ラーメン2割引、ホテル代は3分の1…日本では炎上の「二重価格」がハワイで歓迎される納得のワケ

大木優紀さんが考える、日本の「二重価格」議論に欠けている視点とは? Photo:NEWT

私が家族4人でハワイに移住してまず驚いたのは、物価と家賃の高さでした。でも同時に「これは救われる!」と感動したお得な制度があります。日本でインバウンド向けの「二重価格」の議論が盛んになっている今、なぜハワイの二重価格は観光客にも受け入れられているのか? 謎をひも解いていきます。(令和トラベルNEWTリサーチ統括 大木優紀)

日本で議論沸騰の「二重価格」

ハワイで自然に受け入れられるワケ

 日本では最近、インバウンド需要の高まりとともに「外国人向けの二重価格」に関する議論が盛んになっていますよね。観光客と住民とで価格を分けるこの仕組みに、賛否両論が飛び交っています。

 実は私自身、ハワイに移住して驚いたのが、この二重価格が根付いていることでした。ハワイは物価や生活費が非常に高いですが、二重価格制度のおかげで住民の生活が守られている面が多々あります。

 しかも不思議なことに、この「露骨な」二重価格に対して、住民はもちろん観光客からも目立った反発が起きていないんです。日本で議論の的になっている制度が、なぜハワイではこれほど自然に受け入れられているのでしょうか。

ラーメン2割引き、リゾートホテル3分の1

ゴルフ場は日本より安く、入山料は無料

 誰もが納得しているハワイの二重価格が、「カマアイナ(住民)割引」と呼ばれる制度です。ハワイ州のID(多くの場合は州の運転免許証)を提示すれば受けられます。

 大事なポイントが、国籍もルーツも関係ないという点。日本人であっても、どの国の出身であっても、ハワイ州のIDさえ持っていれば等しく対象になります。

 恩恵の範囲は幅広く、例えばある人気ラーメン屋さんでは2割引で食べられます。また、あるゴルフ場は土日でも80~100ドル程度、平日なら45~50ドルで回れるコース割引があって、カマアイナ料金ならば「日本より安い!」と感動しました。

 メインランド(アメリカ本土)からのお客さんで混んでいるリゾートも、カマアイナ割引を使うとかなりお得に泊まれます。ダイヤモンドヘッドの入山料や、シュノーケルで有名なハナウマ湾の入場料も無料になります。

 お正月休みにマウイ島のリゾートへ行ったときも、運転免許証を見せたら観光客価格の3分の1くらいの料金で泊まれるホテルがありました。

 かなり露骨な割引なのに、不思議なことに、観光客からは目立った反発が起きていません。その理由を考えていくと、その場しのぎの制度設計ではなく、きちんとした哲学が見えてきます。

「区別」であって「排除」ではない

カマアイナが受け入れられる理由

 先ほども述べましたが、カマアイナの適用条件はハワイ州のIDのみです。私はこれを、ある種の「共生の証」のようなものだと感じています。

 ハワイは複雑な歴史を持つ島です。ネイティブハワイアンが暮らしていた土地に、アメリカ本土から、日本から、世界中から人々が流入しました。本来なら深刻な対立が生まれてもおかしくない場所です。

 でも実際に暮らしてみると、多様性は当たり前の概念で、根底にあるのが「アロハスピリット」と呼ばれる島の精神です。「この島が好きで、ここに住むと決めたからには、ここを良くしよう」という共通の目的意識が、国籍や人種を超えた連帯感を生み出している。

 100年前にハワイへ渡った日系移民も、地域貢献を通じてコミュニティに溶け込む努力をしてきました。そういう積み重ねが、この制度の寛容さの土台になっているんだと思います。カマアイナは「外国人を排除するための壁」ではなく、「共に生きる人への承認」として設計されているんです。

 つまり、「観光客vs住民」ではなく、「アロハスピリットを持つ人or旅行者」なんです。国籍や人種は一切関係ありません。これが、日本の現状とは根本的に違うところだと思います。

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オーバーツーリズムへの不満はある

けど行政の対応スピードも速い!

 もちろん、ハワイでも観光客の増加による渋滞や自然環境への負荷に対して、住民が不満を感じていないわけではありません。でも、行政と観光局の対応スピードが凄いんです。

 問題が顕在化すると、自然保護区への事前予約制がすぐに導入されます。Airbnbなどの民泊に対する規制も、エリアごとに迅速に整備されました。人気ビーチ周辺の駐車禁止ルールも、観光客にはちょっと厳しいかなと思うくらいのレベルで素早く制定されています。

 私は観光業に携わっている立場なので、「ここにも駐車スペースがあれば便利なのに」と思うことも正直あります。でも、近隣住民を思い浮かべると、やっぱりそうじゃないよなと感じます。そういったバランス感覚が、ハワイの行政には根付いている。

「対立を作らず、平和な島の空気を維持する」という島民性が、行政の姿勢にも反映されている。さらに、カマアイナ制度と迅速なルール整備という「両輪」がうまく機能することで、観光客と住民の分断を防いでいます。住民として「守られている」という感覚があるので、小さな不満が大きな反発に発展しにくいと感じます。

住民が物価高で疲弊したら

ハワイの魅力は消え失せてしまう

 ハワイを訪れる観光客が、高い費用を払ってでも求めるもの。温暖な気候はもちろんですが、それ以上に「ピースフルな空気」が大きな魅力でしょう。

 その空気を作り出しているのは、他でもない、ハワイ生活を日々楽しんでいる住民そのものです。ハワイに旅行で来て、「いつかハワイに住みたい」と考える日本人も多いのは、まさにそういう点ではないでしょうか。

 だから、住民が物価高で疲弊してギスギスしてしまったら、ハワイの魅力は消え失せてしまいます。住民の生活を守る二重価格は、結果として、「観光地としてのブランド維持」につながっているのです。

 二重価格が、観光客と住民が持続可能な形で共存するための、エコシステムの一部として機能している。仕組みが、自分たちの利益になっていると双方が自然に分かるから、受け入れられているのだと思います。

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日本の「二重価格」議論に

欠けている視点とは?

 日本におけるインバウンド向け二重価格の議論は現状、「外国人から多く取る」という「収益最大化の発想に偏りがち」だと、私は感じます。このまま二重価格を表面的に取り入れたり、住民割引制度を設けたりしても、その根底にハワイのような共生の哲学がなければ、単なる「外国人差別」になりかねません。

 実際に日本の飲食店で外国語メニューの価格を約2倍に設定したところ、トラブルに発展してSNSで炎上したりしています。また、姫路城では「外国人限定」の値上げ案は差別的だと見送られ、「地元住民の入城料は据え置き」に落ち着いたそうです。

 日本とハワイでは、住民の「多様性を受け入れる」という土壌が、異なると感じます。日本では「日本人vsよそ者」という構造になりがちで、そこが根っこの部分で違う。

 日本は「訪日外国人6000万人」を目標に、観光立国になろうとしています。次世代の「観光と生活の共生」をどう描いていくか。大きな問いが投げかけられています。

 仕組みの前に、哲学がある。日本でのこれからの議論が、そこに目を向けていってほしいと願います。