そりゃ時代錯誤だわ…東京を目指した理系大卒の女性が地方企業で受けた「驚くべき仕打ち」

写真はイメージです Photo:PIXTA

2014年、若年女性の人口減少により“最終的には消滅する可能性がある”とされる「消滅可能性自治体」が全国に896あることが、日本創成会議で発表された。それを受け、多くの自治体が人口増のために「子育て支援」の施策を行うようになったが、そもそも出産可能な若い女性が少ないのだ。地方から大都市へ、若年女性がどんどん流出していくのは何故なのだろうか……。※本稿は、著者名『地方で拓く女性のキャリア 中小企業のリーダーに学ぶ』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「女子は事務だけ」の壁…

なぜ若者たちは地方を去るのか?

 若い女性がなぜ、地方から流出するのか。東北活性化研究センターが2020年に18歳から29歳の女性2300人を対象に行った調査(編集部注:「人口の社会減と女性の定着に関する意識調査」)に、地方で問題意識をもつ人たちは衝撃を受けた。

 地方から転出する理由を聞いたところ、「やりたい仕事、やりがいのある仕事が地方では見つからない」とする人が最も多かったのだ(図表0-1)。

同書より転載

 続いて「東京(東京圏)と比べて年収が少ない」とする人が多い。

 若者が、収入の少ない地域から多い地域に流出していくことは、かねてより明らかな相関が指摘されていた。しかし若い女性が地方をあとにする最大の理由が「仕事のやりがい」を求めてという点に、地方の自治体や経済界は驚いた。

 地方で就職活動をしようとしたところ「女子は事務職」「専門職採用はしない」と言われたという声はいまなお挙がる。いったんは、故郷の地元企業に就職したものの、大きな男女差に疑問を感じて転職した例もある。

 新潟の企業をあとにした、ある女性を紹介しよう。

「理系卒なのにお茶出し」

地方女子が転職を決めた瞬間

「適材適所で、お茶出しは女子にしてもらいます」

 山田友理奈さん(40代、仮名)は入社間もない新人研修で、講師を務める先輩社員が発した言葉に、心のうちで「え?」とつぶやいた。

 北陸地方の大学で理工系学部を卒業し、故郷新潟のメーカーに総合職として就職したときのことだ。

 新人研修の一部は男女に分かれて、女子は総務部の女性社員から「お茶出し」の方法を指導される。一方の男子は同じ時間帯に技術系の専門研修を受けており、その研修を受けることを条件に、女子にはない「手当」が出されるというのだ。

 技術開発部門に配属された山田さんは、男女同じ仕事を任せてもらったが、プロジェクトリーダーは全員男性。社内を見渡すと、女性管理職はひとりもいない。

 就活にあたっては、故郷の新潟に戻ることに迷いはなかった。実家を離れて1人暮らしをした大学時代は、生活費も学費も親から仕送りをしてもらった。故郷に戻ることで、恩返しをしたいという気持ちもあった。

 ところが、「この会社で働いても、できる仕事に限界がある」と感じ、20代半ばで大手通信会社の新潟支社への転職を決める。

 そのとき、周りの女性社員は「えっ、(転職なんて)そんな選択肢があったの」と驚いたという。

大企業で育休後も管理職へ

“本当の働きやすさ”の正体

 山田さんは、新しい職場に移って目を見開いた。前職では会議は先輩や上司の話を聞くのが当たり前だったが、「あなたはどう思うのか」と常に意見を求められる。

 来客の折に、さっとお茶を出そうとすると「それはあなたの仕事ではない。お茶のマシーンがあるから」と止められた。

 7年ほど新潟支社に勤め、もっと会社全体を見渡す経営の仕事がしたいと、東京本社の経営企画部に異動願いを出したところ、東京転勤が決まった。社員2万人を超える企業の経営目線に、日々驚くばかりだった。

 異動してまもなく結婚し、夫の転勤に同行して2年半の育児休業をとった。しかしキャリアが停滞することなく管理職に登用された。

 一方、「もう限界だ」と飛び出した新潟のメーカーでは、20年ほど経ったいまも女性管理職はひとりもいない。山田さんが20代のころに覚えた違和感をいまもひきずる組織風土であることがうかがえる。

 いま山田さんは、東京本社で部下12人を率い、テレワークも取り入れたダイバーシティマネジメント(編集部注:人材の多様性を重視し、その能力を最大限発揮できるよう組織を改革するマネジメントすること)で力を発揮する。新潟のメーカーからすると、貴重な人材を流出させてしまったといえる。

 Uターン組を受け入れる企業が、女性にも「やりがいのある仕事」を用意しているかどうか。ジェンダーバイアス(編集部注:男女の役割について固定的な観念を持つこと)を排して、見直す必要があるだろう。

