トラック業界を直撃する「ディーゼル燃料危機」――もはや「乗用車の給油」を制限すべきか?――月額560万円の負担が浮き彫りにする限界点
給油拒否の広がり
都内のある運送会社が、対応に苦慮している。2週間ほど前から、自社の自家給油設備(インタンク)への給油を燃料販売会社に断られているためだ。理由を尋ねてもはっきりした答えはなく、「給油できない」とだけ告げられているという。
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別の運送会社の営業所では、ついにインタンクの燃料が尽きた。この営業所は近距離の配送が中心で、インタンク導入前に使っていた法人向けの給油カードはすでに返していた。やむなく、ほかの営業所からカードを数枚借りて給油することにしたが、ここで軽油の価格差が重い負担となった。
インタンクは、運送会社やバス会社が自社敷地内に設ける燃料の貯蔵と給油の設備である。多くの企業が1万~3万Lほどのタンクを備える。軽油の指定数量である1000Lを超えるため、消防法に基づく厳しい基準と安全管理が求められ、維持費もかかる。一方で、石油元売りなどからローリーでまとめて仕入れることで、店頭より安い価格で軽油を確保できる利点がある。
この仕組みでは、初期費用と維持費を、割安な軽油によって数年かけて回収していく。だが法人向け給油カードに頼れば、店頭よりは安いとはいえ、その差は小さく、投じた費用を回収するのは難しくなる。
入札不成立の拡大

ガソリンスタンド(画像:写真AC)
燃料販売会社の売り控えの影響は、運送会社にとどまらない。
NHKニュースは「バスの燃料調達入札 全国の10の自治体で成立せず 価格高騰で」として、仙台市営バスや東京都営バスなど、10の自治体で燃料の入札が成立しなくなったと伝えている。燃料販売各社は、軽油の在庫を確保できないことを理由に挙げているようだ。一方、京都市バスは調達方法を随意契約に切り替え、2026年3月の約2倍となる、1Lあたり216円余りで4月分の軽油を確保したと発表した。
燃料販売会社にも事情はあるのだろう。それでも、「価格が倍なら売るのか?」と感じる向きは少なくないはずだ。
実際には、インタンク向けに仕入れるより、ガソリンスタンドで給油したほうが安いという逆転も起きている。このため、やむを得ずスタンドでの給油に切り替える運送会社も出てきた。
だが次に重くのしかかるのが資金繰りである。こうした会社のすべてが法人向け給油カードを持っているわけではなく、現金払いを強いられる場合もある。これまで掛けで支払っていた軽油を現金で払うことになれば、手元資金は一気に細る。
燃料費560万円の重み

高市早苗首相(画像:時事)
営業用トラックの1日あたりの平均走行距離は約217kmである(2023年度実績)。大型トラックの平均燃費は3.7km/Lとされる(全日本トラック協会「燃料サーチャージハンドブック」)。
1か月の稼働日数を25日、保有台数を23台、軽油価格を1L166円(2026年3月23日、資源エネルギー庁「石油製品価格調査」)とすると、この運送会社が1か月に支払う軽油代は約560万円になる。
全日本トラック協会によれば、平均的な運送会社は保有台数22.8台で、売上は2億6400万円である(2023年)。運賃の入金が30日後だとしても、こうした中小企業が月商の4分の1にあたる現金を、しかも入金より1か月早く毎月払い続けるのは重い負担となる。
さらに、資金の回り以前に、軽油価格の上昇は利益を大きく削る。先の平均的な運送会社では、売上に占める燃料費は14.9%に達する一方、経常利益は2.2%にとどまる。
京都市バスのように、軽油を倍の価格で確保する対応は、経営の面から見れば負担が大きい。それでもこうした判断に踏み切るのは、市民の移動を支える役割を優先したためだろう。
物流途絶の現実

物流トラック(画像:写真AC)
2016(平成28)年の熊本地震の際、現地で暮らしていたある芸能人一家のSNS投稿が炎上した。
この芸能人は、被災下の暮らしについて「食べ物が少なく、家族で喧嘩が頻発するようになった」と書いた。これに対し、
「被災者だからといって、支援物資が届くのを待つのは怠慢だ」
「食べ物がなければ、スーパーやコンビニまで買い出しに行けば良い」
といった声が寄せられた。
しかし震度7級の地震で道路が崩れた状況では、トラックも店までたどり着けない。燃料も不足しているはずであり、現地の運送会社で働く運転手もまた被災者である。
私たちは、店に行けば品物が並んでいる状態に慣れている。だが、それが続くのは当たり前ではない。誰かが運んでいるからこそ、そこにある。
日本で運ばれる貨物の91.7%はトラックによる(2023年度、重量ベース)。船や鉄道で運ぶ場合でも、港や貨物駅までの区間はトラックが担うため、輸送の流れのなかでトラックを使わない例はほとんどない。
そのトラックを動かす燃料が確保できず、運送会社の経営も揺らいでいる。それは、私たちの日々の暮らしが、気づかぬうちに、しかし確かに揺らぎ始めていることを意味する。
業界三団体の緊急集会

