成田空港にまさかの大行列「電子手続きなのに、“紙”より並ぶはめに」…税関の真実 時短のために導入したはずがなぜ? その「構造的」な原因

税関の電子手続きを待つ入国者らが長蛇の列をなす成田空港=2月、成田空港(人物の顔を画像加工で消しています)

 2月9日午後5時過ぎ、私と妻は成田空港にいた。ヨーロッパでの新婚旅行から帰り着いたところだ。

 楽しかったが、長旅で2人とも疲れている。こんな会話をしながら飛行機を降りた。

 「早く空港を出て、近くの温泉につかりたいね」

 入国審査をスムーズに通り、預け入れていたスーツケースも受け取った。あとは税関検査場を通過するだけだ。

 私は「電子手続き」の列に並んだ。待ち時間を減らし、混雑を緩和するために導入された仕組み。増加するインバウンド(訪日客)を背景に、国がPRしている。

 一方、妻は昔ながらの有人手続きへ。理由はデジタル庁のサイトに登録するのが面倒だから。黄色い長方形の紙を書いて列に並んだ。

 「到着ロビーで集合ね」。こう言って別れたが、内心こう思っていた。

 「電子の方が絶対早いのに…」

 ところが結果は正反対。電子手続きはなかなか進まない。2、30分かかってロビーに出たら、待ちぼうけを食らった妻はベンチでぐったり。聞くと5分もかからなかったという。不思議に思って取材すると、多くの利用者が同じ目に遭い、不満が渦巻いていた。一体なぜ、こんなことが起きるのか。(共同通信=髭敬)

税関電子手続きの案内表示=2月、成田空港

 ▽目的は「待ち時間短縮と混雑緩和」

 そもそも税関手続きとは何か。財務省関税局によると、テロの未然防止や密輸阻止の観点から、入国者が輸入禁止品や無申告の大金を持ち込まないかを調べる手続き。

 以前は「携帯品・別送品申告書」と呼ばれる黄色い紙での申告だったが、7年前の2019年4月、電子手続きが成田空港第3ターミナルで試験的に導入された。

 国はプロモーション動画や多言語でリーフレットを作成し、積極的にPR。新千歳や中部、福岡など主要7空港でも本格運用が始まり、年間利用者は2022年度に470万人だったが、2024年度には1623万人まで増えた。

 利用するには、デジタル庁の入国手続き支援サイト「ビジットジャパンウェブ」(VJW)で情報を入力し、スマートフォンなどで表示されるQRコードを専用端末に読み取らせる。税関検査場では、この電子手続きをするか従来の紙を使った申告をするかは入国者が自由に選べる。

 専用端末では顔認証も同時に行い、サイトで一度登録した旅券番号などの個人情報が次回以降も使えるため利便性が高いとされる。

 導入された背景には増加するインバウンド(訪日客)への対策があった。サイトによると、目的はこうだ。

 「増加し続ける入国旅客の円滑な入国と待ち時間の短縮、税関検査場の混雑の緩和を図るため」

 ▽SNSで批判が一気に拡散

 ただ、「混雑を緩和」「利便性が高い」と国が言う割に、評判は芳しくない。

 「混んでいる時間だと電子の列の方が圧倒的に遅い」

 「成田空港の税関オペレーションが非常に悪い」

 1月、SNSではこんな投稿が一気に拡散。24万回以上表示され、共感の声が相次いだ。

 この事態に、金子恭之国土交通相はこんな投稿をしている。

 「国交省としても成田空港の利便性・快適性向上に努めて参ります」

 ちなみに国交省は税関を所管していない。空港を担当する立場から答えたようだ。

 財務省関税局の担当者に尋ねると、こんな説明をされた。

 「そのようなご指摘があるとは承知している。到着便が相次ぎ、入国者が集中する午後5~6時台に特に混雑する」

 ▽もう一度見に行ったら、やはり…

 もう一度この目で確かめようと、税関担当者の案内で2月20日午後5時ごろ、第2ターミナルに向かった。

 目に入ったのは、電子手続きを待つ入国者らが200メートル以上の大行列。いずれも大きなスーツケースを携え、疲れた表情で並ぶ。遅々として進まない。

 一方、紙の申告をする人が主に使用する有人ゲートは、1カ所につき20メートルほどの列でスムーズに流れていく。おおむね5分以内に手続きを終えていた。

 電子手続きの行列では、緑色のビブスを着た案内担当の男性スタッフが「最後尾」と書かれたプラカードを高々と掲げている。

 仕事の合間に様子を尋ねた。すると「この時間は大型の機材が続々と到着するから混雑しやすい。(手続きが済むまで)20分以上かかる」

税関手続きの「有人レーン」の列=2月、成田空港

 ▽原因は「構造的な問題」

 なぜここまで電子手続きは混雑するのか。

 関税局の担当者が原因の一つとして挙げたのは窓口の数。成田空港では、有人ゲートが計74カ所あるのに対し、電子端末は計58カ所。電子手続きは今や多くの入国者が利用するようになったが、処理する機械の数が追い付いていないという。

 ただ、理由はそれだけではないと別の関係者が指摘する。

 「預け入れ手荷物を受け取った同じエリアで、その直後に税関手続きがある。大きな荷物を持った状態で入国者がごった返すから、必然的に混雑する。成田空港の構造的な問題ですよ」

成田空港=2010年、共同通信社ヘリから

 ▽対策は「共同キオスク」

 構造的な問題とするなら、関税局はどう改善するつもりなのか。担当者は次の2点を挙げた。

 ・混雑時に電子手続き利用者を有人ゲートに誘導する

 ・税関と入国手続きを一括処理する新端末「共同キオスク」の数を増やす

 この共同キオスクは、入国手続き前のエリアに設置された端末に、VJWで入力した情報を読み取らせる仕組み。利用者は税関手続きでの申告も不要となる。

 既に2025年4月から成田や羽田、関西など一部空港で運用を始め、混雑解消に一定の効果があったという。「将来的には共同キオスクに一本化したいと考えているが、引き続き電子手続きの利便性も向上させたい」

 それはいつ実現するのだろうか。