ドジャースよりチケット入手困難?アメリカで旋風巻き起こす野球チーム「サバンナ・バナナズ」 打って踊って宙に舞う…本拠地で見た人気の理由は「ファンファースト」にあった

試合前の守備練習を終え、グラウンドで踊るサバンナ・バナナズの選手=6月、米ジョージア州サバンナ
野球の本場アメリカで、「ファンファースト(ファン最優先)」を旗印に掲げるチーム「サバンナ・バナナズ」が一大旋風を巻き起こしている。打って投げて走るだけじゃなく、歌って踊って宙に舞うユニークなプレースタイルで、エンターテインメント性を重視。チケットは発足当初から全試合完売で、メジャーリーグの人気球団ドジャースやヤンキースの試合よりも入手が困難だ。交流サイト(SNS)での存在感も際立ち、TikTok(ティックトック)のフォロワー数は今や1千万人超。「スポーツ界最高のショー」とも称され、野球に関心が薄かった層からも大きな支持を集めている。(共同通信ロサンゼルス支局=益吉数正)
▽開門前から大忙し

試合前にファンを盛り上げるバナナズのダンサー=6月、米ジョージア州サバンナ
チームがあるのは南部ジョージア州の港町サバンナ。観光地としても人気の高い古都だ。「バズっている」理由を実際に目で確かめようと、原点の本拠地球場を訪れた。
配車アプリで車を呼ぶと、地元出身という女性運転手が「試合を見に行くの? 素晴らしいショーよ」と教えてくれた。かつて「野球の神様」ベーブ・ルースもプレーしたことがある歴史ある球場「ヒストリック・グレイソン・スタジアム」に着いたのは、試合開始の2時間余り前。5千人収容の小さい球場とはいえ、周辺は既に身動きが取りづらいほど大勢のファンでごった返していた。

入場するファンと交流するバナナズの選手=6月、米ジョージア州サバンナ
試合前からファンサービスは徹底している。選手やスタッフは球場の開門前から大忙し。設置されたステージにはチームのダンサーだけでなく、この日の対戦相手パーティー・アニマルズの選手も上がって音楽に合わせて踊り、ファンと一緒に盛り上がっていた。バナナズの選手はチームカラーの黄色のユニホーム姿で、開門に合わせてファンとハイタッチをしながら登場。老若男女の求めに応じ、丁寧にサインを書いて笑顔で一緒に写真に納まり、まるで友達のようにフランクに会話を楽しんでいた。
▽独自ルール

試合に臨むバナナズの選手ら=6月、米ジョージア州サバンナ
いざ試合が始まると、普通の野球とひと味違うのは一目瞭然だ。プレーしているのは独自の11のルールを導入した「バナナボール」。野球は試合時間の長さや間延びした展開がファン離れの一因になっているとされ、オーナーのジェシー・コールさんが「ファンにとって退屈な部分を全て取り除く」と考案した。
テンポの速さを重視しており、試合は2時間制。バントや打者が打席を外すのは禁止され、ファンがファウルを捕れば、打者はアウトになる。英語で「WALK」と言う四球を選ぶと、野手全員で行うボール回しが終了するまでは進塁できるため「歩く」ことは許されず、一つでも先の塁を目指して打者はダッシュする。審判の判定に異議を申し立てる「チャレンジ」をファンも求めることが可能で、観客を飽きさせない工夫を凝らしている。
▽個性あふれる選手

竹馬に乗ってプレーするサバンナ・バナナズのダコタ・アルブリットン選手=6月、米ジョージア州サバンナ
このユニークな野球に、個性あふれる選手が花を添えている。竹馬に乗ってプレーするダコタ・アルブリットン選手は「世界一背の高い選手」。3メートルを優に超える「身長」は他の選手の2倍近く、登場すると観客から大きな歓声を浴びていた。
野球は高校までプレー。その後は建設関係の仕事をしていたが、母親の勧めでバナナズのトライアウトに挑戦し、子どもの頃に遊んでいた竹馬に乗りながら打って投げられることをアピールして合格した。看板選手となり「人生が大きく変わった。ファンに新しい体験を届けることが僕らの目標。たくさんの笑顔が見られてうれしい」とほほ笑む。

試合前に歌声を披露する、サバンナ・バナナズのダルトン・モールディン選手=6月、米ジョージア州サバンナ
ダルトン・モールディン選手は、シンガー・ソングライターとしても活躍する「二刀流」プレーヤー。大学時代、痛めた肘のリハビリ期間中に自身が歌う動画をオンラインに投稿すると、コールさんの目に留まり、熱心に誘われて加入した。球場でギターを弾き、自慢の歌声を披露し「『今までで一番楽しい野球ができる』と言われたんだけど、その通りになった」と実感を込める。
他にもマントをまとって打席に立つ選手、宙返りして判定する覆面姿の審判、踊りながらサインを出すコーチ…。独創的な面々が試合を彩る。外野手がバック宙して打球をキャッチしたり、内野手が股の間でボールを捕ったりと、アクロバティックで奇抜なプレーも多く、得点すればみんなで踊って盛り上がる。合間にはファンが参加するイベントも行い、とにかく観客の目を離さない。

