トランプ氏の挑発的なエコノミストがFRBに送り込まれるまで

スティーブン・ミラン氏の金融業界でのキャリアは、2年前に行き詰まったように思われた。同氏が共同で設立した投資会社は一度も実際に軌道に乗ることなく、廃業しようとしていた。

ミラン氏は今、米連邦準備制度理事会(FRB)を作り替えようとするドナルド・トランプ大統領の取り組みの最前線に立っている。

大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を務めるミラン氏は、FRB理事の席に加わろうとしている。理事らは、金利を設定して米経済のかじ取りをする連邦公開市場委員会(FOMC、メンバー12人で構成)に参加している。行政府の現職メンバーが中央銀行であるFRBの役職も務めるのは、1930年代に現代のFRBが創設されて以来初めてのことになる。

ミラン氏は以前、FRBと行政府の役職の間を行き来する「回転ドア」のような人事を批判していた。同氏は、4カ月のFRB理事任期を務める間はCEAを休職するものの、辞任はしないと述べている。FRB理事の任期は公式な満了日を超えて延長される可能性がある。ミラン氏の人事が上院で承認され、今週2日間にわたって開かれるFOMCで投票する見通しで、積極的な利下げを求めるトランプ氏の圧力攻勢の真っただ中に置かれることになる。

42歳のハーバード大出身のエコノミストであるミラン氏が、ウォール街で比較的無名の存在から米国の金融政策を決める上層部へと急速に上り詰めたのは、トランプ大統領の経済政策への深い献身と、挑発的な主張で議論を巻き起こす才能があったからだ。

ミラン氏はホワイトハウスに隣接するアイゼンハワー行政府ビルの自身の質素なオフィスで最近インタビューに応じ、「禁じられた質問」を積極的にするという自らの姿勢は、集団思考と戦う上で強みだと語った。

「私は、自分がその場にいる人の中で最も賢い人物だと言い張るつもりは毛頭ない」とミラン氏。「その場で最も気に障る人物であることに満足している」と述べた。

ミラン氏はそれ以降、そのような考えとは距離を置いているものの、「マールアラーゴ合意」の概念を支持した人物として最もよく知られている。同合意は、米国の製造業を後押しするため、他国に対し、自国通貨の対ドル相場の上昇を促すものだ。同氏はまた、大統領がFOMCに参加する人物について、自由に解任できるなど、もっと決定権を持つべきだとの考えを示していた。

ミラン氏は今月の指名承認公聴会で、FRBに加わった場合、大統領の経済政策を擁護するCEA委員長の立場はとりあえず保留にしておく意向を示した。反対派はそれが可能か疑問視している。

ミラン氏は、大統領がFOMCに参加する人物について、自由に解任できるなど、もっと決定権を持つべきだとの考えを示していた

テキサス大学オースティン校のカローラ・バインダー教授(経済学)は 「たとえ休職するとしても、CEAに所属し続けることは、彼がまさに大統領のやりたいことを推し進める構えであることをよく示している」と指摘する。バインダー氏は同大の右寄りの研究所に所属する。

ミラン氏のFRBでの任期は来年1月までと短く、より長い任期になるならCEA委員長を辞任すると述べている。トランプ氏は、住宅ローン詐欺に関わったとして政権が非難しているリサ・クック理事を追放できた場合、ミラン氏を選んで、2038年まで任期を務めてもらうことが可能だと考えている。実現の可能性は低いものの、来年5月で任期切れとなるジェローム・パウエルFRB議長の後任候補になると、ミラン氏のことを見る向きもある。

ミラン氏は、トランプ氏が自身の後任を指名しないだけでも、FRBにとどまれる可能性がある。ミラン氏はそうなった場合にCEA委員長を辞任するとは約束していない。

FRBは今週のFOMCで金利を0.25%引き下げると広く予想されている。利下げすれば昨年12月以来となる。だが、トランプ氏はそれより大幅に利下げすべきだと繰り返し述べている。ウォール街の投資家は、ミラン氏が内部からそのような動きに加わるかどうかに大きな関心を持っている。

ミラン氏の友人や元同僚への取材によれば、同氏はトランプ氏が1回目の大統領選に出馬した当初、金融業界の保守派の大半よりずっと早い段階で、トランプ氏を声高に支持していた。金融業界の保守派は、仲間のニューヨーカーであるミラン氏のことを、関税や移民などの問題でトランプ氏と気の合う人物だとみていた。

ノムラの先進国市場担当チーフエコノミストで、ハーバード大在籍中からミラン氏の友人であるデービッド・セイフ氏は、ミラン氏について「彼は最初からトランプ氏の支持者だった。スティーブは共和党の勝利を望んでいただけではない。トランプ氏の下での共和党の勝利を望んでいた」と語った。

