ハーゲンダッツ、中国で大苦戦で浮き彫りになった日本市場の優秀な戦術

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上海のハーゲンダッツカフェ(2024年撮影)

最近の中国消費のキーワードは「デフレ」「変調」、そして「撤退」だ。回転すしチェーン「くら寿司」の中国市場撤退が記憶に新しいが、より注目度が高いところでは、スターバックスの中国事業売却説が年明けらくすぶり続けているほか、6月中旬には高級アイスブランド「ハーゲンダッツ」の運営会社が中国事業売却を検討していることが明らかになった。

「特別な日」のアイス

高校2年生の冬だったと記憶している。我が家にハーゲンダッツを食べて年越しをするというルールが突然出現した。3つ下の弟とローソンに買いに行った日のことを、今でも鮮明に覚えている。普段食べているのは50円か100円の棒アイスだから、250円のアイスをコンビニのショーケースから取り出す瞬間、本当にドキドキした。

改めて調べたところ、ハーゲンダッツは筆者が16歳だった1990年にコンビニでの取り扱いを開始し、翌1991年に初めてテレビCMを流している。おそらく筆者の親がそのCMに影響され、「年に1度の贅沢」として家族でハーゲンダッツを食べることにしたのだろう。

以来、筆者にとってハーゲンダッツはちょっとした贅沢、あるいはご褒美であり続けている。大学進学で上京後、ロンドン、パリに次ぐ旗鑑店として誕生した表参道のカフェにも行った。

20代のころ、シンガポール航空がエコノミークラスの機内食でハーゲンダッツを提供しているのを知り、それだけで乗りたいと思った。

今でもスーパーでセールになっていたら、何だかんだ理由をつけて買ってしまう。夫には「PARM(パルム)の方がコスパが高いじゃん」と言われるが、10代後半の刷り込みが今なお脳内に残っているのだ。

2010年に中国に移住した際、中心部の新しいモールでハーゲンダッツのカフェを見つけた。スタバのドリンクもそうだったが、昼ご飯の数倍の値段がするのに若者たちでそれなりににぎわっているのを見て、中国の勢いを感じた。

スタバ、ハーゲンダッツ…米「高級」ブランドの不振

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ハーゲンダッツはピーク時には中国で450店舗以上のカフェを展開していた。

ハーゲンダッツの中国市場での不振が表面化したのは2025年に入ってからだ。

同ブランドを運営する米食品大手のゼネラル・ミルズは3月、2025年5月期通期の業績見通しを、前期比横ばいから同1.5~2%マイナスに下方修正した。米国市場の不振が最大の理由だが米国に次ぐ市場である中国も振るわず、2024年11月~2025年2月の中国の売上高は前年同期比3%減少した。

中国メディアによると、ゼネラル・ミルズのジェフ・ハーメニングCEOは6月初旬に開かれたイベントで、中国の店舗の来客数が2桁減になっていると語った。ハーゲンダッツはピーク時には中国に450店舗以上あったカフェの閉鎖を急ピッチで進めており、2025年6月時点で250店台まで減っている。

さらに同月下旬、ブルームバーグはゼネラル・ミルズがハーゲンダッツの中国の店舗事業を数億ドルで売却することを検討していると報じた。

中国ではスターバックスも事業を一部売却する計画が浮上している。デフレ圧力が強まる中国で、スターバックスは現地勢が仕掛ける価格競争に対応できず、苦戦を強いられている。

だからハーゲンダッツの店舗事業売却報道が出たとき、筆者は「不景気だし高級アイスは売れないのだろう」と受け止めたが、より深掘りしていくとそれほど単純な理由ではなく、堅調な日本市場とは戦略・マーケティング面でも違いがあることが分かった。

日本市場との共通点と違い

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日本ではハーゲンダッツのカフェは2013年になくなったが、中国はむしろカフェが主軸だ。

中国市場での失速の背景を探る前に、ハーゲンダッツの中国進出まで遡ってみたい。

ハーゲンダッツは1996年、中国を代表するショッピングストリートである上海の南京路に1号店をオープンした。上海の南京路はトレンドの中心地で、「今一番元気な」ブランドが旗艦店を構える。現在は、アップルストア、ファーウェイ、POPMARTが向かい合って営業している。

日本進出から12年遅れだが、スターバックスの中国進出より3年早い。1996年といえば、中国は人民服姿の人々が普通に街を歩いていた時代なので、「かなり早い」との印象を受ける。

