高配当でも“訳アリ”かもしれない要注意企業の特徴とは?

本当に成長著しい企業がすることは?(写真はイメージです) Photo:PIXTA
近年、日経平均株価は3~4万円台の高値をキープし、一時はバブル期に記録した最高値も更新した。その一方で、米をはじめとする様々な物価高もあって、庶民の生活は厳しいまま。現在の株高はバブル景気のような異常な高値なのか、それとも適正価格なのか。第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト・藤代宏一氏の新刊『株高不況 株価は高いのに生活が厳しい本当の理由』((青春出版社刊)から、抜粋して紹介します。
日本株のPERとPBRが示すもの
現在の株価の割安・割高を判断するため、最低限理解しておくべき指標はEPS、PER、PBRの3点です。
EPSは一株あたり利益、PERは「一株あたり利益(EPS)に対して株価がその何倍の水準で取引されているか」を測る指標です。PBRは「一株あたり純資産(BPS)に対してその何倍の水準に値付けされているか」を測る指標です。
したがってPER、PBRは高ければ「割高」と評価される数値です。それを踏まえた上でそれぞれの推移を確認すると、ここ数年はどちらも長期的な平均の範囲内にあり、特に異常な水準にあるわけではないことがわかります(図表4・図表5)。
ここで「割高・割安」という表現は、あくまでわかりやすさを優先した表現であることに留意が必要です。
一般的に企業の将来的な成長期待が株価に反映されれば、PERやPBRは上昇します。反対に、PERやPBRが低いということは、投資家がその企業の成長を疑問視している、あるいはその企業の成長力を見落としている可能性が考えられます。
その点、日本株は割安というよりも低評価と言わざるを得ない面があります。PERは米国企業に比べて低い傾向にある他、PBRが1倍を割っている企業は日経平均株価に採用されている225銘柄のうち約4割を占めます。これだけ多くの銘柄が割安に放置されているのは、国内外の投資家が上場企業の経営に何らかの不満を抱いている可能性が高いと判断されます。
PBRの低い企業はバリュー株(割安株)とも言われます。割安と言えば聞こえは良いのですが、換言すると投資家の期待を満たせない「訳アリ」の企業と認識されているのです。
売上の伸びが鈍化したり、利益率が低下したり、余分な現金を貯め込んだりするなどして、成長期待が乏しくなるとPBRが1倍を割れる傾向にあります。また、多角化戦略を採用する企業もPBR1倍割れに陥る傾向があります。
PBR1倍回復に向けた取り組み
では、どれくらいの利益率が合格点なのでしょうか。
あくまで上場企業全体の平均に過ぎませんが、一般的にROE(自己資本利益率)は最低8%必要と言われています。ROEは、株主が企業に託した「自己資本」を元手にどれだけ利益を計上したかを示す指標です。
換言すると、ROEが8%に届かない企業は、投資家の要求を満たせていないということです。株式市場で低評価となり、結果的にPBRが1倍を割ってしまう傾向にあります。
「低評価」と「割安」を見極める一つの判断基準として、ROEが8%を安定的に超えているかが重要になります。ROEが8%超でPBRが1倍を割れているのであれば、その株式が「お買い得」である可能性があります。
近年、汚名返上と言わんばかりに日本企業はPBR1倍割れの解消に取り組んでいます。実はこのPBR1倍割れの解消に向けた企業努力が、「株高不況」の背景にあると筆者は見ています。
この点において重要なターニングポイントとなったのは、2023年春に東京証券取引所(東証)が上場企業に対して資本効率改善の要請をしたことです。
東証は、企業に対して上場することの意義を問いました。上場するからには、株主が納得するような経営(資本政策)をすべき、という含意があったように思えます。
東証が特に問題視したのは、PBRが1倍を割っている企業です。過度に現金を貯め込んだり、意義の乏しい政策保有株を大量保有したりすることで資本効率が低下している企業に対し、改善を呼びかけました。
配当強化と自社株買い
