「逆張り戦略」が裏目に…小売り3社の大型倒産で露呈した「致命的な弱点」

コロナ禍は「割安な出店チャンス」だったのか, 3社が出店を加速させた背景, 逆張りは「余裕」があってこそ成り立つ, 成功例との決定的な違い

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昨年後半から今年初めにかけて、相次いで3件の大型倒産が発生した。昨年10月28日に破産手続き開始決定を受けたカプセルトイ販売のネクサスエンタープライズ(大阪市中央区、以下ネクサス社)、同12月11日に民事再生法の適用を申請したアパレル小売業のマツオインターナショナル(株)(大阪市中央区、以下マツオ社)、そして、2026年1月5日に同じく民事再生法の適用を申請した、コーヒー豆・輸入食品販売店を運営するジュピターコーヒー(株)(東京都文京区、以下ジュピター社)の3社である。カプセルトイ、アパレル、輸入食品と、取扱商品はまったく異なる小売業3社だが、そこには一つの共通点があった。それは「出店拡大の時期」である。3社はいずれも2020年以降のコロナ禍に出店攻勢をかけ、店舗網・販売網を拡大した末に倒産へと至った。(帝国データバンク情報統括部情報編集課長 白浜雄介)

コロナ禍は「割安な出店チャンス」だったのか

 今から約5年前の2020年4月、日本で初めて緊急事態宣言が発出された。正体不明のウイルスの拡大により、日本経済は事実上停止状態となり、人が集まる場所は例外なく営業休止を余儀なくされた。学校は休校、役所などの官庁も実質的な業務停止状態に陥った。

 この状況は倒産件数にも表れている。2020年5月の倒産件数は288件と、未曽有の低水準を記録した。これは企業活動が止まったことに加え、破産や民事再生を申し立てる弁護士事務所、さらにはそれを受理する裁判所自体が、従来通りに機能していなかったことが背景にある。

 当然ながら、百貨店やショッピングモールなどの商業施設も営業休止に追い込まれた。その後もコロナ禍の長期化によって十分な売り上げを確保できず、撤退を余儀なくされる小売業者が続出。繁華街や商店街、駅前といった一等地でも空きテナントが増加した。

 テナント料は大幅にディスカウントされ、平時では考えられない条件で出店できる物件も少なくなかった。立地条件の割に「割安感」のあるテナントが増えた時期だったと言える。こうした特殊な環境下で出店を加速させたのが、先に挙げた3社である。

3社が出店を加速させた背景

 ネクサス社は、アミューズメント施設を運営するスタートアップ企業で、コロナ禍前にカプセルトイ販売へ参入した。コロナ禍で店舗撤退が進み、空きスペースに悩んでいたショッピングモールなどに着目し、急速にカプセルトイ販売機の設置を拡大した。

 コロナ禍前に約30カ所だった販売拠点は、2023年9月には308カ所にまで増加。わずか3年半で10倍以上に拡大し、それに伴い売り上げも急成長していた。スタートアップとしての成長期と、コロナ禍という環境が重なった結果といえるだろう。

コロナ禍は「割安な出店チャンス」だったのか, 3社が出店を加速させた背景, 逆張りは「余裕」があってこそ成り立つ, 成功例との決定的な違い

 マツオ社は約40年の業歴を持ち、百貨店や商業施設を中心にミドル・シニア向けの中高級アパレルを展開してきた企業である。コロナ禍前の2019年8月時点でも320店舗を有していた。

 その後、経営難に陥った地方百貨店や地方商業施設を中心に、大手アパレルが撤退した跡地へ出店し、2023年8月には371店舗まで拡大した。長年取引のあった地方百貨店の苦境を支えたいという思いも、出店拡大を後押ししたという。

コロナ禍は「割安な出店チャンス」だったのか, 3社が出店を加速させた背景, 逆張りは「余裕」があってこそ成り立つ, 成功例との決定的な違い

 ジュピター社は、40種類以上のコーヒー豆と5000点を超える商品を取り扱い、大型商業施設内で専門店を展開していた。品質管理を重視し、フランチャイズ展開は行わず、2020年時点で北海道から九州まで70店舗を運営。

 コロナ禍で空きテナントが増えたことを契機に、駅ビルなどの一等地へ出店を継続し、4年間で93店舗へと拡大した。同業他社が小型店舗中心である中、中型店舗を強みとしていた同社にとって、空きテナントは見逃せない好機だったと考えられる。

逆張りは「余裕」があってこそ成り立つ

 結果として、3社の逆張り戦略はいずれも失敗に終わった。共通して見られる要因は、(1)想定ほど売り上げが伸びなかったこと、(2)コスト負担が重く、不採算店舗(拠点)が増加したこと、(3)コロナ禍以前から資金繰りに十分な余裕がなかったこと、の3点である。

 業績・財務が安定している企業にとっての逆張り戦略は、中長期的な成長を狙ううえで有効な手法となり得る。仮に戦略が外れても、既存事業の収益力でカバーでき、潤沢な資金があれば倒産にまで至る可能性は低い。

 しかし、3社はいずれもそのような状態にはなかった。ネクサス社はスタートアップ企業で財務基盤が不安定であり、後に粉飾決算の発覚もあった。マツオ社は主要顧客がシニア層で、既存店の売り上げ成長が期待しにくく、採算性も低い中で金融債務が重い状態にあった。ジュピター社も、小売業でありながら現預金の月商比率が0.5カ月分に満たず、手元流動性が低い状況だったといえる。

 3社とも、逆張り戦略を取るには心許ない資金状態であり、脆弱(ぜいじゃく)な財務基盤や不安定な業績の下での出店拡大は大きなリスクを伴った。

成功例との決定的な違い

 どの時代にも逆張り戦略に挑む企業は存在し、中には大きな成功を収める例もある。コロナ禍で急速に店舗数を伸ばした一人焼き肉チェーンや、女性層を狙った作業服のセカンドラインなどは、その成功例と言えるだろう。

 これらは、焼き肉=個食、作業服=若年層女性というように、従来とは異なる顧客層を開拓し、新しい市場を創出した点が大きい。単に空きテナントを活用しただけでなく、新たなビジネスモデルを構築し、一気に浸透させたことが、今回の3社との決定的な違いだった。

 一方で、3社同様にコロナ禍での出店攻勢によるリスクを抱えている企業は存在する。今後、そうした企業の中から新たに破綻に追い込まれるケースが出てくる可能性も否定できない。