「脱炭素」で対照的なマイクロソフトとアマゾン

炭素除去企業Mombakが植林しているブラジル・アマゾン地域にある牛の牧場跡地の上空写真
炭素除去クレジットの購入に関して言えば、この市場には誰もが認める絶対的な王者がいる——マイクロソフトである。しかし、その主要なライバル企業の1社は、もっと良いやり方があると考える。それは市場の拡大を急ぎすぎないことだ。
「気候変動の危機のさなかにありながら、戦略的に忍耐強くいられるのは妙なことかもしれない。だが私たちには、正しいやり方で事を進める責任がある」。こう話すのは、アマゾン・ドット・コムの「炭素中立化の科学と戦略(carbon neutralization science and strategy)」部門の責任者であるジェイミー・マリガン氏だ。
マリガン氏は、大きな資金力を持つ少数のバイヤーだけでなく、多くのバイヤーが炭素除去クレジットを購入できる市場を形成することが重要だと考える。同氏はさらに、温暖化対策の一環として、大気中の炭素を除去するプロジェクトに資金を提供するクレジットの「質」を確保する取り組みが強化されることも望んでいる。
マリガン氏は、炭素除去市場の形成を、家族と飼い犬と一緒に走るウルトラマラソンにたとえ、チームメートがまだ1マイル(約1.6キロ)地点にいるときに自分1人でゴールしても意味がない、と述べる。
「もし私たちが自社のオペレーションだけの脱炭素化が得意で、自社のオペレーションだけの残余排出分を相殺するため大量の炭素クレジットを購入し、その一方で、バリューチェーン全体では、膨大な量の炭素を排出していれば、低炭素社会への移行は遅れてしまう。私たちが避けたいのは、自分たちだけがゴールラインに立っているという状況だ」とマリガン氏は言う。
炭素回収、バイオ炭、岩石風化促進(ERW)といった技術が、気候変動を緩和する方法として登場している。現在、主にテック企業、とりわけマイクロソフトがこうしたプロジェクトの資金となるクレジットへの需要を生み出している。
炭素除去に関するデータベースCDR.fyi(森林吸収など自然を活用した解決策は含まず)によると、2019年以降に購入された3700万トン分の永続的な炭素除去クレジットのうち、3000万トン分をマイクロソフトが購入している。一方、アマゾンは25万トン分を購入。他の主要な購入者はグーグル、ストライプ、メタ・プラットフォームズなどで、この3社はフロンティアと呼ばれる共同購入グループの傘下にある。
しかし、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、2016年にパリ協定で掲げられた目標である、世界の平均気温の上昇を1.5度以内に抑えるには、これまでの100万トン単位ではなく、10億トン単位のクレジットが必要になる。
炭素除去市場はまだまだ成長しなければならないが、炭素除去レジストリのアイソメトリックのルーカス・メイ最高商務責任者(CCO)は、できるだけ多くの炭素除去クレジットを購入して、他の会社も後に続くことを期待するアプローチはうまくいったと指摘する。「マイクロソフトの行動が、この業界を拡大させた」とメイ氏は言う。

