「消費税ゼロも減税も反対」言わずして抗う財務省の“腹話術”、高市政権の公約実現を左右する日銀の利上げ方針

地方の女性議員らが集まった会合であいさつする高市首相=8日午後、東京・永田町の自民党本部(写真:共同通信社)
財務省が権力闘争で用いる「腹話術」とは
高市総理は本当に食料品消費税ゼロを断行できるのか——。
消費税を1%にし、低所得者向け給付との合わせ技で早期実現を図る案が、国民会議で取り沙汰されている。
財務省主計局・主税局は表向きおとなしく見える。だが、ことは年間26.7兆円・税収全体の32%を占める基幹財源をめぐる権力闘争だ。おとなしくしているわけがない。
こうした権力闘争において、財務省が長年使ってきた戦術が「腹話術」だ。

財務省(写真:cap10hk/イメージマート)
有識者をして語らしめる、国民会議での腹話術
自ら語らず、野党を含めて、他人をして語らせるのが腹話術。審議会・有識者会議・懇談会といった名目の場においても、座長と委員の人選を握り、中間報告と最終報告を予定調和で出してもらう戦術である。
この戦術は「ご進講」と称する事前レクから始まり、必要に応じて会議の場での「ご発言要領」が用意される。若いうちからこうした会議のメンバーに選ばれると、霞が関の手駒として育っていく。
今回の食料品消費税減税をめぐる「国民会議」のメンバーも、見事に予定調和性のある布陣である。高市早苗総理に近いと言える委員は、片岡剛士・PwCコンサルティング上席執行役員チーフエコノミスト、永濱利廣・第一生命経済研究所首席エコノミストくらいだろうか。

「社会保障国民会議」の初会合で、あいさつする高市首相(左から2人目)=2月26日、首相官邸(写真:共同通信社)
座長の清家篤・日本赤十字社社長は、以前から財務省はじめ霞が関の信頼が厚い人物である。
ちょっとだけ思い出がある。
2007年、私が行政改革担当大臣として、霞が関と閣内の猛反対がある中で公務員制度改革基本法のグランドデザインを作る時、座長の事務方案が清家・慶應義塾大学商学部長(当時)だった。色々なツテを頼って清家氏外しに動いた経験がある。
座長を取り、議論を実質的にリードするメンバーを配置すれば、最終答申までは大臣がイニシアティブを取れる。事務方が選ぶ「中立」な学者は、決して中立ではないからだ。
高市総理は先の総選挙で歴史的大勝をしたことから、事務方の人選にあまり口を挟まなかったと思われる。
「神は細部に宿る」のと同様、霞が関の格言は「戦略は細部に宿る」なのだ。
「減税は反対だ」と言わずして抵抗
国民会議にぶら下がる形で、「実務者会議」も並行して走る。本当の戦場は、むしろこちらなのかもしれない。表向きは与野党の政治家中心の装いだが、財務省を中心とした官僚がしっかりとガードを固めている。

国会で開かれた「社会保障国民会議」の実務者会議=4月22日午後(写真:共同通信社)
財務省やその周辺からは、制度論・財源論、さらにはシステム改修論まで、さまざまな慎重論が持ち出された。
象徴的だったのが、減税実施に必要なレジ・会計システム改修に時間がかかるという主張だ。東芝テック・富士通・NECといった大手ベンダーは「時間がかかる」と回答し、これが減税慎重論の有力な根拠となった。
他方で、リクルートやスマレジのような新興クラウドPOS事業者は、即時ないし短期間で対応可能だと述べている。
この差は、技術力の優劣ではない。大手は、個別企業ごとに深く作り込まれた基幹システム全体を前提に語っているのに対し、新興は標準化されたクラウド型サービスを前提にしている。つまり、前者は「受託型・専用システム」の世界、後者は「標準型・SaaS」の世界である。
ところが政治の場では、その最も重たいシステムがあたかも全体像のように扱われる。財務省にとってこれはきわめて都合がよい。「減税は反対だ」と正面から言わずに、「現場が持たない」「実務的に無理だ」と現場の話で押し返せるのである。
だが、財務省の裏表を知り尽くす片山財務大臣を擁する高市政権を前に、財務省が想定したほど機能しなかった可能性が高い。
ゼロではなく「1%への減税」と切り返す案が、ほどなくして出てきたからだ。現行でも導入されている軽減税率と同様である。それなら0.01%でも良いではないかという実質ゼロの案も浮上した。結局、高市総理は「早く実現する」という時間軸を重視したのだろう。
財務省が最も嫌う「聖域」の崩壊
消費税ゼロにしろ減税にしろ、財務省はいったい何を恐れているのか。
第一に、税収減である。消費税は令和8年度予算ベースで約26.7兆円、一般会計全体の約32%を占める基幹財源だ。日本では他国に例のない「社会保障の財源」と位置づけられている。予算の屋台骨が揺らぐと考えている。
そしてより重要なのは、一度引き下げが認められれば、消費税は固定的で不可侵の税ではなくなることだ。財務省が最も嫌うのは、聖域(サンクチュアリ)神話の崩壊だろう。
そんな聖域を守るため、財務省がいま腹話術のパペットにしているのが、長期金利である。
財務省にとって、日銀は最後の砦だ。「金利の正常化」は「財政の健全化」とパラレルの関係にある。
4月30日、新発10年物国債利回りは一時2.535%を付け、29年ぶりの水準にまで跳ね上がった。ホルムズ海峡の緊迫化に伴う原油高が、その表向きの説明である。
だが、本当にそうか。ベッセント米財務長官主導で行われた1月の日米協調レートチェック以来、米長期金利の上昇は9bp(0.09%)に過ぎないのに、日本は31bp(0.31%)も上がっている。この異常値の主因は、別のところにある。

