ドコモの鉄塔を手に入れ、外資に買われたJTOWER。買収が「インフラの国外流出」に直結しづらい理由

屋内外で進む「通信インフラのシェア」, 屋外シェアリングに商機がある理由, 通信鉄塔の積極的な買い取りと突然の買収発表, 豊富な実績を誇るデジタルブリッジ, デジタルブリッジの投資を必要としていたJTOWER, 国内事業で鍵を握るのは「自然災害への対応」

JTOWERは6月6日、戦略発表会を開催した。

今や多くの人に欠かせない携帯電話ネットワークは、すべて通信事業者が構築・運用していると思われがちだが、実は必ずしもそうではない。とりわけ、ここ最近注目されているのが「インフラシェアリング」を担う事業者の存在だ。

インフラシェアリングとは文字通り、携帯電話などのネットワーク「インフラ」を、複数の事業者で「シェア」すること。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天といった通信事業者のコスト削減に貢献する仕組みとなっている。

そのインフラシェアリングで国内大手の座を獲得しているのがJTOWERだ。同社は2012年の設立以降、屋内のインフラシェアリング(以下、屋内シェアリング)を中心に事業を拡大してきた。

しかしJTOWERは2024年8月、アメリカの投資会社であるデジタルブリッジ(Digital Bridge)による買収を発表。当時の大株主であったNTT(日本電信電話)もそれに応じたことで大きな驚きをもたらした。また、NTTの保有設備がJTOWERを経由して外資の手に渡ったことが、経済安全保障上の問題につながるのではという議論が起こった。

JTOWERはなぜ、デジタルブリッジによる買収を受け入れたのか。そしてそこに懸念はないのか。JTOWERが6月6日に開催した戦略発表会の内容に基づき、同社の戦略を解説する。

屋内外で進む「通信インフラのシェア」

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JTOWERの代表取締役社長を務める田中敦史氏。

インフラシェアリングには大きく分けて、前述の屋内シェアリングと、屋外のインフラシェアリング(以下、屋外シェアリング)の2種類がある。

屋内シェアリングの導入が特に進んでいるのは、高層ビルや商業施設、アリーナなどの大きな建物の中だ。

こうした建物は通信設備を設置するスペースなどに限りがあり、複数の事業者が別々にネットワークを整備するのが難しい。

そこで、インフラシェアリング専門の事業者がネットワークを共用できる設備を建物内にあらかじめ整備。その設備内に携帯各社が自社の基地局などを設置するケースが増えている。

2025年3月時点で、JTOWERによる屋内シェアリングの導入物件数は680件に上るという。

そして、JTOWERが現在推進していることが「屋外シェアリング」だ。

屋外シェアリングは、携帯電話の基地局やアンテナを設置する通信鉄塔をJTOWERが保有し、通信事業者に貸し出して共用ニーズに応えるビジネス。屋外シェアリングで活用される鉄塔は、地方や郊外などで多く見られる。

屋外シェアリングに商機がある理由

なぜJTOWERは屋外シェアリングを拡大しているのか。その背景には、ここ数年来、通信事業者がネットワーク整備に潤沢なコストをかけられなくなっていることがある。

日本では長らく、ネットワークのエリアの広さが通信事業者の競争に大きく影響してきた。そこで各社は独自にコストをかけてネットワーク整備を進め、他社より広いエリアで利用できることをアピールしていた。

だが、現在普及が進む通信規格「5G」では、従来の4Gの電波より遠くに飛びにくい「サブ6」「ミリ波」といった高い周波数帯の電波を用いる必要がある。つまり、5Gのカバーエリアを広げるために通信事業者はより多くの基地局を設置しなければならず、投資コストが大きく跳ね上がっている。

その一方、2020年の菅義偉首相(当時)の政権下では、国策によって携帯電話料金の引き下げが進められた。これにより、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社は経営に大きなダメージを受けた。

そこで通信事業者は投資コストを大幅に減らしつつ、従来と変わらないエリアでネットワーク整備を進めるために、インフラシェアリングの活用に踏み切った。それがJTOWERにとって大きなビジネスチャンスとなっている。

通信鉄塔の積極的な買い取りと突然の買収発表

屋外シェアリングに注力するJTOWERは、2025年3月末時点では7362本の鉄塔を保有。その多くが、かつてJTOWERの大株主だった日本電信電話(NTT)のグループ企業から買い取ったものだ。

JTOWERは2021年に、西日本電信電話(NTT西日本)の通信鉄塔を買い取ると発表。それを皮切りに、東日本電信電話(NTT東日本)、そしてNTTドコモと、NTTのグループ企業を中心に7232本の通信鉄塔を買い取った。

そうした流れの中で、前述のデジタルブリッジによる買収が突如発表。当時は折しも、NTTが保有する通信インフラのあり方を定める「NTT法」見直しの議論が進んでいた。そのため、NTTが保有していた設備について、JTOWER経由で外資の手に渡ったことを危惧する声が挙がったというわけだ。

