2年後に運行休止! かつてJRと競った「北国の鉄路」、観光列車と巨額支援が続いても事業継続が難しくなったワケ

運行終了の見通し

 弘南鉄道(青森県平川市)は2026年3月20日、大鰐(おおわに)線の中央弘前~大鰐間で「春のりんごねぷた列車」の運行を始めた。桜の時期に合わせ、5月17日まで走る。

【画像】「えぇぇぇぇぇ!」 これが51年前の「中央弘前駅」です!(8枚)

 この列車は、弘前七桜のうち八重紅枝垂、松月、関山、東錦をもとにした4色のさくら色で彩ったりんごねぷたを車内に飾る催し列車である。2024年に始まり、今回で3回目の運行となる。

 通常の列車として走り、予約は不要で、ふだんの乗車券で利用できる。4月11日以降の土日祝日の夜は、りんごねぷたの明かりだけで走る夜のライトアップ運行も行う。

 この取り組みは増収をねらって始めたもので、まだ新しい企画だ。ただし、今後も続ける場合でも、2028年で区切りとなる見通しだ。

 同社は2025年10月、公式サイトで「弘南鉄道大鰐線運行計画について」と題した発表を出した。今後の経営状況を見て、大鰐線の運行を続けるのは難しいと判断し、関係先と協議したうえで、2028年3月31日で運行を終え、4月1日から休止すると決めたという内容である。

 大鰐線の代わりとなる交通については、青森県が主催する検討会で調整が進んでおり、同社もできる範囲で関わるとしている。

 名目は「休止」だが、青森県や弘前市、大鰐町からは上下分離や第三セクター化といった存続策は示されていない。このため、実際には廃止と受け止められている。

大鰐線の成立と路線特性

運行終了の見通し, 大鰐線の成立と路線特性, 自治体主導の支援枠組み, 黒石線との競合と補完関係

大鰐線の車内。2014年8月撮影(画像:菅原康晴)

 大鰐線は、旧弘前電気鉄道が1952(昭和27)年に開業した路線で、中央弘前~大鰐間13.9kmを結ぶ電化鉄道である。1970年、弘前~黒石間を走る弘南線を運行していた弘南鉄道に経営が移り、弘南鉄道大鰐線となった。

 JR奥羽本線の弘前~大鰐温泉間とは国鉄時代から競合してきたが、JR弘前駅は古くからの繁華街からやや離れている。一方、大鰐線の中央弘前駅は繁華街のすぐ裏手にあり、沿線には高校や大学もある。このため、一定の役割分担が保たれていた。

 しかし、国鉄の民営化後はJRが列車本数を増やした。大鰐線は運賃がJRより高いものの、本数の多さで利用を支えてきたが、次第に優位性を失った。沿線人口の減少も重なり、厳しい経営が長く続いた。

 1975年に1日当たり4531人だった輸送密度は、コロナ前の2019年には

「498人」

まで減り、およそ10分の1となった。2019年には中央弘前~弘高下間を走行中の上り列車で脱線が発生し、2023年にも大鰐~宿川原間で下り列車の脱線が起きた。いずれも設備の老朽化などが原因とされ、大鰐線は安全な運行を保つこと自体が難しい状況にある。

 筆者(菅原康晴、フリーライター)は1990年代、2000年代、2010年代に大鰐線に乗車した経験があるが、年を追うごとに状態の悪化を感じざるを得なかった。

自治体主導の支援枠組み

運行終了の見通し, 大鰐線の成立と路線特性, 自治体主導の支援枠組み, 黒石線との競合と補完関係

大鰐線の起点・中央弘前駅。2014年8月撮影(画像:菅原康晴)

 沿線の自治体は以前から大鰐線の支援に動いており、2013(平成25)年には弘前市と大鰐町、経済団体などが参加して存続に向けた協議会を立ち上げた。さらに2021年には、弘南線を含む弘南鉄道に対し、

・弘前市

・黒石市

・平川市

・大鰐町

・田舎館村

の5市町村が総額約9億5000万円を拠出する支援計画を示した。この計画は2025年1月、大鰐線の休止決定に合わせて一部が見直されている。

 支援の中身としては、安全輸送対策として鉄道施設の修繕や更新にかかる費用に対し、国の補助と歩調を合わせた助成に加え、事業者の負担分や対象外となる費用にも補助を行った。あわせて、利用を増やすための取り組みとして、観光客など地域外からの利用者を増やす施策を支え、それでも赤字が出る場合は、翌年度にその欠損分を補う仕組みを設けた。

 2021年度から2025年度までの5年間で見ると、大鰐線に関わる事業費と沿線市町村の負担見込みは、安全輸送対策が2億3060万円、利用促進が4710万円で、いずれも当初の枠内に収まった。一方で、2022年度から2028年度にかけての運行欠損補助は、当初の2億2050万円に対し2億3450万円となり、900万円上振れしている。

 こうしたなか、2025年度の収支は営業収益7480万円に対し営業費が1億6670万円で、差し引き9190万円の営業赤字となった。運行欠損補助を除いた補助金を加えても、なお

「6459万円の赤字」

が残る。この6459万円は運行欠損補助で埋められるが、JRという競合路線があり、1日当たりの利用者が500人に満たない路線を、費用のかかる鉄道として維持することには、異なる見方もあったとみられる。

黒石線との競合と補完関係

運行終了の見通し, 大鰐線の成立と路線特性, 自治体主導の支援枠組み, 黒石線との競合と補完関係

弘南線の弘前駅で出発を待つ列車。2014年8月撮影(画像:菅原康晴)

 同じ弘南鉄道でも、弘前と黒石を結ぶ弘南線は、かつて国鉄黒石線と競合していたものの、競争では優位に立ち、一定の収益を確保していた。このため、長い間、大鰐線の赤字を補う役割を担ってきた。なお、弘南鉄道はかつて競合していた旧国鉄黒石線を1984(昭和59)年に引き継いだが、1998(平成10)年に廃止している。

 しかし、その弘南線も近年は赤字が続いており、状況は厳しさを増している。

 前述の支援計画では弘南線にも支援が行われており、その内容は安全輸送対策と利用促進の二本立てとなっている。大鰐線で実施されていた運行欠損補助は、弘南線については示されていない。ただし、2021年度から2025年度までの5年間における事業費と沿線市町村の負担見込みを見ると、安全輸送対策の補助は3億5320万円で、当初計画の1億7700万円からおよそ2倍に増えている。

 その結果、2025年度の収支は、営業収益2億4390万円に対し営業費が4億2630万円で、差し引き

「1億8240万円の営業赤字」

となった。安全輸送対策などの補助を加えると、最終的な赤字は239万円にとどまる。

 現時点では、大鰐線と比べて営業収益が大きく、補助を含めた赤字額も小さいため、運行欠損補助には至っていない。ただし、その補助の柱となる安全輸送対策の費用が当初見込みを大きく上回っている点は見過ごせない。

 弘南線を鉄道として残すのか、バスへ切り替えるのかという議論は別として、仮に鉄道として続けるのであれば、行政の支援のあり方についても検討が求められる。対象が民間事業者であっても、現行の補助に加え、上下分離や第三セクター化といった幅広い手法を視野に入れる必要がある。