市場は未成熟だが、ライバル不在の中国で、ハーゲンダッツは「高級輸入ブランド」のポジションをすぐに確立した。ここまでは日本市場への進出直後と近い(日本では東京・青山に1号店を出している)。

だがその後の市場展開において、日中は異なる道を歩む。

日本で「ハーゲンダッツ」は家で食べるイメージが強い。ピーク時の1994年にはカフェ業態95店舗を展開していたが、コンビニやスーパーでカップ入りの商品の売り上げが拡大すると、2013年に店舗運営から手を引いた。

一方中国ではカフェ事業を拡大し、成長した。ピーク時の2017年、中国市場の売上高はグローバル全体の50%を占めるまでになった。報道によると当時、グローバルでは600~700店舗があり、そのうち400店超が中国に立地していたという。

スタバとハーゲンダッツの共通点

ハーゲンダッツが失速するプロセスは、スターバックスと酷似している。

中国のコーヒーチェーン業界では2018年に1号店をオープンしたluckin coffee(瑞幸珈琲)が怒涛の勢いで店舗を増やし、「スタバキラー」として台頭した。詳細は省略するが、LUCKIN COFFEEは現在、店舗数でスタバを突き放し、さらに複数の現地ブランドが入り乱れて「コーヒー戦争」と呼ばれるシェア争いが続いている。

カフェ・スタンド販売のアイスクリームはどうだろうか。

同じ米国ブランドで、単品の価格はハーゲンダッツの半分ほどのDayly Queen(DQ)が2020年から店舗を急拡大し、現在中国で1800店舗規模まで増えた。同社は今後3年でさらに800店増やす計画だという。

チョコレートやナッツをトッピングしたワッフルコーンのアイスクリームを10元台(約200円、1元=20円換算)で提供する現地低価格ブランドの「波比艾斯」も勢いがあり、店舗数を1000店に乗せた。

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米ブランドの「DQ」は低価格路線で中国で急成長している。

ハーゲンダッツのシングルカップの単価は25~35元(約500~700円)なので、消費者がよりコスパが高いブランドに流れているのは間違いない。

だが、高いから売れないというわけでもない。最近人気が高まっているのが、「ジェラート」のジャンルだ。

ジェラートブランド「野人先生」は中国の高級米「五常大米」などご当地素材にこだわった高級路線で、単価はハーゲンダッツと同水準だが、この2カ月ほどで店舗を100店舗増やし、現在600店弱を展開する。野人先生については今年に入って日本人のSNS投稿が急増しているので、かなり流行していることがうかがえる。

成長しているブランドに共通するキーワードは、「クラフトアイス」「国潮」だ。素材にこだわり少量ずつ生産することで、消費者に新鮮さやオーガニックを訴求する。中国らしさを強調する「国潮」はコロナ禍前から継続しているトレンドで、アイスクリームでも中国産の果物や茶葉を使ったフレーバーが人気を集めている。

古くて不透明なマーケティング戦略

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アイスクリームブランドでも中国らしさを打ち出したフレーバーが人気だ。

2010年代後半以降、中国におけるtoCマーケティングは激変した。SNSでバズをつくり、VCから調達した資金で短期間に大量出店するやり方が定石となる中、ハーゲンダッツは消費者やマーケティングの変化に気づくのが遅れ、ブランドイメージも損なわれていった。

ハーゲンダッツはアメリカのブランドだが、欧州のテイストを前面に出し、アジアで高級ブランドとしての地位を築いていった。おひざ元の米国ではアジアほどのプレミアムなポジションではない。

それが中国人消費者にとって、「差別的」「不透明な価格戦略」との不満につながり、他の選択肢に向かわせることとなった。

ハーゲンダッツの中国市場でのキャッチコピーは「愛する彼女をハーゲンダッツに連れて行こう」だった。2000年代はそれでよかったのだろうが、今の若者には響かないだけでなく、利用シーンを「デート」に狭めてしまったとの指摘もある。最近、キャッチコピーを「everyday made extraordinary」(毎日を特別な日に)に変更し、利用シーンの拡大を試みているが、遅きに失した感は否めない。

ハーゲンダッツの売却報道が浮上した際、SNSでは「#ハーゲンダッツが売れない」というハッシュタグがトレンド入りするとともに、「同じ価格なら、国産の新商品を2杯買った方がよい」とコメントがあふれた。

ハーゲンダッツとスタバは似た運命をたどるのか