「チームサナエ」は石油危機に立ち向かえるか うごめく派閥、数まかせの「超1強」政権は正念場へ

参院予算委で答弁のため挙手する高市首相=3月17日
高市早苗首相が年度内成立を目指した2026年度予算は、暫定予算を経て4月上旬に成立する見通しだ。「超1強」政権にとっては大きなつまずきであり、一連の経過は政権の課題を浮き彫りにした。圧倒的な「数の力」に依存しすぎるあまり、「チーム」としての機能が発揮されずにいるのだ。
数任せの強権的な政治から、実行力と説得力を伴う政治へと転換できるのか。連携不足が指摘される首相官邸と自民党執行部を、意思疎通の取れた「チームサナエ」として再構築できるか。そして、イラン情勢による影響を最小限に抑えるため、万全の態勢を整えられるのか。
この正念場を乗り越えられなければ、政権の先行きは見通せなくなる。高市首相の真価が問われる1年が始まった。(共同通信編集委員兼論説委員・内田恭司)
▽衆院選圧勝がもたらした「全能感」
「参院幹部に最後まで尽力いただきましたが、25年度内の成立が実現しなかったことは残念です。全ては国民の安心と強い経済構築のためという思いを、野党と共有できませんでした」
高市首相は3月30日、自民党本部で開かれた党役員会で、「年度内成立」断念に至った胸中を率直に語った。
スタートは、まさに「敵なし」だった。2月の衆院選で自民党は、単独で定数465の3分の2を超える316議席を獲得し、首相は圧倒的な権力基盤を手に入れた。与党の日本維新の会を合わせれば352議席と、「高市超1強」(自民党幹部)とも言える政治態勢を確立。予算委員長をはじめとする主要ポストを野党から奪取し、国会運営の主導権を完全に掌握した。
しかし、この圧倒的な「数の力」は、首相に危うい「全能感」をもたらした。自身が衆院解散に踏み切ったことにより、当初から年度内成立が困難視されていたにもかかわらず、党執行部に達成を強く指示。その結果、衆院では予算委での審議時間を圧縮するため、委員長職権の乱発といった強引な国会運営が常態化した。
予算成立への協力姿勢をにじませていた国民民主党が、暫定予算編成と十分な審議を条件に賛成すると提案しても、首相は拒否した。自民党関係者によると、首相は「玉木雄一郎代表は要求ばかりで信用できない」と、周囲に不満をあらわにしていたという。
「権力を掌握した以上、徹底して自身の意に沿った政権運営をしたかったのだろう」。関係者はその心境を推し量る。

会談に臨む自民党と立憲民主党の参院幹部。右から2人目が自民党の石井準一参院幹事長=3月24日、国会
▽立ちはだかった「参院の壁」
だが、この国民民主との決裂が転機になる。過去に例を見ない短い審議時間で強行突破を図ろうとする政権に対し、同党が予算案への反対姿勢を明確にしたことで、参院では与党が少数である「ねじれ国会」という現実を突き付けられたからだ。
自民党執行部の一人は「提案を受け入れていれば、参院は多数派で回せたはずだった」と悔やんだが、後の祭りだった。
結局、衆院での手法に「議会制民主主義の軽視」と強く反発する立憲民主党や公明党をはじめとする野党を前に「熟議」を余儀なくされた首相は年度内成立を断念。暫定予算編成に追い込まれるという事実上の敗北を喫した。
時には与野党を超えて連携する「参院の独立性」が壁になったと同時に、今や「参院のキーマン」となった石井準一参院幹事長らとの連携を欠いたことも、この結果を招く要因になったと言える。
さらに、2月末からの米国・イスラエルによるイラン攻撃が、首相に新たな難題を突き付けた。ホルムズ海峡が封鎖状態になったことにより、「令和の石油危機」と世界的な景気減速への懸念が強まったのだ。
3月19日にワシントンで行われた日米首脳会談は「成功裏に終わった」と評価されたが、トランプ大統領は航行の安全確保を巡り、「さらなる貢献を」との意味合いの「Step up」という言葉を繰り返した。
首相は「憲法9条の制約」を盾に明確な約束を避けたものの、日本は機雷掃海を含め、どのような貢献ができるか検討を進めざるを得ない状況となった。

