「働かないおじさん」は、なぜ生まれる? 2万人調査が暴く日本企業の“静かな衰退”

「成果なき人的資本投資」と経営者の嘆き, 自身も組織も成長させる「プロアクティブ人材」とは, プロアクティブ度で「成果に2倍」の差, どのような行動が成果に結びつくのか, 日本の会社員、平均値は…, 最もスコア低いのは40代後半から50代前半, 非管理職に顕著、「静かな退職」が日本にも?

「働かないおじさん」は、なぜ生まれるのか。日本を蝕む「静かな退職」の実態に迫る。

「従業員の満足度は上がった。だが、それが業績向上につながっているのか」人的資本経営への大規模な投資が進む今、多くの経営層から深刻な声が上がっている。

この課題に対し、日本総研は約2万人の企業勤務者を対象とした大規模なアンケート調査を実施した。浮き彫りになったのは、自律的な行動によって自らのキャリアと組織成長を同時に切り拓いていく「プロアクティブ度」が、40代後半から50代前半にかけて最も低くなる現実だ。この現象は女性よりも男性に、中でも「非管理職」に顕著だった。

調査結果は「働かないおじさん」と揶揄される現象を、データとして裏付けたと言える。

日本企業の人材投資はなぜ成果に結びつかないのか──。その構造的な問題の所在と処方箋を、前後編で明らかにしていく。

下野雄介[日本総合研究所]

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下野雄介[日本総合研究所]

リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ 部長。「プロアクティブ行動の促進」研究・ソリューション開発責任者を兼任。オンライン公開講座「2023年人的資本経営の総括と、2024年に向けた展望」(日本CHO協会 2023年度)をはじめ人的資本経営・プロアクティブ行動に関する講演実績多数。専門は組織開発、組織行動論。著書に『プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略』。

「成果なき人的資本投資」と経営者の嘆き

人的資本経営が進んできたなかで、経営層からは、こんな疑念の声が聞こえてくるようになってきた。

「従業員の満足度は上がったが、それが業績向上につながるのか

「エンゲージメントの高さが(社員の)新たな挑戦につながっている実感がない

「多様性な人材が自分らしく働ける環境となりつつあるが、相乗効果を発揮する為のマネジメントは難しさが増す一方だ」

「チャレンジしてほしいジョブやポストは明確化し、リスキルの素地も整えた。しかし現場が動く気配がなく仕掛けが必要だ」

つまり、人的資本投資により確実に高まっているはずの、「組織への愛着、仕事の熱意、多様な価値観や考え方といった蓄積を、どう戦略・成果に結びつけていけばいいか分からない」という声である。

そのような声を背景に、我々が人的資本投資を成果に結びつける為のラストピースとして着目したのが、欧米のアカデミアで2000年代以降活発に研究されていた「プロアクティブ行動」だ。プロアクティブ行動とは、自ら率先して組織に良い影響を与える行動を起こすことを指す。

自身も組織も成長させる「プロアクティブ人材」とは

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「プロアクティブ行動」を構成する4つの要素(図表1)。

日本総研では、企業の人的投資を成果に結びつける人材、企業が育成を目指すべき人材像を「プロアクティブ人材」と定義した。「自分自身のキャリアや組織の環境に対し先見的で、未来志向・変革志向の行動(プロアクティブ行動)を取れる人材」であり、自律的な行動によって、自らのキャリアと組織成長を同時に切り拓いていく人材といえる。

こうした人材像について、日本総研では、「革新行動」「外部ネットワーク探索行動」「組織内ネットワーク構築行動」「キャリア開発行動」という4つの行動尺度から構成される概念として設定(図表1)。2022年度及び2023年度の2年にわたり、この行動尺度を使って約2万人の企業勤務者を対象に「日本人のプロアクティブ度」を調査してきた。

各行動について簡単に説明しておきたい。

「革新行動」とは、自らの手で目の前の仕事を前向きに変えていく行動を指す。イノベーションにつながる大きなものから、日常のちょっとした業務改善まで、今の仕事のやり方を少しでもよくできないかと考え、具体的なアクションにつなげていく行動といえる。

外部ネットワーク探索行動」は、革新行動を促進するために、社外の知見を積極的に探索し、それを社内へと還元する行動だ。スタートアップのピッチイベントに行き先進的な技術やサービスに触れる、専門性を深める為に学会や業界団体主催の会合に参加するといった行動がイメージしやすいだろう。気を付けるべきは「自ら選んでいくこと」、また「社内へ還元する際に、自社の組織文化に適合する形で翻訳すること」である。

組織内ネットワーク構築行動」は、組織に変化をもたらそうとする際に、多様な組織の関係者を巻き込んでいく行動のことだ。自らのアイデアに回りを巻き込み研究会を立ち上げたり、いざ公式的な活動を推進する際、各部署や複数の責任者に根回ししたりする行動をイメージするとわかりやすい。新しい風を組織にもたらそうとする行動は、ともすると組織から煙たがられ、一匹狼的になるリスクをはらんでいる。組織内ネットワーク構築行動は、そのようなことが起こらないよう、組織内のさまざまな関係者と良質な関係性を築いていく行動であり、ある意味伝統的な日本企業においてこそ重要な行動といえる。

キャリア開発行動」は、キャリアを自分自身で描き、切り開いていくことをイメージして欲しい。自身の職務を通じたチャレンジがどのような自己実現につながっているのかを描く行動であり、自身のキャリア形成と組織のベクトルを結び付けていて、自身のキャリアと組織の成長のベクトルを合わせていくことが肝となる。