マント姿で打席に立つサバンナ・バナナズの選手=6月、米ジョージア州サバンナ
試合展開自体には台本があるわけではない。この日はパーティー・アニマルズが勝利し、負けたバナナズの選手はがっくりと肩を落とした。あっという間に2時間が過ぎ、試合中に球場を離れるファンはほとんど見かけなかった。
▽当初は大学生チーム

オーナーのジェシー・コールさん(サバンナ・バナナズ提供)
2016年に誕生したバナナズは、もともとは普通の野球をプレーする大学生の混成チームだった。マイナーリーグのチームがサバンナから移転するのをきっかけに、妻と旅行で訪れ、この街を気に入ったコールさんが創設。最初はチケットがさっぱり売れなかったそうで、資金繰りに窮したコール夫妻は自宅の売却を余儀なくされた。
チーム名をバナナズに決めると、特徴的な名前はメディアで話題になったが、地元からは反発もあったという。コールさんは「最初は歓迎してもらえず、苦しい時期もあった」と明かす。観客を盛り上げるさまざまな演出を導入し、夏季に開かれる大学生が対象のサマーリーグのチームとして活動を続けるうちに心をつかみ、受け入れられるようになった。所属した選手が大リーグのドラフトで指名されたことも何度もあった。
転機は2018年秋。人気は上々だったが、接戦でも試合が2時間を超えるとファンが途中で帰ってしまう光景を何とかしたいと、コールさんがバナナボールを考案。エキシビション試合で試験的に披露すると、好評を集めた。「いかに観客を楽しませ、最後までいてもらうかが重要だった」。その後も試行錯誤しながらルールの改良を重ね、今の方式に行き着いた。
2020年には「公式戦」を初開催し、ライバルのパーティー・アニマルズも立ち上げた。スカウトやトライアウトで選手を集め、遠征試合も行うようになり、22年を最後に大学のリーグを脱退。2023年からバナナボールに専念する態勢に移行した。プロ野球日本ハムでプレーした杉谷拳士さんが参加して「きつねダンス」を披露したこともある。
▽収益よりもファン

サバンナ・バナナズのチームカラーの黄色い花をもらい、満面の笑みで選手と写真撮影するユニホーム姿の少女=6月、米ジョージア州サバンナ
人気を支えるファンファーストの姿勢は、経営にも貫かれている。本拠地球場に広告は一切なく、チケットは抽選制。価格も35~125ドルとアメリカではかなり良心的だ。ハンバーガーやソフトドリンクの飲食費用も含まれるオールインクルーシブ料金で、グッズを購入する際の税金はチームが負担。コールさんは「お金を稼ぐことが動機になったことは一度もない。ファンが全ての意思決定の原動力。私たちの方針は収益を逃しているかもしれないが、それ以上に多くのファンの獲得につながっている」と言い切る。
昨年は約100万人を動員。バナナボールをプレーする球団を4チームに増やした今年は計40都市で107試合を組んだ。4月には、過去最多の8万1千人の観客を集め、アメリカンフットボールのスタジアムを満員にした。大リーグのレッドソックスやフィリーズの本拠地球場でも試合を開催し、全てチケットは完売。大リーグを目指して届かなかった選手も多いだけに、二刀流プレーヤーのモールディン選手は「満員のメジャーリーグの球場でプレーすることは夢だった。僕は今、夢の中を生きている。いつか日本でもバナナボールをプレーしてみたい」とさわやかな笑顔で語る。
▽名門対決より人気

得点し、盛り上がるサバンナ・バナナズの選手=6月、米ジョージア州サバンナ
加速する人気を象徴していたのは、ドジャースとヤンキースがロサンゼルスで対戦した5月下旬の週末。昨季のワールドシリーズの再戦として注目を集めたが、ロサンゼルス・タイムズ紙によると、チケットの再販サイトでの最低価格は、同じ週末に近郊アナハイムのエンゼルスの本拠地で行われたバナナズの試合が上回っていたという。同紙は「今週末の野球のチケットで最も人気が高かった」と指摘した。
インスタグラムのフォロワーも380万人を超え、既に大リーグの大半の球団を上回る。コールさんによると、チケットの抽選リストには約350万人が登録しており、スポーツ専門局ESPNも今年から一部試合の放送を始めた。来年はさらにチームを増やし、リーグ戦を始める予定だ。
全チームのオーナーで、トレードマークの黄色のタキシードを着てファンの前に立ち続けているコールさんは言う。「まだ一回表。始まりに過ぎない。もっと多くの場所で試合を開催し、よりたくさんのファンの前でプレーしたい。目標は常に一つ。ファンを楽しませることだ」
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益吉数正(ますよし・かずまさ) 2005年入社。千葉、甲府、福岡、大阪、東京での勤務を経て2023年からロサンゼルス支局。最近の趣味は国立公園巡りとスタバのミニマグ集め。好きな犬種は柴犬。アレルギーでネコを飼えないことを心から残念に思っている。