ホルムズ海峡が封鎖状態となり、ドバイ沖に停泊する船舶=2日(ゲッティ=共同)
▽政権の急所、次々と
こうした中で後半国会に入る高市首相にとって焦点になるのは、まずは令和の石油危機と景気減速をいかに回避するかだ。
政府は45日分の国家備蓄放出を始めたが、事態が長期化すれば供給制限やガソリン価格の高騰はあり得るため、国民の不安を抑えるべく丁寧な情報発信が急務となる。
透析など医療分野の石油由来製品の供給不安は「政権の行方に直結する」(政府関係者)だけに、首相の危機感は強い。円安や長期金利上昇など「日本売り」が進み、景気悪化が鮮明になれば、追加的な財政出動を迫られる可能性もある。
首相は本来なら、「成長戦略・危機管理投資」を柱とする、日本復興を賭けた自身の経済政策「サナエノミクス」を本格始動させるはずだった。
これは、新「国家資本主義」さながらに官民連携で、人工知能(AI)・半導体や量子コンピューティング、核融合、造船などの「重点17分野」に巨額の国費を集中投入し、5500億ドル(約88兆円)の対米投融資との相乗効果を狙う野心的な構想だ。だが、イラン情勢の行方次第では、その前提が揺らぎかねない。
政策展開のもう一つの柱である、給付付き税額控除の導入を目指す「社会保障国民会議」の議論を、首相が掲げる6月の「中間まとめ」に向けて収れんさせられるかも見通せない。
参加する与野党間で意見の隔たりがあるのに加え、衆院選を経て事実上の政権公約となった「食料品の消費税2年間ゼロ」案は、総額5兆円とも言われる財源の手当や、税率を戻す際の手続きなど論点が多岐にわたる。
首相は昨年5月、大手出版社系のウェブメディアのインタビューで「経済が強くなってきた段階で標準税率分を10%から12%にしても、国民にご理解いただけるのではないか」と述べている。「12%」案は政権内で封印されているが、これが首相の本音だとすれば国民の反発も予想される。
さらには、「国家情報局」創設や「国旗損壊罪」導入など、いわゆる「高市カラー」の案件も控えるが、審議が順調に進むかは不透明だ。日本維新の会と合意した「衆院定数1割削減」や「副首都構想」を含め、再び「参院の壁」に直面する可能性は高い。
内閣支持率は依然として高水準を維持するものの、一連の強硬姿勢への批判もあり、報道各社による3月の世論調査の多くは、2月に比べて5ポイント前後低下した。日中関係は修復の糸口さえつかめず、安全保障関連3文書の前倒し改定では増税論議が不可避で、これらも今後、政権の急所になり得る。

国会内で開かれた「社会保障国民会議」の実務者会議。自民党、日本維新の会、中道改革連合、国民民主党、立憲民主党、公明党、チームみらいの7党が参加=3月25日
▽最大のリスクは首相の政治スタイル
高市政権はすでに「何かを変えてくれる」という期待先行の段階を終え、実行力と実績評価のフェーズへと移った。真の実力が試される局面に入ったと言える。
だからこそ、官邸と自民党執行部がチームとして機能するようになるかどうかが極めて重要になる。永田町では、これこそが「政権最大のリスク」と受け止められているが、突き詰めれば、これは高市首相個人の政治スタイルの在り方に行き着く。
官邸でも公邸でも部屋にこもりきりで、省庁の政策説明にも十分に耳を傾けず、独断的に意思決定を行うスタイルが、「官邸内や党側とのコミュニケーション不全を招いている」(閣僚経験者)との指摘は多い。
加えて、持病のリウマチや極度の睡眠不足、喫煙量の増加などによる健康不安も、政権が抱えるリスクとして無視できない要素となっている。
この先、政権が不安定化する可能性も見据えてか、党内では派閥再結集や政策グループ拡大の動きが活発化している。麻生派や旧茂木派は新人議員の取り込みに余念がなく、旧二階派は武田良太元総務相を中心に政策グループとして衣替えを果たした。

自身の派閥の例会を終えた自民党の麻生太郎副総裁=2月19日、東京都千代田区
茂木敏充外相をはじめ、高市首相と党総裁の座を争った林芳正総務相や小林鷹之党政調会長らはそれぞれ、自身に近い議員と定期的に会合を開いて結束強化を図っている。旧安倍派のベテラン議員らもそうだ。
「みな一義的には、夏以降の内閣改造や幹事長など党役員人事をにらんでいる。だが、不測の事態を想定した『頭の体操』を始めているのも事実だ」
旧岸田派の中堅議員は、政局にらみの思惑もあることを隠さない。
問題の本質は明白だ。いかに圧倒的な議席を手にしても、それだけで政権は回らない。参院の壁、与野党の力学、国際情勢の激変―。いずれも「数の力」では乗り越えられない局面ばかりだ。にもかかわらず、従来の延長線上で事を運ぼうとする限り、同じ蹉跌(さてつ)は繰り返される。
「独断と強行」から「調整と統合」へ。政権運営の在り方そのものを転換できるか否かが全てを分ける。ここを変えられない限り、「超1強」はもはや強さの源泉とはならない。むしろ統治の脆さを際立たせるだけのものに終わりかねない。
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内田恭司 1991年共同通信入社。千葉、岐阜支局などを経て99年政治部。郵政政局や民主党による政権交代、「安倍1強」政治のほか、日朝交渉を取材。政治部担当部長などを務め2022年から現職。共編著に「証言 小選挙区制は日本をどう変えたのか」(岩波書店)。