全日本トラック協会のウェブサイト(画像:全日本トラック協会)
確かに、イランと米国の衝突でホルムズ海峡が封鎖され、燃料不足が深まっている国はある。例えばベトナムでは、航空燃料の確保が難しくなり、各航空会社が4月以降に一部路線の運休を決めている。
一方、日本では備蓄石油の放出もあり、現時点で深刻な混乱には至っていない。今後、国内で石油が不足する事態になったとしても、その配分を担うのは政府であるべきであり、燃料販売会社や元売りに委ねるべきではない。
そもそも、京都市バスの例に見られるように、価格を上げれば売る、あるいはガソリンスタンドでの販売価格がインタンクの大量調達価格を下回るといった状況は、国際情勢に乗じた利幅の拡大と受け取られても仕方がない。
2026年3月27日、全日本トラック協会、全国ハイヤー・タクシー連合会、日本バス協会は合同で「燃料価格高騰等経営危機突破総決起大会」を緊急に開いた。
冒頭であいさつに立った全日本トラック協会の坂本克己最高顧問は、法人向け軽油の販売価格を巡るカルテルの疑いについて、公正取引委員会が石油製品販売会社8社に対し、独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を行った件(2025年9月10日)に触れた。また大会の決議では、各地で運送会社やバス会社に対し、軽油の販売停止や数量制限が起きていると指摘し、
「不透明な価格決定による急激な燃料価格高騰が生じている」
とした。そのうえで、軽油を安定して確保できる環境づくり、軽油やLPガスへの補助の継続、運賃への転嫁や燃料サーチャージの周知に加え、軽油価格を巡るカルテルの実態解明を強く求めている。
こうした状況では、石油元売りや燃料販売会社に対し、再び問題が起きているのではないかと疑いの目が向くのも無理はない。
燃料配分の優先順位

物流トラック(画像:写真AC)
今後、ホルムズ海峡の封鎖が長引き、燃料不足が現実のものとなれば、乗用車への供給を抑えてでも、運送会社や貨物軽自動車運送事業者(軽バン配達員)への供給を優先すべきである。この措置が取られれば、とりわけディーゼル車の利用者への影響は大きい。都市部以外では、
「クルマがないと仕事にも買い物にも行けない」
「両親の介護や通院のために、クルマは必須だ」
といった事情を抱える人も少なくない。それでも、トラック輸送が止まれば、製造業は原材料を確保できず、製品も出荷できなくなる。店に行っても品物は並ばず、病院に行っても薬や医療資材が足りず、十分な治療を受けられない事態も起こり得る。
いわゆる「令和の米騒動」のときと同様に、政府の対応は後手に回っている。イランと米国の衝突が長引き、深刻な石油不足に至る可能性も否定できない。
そうであれば、最悪の事態も見据え、社会の維持に欠かせない分野へ燃料を振り向けるための優先順位づけについて、政府は事前の検討に着手すべきである。
サーチャージ未導入の壁

燃料価格高騰と物流危機。
今回、影響を受けている運送会社側にも、課題がないわけではない。燃料サーチャージを導入していれば、経営への影響はある程度抑えられる。
原油価格の変動に対して、燃料サーチャージが有効であることは広く認められている。しかし、荷主の理解が得られない、あるいは計算や請求の手間が増えるといった理由から、導入している運送会社は2割ほどにとどまるという調査もある(東京都トラック運送事業協同組合連合会「第43回 運賃動向に関するアンケート調査結果」)。
毎年のように原油高による燃料費の上昇が問題となり、そのたびに対応に追われる状況を見れば、法令で燃料サーチャージを義務づけるべきではないかとの見方も出てくる。短期的には荷主と運送会社の双方に負担が生じるが、長い目で見れば、物流を支える業界の安定につながる可能性がある。
ウクライナでの戦闘やイランと米国の衝突など、海外の動きが日常に影響を及ぼす場面は増えており、その影響も大きくなっている。トラック輸送が立ち行かなくなれば、私たちの暮らしも成り立たなくなる。この現実は、より多くの人に共有されるべきであり、政府には場当たり的ではない対策が求められる。