米ワシントン州レーニア山国立公園に隣接する森林
マイクロソフトは、炭素除去市場において自分たちには主に二つの目標があると言う。需要を創出することで市場形成のリーダーになることと、最高品質の除去策を用いて、自社の高いサステナビリティー目標を達成することだ。マイクロソフトは2030年までに炭素排出量を実質マイナスにする「カーボンネガティブ」を達成し、2050年までに、1975年の創業以来、排出してきた総量を上回る温室効果ガスを環境から除去することを目指している。一方、アマゾンは、2040年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ネット・ゼロ・カーボン」の達成を目標としている。
マイクロソフトのエネルギー・炭素除去担当シニアディレクター、ブライアン・マーズ氏は「炭素除去というのは、いわばタイムマシンのようなものだ」と話す。「だが、マイクロソフトが単独で目標を達成しても、気候変動問題は解決しない。したがって目標の達成に必要なポートフォリオを構築している間にも、マイクロソフトを超えた市場形成の必要性を強く意識している」
炭素除去市場に対するマイクロソフトとアマゾンの見解は完全に食い違っているわけではない。両社とも、いわゆる「ハイインテグリティー(高い信頼性)」を備えた炭素除去クレジットを購入したいと考えている。つまり、大気から炭素を実際に除去したことが証明され、約束どおりにクレジットが発行される可能性が高いものだ。両社とも炭素除去プロジェクトを検討する際には、社会的な弊害、とりわけ農地の移転や先住民コミュニティーに不利益をもたらすようなことは避けたいと考えている。また両社とも、プロジェクトが計画どおりに成果を上げているかを確認するため、徹底したモニタリングを重視している。
だが、両社の間には違いもある。マイクロソフトは、プロジェクトの主要購入者になることが多く、ときにはプロジェクト開発事業者が発行する全クレジットの半分を購入することもある。同社は、自分たちが大量購入することで、プロジェクトがマイクロソフトによって支援・検証されていることを知った他の企業が残りのクレジットを購入するのを促すことになるのだと述べる。マイクロソフトはさらに、事前買取制度(AMC)にも積極的だ。つまり、実際に発行される何年も前にクレジットを購入することだ。そうすることで、プロジェクト開発業者は事前に資金を手にすることができ、また融資元である金融機関に、自分たちがやっていることに需要があることを証明できる。アマゾンも同様のことをやっているが、その規模はより小さい。
また、マイクロソフトが自社のポートフォリオに多様な高品質プロジェクトを求めている一方で、アマゾンはより的を絞ったアプローチをとっている。
マイクロソフトのマーズ氏は「私たちは多様性のあるポートフォリオを構築したいと考えている。勝者を選ぶのではなく、契約する炭素除去の手法に関しては、非常に幅広いスタンスをとっている」と話す。同社は、ゴミを燃焼して発生した炭素を回収することでクレジットを生成したり、農業・産業廃棄物を地下に埋めることでクレジットを生み出したりする企業も含め、数十余りの分野に資金を投じている。

シカゴのアマゾン施設で行われたリビアン製EV配送車両の導入発表イベントで駐車された同車両
一方、アマゾンはより重点的で、荒廃地の復旧や熱帯林の破壊防止のほか、直接空気回収技術(DAC)、岩石風化促進、海洋炭素除去プロジェクトといった限られた手法に注目している。
「どのようなプロジェクトに焦点を当てるかについて、私たちはとても慎重だ。手当たり次第、手を出すようなことはせず、多角化は追求していない。百花斉放的に何でも試してみるようなことはしない」とアマゾンのマリガン氏は話す。
アマゾンは、炭素クレジットの主要認証機関ベラと共同で、厳格な品質基準に準拠した生態系回復プロジェクトの認証ラベル「アバカス」を開発した。
アマゾンはまた、他の企業が炭素除去クレジットを買えるようにする購入システムの開発にも積極的だ。炭素除去クレジットを購入したいが、プロジェクト開発業者が通常望むような大きな単位では買えない、アマゾンのサプライチェーン内の企業の一部にサービスを提供している。このサービスを通して、規模の小さな企業も、アマゾンが大きな単位で購入した炭素除去クレジットからその一部を購入できる。
「炭素除去クレジット市場は時とともに成長していくだろう。だが、クレジットを購入するには、比較的大きな企業である必要がある。この種の取引を検討でき、そのための仕組みを築ける能力がなくてはならない」とマリガン氏は述べる。
欧州や英国で推進されているような排出権取引制度を通して、クレジットの購入を企業に義務付けるコンプライアンス市場を各国政府が整備すれば、炭素除去クレジット市場はさらに拡大するだろうとアイソメトリックのメイ氏は言う。
「今は炭素除去クレジットを購入する必要性を感じていない企業も、そうする直接的な金銭的インセンティブを与えられ、最終的には購入しなくてはならなくなる」とメイ氏は指摘。「マイクロソフトやアマゾンがやっていることは、この業界が存続し、規模を拡大し、コストを十分に下げて、政府が排出権取引制度に炭素除去クレジットを組み込むときには、それがきちんと機能するよう道筋をつくることだ」と言う。
だが現時点で、この業界のトップに君臨しているのはマイクロソフトである。
「他の誰も必要としない市場をつくっているかもしれない、というような心配はしていない。炭素除去クレジットは、マイクロソフトだけでなく、世界が気候変動関連の目標を達成する上で極めて重要なツールになるからだ」とマーズ氏は話す。「不足している市場を形成するのは必ずしも簡単なことではないが、不可欠であり、それを担うのは、リーダーの役割の一つだと考えている」