日本の輸出規制、「ノージャパン」運動につながった韓国の元徴用工訴訟は今 日本は韓国が肩代わりの「解決策」を歓迎、原告は「心のこもった謝罪がほしい」

ソウルの韓国最高裁前で遺影を掲げる韓国人元徴用工や元朝鮮女子勤労挺身隊員の訴訟の原告遺族ら=2023年12月(共同)
2019年、韓国では「ノージャパン」として日本製品の不買運動、日本旅行ボイコットが広がっていた。きっかけは「元徴用工訴訟」。太平洋戦争期、日本の植民地支配下にあった朝鮮半島の男女が、日本の炭鉱や軍需工場などで過酷な労働を強制された。
韓国の裁判所は、賃金をもらえなかったり日本人に暴行されたりした事例、「進学できる」とだまされて動員された事案などを事実認定している。韓国の最高裁判所は2018年10月、日本企業に「強制動員への慰謝料」を支払うよう命じる初の確定判決を出した。
日本政府は「1965年の日韓請求権協定で解決済みだ」と反発。2019年7月、半導体材料を韓国へ輸出する規制を強化した。半導体は韓国の主要産業で、歴史問題への「仕返し」との批判が噴出、不買運動につながった。
2023年3月、当時の尹錫悦政権は日本との関係改善を掲げ、賠償支払いを韓国政府傘下の財団に肩代わりさせる「解決策」を発表、日本政府は歓迎した。だが韓国内では「日本の戦争犯罪に免罪符を与える」との不満も広がった。訴訟を進めた原告の支援者らは、今どう思っているのか。(共同通信=富樫顕大)

取材に応じる林宰成弁護士=1月、ソウル(共同)
▽日本側が責任を果たすべきだ
元徴用工訴訟で多くの原告の代理人を務める林宰成弁護士(45)を訪ねた。テレビやラジオの報道番組、新聞で司会者やコラムニストなどとしても活躍している。
―解決策は発表当時は反発が大きかったが、その後、多くの原告が受け入れた。韓国政府関係者などによると、勝訴が確定した元徴用工ら約70人中、財団から賠償相当額を受け取ったのは4割弱という。
「原則としては、『第三者弁済』(解決策)は、賠償責任を負うべき被告企業の責任を免除し、不当だ。だが日本政府が(対韓輸出規制の強化という)事実上の経済報復を行い、韓国政府も『被害者と共に闘わない』という姿勢を打ち出したため、多くの被害者が受け入れた。原告代理人の私としては、第三者弁済の中断を訴えるより、日本側も責任を果たすようにすることが必要だと考えている」

2024年10月、韓国・光州で病床の元徴用工の故・李春植さん(中央)。李さんはこの頃に解決策を受け入れたが、子どもが「病院関連の書類」だと偽って解決策を受け入れる書類に署名させていたとして、警察は私文書偽造の疑いで子ども2人を書類送検した。李さんは2025年1月に亡くなった。(民族問題研究所提供、共同)
―日本側が責任を果たすとは。
「被告企業である日本製鉄、三菱重工業などの責任者らが、被害者に対して、強制動員の歴史的事実を認めて謝罪することだ。被害者が最も望んでいることでもある。また、財団は第三者弁済を実施するための資金が不足し、資金を増やすのは難しい状況にある」
―財団の資金は、勝訴が確定した元徴用工ら全員に支払うには100億ウォン(約10億円)ほど足りず、専門家の試算によれば、今後さらに100人を超える原告勝訴が確定する可能性もある。
「日本企業の責任を韓国が肩代わりする正当性はなく、大統領府や財団が韓国企業に寄付を求めることは難しい。求めたとしても、企業内で議論が避けられない。日本企業が財団に資金を拠出したり謝罪をしたりすれば、日本側の責任が含まれることになり、(韓国企業にも寄付の名分が生じて)第三者弁済が持続可能になると思う」

韓国政府が発表した元徴用工訴訟問題の解決策を巡り、市民団体などが開いた反対集会=2023年3月、ソウル(共同)
▽「謝罪は加害者のための行為でもある」
―日本では元徴用工訴訟の問題は「もう終わったもの」と考える人が多い。
「そうだろう。しかし、『後の世代に謝罪を続ける宿命を背負わせない』という安倍晋三元首相の考え方は無理があると思う。重大な人権侵害問題では、謝罪はいつまでもできる。謝罪することで、過去の過ちの省察ができる。だから、謝罪は被害者のためだけではなく、加害者のための行為でもある」
「韓国の子どもたちは、強制動員問題を中学校や高校の歴史で学んでいる。日本企業の代表が謝罪をし、そのことまで学ぶことができるようになれば、どれだけ良いだろうか。韓国と日本が親しい隣人になることができる」

