「Suica」一強時代に終止符か…?交通ICカードが抱える「限界」と加熱する覇権争い

「Suica」一強時代に終止符か…?交通ICカードが抱える「限界」と加熱する覇権争い

激化するキャッシュレスの「覇権争い」

いよいよ激化するキャッシュレスの「プリポス覇権争い」

2001年にJR東日本が「Suica」を導入してから四半世紀が経過しようとしている。「パスネット」や「スルッと関西」などのプリペイドカードを「SFカード」と呼んでいた時代が今ではどこか懐かしく、新幹線ですらスマートフォンで予約・座席指定し、切符購入するなくスルッと通れるようになった。

キャッシュレスの支払手段が増え、利用者には便利に見えるかもしれないが、その裏では熾烈な覇権争いが繰り広げられている。大きく異なる2つの方向性、つまり交通系ICカード(プリペイド)にクレカ・タッチ(ポストペイ)が戦いを挑む「プリポス覇権争い」だ。

どういうことか。じつは「Suica」などの交通系ICカードにクレジットカードで「チャージ」する場合と、クレカ・タッチ決済をする場合では、商取引拡大の観点からその方向性が異なる。前者の場合はクレジットカード会社が都度与信しているが、後者は取引金額をまとめて後払いする掛取引だ。

経済の成長には、お金を貸したり、後払いを認める「信用」がよく使われる。運賃のポストペイ(後払い)は、現金をすぐ使わなくて済むので、社会全体で使うお金の量を減らすことができる。この仕組みは、会社が商品を仕入れて代金を後で払うのと似ており、利用者が後払いできるようになると、その分だけ交通機関の利用が増えて、売上にもつながる。

「信用」は経済を動かす大きな力であり、歴史的にも国や企業の力の差を生む要素だ。経済の起爆剤にもなる重要な人類の英知のひとつで、覇権争いを制する力を持っている。これらの理由から、キャッシュレスの世界でもプリペイド型を“包括的”に取り込んでいく「ポストペイ」に軍配が上がるのはほぼ間違いない。インバウンド客にとってもクレジットカードで支払えることは絶対条件なのだ。

第3の方法、描かれる異業種横断パッケージ

しかしここにきて、交通系IC電子マネー、クレカ・タッチ決済用に加え、QRコード用の読み取り装置を備えた「第3のスタイル」の自動改札機に勢いがついてきた。

QRコード(コード決済)は、交通系IC電子マネーやクレカ・タッチには難しい商品の提供を得意とする。例えば、複数の鉄道会社やバス事業者、そして施設や店舗の入場料のクーポンなどを丸ごとパッケージにした企画乗車券などに最適で、異業種を横断するチケットを一つまとめられるため、その可能性はとても明るい。

例えば『スルッとKANSAI』が提供する「スルッとQRtto(クルット)」は、Osaka Metroと大阪シティバスが乗り放題で、梅田スカイビル空中庭園展望台などの施設にも入場できる「大阪周遊パス」を提供。

トヨタファイナンシャルサービスのスマートフォン向けアプリ「my route」も、東京・神奈川・富山・石川・福井・愛知・愛媛・九州7県・沖縄でサービスを提供している。

広島県ではこれまではICOCAもSuicaも使える、交通系ICカードの「PASPY」のサービスを停止。広島電鉄はQRコード「MOBIRY DAYS(モビリーデイズ)」を、広島バス・広島交通・中国JRバスなどは「ICOCA」へと移行して、分裂状態に陥っている。(とはいえ、広島電鉄では一切「ICOCA」などの交通系ICカードが使えないわけではなく、市内電車やバスの乗車口での残高引き落としによる簡易方式での利用は可能だ)

さらに熊本県では、広島電鉄が交通系ICカードを見切りをつけるよりも前に、全国に先駆けて交通系ICカード利用の加盟から脱退した。

この廃止は、広島県も熊本県も交通系ICカードへの設備維持費の問題が一番の理由だ。さまざまな決済手段が取れるようになった現在において、自動改札機のシステム更新のたびに数億、もしくは10億円単位のマネーが吹っ飛ぶようでは、交通事業者にとってはたまったものではない。

そもそも利用者が限られる地方の交通事業者は、莫大なメンテナンス費用の穴埋めのために乗車料金を上げたところで、首が回らなくなるのは目に見えている。最近、ようやく交通系ICカードを使えるようにした地方の交通事業者も見られるが、10年前なら「正しい」戦略でも、今ははなはだ疑問だ。

じつは国内のキャッシュレスの決済額は、すでにコード決済が電子マネーを抜いていると経済産業省が発表している。これに逆行し交通系ICカード陣営が高コスト体質を続け、交通事業者に負担を押し付けて続ければ、最終的なしわよせは利用者にいく。

前述したとおり、交通系キャッシュレスは「ポストペイ」の世界に傾斜するが、今後は「Suica」や「ICOCA」などの交通系ICカード(プリペイド)はJRメイン、昔で言う私鉄はクレカ・タッチかQRコード(ポストペイ)メイン、といった棲み分けがゆるやかに行われるかもしれない。

「独占」や「カルテル」が起きやすい

一方、ポストペイやコード決済ばかりが使われるようになれば良いかというと、そう単純なわけでもない。広島電鉄のように交通事業者自らのキャッシュレス化の独自開発が全国で進めば、当然のことながら交通系ICカード陣営が衰退していく。その時になって「ポストペイ型」のみが主流になると、「待ってました」とばかりに決済手数料が引き上げられる可能性も否めず、結局はまた、事業者やユーザーに負担が及ぶ。

ご存じの通り「PayPay」の加盟店の手数料は、導入当初こそ無料だったものの、その後有料化に踏み切っている。無料でばら撒き、利用者が増えたところで一気に徴収するのは、覇権を制するための“戦略”として王道だ。今現在、手数料が極端に上がらないのは「PayPay」以外にもたくさんのコード決済サービスがあるからで、だからこそ、KDDIの「auPay」やNTTドコモの「d払い」など、加盟店の手数料を無料にするキャンペーンを行い、広く使ってもらうことを重視している。

しかし今後、覇権争いを制したプラットフォーマーが、手数料の値上げを迫ってくることは容易に想像できる。その時に、交通系ICカード、クレカ・タッチなど、複数の決済プラットフォームが健在であれば、そこに市場原理が働く。

銀行の振込手数料の値上げは記憶に新しいところだが、それぞれのサービス分野で利益を出そうとするのは企業として避けられない。

その点、独占を嫌うアメリカでは、昨年、クレジットカード会社が、手数料率の引き下げに同意している。加盟店側がクレジットカードの加盟店手数料をめぐって訴訟を起こし、和解に至ったからだ。決済に関わる手数料は、生活の基盤に影響を与える重要な領域だけに、寡占化や独占によって過度な値上げは避けなければならないのだ。

日本の交通系ICカードで言えば、利用加盟店が支払う決済手数料がクレカ決済によりも安いことと、自動改札機の処理速度が高いのが今の所の利点だが、今後はクレカ・タッチの改札も間違いなく処理速度が高速化するだろう。

キャッシュレス決済手段の世界も恐ろしいのは、少数の企業が市場を独占したり、裏で手を組んで価格やルールを決めてしまう「独占」や「カルテル」だ。すでに未来の寡占化が見え隠れするこの分野では「市場の失敗」が起きやすいため、私たちユーザーの目を光らせておかなければならないのだ。