国民皆保険が崩壊する…「保険はずし」が薬代から医療全体に広がる《危険な法改正案の中身》

国民皆保険が崩壊する…?《危険な法改正案の中身》とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA

OTC類似薬のいわゆる「保険はずし」を盛り込んだ健康保険法改正案が、実質審議に入った。薬代の負担増は家計にダメージを与えそうだが、それ以上に怖いのが、法改正によって保険はずしの範囲がOTC類似薬だけにとどまらず、診察や手術などあらゆる医療行為に拡大する可能性がでてきたことだ。一体どういうことか?『医療費の裏ワザと落とし穴』307回で、詳細を解説する。(フリーライター 早川幸子)

 2026年4月15日、OTC類似薬のいわゆる「保険はずし」を盛り込んだ健康保険法改正案が、衆議院厚生労働委員会で実質審議に入った。

 OTC類似薬の保険はずしは、病院や診療所で処方されたOTC類似薬の費用の一部を保険適用外にして患者に転嫁するもので、公的医療保険制度に「一部保険外療養」という枠組みを新設して運用される予定だ。

 薬代の負担増は家計にダメージを与えそうだが、それ以上に怖いのが、法改正によって保険はずしの範囲がOTC類似薬だけにとどまらず、診察や手術などあらゆる医療行為に拡大する可能性がでてきたことだ。

アレグラ、ロキソニン、ヒルドイド

身近なOTC類似薬が負担増の対象に

 日本では、安全性や有効性が確認された保険診療と、評価が定まっていない自由診療を併用する「混合診療」を原則的に禁止している。このルールを破って混合診療を行った場合は、保険適用外の治療だけではなく、保険診療についても全額自己負担しなければならない。

 これは、安全性や有効性の不確かな治療から国民の命を守るための重要なルールだが、他に治療法のないがん患者などの中には、評価が定まっていない治療でも自己責任で受けたいという人もいる。

 そのため、患者の希望に沿った治療を可能にするという目的で、厚労相が定めた一定の保険外診療については部分的な混合診療が認められている。これが「保険外併用療養費」で、保険適用外の治療は全額自己負担になるが、保険診療は通常通りに一部負担で治療を受けられる。

 今回の改正案では、この保険外併用療養費に「一部保険外療養」という枠組みを新設して、OTC類似薬の一部を保険給付から除外。医療費の一部は全額自己負担になるが、その他の医療は従来通りに保険適用にすることで、部分的な混合診療を可能にしようとしている。

 OTC医薬品は「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の頭文字を取った略称で、薬局やドラッグストアなどで医師の処方箋なしで購入できる一般用医薬品、要指導医薬品などのことだ。

 一方、OTC類似薬は、医師が処方箋を書いて出している医療用医薬品のなかで、OTC医薬品と同じ有効成分・効能の医薬品だ。

 現在は、医師が処方した医薬品は、原則的に全額が保険給付の対象だ(ただし、患者の希望で後発品のある先発品を使用した場合は一部が保険適用外)。ところが、改正案が成立すると、OTC類似薬の一部が保険対象外となり、その分は全額患者負担になる。

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 対象として挙げられているOTC類似薬は、77成分で約1100品目。薬局で販売されているOTC医薬品と成分や投与経路が同じで、1日の最大用量が異ならない医療用医薬品(OTC類似薬)が機械的に抽出されている(厚生労働省「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について」より)。

 鼻炎(内服・点鼻)、胃痛・胸やけ、便秘、解熱・痛み止め、風邪症状全般、腰痛・肩こり(外用)、みずむし、殺菌・消毒、口内炎、おでき・ふきでもの、皮膚のかゆみ・乾燥肌など、比較的軽微な症状に対応する医薬品が対象だ。

 例えば、保湿剤のヒルドイド、うがい薬のイソジン、解熱鎮痛薬のロキソニン錠などが特別料金の加算対象にあがっている。

将来的には対象医薬品の範囲拡大と

全額自己負担の割合も引き上げられる

 一部保険外療養は27年3月実施予定で、保険対象外となるのは当面は薬剤料の4分の1とされている。残りの4分の3は保険給付の対象で、70歳未満の人はそのうちの3割を自己負担する。

 例えば、花粉症で抗アレルギー薬のアレグラ60㎎を30日分処方してもらった場合、1回あたりの薬剤料は1200円。現在はOTC類似薬も薬剤料の全額に保険適用されているので、70歳未満の人なら3割の360円を自己負担すればよい(26年4月現在。この他に医療機関への診療報酬、薬局への調剤報酬などがかかる)。

 制度改正されると、薬剤料の4分の1の300円は公的医療保険が適用されなくなり、全額自己負担となる。自費の医療費には消費税(10%)の30円がかかる。保険適用されるのは残りの900円なので、70歳未満の人は270円を自己負担する。合計すると、1カ月分の薬剤料の自己負担分は600円となり、これまでより240円負担が増えることになる。