取材に応じる「日帝強制動員市民の会」の李国彦理事長=2月、韓国・光州(共同)
▽中国人強制連行では、「痛切な反省の意」も
太平洋戦争末期、日本は植民地の朝鮮半島から10代の少女を含む女性らを「朝鮮女子勤労挺身隊」として日本国内の工場に動員した。元挺身隊の女性らの裁判を支援してきた韓国南西部・光州の団体「日帝強制動員市民の会」の李国彦理事長(57)にも話を聞いた。
―元徴用工訴訟で多くの原告の代理人を務める林弁護士は、賠償支払いを担う韓国側の財団に、日本企業が資金を拠出する案も望ましいと話していた。
「財団から原告への支払いは慰労金、口止め金のようなもので、これを受け入れたとしても日本企業の法的責任は残る。解決方法は一つではないと思う。三菱マテリアルと中国人強制連行の和解の事例は望ましい」
―2016年、三菱マテリアルは中国人強制連行を巡り、和解合意した。合意では、「痛切な反省の意」を示し、その上で、強制連行問題の「終局的・包括的解決」のため基金に資金拠出し、記念碑建立によって「事実を次の世代に伝えていく」と表明した。
「中国国内で裁判所の判決が出ていたわけでもない。『中国と韓国は違う』と言うかもしれないが、韓国は最高裁の判決が出ている」
―韓国の元挺身隊員の女性らが訴訟で求めていたことは何だったか。
「子どもの時に日本へ行き、一生のトラウマになるなどしていた。補償も(不法行為認定の)証拠として必要だが、根本的には加害者から心のこもった謝罪が欲しいというものだった。不法行為を日本政府が自ら認めないので、裁判を通じて糾明を目指した。ただ韓国政府も、日本との国交正常化やその後で被害者の声を反映させようとしなかった。日韓の政府にこの問題に目を向けてもらうため、私たちは訴訟で闘った」

取材に応じる「民族問題研究所」の金英丸対外協力室長=1月、ソウル(共同)
▽高市首相は「長生炭鉱」の遺骨鑑定で協力
市民団体「民族問題研究所」は、日本に関連する歴史問題に取り組む韓国の代表的団体で、3年前、元徴用工訴訟問題の解決策に反発した。金英丸対外協力室長(53)は、この問題の解決は容易でないと述べつつ、日韓の歴史を巡る和解が進むことを期待した。
―今、続いている訴訟の他に、新たに提訴しても賠償は認められないため訴訟の件数は限りがある。しかし、最近も日本企業敗訴の最高裁判決が出ている。
「これまで日本製鉄、三菱重工業、不二越、日立造船(現カナデビア)、西松建設、熊谷組を相手取った訴訟で確定判決が出た。日本の被告企業は十数社だ。(確定判決が出れば韓国で)『戦犯企業』というレッテルを貼られる。日本の財界が向き合ってほしい」
「結局は、日本が朝鮮の植民地支配をどう総括するかという日本社会の問題だと思う。世界文化遺産『佐渡島の金山』の朝鮮人労働者問題などでも、日本は強制動員を否定しようとしている。強制動員の事実を記録することで世界遺産の価値が落ちるわけではない」
―李在明大統領は野党代表だった3年前は、元徴用工訴訟問題の解決策への反対集会に参加した。大統領になった現在は解決策を維持する方針を示している。
「李政権は基本的には歴史問題を取り上げないというスタンスだったが、最近『長生炭鉱』の遺骨問題で進展があった」
―高市早苗首相と李大統領は今年1月、1942年の水没事故で朝鮮人労働者が多数犠牲になった山口県宇部市の海底炭鉱「長生炭鉱」で見つかった遺骨のDNA型鑑定で協力することを確認した。
「韓国と日本の市民が(市民団体と民間ダイバーの潜水調査で遺骨を見つけて)政府を動かした。(日韓が)衝突を避けながら、解決できる問題から解決していくプロセスはとても望ましい」
「日韓の交流が進んでいるのはとても良い。歴史問題に関係なく日本の市民が韓国に遊びに来たとしても、観光で宮殿とか史跡に行けば植民地支配の傷痕がある。日本の市民が一つでも気付いてくれるきっかけになるかもしれない」