プロアクティブ度で「成果に2倍」の差

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プロアクティブ度と成果指標の関係(図表2)。

調査は2回に分けて行い、1回目の調査では、プロアクティブ度が仕事の成果にどの程度影響するのかを調査した。

回答者に自身のプロアクティブ度を1から5の5段階で評価してもらい、スコア4.0以上を「高プロアクティブ人材」、スコア2.0以下を「低プロアクティブ人材」として区分した。

成果の指標としては、組織内における自身の評価に対する自己認識を示す「職務成果」、自身のキャリアの実現度合いを示す「自己実現」の他、活力・熱意・没頭の3つの観点から仕事に対するポジティブな心理状態を測る「ワークエンゲージメント」の3つの要素を設定。これら成果指標についても、自己評価を1〜5の5段階で回答してもらった。

その結果、高プロアクティブ人材は、低プロアクティブ人材と比較して、いずれの成果指標についても約2倍高いことが明らかになった

これは、人材のプロアクティブ化に投資することが、企業価値向上につながる道筋であることの示唆だろう。

どのような行動が成果に結びつくのか

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プロアクティブ行動の因果モデル(図表3)。※数値は標準化係数。値が大きいほど影響度合いが高いことを示す。

図表3は、2回目の調査結果から得られた因果モデルを図にしたものだ。

この因果モデルからは、「プロアクティブ行動がどのような要因によって高められるか」、また「プロアクティブ行動が成果にどのように影響するか」を読み取ることができる。

プロアクティブ行動を促進する要因については後編で触れるため、ここでは特にプロアクティブ行動が「パフォーマンスの展望」に影響を与えている点について解説しておきたい。パフォーマンスの展望とは、高い成果を上げる可能性やその見立てのことである。

強調しておきたいのは次の2点だ。

1点目は個人のパフォーマンスへの展望を高める要因としての、プロアクティブ行動の重要性である。成果を高める指標として広く普及しているワークエンゲージメントが、個人のパフォーマンス展望に与える影響が0.20だったのに対して、個人プロアクティブ行動は0.49となっている。

つまり、成果を高めることにより直結するのは、志向や考え方ではなく、具体的なプロアクティブ行動であることが確認できた。

2点目はチームのパフォーマンス展望を高める要因としてのチームプロアクティブ行動の重要性だろう。因果モデルを見ると、チームのパフォーマンス展望に最も高い影響があるのは、個人のパフォーマンス展望となっている(0.33)。個人の成果が高まれば、チームの成果が高まることが理解できるのは当然の結果だ。

ここで注目すべきは、チームのプロアクティブ行動が、チームの成果に対して、個人のパフォーマンス展望に次ぐ高い影響度合い(0.25)を確認できた点だ。これは、実際の施策を検討する際には、個々人だけに着目していては不十分で、チームという単位で解像度をあげて施策を検討することも必要であるということである。

この因果モデルはWEB調査という特性上、成果の指標は具体的な実績を測定したものではないが、この調査以降に実施している企業との協働実証において、具体的な成果指標を活用した場合でも同様の結果が得られていることを付け加えておきたい。

日本の会社員、平均値は…

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個人のプロアクティブスコア(図表4)。

調査結果からは、プロアクティブ人材の有用性ばかりではなく、日本の会社勤務者の実態も浮かびあがってきた。図表4は個人プロアクティブスコアの平均値である。

この結果を見ると、個人プロアクティブスコアの平均が2.89と、中立回答(平均的な行動レベル)である3を下回っており、総じてプロアクティブではない状況が見てとれる。

特に4つの行動の中でも外部ネットワーク探索行動のスコアが最も低く(2.76)なっている点にも注目したい。新しい知見を求めて社外に出ていき、そこで得られた知見を社内に還元しようとする取り組みが弱いということになる。

最もスコア低いのは40代後半から50代前半

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年齢帯別の個人プロアクティブスコア(図表5)。

さらに、個人プロアクティブスコアを年齢帯別に整理したのが図表5だ。

プロアクティブスコアは20代前半をピークとして、年代ごとに低くなり、40代後半から50代前半にかけて最も低い状態となっていることが分かる。まだまだ働き盛りの年齢である、40代後半から50代前半の層が最もプロアクティブな行動を取れていないというのは、組織にとって由々しき事態であろう。

なお、この傾向は女性よりも男性に顕著であることが分かっている。加えて、この年代の平均年収に注目すると男性は年齢が高くなるにつれて上昇する一方、女性は横ばいであることから、高い年収の割には十分な貢献や行動が見られない「働かないおじさん」問題が職場で顕在化しやすいのである。

非管理職に顕著、「静かな退職」が日本にも?

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職位別・年齢帯別の個人プロアクティブスコア(図表6)

プロアクティブスコアの低下について、もう少し解像度を高めるために整理したのが、役職と年齢帯によりプロアクティブスコアを整理した図表6だ。

40代後半から50代前半の層が低いと言っても、職位別にはグラデーションがあり、非管理職層がこの層のプロアクティブスコアを低めているのが分かる。この結果は、一般に「働かないおじさん」と揶揄される現象をデータとしても裏付けている。

なお、ここで紹介した傾向は一般的な会社員を想定したものであり、雇用や処遇が仕事の貢献度や成果と直結しているようなプロフェッショナル職においては必ずしも該当しない旨、補足しておく。

また、アメリカで主に若年層に指摘された「静かな退職」とは世代こそ異なるものの、仕事への熱意や積極性が低下し、必要最低限の業務遂行に留まる点で共通しており、その兆候が日本の特定の層にも見られることを示唆していると言える。