「240円程度なら大したことはない」と思うかもしれないが、負担増はこれで終わりではない。

 財務省の「令和8年度社会保障関係予算のポイント」(25年12月)には、「将来、OTC医薬品の対応する症状に適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品の相当部分にまで対象範囲を拡大することを目指し」「令和9年度以降にその対象範囲を拡大していく。あわせて、特別の料金の対象となる薬剤費の割合の引き上げに付いても検討する」と記載されている。

 当初、保険はずしの対象は、77成分・約1100品目で薬剤料の4分の1だが、政府は対象範囲のさらなる拡大を目指しているのだ。

 アレグラ60㎎を30日分処方してもらった場合の負担は、一部保険外療養が2分の1になると840円、全額保険適用外になると1320円に引き上げられることになる。

 子ども、がんや難病などの慢性疾患を抱えている人、低所得者、入院患者、医師が対象医薬品の長期使用等が必要と考える人には配慮措置がとられるが、一般の人は薬剤料の自己負担がジワジワと増えていきそうだ。

OTC類似薬の保険はずしだけではなく

医療全般に拡大していく可能性もある

 さらなる懸念は、一部保険外療養の対象がOTC類似薬にとどまらず、医療全般に拡大していく可能性を否定できないことだ。

 一部保険外療養に関する法律案は、健康保険法第63条第2項に、「6」として新設され、療養の給付(公的医療保険の現物給付の対象)から除外するものに加えられている。

◆健康保険法第63条第2項6

要指導医薬品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全(新設)性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第四条第五項第三号に規定する要指導医薬品をいう。)又は一般用医薬品(同項第四号に規定する一般用医薬品をいう。)との代替性が特に高い薬剤を用いた療養その他の適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるもの(以下「一部保険外療養」という。)※下線は筆者

 非常に分かりにくい文章だが、つまり、代替性の高いOTC類似薬や「その他の適正な医療」の費用の一部で、厚労相が定めたものを一部保険外療養にするということだ。

 もともと、一部保険外療養はOTC類似薬の費用の一部を保険適用外にするために創設された制度はずだ。ところが、その法案に、なぜかOTC類似薬ではない「その他の適正な医療」という文言が差し込まれている。

 現在、原則的に国が認可した医療行為や医薬品の費用は全額保険給付の対象だが、この一文があることで、OTC類似薬にとどまらず、診察や治療材料、処置、手術、在宅医療など、全ての医療を一部保険外療養の対象にすることが可能になってしまうのだ。

 一部保険外療養の運用にあたっては、所得や病状など治療を受ける人の事情に配慮することや、中央社会保険医療協議会(中医協)の諮問を受けることも定められている。だが、法律案に書き込まれた「その他適正な医療」という文言を錦の御旗に、国や経済界の都合によって保険適用外の医療行為が次々と追加されていくという事態も起こりかねない。

 実際、保険外併用療養費の一つである「選定療養」は、当初は差額ベッド料や予約診療など、患者の希望に沿った療養環境を可能にするものとして導入されたものだった。だが、その後、選定療養の枠組みの中に「大病院受診時の定額負担」「後発医薬品のある先発医薬品の利用に関する追加負担」などが組み込まれ、医療費の負担を患者に転嫁する手段として使われるようになっている。

 選定療養はあくまでも患者の希望によって利用するという前提があり、利用しなくても命を守るために必要な医療は受けられる。対して一部保険外療養は、必要な医療でさえも厚労相の定めで保険はずしができてしまう制度で、次のようなものが考えられる。

・5000円以下の医療費は一部保険外療養にして全額自己負担にする

・治療に使うガーゼや包帯などは一部保険外療養の対象にする

・深夜や休日などに診療を受けた際の時間外加算を一部保険外療養にする

・規定回数以上の訪問診療は一部保険外療養にする

・コルセットなどの治療用装具は一部保険外療養に移行する

 このように、現在、国会で審議されている改正健康保険法案は、将来の医療費の負担をガラリと変える危険を秘めたものが含まれているのだ。成立すると、単にOTC類似薬の負担増とどまらず、病気やケガの治療に必要な医療でさえも保険適用の範囲を狭めることが可能になる。その範囲はジワジワと拡大し、気づいた時は保険診療だけでは必要な医療が受けられない国になっていたということにもなりかねない。

 増え続ける国の医療費の適正化は重要なことだが、命を守るために必要な医療を保険適用外にできる法律を簡単に成立させてはならない。少なくとも、新設された第63条第2項6から「その他の適正な医療」を削除し、OTC類似薬に限定した内容に修正する必要があるのではないだろうか。