豊富な実績を誇るデジタルブリッジ

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デジタルブリッジやその傘下企業による、通信会社から鉄塔を取得した事例。アメリカのほか東南アジアやドイツでも実績があるという。

議論を呼んだ買収劇だったが、これは国内におけるJTOWERやデジタルブリッジの認知度が高くなかったことも大きい。

通信鉄塔を保有し屋外シェアリングを手掛けるJTOWERのような企業は「タワーカンパニー」と呼ばれ、海外ではすでに一般的な存在だ。

また、JTOWERがNTTドコモなどの通信鉄塔を手に入れたように、タワーカンパニーが既存の通信会社から鉄塔を取得するケースも珍しいものではない。

JTOWERを買収したデジタルブリッジの事例で言えば、同社傘下のバーティカルブリッジ(Vertical Bridge)は2024年、アメリカのベライゾン・コミュニケーションズの子会社から、6300本以上の鉄塔をリース・管理する権利を取得。加えて、ドイツテレコム子会社で通信鉄塔などを有するGD Towersの株式51%をデジタルブリッジが取得し、傘下に収めているという。

デジタルブリッジは、デジタル関連のインフラでも特にタワーカンパニーへの投資に力を入れている。JTOWER以外にも、北米や中南米、東南アジアなどでタワーカンパニーをいくつか傘下に収めている。

そして、外資によるインフラシェアリングの事例は、実はデジタルブリッジ以外にも存在する。例えばオーストラリアの不動産事業者であるレンドリースは、子会社を通じて日本で屋外シェアリングを展開している。

以上のことを踏まえれば、JTOWERが外資企業の傘下になっても、それは必ずしもインフラの国外流出に直結するものではないと考えられる。

デジタルブリッジの投資を必要としていたJTOWER

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JTOWERがNTTドコモから取得した沖縄県今帰仁村の通信鉄塔。

そもそも、JTOWERがデジタルブリッジの買収を受け入れた理由はどこにあるのか。

それは屋外シェアリングの事業を本格化する上で、資金を必要としていたからだろう。デジタルブリッジによる買収前のJTOWERは上場企業だったが、屋外シェアリングなどへの先行投資が響き、赤字が続いている状況だった。

JTOWERは2024年5月に、2025年3月期の決算が赤字になるという予想を発表。それ以降、株価が急速に落ち込んでいた。

そこでJTOWERは、今後の事業拡大のための投資が求められる状況下で、短期的な業績が求められる株式市場からの資金調達は難しいと判断。長期的投資を確約するデジタルブリッジの買収を受け入れるに至ったのではないだろうか。

確かに、携帯各社がネットワークへの投資を抑える傾向が今後さらに強まることを考えれば、JTOWERのビジネスチャンスは非常に大きい。

屋外だけでなく、屋内シェアリングにもニーズはある。かつて携帯各社が独自ネットワークの整備を進めてきた設備が老朽化して入れ替えが必要となっており、それをインフラシェアリングの設備で巻き取るニーズが増えているようだ。

JTOWERはそうしたニーズに応えることで、屋内シェアリングの導入数を、現在の3倍規模となる累計2000件に拡大することを目指すという。

また屋外シェアリングに関しても、現在8万基はあるとされる通信鉄塔が、今後の少子高齢化や老朽化などで6万本にまで統廃合されるとJTOWERは予測。中長期的に、その半数となる3万本を運用できる体制を目指すとしている。

国内事業で鍵を握るのは「自然災害への対応」

今後JTOWERが屋外シェアリングを拡大する上で、避けて通れないのが自然災害だ。

自然災害が多く激甚化も進む日本では、災害時の早期復旧などに向けた設備や訓練など、事前の備えが非常に重要になってくる。

しかし、その対策には大きなコストもかかる。JTOWERにとっては、日本の災害に対するデジタルブリッジの理解を得て、対策を進めることが必要になる。

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JTOWERの社外取締役であり、デジタルブリッジのマネージング・ディレクターでもあるウィルソン・チュン氏。

JTOWERの社外取締役であり、デジタルブリッジのマネージング・ディレクターでもあるウィルソン・チュン氏は、他国における自然災害の例として、アメリカで発生する竜巻や山火事を挙げる。

竜巻や山火事が発生しても、現地で社員の安全を確認し、その後の復旧対策を実施して継続的にサービスを提供できる態勢を整えているという。

投資コストを抑える存在として期待されるインフラシェアリングだが、「通信」という重要なインフラを担うだけに、コストを投じてでも災害対策に取り組み、信頼を得る取り組みが不可欠だ。

買収によって外資となったJTOWERだが、その事業主体が国内であることは変わらない。国内に根差した覚悟は引き続き問われることになるだろう。