そうした要請に呼応する形で日本企業は株主還元を強化しました。配当と自社株買いは急増しています。
自社株買いとは、企業が自社の株式を自ら買い付けることです。発行済み株式が減少するため、一株あたり利益を増加させる効果があり、株価上昇要因となります。また自社株買いは数カ月にわたって実施することが一般的ですから、その間、株式市場における売りと買いのバランスを、買い超過の方向に傾けることも株価上昇を促します。
上場企業(プライム・スタンダード・グロース合計)の配当総額は2015年に8.4兆円だったものが、2019年には12.2兆円に増加し、2023年は16.9兆円と空前の規模に膨れ上がっています。
過去数年の平均的な伸び率から判断すると、2024年も10%程度増加したと見られます。その間、自社株買いは目を見張るような増加を示しています。2015年に5兆円程度だったものが、2019年には8兆円程度、2024年は18兆円程度と跳ね上がっています(図表6)。こうした株主還元の強化が株価を押し上げ、結果的に消費者が感じる景気の実感とのズレを生じさせたものと思われます。
こうして株主ばかり潤うのは考えものですが、一方で企業内に幽閉され活躍の場を失っていたおカネが民間経済に放出され循環することは、全体として見れば前向きな動きと捉えていいでしょう。
株主還元だけで株価が上がるとは限らない
増配や自社株買いといった株主還元策は一般的に株価上昇を促すと認識されていますが、実のところ株主還元が持続的な株価上昇につながるかは、実証的に明確な結論は出ていません。
株価は最終的に企業の業績や成長力に依存しますので、いくら株主還元を増やしても、企業収益が成長しなければ、株価が持続的に上がるとは限りません。株主還元によって、資金が外部に流出してしまうと、その分だけ研究開発費や設備・人材への投資が減少するとの懸念が生じ、成長期待を萎めてしまうこともあります。
近年において、それまで株主重視とは言い難かった経営を貫いてきた日本企業が変容しているのは事実です。余分な現金を削減したり、効果に乏しい政策保有株式を処分したりして得た資金を株主還元に充てています。
そうした行動が投資家を引き付けることで株価が上昇しているのは間違いないと思いますが、もう少し長い目で見た場合、「残念な高配当株」や「残念な割安株(低PBR)」に成り下がってしまう可能性があることには注意が必要です。
高配当(利回り)は必ずしも高成長を意味しない
一般的に配当利回り(配当金額÷株価)が3%を超えていると高配当銘柄などと言われます。配当の源泉が税引き後の利益であることを踏まえると、増配を続ける企業が持続的な利益成長を達成しているのは事実ですから、優良企業と言っても良さそうです。
ただし注意が必要なのは、(足もとの配当が高くても)将来の利益成長に対する期待が低いと株価は低迷してしまいます。たとえば、1株あたりの配当金が100円で、株価が2000円の場合、配当利回りは5%です。ここで何らかの要因で、企業の成長期待が低下し株価が1500円に下がると、同じ100円の配当金でも利回りは6.67%に上昇します。実際の事例でも、毎年増配を続けても、成長期待の低さから株価が上がらず、配当利回りだけが上がり続けてしまう銘柄もあります。もちろん業績が落ち込み、減配や無配になったりするよりははるかにマシですが、たとえば配当利回りが8%もある企業は訳アリを疑った方が良いかもしれません。
本当に成長著しい企業は、株主還元などせず、本業へ集中投資します。その方が将来的な利益成長につながり、中長期的には株主にとって好ましい結果をもたらすからです。
株主還元は、事業が成熟し、新規事業や市場拡大の余地が小さいことの裏返しでもあるのです。成長著しい企業は、たとえ大企業でも無配か低配当を貫きます。
以上見てきたように、日経平均4万円は現在の企業収益から判断すると、おおむね適正な範囲内であると言えます。単なる投機的な過熱ではなく、企業のファンダメンタルズに裏付けられた株価水準であるという考え方です。
また、インフレの影響を加味した名目GDPで見ても、おおむね同じことが言えます。
現在の株式市場がバブルであるかと言えば、筆者の答えはバブルでないとなります。