ベッセント米財務長官(写真:Pool/ABACA/共同通信イメージズ)
岸田内閣が指名した植田総裁は、4月28日の金融政策決定会合で政策金利0.75%を据え置きこそしたが、口先では「夏の利上げ」を匂わせ続けている。だからこそ市場は国債を売り、長期金利が跳ね、円も売られたのだ。31bpの上昇は、その結果である。
日銀・長期金利を利用した最後の腹話術
ここで改めて述べておきたい。中央銀行は政府の子会社である。
「中央銀行の独立性」とは、手段方法の独立であって、目的・目標は政府と共有する必要がある。植田総裁は、銀行が日銀に預ける当座預金に利息をつけるなど、政府よりも銀行の利益を代表しているかのように見える。
高市内閣は強い経済成長と投資の拡大を掲げており、日銀には「強い経済成長」と「物価の安定」をダブルマンデート(任務)として課している。
原油価格高騰によるコストプッシュ・インフレに利上げは効くのか? 企業の投資拡大に冷水を浴びせないだろうか?
高市総理が植田総裁に強い口調で利上げをとどまるよう迫った——。そう報じられても、むべなるかな、である。

会談に臨む高市早苗首相(右)と日銀の植田和男総裁=2月16日、首相官邸(写真:共同通信社)
そしてこの利上げが、消費減税の成否を分ける一線になるだろう。
11日に来日するベッセント米財務長官が日銀の利上げを要求するとの解説も聞かれる。しかし、国際金融市場を知り尽くす同氏が真に警戒するのは、米長期金利が4.5%を超えて上昇していくことに他ならない。
5%を超えると金融危機を招くと言われている。だからこそ、トランプ大統領は手を変え品を変え、経済崩壊寸前のイランとの最終合意に躍起になっている。
合意間近との思惑で日米共に株価は最高値圏。米中首脳会談前の今こそチャンスだが、逆にイランの革命防衛隊を温存するジレンマを抱えている。
今後、日本の長期金利が跳ねれば、市場関係者は鬼の首を取ったように言うはずだ。「消費減税は財政規律を損なう、長期金利がさらに跳ねる」と。
日銀の利上げ姿勢が長期金利を押し上げ、その長期金利上昇が消費減税を否定する材料に転用される。これこそが究極の腹話術——。二人羽織である。
この二人羽織を封じない限り、食料品消費税減税は絵に描いた餅になるだけでは済まない。せっかく成長軌道に乗りつつある日本経済を、再び停滞経済へ突き落とす導火線となりかねない。
封じる手立てはある。財務省の最後の砦である日銀のスタンスを、ダブルマンデートに引き戻すこと。そして「中央銀行は政府の子会社」という原則を、政府が改めて明示することだ。「利上げをするなら議決延期請求権を行使する」と伝えれば良い。それが、長期金利という最後の腹話術を破る唯一の方法であろう。
関連記事
「自民が勝とうが負けようが、消費減税は絶対ない」ささやいた財務省OB、高市政権は食料品消費税ゼロを断行できるか
いくら一強・高支持率でも「死角は残る」…高市首相が自民党大会で放った「非協力勢力」牽制と総裁選再選戦略の輪郭
支持率が低迷するトランプ米大統領、米中首脳会談が「失敗」したら「中国叩き」に転じる可能性