地域社会に根深く残る

「女は女らしく」が息苦しい

 地方で暮らすのは「息苦しい」という女性がいる。その大きな要因は、地域社会、職場、家庭で、固定的な「女性役割」「妻役割」「母役割」を求められることだ。

「結婚して子どもを産まなきゃ、一人前ではない」「『女性らしさ』を生かして仕事をしてほしい」「外で働いてもいいけど、家事・育児は女性の仕事だから」といった発言を生む意識の根底には、「男性は外で仕事、女性は家庭を守る」という固定的な性別役割分業意識がある。

 こうした分業意識はとりわけ地域社会に根深く、そうした息苦しさから逃れるように、故郷を出て大都市圏で就職する女性もいる。秋田出身の山西沙也加さん(26歳、仮名)も、そんなひとりだ。

 東京・大手町の高層オフィス街にあるレストランで、山西さんと会った。流行の紺のダブルのジャケットに、メリハリの利いたメイクがよく似合う。いまは営業部門で、営業管理や新人の教育にあたっているという。

「女の子だから、もう少し家の手伝いをしなさい」「いずれ嫁ぐことになるのだから」

 山西さんは、折に触れて母親がこう口にすることに、子どものころから違和感を覚えてきた。

 中学校の国語教師で野球部を指導する父と、家業をパートタイムで手伝う母。父親が仕事で遅くなると、帰宅するまで食事に手をつけずに待つ母は「三歩下がる」タイプで、何か相談をすると「お父さんがいいと言うならいいけど」と答えるのが常だった。

故郷で「女性的役割」を果たす

未来がイメージできない

 国際教育で知られる秋田の大学に進むと、全国の難関高校から進学してきた友達は実に多様で、自分の家庭の常識を揺さぶられた。

 1年間米国の大学に留学した際には、ジェンダーと性的マイノリティについて専門的に学んだ。さまざまな人種、性自認の友人らと議論をするなか、心のうちにある多様性の枠組みに揺さぶりをかけられた。

 大学卒業後の就職を考えるとき、故郷秋田での姿を思い描いてみた。

「家族の食事をつくるから早く帰らなきゃ」と急いで仕事を切り上げるような生活を送れるのか。町内で「山西家の娘さん、髪の色が派手だね」などと噂をされながら暮らすのか。地域での集まりで、女性はいつも料理給仕で走り回り、男性はどんと構えてお酒を楽しむような席で、自分も「女性役割」を果たしていけるのか。

 そうした未来は、どうしてもイメージできなかった。

 就職活動は、同じ大学出身の尊敬する先輩が働いているというシンプルな理由で、東京に本社をおく大手メーカーに興味をもった。

 最終面接で「日米で好まれるメイクの違い」に興味があると答えたところ、男性面接官はごく自然にジェンダーの視点をもって質問を返してくれた。

 そこで「何を性的魅力とするか」について、メイクを切り口に自分の考えを述べたところ、面接官は真剣に耳を傾けてくれた。

 その後「合格」の知らせが届く。「それぞれの個性をみて、違いを大切にしてくれる会社だ」と感じて、就職を決めた。

性による役割分担を嫌う女性が

東京を目指している

 東北地方は、若い女性の流出率で各県がランキング上位を占める。

 山形県が2021年に県内在住の女性を中心に1121人に行った調査(編集部注:「山形県の女性の暮らし方、働き方に関するアンケート調査」。調査対象は、山形県在住または山形県へのUIJターン等に関心のある人。オンラインで実施し、回答者の約半数は20代、30代。)からも、性別役割分業に対する違和感がうかがえる。

「これまで山形県での仕事や暮らしの中でモヤモヤを感じたことは?」という問いに対して、もっとも多かったのが「女性への家庭責任の偏り」。

 これに続いて「狭いコミュニティによる息苦しさ」「『男性(男の子)だから、女性(女の子)だからこうあるべき』という固定観念や慣習」が挙がった。

『地方で拓く女性のキャリア 中小企業のリーダーに学ぶ』 (光文社新書) 野村浩子 著

 山形県のアンケートレポートは「一番大切なことは若い女性が『いろんな選択肢がある』と感じられることだ」と結んでいる。

 男性はこうあるべき、女性はこうあるべき、地域社会に根付く固定的なジェンダーバイアスを払拭しない限り、女性の地方からの流出は続くだろう。

 ただし、東京の企業がバラ色かというと、決してそうではない。山西さんは先述のとおり第1志望の企業に就職したものの、時折ため息をつく。

 伝統的な大手企業が導入してきた一般職、総合職という女性のコース別採用がいまだ続いており、男性管理職が一般職の女性新入社員を「女の子」とうっかり呼んでしまうこともある。

 東京の大手企業でジェンダーバイアスが消えたわけではない。ただし地方と東京ではその濃さに明らかに違いがある。

 その濃淡を、若い女性は敏感に感じ取っているのだ。