグローバルな問題の解決という課題と、第三国との連携という視点も併せ持つべきではないだろうか」

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 津上俊哉氏(つがみ・としや)1957年、愛媛県生まれ。東京大卒。1980年通商産業省(現経済産業省)に入省し、在中国日本大使館参事官や北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員を歴任。中国経済に関して積極的な発信を続け、現在は日本国際問題研究所客員研究員も務める。