政治的目覚め

ミラン氏は、ともに公務員で民主党員だった両親の下、ニューヨーク郊外の家で育った。同氏は自身について、若い時から両親よりも保守的だったが、後年まで強い政治信念を持ってはいなかったと語っている。

2005年にボストン大で学士号を取得した後、ハーバード大で保守派の著名経済学者マーティン・フェルドシュタイン氏のアドバイスを受けながらマクロ経済学の論文を執筆し、経済学博士号を取得した。

ミラン氏は、指導教授や多くのクラスメートと同じ学者の道を目指すことには、ほとんど関心を示さなかった。ウォール街に興味を持ち、債券・為替アナリストのポストを幾つか経験した後、2014年にニューヨークを拠点とする小規模なヘッジファンド「Sovarnum(ソバーナム)」で職を得た。

その頃には、彼の政治的思考は固まっていた。中国が自国通貨の価値を低く誘導して製造業分野を強化し、米国の製造業を実質的に破壊するという手法で、世界経済に極めて大きな影響を与えたことを、ミラン氏はアナリストとしてはっきり認識するようになった。

2015年にトランプ氏が大統領選への出馬を表明し、従来と異なる通商政策や、より強硬な対中姿勢を公約に掲げた時、ミラン氏は自分の考えを代弁してくれる大統領候補に巡り会ったと感じたという。

トランプ氏がより強硬な対中姿勢などを公約に掲げて2015年に出馬した時、ミラン氏はトランプ氏の政策に魅力を感じた

ウォール街での経験

ミラン氏は2016年頃、ソバーナムから最初の大きな仕事を任された。一定規模の資産について、自身の裁量による運用を任されたのだ。同氏が運用する資産の額は最初約500万ドル(約7億4000万円)だったが、その後5000万ドル前後へと増えていった。

ソバーナムの最高経営責任者(CEO)だったビカス・シルピエカンドゥラ氏は、ミラン氏の取引をリスキーだと考え、同氏の取引を自ら実行に移すのをためらうことが多かった。ミラン氏の同僚の何人かは、同氏の投資判断が自らの政治信条の悪影響を受けているのではないかとの懸念を抱くこともあったという。ミラン氏の政治的立場は、社内でも良く知られていた。同氏は、自身が任された資金の運用状況について「非常に満足している」と語っていた。その一方でソバーナムは、2010年代末になると投資家の確保に苦労するようになり、最終的に事業に終止符を打った。

その頃までに、ミラン氏は次へと動いていた。同氏は財務省の人脈を使って2020年4月に同省入りし、新型コロナウイルス流行を受けた救済策の分析と運営を行った。

トランプ氏が大統領選で敗れた後、ミラン氏はこの職を離れ、資産運用会社アンバーウェーブ・パートナーズを共同で設立した。同社は2022年初め、米労働者に資すると考えたS&P500種指数構成銘柄を選定した上場投資信託(ETF)を立ち上げた。このETFは金利上昇で苦戦した。ファクトセットによると、このETFの22年の運用実績はS&P500種指数のリターンをわずかに上回ったものの、運用資産が170万ドルを超えることはなかった。

ミラン氏とパートナーは方針を変え、アンバーウェーブをヘッジファンドに転換した。資金集めはやはり難しく、同社は2023年末には事業を停止した。

政治への方向転換

アンバーウェーブの失敗がきっかけとなり、ミラン氏は思いもよらないMAGA(米国を再び偉大に)派のスターとしての道を上り始めることになった。それに伴い、同氏は著作を通じて経済政策に関する自身の考えをより自由に表明できるようになった。

ミラン氏は既にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などさまざまな媒体に寄稿していた。だが、同氏はすぐに、保守系シンクタンクのマンハッタン研究所や、その後シニアストラテジストとして採用されたヘッジファンド、ハドソン・ベイ・キャピタル向けに執筆したより長いリポートの中に自身の得意分野を見いだした。

ミラン氏のリポートは、産業政策、国債発行、関税をテーマとしたもので、その評価はまちまちだった。

ペンシルベニア大の金融・法律学者ピーター・コンティブラウン氏は、中には「かなり奇抜なものもあるが、興味深い意味での奇抜さだ」と述べた。これらの論文は、米国債の外国債権者への利払いの削減といった説得力に欠ける解決策を提示しながらも、ドル高の弊害といった重要な問題に取り組んでいるとコンティブラウン氏は評している。

ミラン氏の主張は、ウォール街からは受け入れられないことも多かったが、トランプ氏の取り巻きからは注目されていた。そしてトランプ氏が大統領に返り咲くと、同氏は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」でミラン氏をCEA委員長に指名すると発表した。(ミラン氏は自身のオフィスにこの投稿文のコピーを額に入れて飾っている。)

上院銀行委員会で今月行われた指名承認公聴会でのミラン氏